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鮮血の剣聖─キル・レイブリック─
2.汽笛を鳴らす。君は誰そ
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「一部隊で四人……ですか」
荒げた声を落ち着かせてもう一度フレーラさんに尋ねる。新規の部隊だとしても少なすぎるし、そもそも四人でできる任務ってなんだ?
「うーん、それはやっぱり提案者に聞いてみないとわかんないんじゃない?」
「いや、フレーラさんも多少は知っているんでしょ。あの人のお世話係なんだから」
皮肉めいた発言に微笑を浮かべるフレーラさん。少しぐらい説明しておこうと思ったのか、机を挟んだ私の正面の席に腰掛ける。
「七賢者ってわかる?」
「大陸中の、国を含めたすべてを支配する七人の支配者ですよね。それで彼らの時々の侵攻から国を守るためにあるのがこの防衛軍」
「基本認識はそれでいいかな。で、サクヤは思ったことない?何でたった七人に人々は怯えて暮らさなきゃいけないんだ、って」
語気こそ強くなかったが、問いかけたフレーラさんの表情は笑っていなかった。
確かに大陸の土地も人々も、ほんの数人に支配されているなんておかしい話だ。しかもそれが武力による支配なら尚更。防衛軍がなければどれほどの被害が出ているかは計り知れない。
少しの沈黙を肯定と受け取ったのかフレーラさんは再び口を開く。
「あの人も同じこと思ってるんだよ。だからこの隊は世界の仕組みを変えるための、いわば革命を起こすための隊なんだよ。きっとそれにはサクヤの力が必要だからね」
「それじゃあ少人数編成の説明になってませんよ」
急に壮大な話を突きつけられて頭が混乱する。世界を変えるとか、それに私の力が必要だとか。実感がなさすぎて返答に困ってしまう。
「ま、いきなりこんな話されても困るよね。そのうち考えてくれればいいかな。あぁ、それとキル・レイブリックのこととかも関係あると思うよ。それならサクヤが選ばれる理由にもなるでしょ」
「それも、そうですね」
突然、その名前が出てきたため頷くしかなかった。今の私には世界の話よりも、彼女についての話の方が重要なのだ。
「今日の午後はあの人も空いてると思うから、詳しいことはそこで聞いてきなさいな」
「……一人で行けと?」
リズム良く振動する汽車の椅子と、時偶鳴る汽笛の音が昼後の朦朧とした頭に眠気を誘う。
フレーラさんと別れてからすぐ、私は王都行きの汽車に揺られていた。昼過ぎに出発したから、日が傾く前までには着きそうだ。
私の管轄は第六区で、田舎でもないが都会でもない。だからそれなりに時間は掛かるだろう。ちなみにそんな六区に国軍統括であるフレーラさんが来たのは結構異例のことだったりする。実際、私と話していたときも周りがざわついていたし。
改めて名簿を見直す。
サクヤ・ウェンブラン。ストライト国軍第六防衛部隊所属で、所属期間はたったの九ヶ月。ただの平隊員である。
「こんなのが新部隊に異動ねぇ」
入隊当初も魔力しか取り柄のない新人と言われていた。今でこそ、隊内での評価も上向いてきたが、それでも私より適任の者もいるはずだ。
自分自身から見てみても、この編入はおかしいと感じる。それに四人制の部隊。何か意図があるのは間違いない。
他の隊員の方も少し思うところがあるし。
「部隊員、リゼイヤ・プローヴァ、レイナ・ブレイツ。面識はないけど、この二人は聞いたことあるな」
リゼイヤは軍に所属していたから、顔を見たことがある。人当たりの良さそうな少年だ。私と同じ十七歳で、確か第二防衛隊の副隊長のはず。まぁ妥当な人選だと思う。
レイナの方は名前しか聞いたことがないが、新聞にちょくちょく名前が載っていた。魔法研究家として有名で、伝統ある魔法名家の出身らしい。魔法師としての才もあるとか。こんな人、しかも軍に所属していない名家のご令嬢が軍の特殊部隊に配属されるのは少し疑問ではあるが、……それよりも。
「部隊長、クルシェリア・シュワーズ。……こっちは名前すら聞いたことがないな」
一区から十二区まである防衛部隊で肩書を持つ人の名前は朧気ながら全員頭に入っているが、この人物の名前は記憶にない。そもそも経歴の欄に記載が何もない。辛うじて読み取れるのは性別欄に書かれている、女という文字のみ。他は年齢に至るまで、何も分からない。
「せめて写真ぐらいあればなぁ」
と口に出しては見たものの、この国のことに疎い私じゃ、あったところでか。
不安を胸に募らせながら窓の外を見る。
まだ空は青いが、もう時期赤くなる頃だろう。目的地の王都ももう目の前に見える。
ふと窓の手前に目が移り、硝子に反射した自分と目が合う。眼前の黄色い瞳が捉えるのはもちろん私。どこか不安そうで、どこか居心地が悪そうな、そんな顔をしていた。
思考を断ち切るように汽笛が鳴る。どうやら物思いにふけれるのはここまでのようだ。書類を小さく折り込んで鞄に入れる。
あとは直接聞くしかないだろう。王都、いやその中枢、遥か高みにある王城。
そこに鎮座するあの人に。
荒げた声を落ち着かせてもう一度フレーラさんに尋ねる。新規の部隊だとしても少なすぎるし、そもそも四人でできる任務ってなんだ?
