2 / 4
鮮血の剣聖─キル・レイブリック─
1.日常と非日常、その始まり
しおりを挟む
騒がしくも賑やかな声が、ダークブラウンの扉越しに聞こえてくる。ドアノブに伸ばす手にほんの少しの躊躇いが生まれる。ここで暮らし始めて数週間。……いや、ここに来てからもう十カ月が経つというのに、ここの空気には慣れる様子がない。
ほんのりと明るい春の夜空の下で、桜色の風が少女の髪をなびかせた。新しい季節がこちらに手招きしているように感じられる。
小説の表紙をめくる感覚に、よく似ていた。
「ねぇサクヤー、僕のプリン知らなーい?」
玄関前で立ち尽くしている私の気配に気づいたのか、外からでも聞こえる声量で呼び立てられる。
……どうやら手招きしているのは新しい季節なんかじゃなくて、ドアの向こう側の青年らしい。
小さく嘆息をもらす。小さな微笑も添えて。
「もー知らないよ。誰かが食べたんじゃないの。それよりも君たち、外に聞こえるくらいの声で騒がないでくれる?」
扉を思いっきり開いて中へ飛び込む。賑やかな家の空気が飛びつくように、はらりと桃色の髪を揺らした。
明るい夜の中でも一際眩しいこの玄関をくぐったとき、この家との馴れ初めを、ぼんやりと思い出した。
「新設部隊に加入してほしい」
そんなことを言われたのは確か数週間前。所属していた軍の談話室で一人読書をしていたときだった。顔を上げれば私と同年代、優しい王子様のような綺麗な金髪青年が微笑みながら立っている。
「……まだ防衛部隊に配属されて一年も経っていない私に言ってます?」
「うん。まだまだ新入り若輩者のサクヤ・ウェンブランさんに言ってる。というか、してほしいじゃなくて加入決定」
そう返すのはフレーラ統括。弱冠19歳でこの国の軍の最高司令官を担っている超がつくエリートで才能の塊マン。
「部隊の新設なんて今初めて聞きましたよ」
「正式に決まったのはさっきだからね。知らないのもしょうがない」
「それに人事異動は三カ月以上先のはずじゃ」
「今じゃないと駄目なんだって。全く上のヤツも我儘なもんだよね。ふっかけられるこっちの身にもなってよ」
そう口にするフレーラさんだが国軍最高司令官より上の立場なんてこの軍には存在しない。が、それでもフレーラさんに軍備に関する命令を出せる人間を私も一人だけ知っている。
「またあの人の発案ですか」
「こんな無茶な話するのあの人だけでしょ」
「ですよねー」
途端に面倒ごとの香りがしてきた。だがあの人の腹の内なんて分かるわけがない。考えるだけ無駄だ。
「……それで、部隊の詳細は?」
「はい、これ書類」
手渡されたのはA4用紙が数枚。タイトルには『特殊部隊創設とそれに伴う人事異動』とある。ページを一枚めくってすぐに思考が停止する。ある一点を見つめたまま、その言葉を反芻させる。
《総部隊員数:四名》
「……た、たった四人の、特殊部隊!?」
ほんのりと明るい春の夜空の下で、桜色の風が少女の髪をなびかせた。新しい季節がこちらに手招きしているように感じられる。
小説の表紙をめくる感覚に、よく似ていた。
「ねぇサクヤー、僕のプリン知らなーい?」
玄関前で立ち尽くしている私の気配に気づいたのか、外からでも聞こえる声量で呼び立てられる。
……どうやら手招きしているのは新しい季節なんかじゃなくて、ドアの向こう側の青年らしい。
小さく嘆息をもらす。小さな微笑も添えて。
「もー知らないよ。誰かが食べたんじゃないの。それよりも君たち、外に聞こえるくらいの声で騒がないでくれる?」
扉を思いっきり開いて中へ飛び込む。賑やかな家の空気が飛びつくように、はらりと桃色の髪を揺らした。
明るい夜の中でも一際眩しいこの玄関をくぐったとき、この家との馴れ初めを、ぼんやりと思い出した。
「新設部隊に加入してほしい」
そんなことを言われたのは確か数週間前。所属していた軍の談話室で一人読書をしていたときだった。顔を上げれば私と同年代、優しい王子様のような綺麗な金髪青年が微笑みながら立っている。
「……まだ防衛部隊に配属されて一年も経っていない私に言ってます?」
「うん。まだまだ新入り若輩者のサクヤ・ウェンブランさんに言ってる。というか、してほしいじゃなくて加入決定」
そう返すのはフレーラ統括。弱冠19歳でこの国の軍の最高司令官を担っている超がつくエリートで才能の塊マン。
「部隊の新設なんて今初めて聞きましたよ」
「正式に決まったのはさっきだからね。知らないのもしょうがない」
「それに人事異動は三カ月以上先のはずじゃ」
「今じゃないと駄目なんだって。全く上のヤツも我儘なもんだよね。ふっかけられるこっちの身にもなってよ」
そう口にするフレーラさんだが国軍最高司令官より上の立場なんてこの軍には存在しない。が、それでもフレーラさんに軍備に関する命令を出せる人間を私も一人だけ知っている。
「またあの人の発案ですか」
「こんな無茶な話するのあの人だけでしょ」
「ですよねー」
途端に面倒ごとの香りがしてきた。だがあの人の腹の内なんて分かるわけがない。考えるだけ無駄だ。
「……それで、部隊の詳細は?」
「はい、これ書類」
手渡されたのはA4用紙が数枚。タイトルには『特殊部隊創設とそれに伴う人事異動』とある。ページを一枚めくってすぐに思考が停止する。ある一点を見つめたまま、その言葉を反芻させる。
《総部隊員数:四名》
「……た、たった四人の、特殊部隊!?」
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる