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元聖女と元侍女、出撃

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 冒険者としてベテランであるジョンさんには比較的深い地域を捜索してもらっていた。
 ゴブリンの群れは勿論、もっと強い魔物に遭遇しても自力で何とか出来る実力者の筈だったのに。

「ナンシー、他の捜索に参加して頂いたお客様は?」

「他の皆様は既にお戻りになられました」

「それじゃここに居る私達以外で樹海に残っているのは、まだ戻っていないジョンさんだけね?」

「はい。どうされますか?」

「先ずは戻られたお客様の証言をまとめて、ゴブリンが居ない所を確定させるわ」

 ここで再び私が描いた落書きの様な樹海の地図を広げて、ゴブリンが居ない所に印を付ける。

「若女将、ジョン様の担当地域以外は居なかったと言う結果になりましたね」

「そうね。行くわよ、ナンシー!」

 と言う事は、ジョンさんはゴブリンと戦闘状態に陥ったのかも知れない。
 ゴブリンの群れとなら真正面から向き合っても、背後から不意打ちされてもB級冒険者のジョンさんなら不覚を取る事も無く大丈夫な筈なのに。
 一抹の不安が過ぎる。私とナンシーはジョンさんの担当地域に向かう事にした。

「そう言えばナンシー、シンシアは腕を切り落とされたのよね?」

「はい。それが何か?」

「ゴブリンの武器って普通は棍棒よね?」

 棍棒なら腕が切り落とされる事は無い。せいぜい骨折くらいで済む筈。  

「若女将は只のゴブリンではないとお思いですか?」

「そんなに切れる剣を持ったゴブリンが普通な訳が無いでしょ!」

 何らかの理由で冒険者が落とした剣を拾った可能性も有るとは思うけど、拾った剣にしては切れ味が良過ぎる気がするのよね。
 不吉な事を考えてしまうと不安が段々と大きくなっていく。



○▲△



 どれくらい歩いただろう。
 昼間でも暗い樹海は夜になれば真っ暗闇その物。だけど光を灯してしまえば魔物にこちらの場所を教えて歩く様な物なので暗いままで歩くしかない。
 
「若女将、大丈夫ですか?」

「私は大丈夫よ。聖女の能力を少しだけ出せば全く見えない訳じゃないみたい」

 確かに聖女の能力を使えば五感が研ぎ澄まされる。とは言え身体が光らない程度にしか能力を出せないので暗闇でもそこまでハッキリと見える訳じゃない。何処に何が有るのかが判るくらいね。
 さっきの台詞はジョンさんを救出しなければという若女将としての使命感から来た強がりかも知れない。

「ナンシーは大丈夫なの?」

「はい。鍛えていますので心配ご無用です!」

 どういう鍛え方をしているの?

「それよりも若女将、気が付いていますか?」

「さっきから見られている事?」

「流石です、若女将!」

 こんな時に笑顔で私を褒めなくてもいいのよ。何か緊迫感が無いわね。

「殺りますか?」

「何匹かしら?」

「2匹ですね。見張りのゴブリンでしょうか?」

「それじゃ1匹だけ斬って」

「畏まりました。残りは如何されますか?」

「泳がせましょう。仲間の所に逃げたらラッキーね!」

 ナンシーは剣の鍔に指を掛けると、音も無く姿を消して暗闇に同化した。

「ギャー!」

 その数秒後だった。木々の間を醜い悲鳴が駆け抜けた!
 ナンシーなら声など上げさせずに殺れたのに。
 でも私は知っている。これはもう1匹に恐怖を与える為の作戦である事を!

「ギャッ、ギャッ!」

 もう1匹のゴブリンが慌てて逃げる!
 私とナンシーは敢えて距離を取って追う。
 考えるな! パニックになってそのまま仲間の所に逃げろ! と念じながら。



○▲△



 追い掛け始めて数分後、逃げたゴブリンに案内されて樹海の中の比較的に開けた所に出る。

「若女将、あれを!」

 ナンシーの指差す先には、粗末な作りながらもゴブリンの集落が広がっていた。
 私達は見付からない程度に近付いて適当な茂みに身を隠す。
 そこから見たゴブリンの集落では、何匹かのゴブリンが槍を持って歩いている。
 そこに逃がしたゴブリンが他のゴブリンに何か伝えているのだ。
 ゴブリンの割には武装化されて動きも組織的だと思う。ちょっとゴブリンのイメージを変えないとダメね。
 
「ジョンさんは居るかしら?」

「ご覧下さい若女将!」

 集落の中央に生えている太い樹木に全身血だらけの人が縄で縛られている。

「ジョンさん!」

 曲がってはいけない方向に両足が曲がっているけど、あれはB級冒険者のジョンさんに間違い無い。
 どうにかして助けなければ!
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