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迎えに来ない
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エマ視点です。
ヒュンダルン王国への出発予定日から既に5日が経っているけど、一向に迎えが来ないわ。
大女将の知り合いの商会が用意した船って本当に頼りになるの?
「積荷の都合か、船の都合だろうね。気長に待つかね」
なんて大女将は言っているけど、ここ数日は晴天が続いているから天候による船の遅れじゃないわね。
もやもやした気分の中、更に数日が過ぎて大女将に手紙が届いた。知り合いの商会からね。
「積荷の関係で3ヶ月も遅れるって。すまないねぇ、エマ。料理長も出発を遅らせてすまなかったねぇ」
「いや、それは良いって事よ。気にしないでくれ」
料理長は出発が遅れている間もシンシアとケイトに料理の手解きをして、寝る間を惜しんでレシピを一杯書き残してくれたわ。
家族の元へ向かう料理長に流石に3ヶ月待てとも言えず、別れの時が訪れた。
「それじゃあな」
「ありがとう料理長、少し重いけどこれを持って行って」
私は料理長に数本の小瓶が入った袋を手渡した。
「若女将、これは?」
「ここのお湯よ。怪我をしたり毒蛇に噛まれたら患部に振り掛けて。それに病気になったり疲れたら飲んでね。身体の内側からも効くから」
それには当然ながら聖女の能力をたっぷりと付与してあるわ。魔の大樹海を迂回するコースでも料理長が目的地であるオーロブに着くまでは効果は有る筈よ。
「そうか、すまねえな」
「万が一、もしも息子さんの所に居辛くなったら何時でも戻って来てね」
「ハッハッハッ、その時は頼むぜ」
居辛くなったらって言うのは勿論冗談だけど、それを高笑いして受けてくれるのは料理長らしいわ。ここからは個々の挨拶になる。
「達者でね。長生きしておくれ」
「おう、大女将もな!」
「料理長、ありがとうございました!」
一際大きな声を出したのはケイト。
「料理長…私達の…料理を…いつか食べに来て下さい」
「ああ、いつの日にかな」
シンシアは対象的に涙声だわ。この数日間だけど師弟関係だったものね。
「落ち着きましたら、ご家族でお客様としてご来館下さい。お待ちしております」
「ありがとよ、ナンシー。お前さんの包丁捌きはこの俺を遥かに凌駕していたぜ」
そして私で最後となる。
「今までありがとう、料理長。もしもオーロブで困り事が有ったら領主であるビュイック侯爵を頼って。これを見せれば悪い様にはならない筈よ」
私はここで昨晩書き上げた手紙を料理長に手渡す。当然ながら封蝋はしてあるから読まれはしないでしょ。
「領主? 確か候爵様だよな?」
「ええ、ビュイック侯爵よ」
「差出人は『S』?」
それはスカーレットのイニシャルね。この手紙を侯爵家の誰かが読んでくれればどんな困難でも好転する筈よ。
「若女将、それは?」
驚くナンシーを目で制して私は続ける。
「実は前に宿代の代わりに渡された物なの。何でもその方はビュイック侯爵令嬢だった聖女様の知り合いで、聖女様からそんな感じの事を言われて渡されたらしいわ」
自分に様を付けるなんて変な気分だけど、こう言った方が信憑性が有るでしょ。
「聖女様の手紙か。そんな大事な物を良いのか?」
「気にしないで。ここじゃ使いようが無いから」
その気になれば幾らでも書けるし。
「そう言えば聖女様って、王太子の婚約者だったよな?」
「そうね。でも偽聖女として処刑されたでしょ」
そう、スカーレット=ビュイックはもういない。
「それが倅の手紙に書いてあったんだけどよ、偽聖女だって言っていた連中が次々と断罪されているらしいんだよ」
「断罪?」
「王家なんか王都を追われて久しいらしいぜ」
何それ? 少し気になるわね。
◯▲△
ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
事情により暫くの間は更新が難しい状況です。
秋に再開しますので、再開後もお読み頂ければ幸いです。
ヒュンダルン王国への出発予定日から既に5日が経っているけど、一向に迎えが来ないわ。
大女将の知り合いの商会が用意した船って本当に頼りになるの?
