理由あり聖女の癒やしの湯 偽物認定されて処刑直前に逃げ出した聖女。隣国で温泉宿の若女将になる

でがらし3号

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里帰り?

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 翌日、『一角竜』の皆に集まってもらってヒュンダルン行きを告げる。

「若女将がヒュンダルンに?」

「この『一角竜』はどうなりますか?」

 驚きと不安を露わにさせているシンシアとケイトに私は敢えて笑顔で言う。

「心配しないで、すぐに戻るわ。それで、私が戻るまでは期間限定で大女将が復帰するから安心して」

 近日はお客様が少ないから大女将の現役復帰でも何とか凌げる筈よ。お客様が少ない事が役に立つって皮肉な話だけど。

「エマから話は聞いてるよ。あんたらがシンシアとケイトだね、よろしく頼むよ」

 大女将が風格たっぷりに挨拶しているけど、この姉妹はすっかり呑まれているわ。

「「よっ、よろしくお願いします」」

 姉妹はそれだけを絞り出す様に声を揃えたわ。緊張しているのね。無理も無いけど。

「本当に若女将もヒュンダルンに行くのか?」

「そうなのよ。料理長の行き先はどこ? 折角だから途中まで一緒に行きましょ」

 料理長とは収穫祭までは居るって約束だったからね。家族と同居する為に旅立つのだから引き留められないわ。
 残念だけど料理長とはこれでお別れね。

「俺の行き先は、オーロブって町だ」

「オーロブ?」

「なんて偶然なのでしょう!」

 私もナンシーも思わず声を上げてしまったけどそれも仕方無いわよね。
 オーロブってビュイック侯爵領で3番目に大きい町よ。

「若女将、オーロブに行かれますか?」

「立ち寄る位なら大丈夫だと思うけどルート的に私達の目的地、タコシの方が手前よ」

 もしもビュイック侯爵家の誰かに会ってしまったら、きっと私は領地で匿われる。
 でも絶対に王家の間諜が潜んでいる筈だから私が居ると侯爵家は滅びかねないわ。
 だから会えない。この『一角竜』の事もあるしね。

「ルート的にタコシが手前と仰られますと、船で行かれるのですか?」

 ビュイック侯爵領は内陸部に在る。なので船で行くとどうしても奥になってしまう。
 魔の大樹海を突っ切るルートは近道ではあるけれど、魔物が居なくても避けたいわね。

「魔物が居なくなったとは言え、そこは魔の大樹海よ。中の木とか草はそのままだから突っ切るのは手間よ。陸路で迂回するとえらい遠回りだから船しか無いわね」

 けもの道でも有ればマシな方。道なき道を進んで木の根っこを枕に寝るのはもう御免だわ。
 
「なぁ若女将、俺も船に乗れるのか?」

「ええ、大女将の知り合いの商会の船がその為に村の港に寄港してくれるそうだから」

 大女将は私が承諾すると見込んで話を進めていたの。何か悔しいけど用意周到ね。

「さぁ、出発は明日だよ。エマとナンシー、それに料理長は準備しておくれ。シンシアとケイトは今日の内に明日からの体制に慣れるようにするんだよ」

 パンパンと手を叩いて大女将が張り切っているわ。期間限定でも現役復帰だから仕方無いか。



◯▲△ ジョージ視点です。


 俺とオリバー、そして護衛の2人はこの村に駐在する地方騎士の役宅で一夜を明かした。

「おはようございます」

 朝食を用意してくれているのはここの主である地方騎士の妻と子供たちだ。
 前夜の顛末はこうだ。


◯▲△


「我等は領主様より使わされた!」
「魔の大樹海から魔物が近付いているとの通報が有った。武闘会は中止、全員直ちに帰宅する様に!」

 オリバーと騎士の準決勝が熱を帯びて来た頃、こう叫んで会場に割って入った者達がいた。

「魔物だと?」

 ヒュンダルン王国ではそこいらで見掛けるが、このラビーワ王国では全く見掛けていない。この話、本当なのか?

「ここまでやって中止だと?」

「ちゅ、中止だ。残念だが」

 対戦相手も悔しさを押し殺す様に絞り出した。

 村の収穫祭の仮面武闘会はこうして幕を閉じた。

 オリバーは木剣を握りしめて立ち尽くしていた。
 それは無言の抗議なのだろう。
 勝負が熱を帯びてきた所で突然お預けなのだ、オリバーの気持ちも理解出来る。尤も魔物の襲来が真実であればだが。
 よしっ、確かめてみるか。

「オリバー、取り敢えず引き上げるぞ。そしてその魔物、我等が狩るぞ!」

 その話が事実だとしても俺とオリバー、それに護衛の2人が居れば大抵の魔物は大丈夫だろう。

「えっ?」

 オリバーの対戦相手は意外な表情をしていたが、そんな彼に向けて敢えて笑ってやった。「領主の思惑などお見通しだ」と言わんばかりに。
 すると吹っ切れたのか、彼の表情はみるみる明るくなっていった。

「はぁ、貴殿達には参りました」

 こう漏らすと今度は観念した表情になる。

「貴殿らには真相をお聞かせするべきだと判断しました。しかしながら武人と見込みましてお願いします。どうか他言無用でお願い致します」

 俺達が頷くと彼は真相を語り始めた。
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