キラーズ・リデンプション 〜剣と魔法の世界に、アイアンサイトは似合わない〜

エンタープライズ窪

文字の大きさ
15 / 19
第一部 <リデンプション・ビギニング>

有能(?)情報屋ミッチャー

しおりを挟む
 トゥピラ達に絡んでいた冒険者は去った。
 野次っていた連中も、俺のひと睨みでそっぽを向いて食事に戻ってしまう。

 ひとまず沈静化したことに安堵しつつ、俺はマーティンに声をかけた。

「大丈夫か? 火傷とかしてないか?」

「うん。僕は大丈夫」

 彼の笑顔は、俺の胸を撫で下ろさせるには十分であった。

「お前らも怪我してないか?」

 これはトゥピラやゾーリンゲンらに対する問いである。

 彼らからは問題なしとの回答を得た。

「ところで、トシヤはどうしてここに?」

「須郷だよ。あいつが俺を冒険者ギルドまで引っ張ってきたんだ。会わせたい奴がいるとかなんとかで。そしたら騒ぎが起きてて……」

「なるほどね……」

 相槌を打ったところで、背後から肩を叩かれて振り返る。

 いつもの無感情な表情とは打って変わり、薄い笑いを浮かべる須郷がいた。

「なかなか面白い喧嘩だったな」

「へーへー。お褒めに預かり光栄の至りでござりまする」

 須郷の笑みが引っ込んだ。

「揶揄っているわけではないんだがな……。そんなことより、さっさと行くぞ。冒険者と戦いに来たわけでも無駄話をしに来たわけでもないんだ」

「わかった、わかった、わかりましたよ。……そんじゃ、また後でな」

 先に歩き出した須郷を追って走り出す直前、俺はトゥピラ達を振り返ってそれだけ言い残す。

 彼らの返事を待つことなく、俺は須郷に向けて駆け出した。

 背中に、ゴアンスの野太い「あいがとなぁ」という声がぶつかってきた。



 須郷に案内されたのは、食堂の奥にある談話用の個室だった。

 壁にいくつもの扉が並んでつけられており、窓は一切見当たらない。

 いくつかの扉の向こうからは、冒険者が談笑する声が聞こえてくる。

「今日、奴がいるのは083号室だったな」

「誰がいる?」

「協力者だ。"鍵の関係者"を探すためのな」

 なるほど、俺達2人だけで闇雲に探し回るなんてアホなことはしないわけだ。

 俺が勝手に感心している中、須郷は083号室のドアをノックした。
 それに応えるように、中から女の声がする。

「黄金船は?」

「120億を沈めた」

 須郷が答える。
 合言葉のようなものだと俺は判断し、黙って聞いていた。

「特別な週に?」

「総大将は追随を許さず」

「大復活の?」

「東海道」

「ジンよりも?」

「ウォッカは疾風のごとく」

「入りな」

 須郷はドアを開けて、中に踏み込んでいく。
 その背中に俺は問うた。

「須郷さん、あんたギャンブル好きだろ?」

「さあ?」

 要領を得ないまま、俺も部屋の中に入り、ドアを閉めた。

「おう、連れてきたか」

「黒鯨の連中が強襲したおかげで、意外と早く飲み込んでくれた」

「あいつらも頑張ってるなあ。いやあ、あたしらも負けてられないな」

 狭い部屋の中には右側の壁にくっつけて設置された四角いテーブルと、計4つの小さな丸椅子が置かれている。
 テーブルの奥の椅子に、銀髪の女が座っていた。

 薄い革鎧を着用し、手足はなかなかにごつい。
 それでも顔は整っており、透き通るような青い瞳を持っている。

 ただし、彼女からは男勝りのオーラが放たれていた。
 ひと言で言うならオラオラ系だ。

「あんたがキサオカさんだね。話をしたいからそこに座り……んん?」

 突然、女がその場で固まった。
 かと思えば、俺の顔を眉間に皺を寄せて見つめてくる。

「なんだよ、人の顔をジロジロと……」

「あーっ! お前はあの時の家無し!」

「はい? どこかで会ったか?」

「会っただろ! 食い物やったろ!」

 唐突に、異世界に来たばかりの頃を思い出した。
 偶然近くを通りかかった女が、しょっぱい食べ物をくれたはずだ。

 そういや、この女の顔にも見覚えが……。

「おあぁーっ! あの時の女冒険者か!」

「あの時やった果物どうだった! あたしの実家で作ってんだよ! 感想をクッソ正直に言ってくれ!」

「クッソ不味かった!」

「クッソ野郎がぁぁ!」

 強烈な台パンが炸裂する。
 テーブルにヒビが入ったほどだ。

「くだらないことやってないで、さっさと話を始めろ」

 須郷だけが冷静だった。



 さて、全員席に着いたところで、須郷が不貞腐れている女を紹介してくれた。

「彼女はミッチャー。ただし本名ではない。諜報活動を行っている関係で、私にも本名を伝えたがらたいんだ」

「スパイか?」