「積荷の都合か、船の都合だろうね。気長に待つかね」
なんて大女将は言っているけど、ここ数日は晴天が続いているから天候による船の遅れじゃないわね。
もやもやした気分の中、更に数日が過ぎて大女将に手紙が届いた。知り合いの商会からね。
「積荷の関係で3ヶ月も遅れるって。すまないねぇ、エマ。料理長も出発を遅らせてすまなかったねぇ」
「いや、それは良いって事よ。気にしないでくれ」
料理長は出発が遅れている間もシンシアとケイトに料理の手解きをして、寝る間を惜しんでレシピを一杯書き残してくれたわ。
家族の元へ向かう料理長に流石に3ヶ月待てとも言えず、別れの時が訪れた。
「それじゃあな」
「ありがとう料理長、少し重いけどこれを持って行って」
私は料理長に数本の小瓶が入った袋を手渡した。
「若女将、これは?」
「ここのお湯よ。怪我をしたり毒蛇に噛まれたら患部に振り掛けて。それに病気になったり疲れたら飲んでね。身体の内側からも効くから」
それには当然ながら聖女の能力をたっぷりと付与してあるわ。魔の大樹海を迂回するコースでも料理長が目的地であるオーロブに着くまでは効果は有る筈よ。
「そうか、すまねえな」
「万が一、もしも息子さんの所に居辛くなったら何時でも戻って来てね」
「ハッハッハッ、その時は頼むぜ」
居辛くなったらって言うのは勿論冗談だけど、それを高笑いして受けてくれるのは料理長らしいわ。ここからは個々の挨拶になる。
「達者でね。長生きしておくれ」
「おう、大女将もな!」
「料理長、ありがとうございました!」
一際大きな声を出したのはケイト。
「料理長…私達の…料理を…いつか食べに来て下さい」
「ああ、いつの日にかな」
シンシアは対象的に涙声だわ。この数日間だけど師弟関係だったものね。
「落ち着きましたら、ご家族でお客様としてご来館下さい。お待ちしております」
「ありがとよ、ナンシー。お前さんの包丁捌きはこの俺を遥かに凌駕していたぜ」
そして私で最後となる。
「今までありがとう、料理長。もしもオーロブで困り事が有ったら領主であるビュイック侯爵を頼って。これを見せれば悪い様にはならない筈よ」
私はここで昨晩書き上げた手紙を料理長に手渡す。当然ながら封蝋はしてあるから読まれはしないでしょ。
「領主? 確か候爵様だよな?」
「ええ、ビュイック侯爵よ」
「差出人は『S』?」
それはスカーレットのイニシャルね。この手紙を侯爵家の誰かが読んでくれればどんな困難でも好転する筈よ。
「若女将、それは?」
驚くナンシーを目で制して私は続ける。
「実は前に宿代の代わりに渡された物なの。何でもその方はビュイック侯爵令嬢だった聖女様の知り合いで、聖女様からそんな感じの事を言われて渡されたらしいわ」
自分に様を付けるなんて変な気分だけど、こう言った方が信憑性が有るでしょ。
「聖女様の手紙か。そんな大事な物を良いのか?」
「気にしないで。ここじゃ使いようが無いから」
その気になれば幾らでも書けるし。
「そう言えば聖女様って、王太子の婚約者だったよな?」
「そうね。でも偽聖女として処刑されたでしょ」
そう、スカーレット=ビュイックはもういない。
「それが倅の手紙に書いてあったんだけどよ、偽聖女だって言っていた連中が次々と断罪されているらしいんだよ」
「断罪?」
「王家なんか王都を追われて久しいらしいぜ」
何それ? 少し気になるわね。
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ここまでお読み頂きましてありがとうございます。
事情により暫くの間は更新が難しい状況です。
秋に再開しますので、再開後もお読み頂ければ幸いです。
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