「うーん、それはやっぱり提案者に聞いてみないとわかんないんじゃない?」
「いや、フレーラさんも多少は知っているんでしょ。あの人のお世話係なんだから」
皮肉めいた発言に微笑を浮かべるフレーラさん。少しぐらい説明しておこうと思ったのか、机を挟んだ私の正面の席に腰掛ける。
「七賢者ってわかる?」
「大陸中の、国を含めたすべてを支配する七人の支配者ですよね。それで彼らの時々の侵攻から国を守るためにあるのがこの防衛軍」
「基本認識はそれでいいかな。で、サクヤは思ったことない?何でたった七人に人々は怯えて暮らさなきゃいけないんだ、って」
語気こそ強くなかったが、問いかけたフレーラさんの表情は笑っていなかった。
確かに大陸の土地も人々も、ほんの数人に支配されているなんておかしい話だ。しかもそれが武力による支配なら尚更。防衛軍がなければどれほどの被害が出ているかは計り知れない。
少しの沈黙を肯定と受け取ったのかフレーラさんは再び口を開く。
「あの人も同じこと思ってるんだよ。だからこの隊は世界の仕組みを変えるための、いわば革命を起こすための隊なんだよ。きっとそれにはサクヤの力が必要だからね」
「それじゃあ少人数編成の説明になってませんよ」
急に壮大な話を突きつけられて頭が混乱する。世界を変えるとか、それに私の力が必要だとか。実感がなさすぎて返答に困ってしまう。
「ま、いきなりこんな話されても困るよね。そのうち考えてくれればいいかな。あぁ、それとキル・レイブリックのこととかも関係あると思うよ。それならサクヤが選ばれる理由にもなるでしょ」
「それも、そうですね」
突然、その名前が出てきたため頷くしかなかった。今の私には世界の話よりも、彼女についての話の方が重要なのだ。
「今日の午後はあの人も空いてると思うから、詳しいことはそこで聞いてきなさいな」
「……一人で行けと?」
リズム良く振動する汽車の椅子と、時偶鳴る汽笛の音が昼後の朦朧とした頭に眠気を誘う。
フレーラさんと別れてからすぐ、私は王都行きの汽車に揺られていた。昼過ぎに出発したから、日が傾く前までには着きそうだ。
私の管轄は第六区で、田舎でもないが都会でもない。だからそれなりに時間は掛かるだろう。ちなみにそんな六区に国軍統括であるフレーラさんが来たのは結構異例のことだったりする。実際、私と話していたときも周りがざわついていたし。
改めて名簿を見直す。
サクヤ・ウェンブラン。ストライト国軍第六防衛部隊所属で、所属期間はたったの九ヶ月。ただの平隊員である。
「こんなのが新部隊に異動ねぇ」
入隊当初も魔力しか取り柄のない新人と言われていた。今でこそ、隊内での評価も上向いてきたが、それでも私より適任の者もいるはずだ。
自分自身から見てみても、この編入はおかしいと感じる。それに四人制の部隊。何か意図があるのは間違いない。
他の隊員の方も少し思うところがあるし。
「部隊員、リゼイヤ・プローヴァ、レイナ・ブレイツ。面識はないけど、この二人は聞いたことあるな」
リゼイヤは軍に所属していたから、顔を見たことがある。人当たりの良さそうな少年だ。私と同じ十七歳で、確か第二防衛隊の副隊長のはず。まぁ妥当な人選だと思う。
レイナの方は名前しか聞いたことがないが、新聞にちょくちょく名前が載っていた。魔法研究家として有名で、伝統ある魔法名家の出身らしい。魔法師としての才もあるとか。こんな人、しかも軍に所属していない名家のご令嬢が軍の特殊部隊に配属されるのは少し疑問ではあるが、……それよりも。
「部隊長、クルシェリア・シュワーズ。……こっちは名前すら聞いたことがないな」
一区から十二区まである防衛部隊で肩書を持つ人の名前は朧気ながら全員頭に入っているが、この人物の名前は記憶にない。そもそも経歴の欄に記載が何もない。辛うじて読み取れるのは性別欄に書かれている、女という文字のみ。他は年齢に至るまで、何も分からない。
「せめて写真ぐらいあればなぁ」
と口に出しては見たものの、この国のことに疎い私じゃ、あったところでか。
不安を胸に募らせながら窓の外を見る。
まだ空は青いが、もう時期赤くなる頃だろう。目的地の王都ももう目の前に見える。
ふと窓の手前に目が移り、硝子に反射した自分と目が合う。眼前の黄色い瞳が捉えるのはもちろん私。どこか不安そうで、どこか居心地が悪そうな、そんな顔をしていた。
思考を断ち切るように汽笛が鳴る。どうやら物思いにふけれるのはここまでのようだ。書類を小さく折り込んで鞄に入れる。
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そこに鎮座するあの人に。
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