「そんなものだと思ってくれていい」

 俺は彼女に問いかけた。

「あのー、そういう認識で大丈夫か?」

「……構わねーよ」

 まだブー垂れてやがる。
 とりあえず質問を続けてみる。

「腕の方は?」

「……どう思う?」

「三流」

「泣くぞ」

「じゃあ一流」

 途端に、ミッチャーは再び台パンした。

 先程とは違い、目がキラッキラに輝いている。

「そう! あたしは腕利きの情報屋さ! 知りたいことがあればなんでも聞きな! 極秘に調べて極秘に報告してやるよ! ただし、あたしの素性は一切明かせないからそこは注意な」

「実家が農家ってことをちゃっかり公開した件についてはツッこむべきか?」

「泣くぞ」

 再びブー垂れてしまった。

 代わりに、須郷が言葉を続ける。

「彼女の腕は確かだ。普段はこんなだが、頼めばどんな情報も仕入れてくる。一流の諜報員だよ」

「うう、あんただけだよスゴウの姉御ぉ……。もっとそうやって褒めてくれよお……」

「後でな。……彼女とは遠くの街で出会った。その時から色々と協力してもらっている。それから、ミッチャーに隠し事は不要だ。例えば、この世界出身ではないこととか」

「……はい?」

 思わず変な声が出た。

「既に私もここ出身ではないと明かしている。全部終わったら、こいつを現代日本に連れて行くことを条件に協力しているんだ」

「はあ……」

 ミッチャーが、机を指でコツコツ叩きながらふふんと笑う。

「あたしはガゼとマジの情報を嗅ぎ分けるのが得意でね。スゴウの姉御の話からはがしたんだよ。つか、そろそろ本題に入らねーか、姉御」

「そうだな。調べてわかったことを話してくれ」

 俺は表情を引き締めて、ミッチャーの言葉に耳を傾ける。
 彼女の口から出てくるであろうトンデモ情報を聞き逃すまいとするためだ。

「エバーグリーンとターコイズブルーに王都周辺を調べさせた。少なくとも王都に2人、鍵の関係者がいる」

「2人か。もっといると思ったんだが……」

「逃れた奴もいるみたいだからな。何しろいろんな奴らが追手を出してるんだ。逃げたくもなるさ。それはあんたも同じだよ。すげえ根性してやがるぜホントに」

「褒めるな。それにしても、2人か……」

「ちょっと待て。お前ら、俺を置いてかないでくれないか。結局のところ、鍵の関係者ってなんだ?」

 女達は同時に俺の顔を見てきた。

 ミッチャーがこほんと咳払い。

「そっか。てっきり姉御が説明していたものだと……。とにかく説明する。この世界には、こっちとあんたらの世界を繋げる穴があるんだ。それがどこにあるのかはあたしにもわからない。ただ確実なのは、その穴を通れるようにするための鍵が何者かに壊されて、2度と開かなくなっちまったってことだ」

「それじゃあ、詰みなんじゃねえの?」

「ところがな、破壊された鍵は15個の破片に分裂し、各地に散らばった。そして、選ばれた15人の体の中に入り込んだんだ。鍵の破片が入り込んだ15人は他人が身につけられないような不思議な力が手に入ったらしいぜ」

 須郷が言葉を引き継ぐ。

「私達の目的は、鍵の関係者を全て見つけて、体内の破片を手に入れることだ。殺してもいい。破片が壊れさえしなければどれだけ弾丸をぶち込んでも構わない。やってくれるよな?」

「…………それが帰れる方法なんだな?」

「ああ」

「俺の親友については?」

「じきに話す。約束する」

 俺の目的は帰還だ。
 日本に帰って、友達と共にいつも通りの平和な日常を過ごすことだ。

 俺を突き動かすのは未練だ。

 引き金を引かせるのは執着だ。

 死という絶対に崩せぬ壁を壊せるのだというのなら、何者にでもなってやる。

 悪魔。
 暴君。
 邪神。

 そう、何にでもだ。

 俺は、本気だ。

「いいよ、やってやるよ。腹くくってやる。帰るためなら誰だろうが殺す。なんだってやってやる」

 須郷は満足げに頷き、ミッチャーは「なあ、お前の顔、怖いぜ……?」とだけ言ってきた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

唯一無二のマスタースキルで攻略する異世界譚~17歳に若返った俺が辿るもう一つの人生~

専攻有理
ファンタジー
31歳の事務員、椿井翼はある日信号無視の車に轢かれ、目が覚めると17歳の頃の肉体に戻った状態で異世界にいた。 ただ、導いてくれる女神などは現れず、なぜ自分が異世界にいるのかその理由もわからぬまま椿井はツヴァイという名前で異世界で出会った少女達と共にモンスター退治を始めることになった。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...