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令嬢来たる
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男爵令嬢が来館されると分かってからは従業員総出で『一角竜』の改装が行われた。
チャックさんからは「お嬢様のプライバシー保護の為、貸切りに」って言葉が出たけど貸し切る為には相応の費用を出してもらわないと。
相場としては満室時の売上の7割から8割って所かしら。
それが滞在中の毎日だから結構な金額になるわ。チャックさんに10日分の見積もりを渡すと顔色悪くなったから貸切りは無理そうね。流石に男爵家も厳しいみたい。
それに第一、この『一角竜』は半死半生の冒険者が命からがら来る事も無い訳じゃない。そんな訳で貸し切りは現実的じゃないわ。
大女将に相談すると「それなら離れを使えば」って言っていたけど、離れってあの物置小屋の事?
「若女将、貴族でしたら(支払いは)期待できます。離れをリフォームしましょう!」
シンシアとケイトはこんな風に言うけど大丈夫かしら?
太客だと思っていたけど、見積書を見た時のチャックさんの表情からして、期待できないと本能的に感じた。
ヒュンダルン王国でもそうだったけど下位貴族って実は火の車だったりするから。
「でもリフォームか、棚卸しの感覚でやってみるのも悪くないわね」
気持ちを切り替えて従業員総出で離れのリフォームの名を借りた物置小屋の棚卸し兼大掃除を始める事にした。
◯▲△
「どうにか形になったわね」
取り敢えず廃棄すべき物は廃棄して、棄てない物は使っていない部屋に詰め込んで、気合を入れた大掃除の結果、物置小屋は立派な離れになったわ!
大物はホーナー達の男手で、細かい所はナンシーが目を光らせながらシンシアとケイトが頑張ってくれたもの。
壁紙も何とか貼り替えたし、小物も揃えたわ。豪華さは無いけどこれなら大きな不満も無い筈よ。
「若女将、間もなく到着すると先触れが来ました」
「そう、間に合ってよかったわ。お出迎えするわよ」
表には私だけ出てお出迎えする事にしたわ。顔の傷を治しに来るお嬢様なら接する人間は少ない方が良いでしょうから。
「いらっしゃいました」
私の隣に立つ先触れとして来た男爵家の使用人がボソッと言ったわ。
その言葉通りに黒塗りの見るからに高級そうな馬車が近付いて来た。あの馬車に乗っているのね。
ここからお嬢様が馬車を降りるまでは無言を貫かないといけない。
確かお名前はローラ様と聞いている。どんな方かしら?
カチャって音を立てて停まった馬車の扉が開けられるけど、頭を下げていないといけないので、どんなお嬢様なのかは現時点では分からないわ。
「顔をお上げなさい」
「恐悦至極に存じます」
か細い声でそう言われて顔をそっと上げてみる。お嬢様は全身を黒いドレスで身を包み、頭には大きな帽子を被っているわね。そして顔を隠すベールまでもが黒いわ。
「貴方、名前は?」
「若女将を務めますエマと申します」
「そう」
それだけ言うとその後は私を舐める様に見てたわ。
そして一言だけ吐き捨てる。
「傷一つ無い綺麗な顔ね。貴方には私の気持ちなんて分からないでしょうね」
そりゃそうです。褒められたのはありがたいんですけど、ローラ様の状況が分からないからお気持ちなんて知りようも無いんですけど。
対応に困る事は言わないで欲しいわ。
チャックさんからは「お嬢様のプライバシー保護の為、貸切りに」って言葉が出たけど貸し切る為には相応の費用を出してもらわないと。
相場としては満室時の売上の7割から8割って所かしら。
それが滞在中の毎日だから結構な金額になるわ。チャックさんに10日分の見積もりを渡すと顔色悪くなったから貸切りは無理そうね。流石に男爵家も厳しいみたい。
それに第一、この『一角竜』は半死半生の冒険者が命からがら来る事も無い訳じゃない。そんな訳で貸し切りは現実的じゃないわ。
大女将に相談すると「それなら離れを使えば」って言っていたけど、離れってあの物置小屋の事?
「若女将、貴族でしたら(支払いは)期待できます。離れをリフォームしましょう!」
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太客だと思っていたけど、見積書を見た時のチャックさんの表情からして、期待できないと本能的に感じた。
ヒュンダルン王国でもそうだったけど下位貴族って実は火の車だったりするから。
「でもリフォームか、棚卸しの感覚でやってみるのも悪くないわね」
気持ちを切り替えて従業員総出で離れのリフォームの名を借りた物置小屋の棚卸し兼大掃除を始める事にした。
◯▲△
「どうにか形になったわね」
取り敢えず廃棄すべき物は廃棄して、棄てない物は使っていない部屋に詰め込んで、気合を入れた大掃除の結果、物置小屋は立派な離れになったわ!
大物はホーナー達の男手で、細かい所はナンシーが目を光らせながらシンシアとケイトが頑張ってくれたもの。
壁紙も何とか貼り替えたし、小物も揃えたわ。豪華さは無いけどこれなら大きな不満も無い筈よ。
「若女将、間もなく到着すると先触れが来ました」
「そう、間に合ってよかったわ。お出迎えするわよ」
表には私だけ出てお出迎えする事にしたわ。顔の傷を治しに来るお嬢様なら接する人間は少ない方が良いでしょうから。
「いらっしゃいました」
私の隣に立つ先触れとして来た男爵家の使用人がボソッと言ったわ。
その言葉通りに黒塗りの見るからに高級そうな馬車が近付いて来た。あの馬車に乗っているのね。
ここからお嬢様が馬車を降りるまでは無言を貫かないといけない。
確かお名前はローラ様と聞いている。どんな方かしら?
カチャって音を立てて停まった馬車の扉が開けられるけど、頭を下げていないといけないので、どんなお嬢様なのかは現時点では分からないわ。
「顔をお上げなさい」
「恐悦至極に存じます」
か細い声でそう言われて顔をそっと上げてみる。お嬢様は全身を黒いドレスで身を包み、頭には大きな帽子を被っているわね。そして顔を隠すベールまでもが黒いわ。
「貴方、名前は?」
「若女将を務めますエマと申します」
「そう」
それだけ言うとその後は私を舐める様に見てたわ。
そして一言だけ吐き捨てる。
「傷一つ無い綺麗な顔ね。貴方には私の気持ちなんて分からないでしょうね」
そりゃそうです。褒められたのはありがたいんですけど、ローラ様の状況が分からないからお気持ちなんて知りようも無いんですけど。
対応に困る事は言わないで欲しいわ。
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