桃色のアルトリスト

なぎさ

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鮮血の剣聖─キル・レイブリック─

1.日常と非日常、その始まり

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 騒がしくも賑やかな声が、ダークブラウンの扉越しに聞こえてくる。ドアノブに伸ばす手にほんの少しの躊躇いが生まれる。ここで暮らし始めて数週間。……いや、ここに来てからもう十カ月が経つというのに、には慣れる様子がない。
 ほんのりと明るい春の夜空の下で、桜色の風が少女の髪をなびかせた。新しい季節がこちらに手招きしているように感じられる。
 小説の表紙をめくる感覚に、よく似ていた。
「ねぇサクヤー、僕のプリン知らなーい?」
 玄関前で立ち尽くしている私の気配に気づいたのか、外からでも聞こえる声量で呼び立てられる。
 ……どうやら手招きしているのは新しい季節なんかじゃなくて、ドアの向こう側の青年らしい。
 小さく嘆息をもらす。小さな微笑も添えて。
「もー知らないよ。誰かが食べたんじゃないの。それよりも君たち、外に聞こえるくらいの声で騒がないでくれる?」
 扉を思いっきり開いて中へ飛び込む。賑やかな家の空気が飛びつくように、はらりと桃色の髪を揺らした。

 明るい夜の中でも一際眩しいこの玄関をくぐったとき、この家との馴れ初めを、ぼんやりと思い出した。



「新設部隊に加入してほしい」
 そんなことを言われたのは確か数週間前。所属していた軍の談話室で一人読書をしていたときだった。顔を上げれば私と同年代、優しい王子様のような綺麗な金髪青年が微笑みながら立っている。
「……まだ防衛部隊に配属されて一年も経っていない私に言ってます?」
「うん。まだまだ新入り若輩者のサクヤ・ウェンブランさんに言ってる。というか、してほしいじゃなくて加入決定」
 そう返すのはフレーラ統括。弱冠19歳でこの国の軍の最高司令官を担っている超がつくエリートで才能の塊マン。
「部隊の新設なんて今初めて聞きましたよ」
「正式に決まったのはさっきだからね。知らないのもしょうがない」
「それに人事異動は三カ月以上先のはずじゃ」
「今じゃないと駄目なんだって。全く上のヤツも我儘なもんだよね。ふっかけられるこっちの身にもなってよ」
 そう口にするフレーラさんだが国軍最高司令官より上の立場なんてこの軍には存在しない。が、それでもフレーラさんに軍備に関する命令を出せる人間を私も一人だけ知っている。
「またの発案ですか」
「こんな無茶な話するのあの人だけでしょ」
「ですよねー」
 途端に面倒ごとの香りがしてきた。だがあの人の腹の内なんて分かるわけがない。考えるだけ無駄だ。
「……それで、部隊の詳細は?」
「はい、これ書類」
 手渡されたのはA4用紙が数枚。タイトルには『特殊部隊創設とそれに伴う人事異動』とある。ページを一枚めくってすぐに思考が停止する。ある一点を見つめたまま、その言葉を反芻させる。
《総部隊員数:
「……た、たった四人の、特殊部隊!?」
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