キラーズ・リデンプション 〜剣と魔法の世界に、アイアンサイトは似合わない〜

エンタープライズ窪

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第一部 <リデンプション・ビギニング>

鍵の関係者、捜索開始

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 ミッチャーから得た情報によれば、冒険者ギルドを出て少し歩いたところにある第65番住宅街に鍵の関係者が潜伏しているとのこと。

 名はジュネーヴ・リッテンハイム。

 筋骨隆々の大男で、金髪。
 "みんなの兄貴分"というのがしっくりくる性格。

 身長は1.8メルト(この世界におけるメートル。つまりリッテンハイムの身長は1.8メートル)。

 鍵の破片が入り込んだことによって得た力は"金塊ゴールドナゲット"。

 体の一部を金に変えることができ、強靭な肉体を作り出す。

 ここまでの情報をよく仕入れたものだ。
 彼女からこれらを聞かされた時は、感心した。



 ★★★★★★



 そんなわけで、俺と須郷は件の住宅街にやってきた。

 時間は昼前。
 人通りも活発になる時間帯である。

 この住宅街の道路も通行人だらけだ。

 ミッチャーの部下は画力があるようで、出発前にリッテンハイムの似顔絵を渡してきた。
 これで捜査はだいぶ楽になった。

「いいな、見つけ次第射殺しろ。私の到着は待たなくていい」

 歩きながら、須郷はそう言ってきた。
 捜索は手分けして行うことになっている。

 俺は黙って頷いた。

「銃声が聞こえたらそっちに向かう。逆に、お前が銃声を聞いたらこっちに来い」

 再び頷く。
 堂々と銃を持ち歩くわけにはいかないので、ミッチャーが用意していた大型の手提げケースに収容してある。

 彼女の用意周到さには恐れ入る。

「では、解散」

 再々度黙って頷いて、俺は歩き出した。

「……」

 須郷の目線が背中に突き刺さってくる。
 それでも俺は何も言わなかった。

 リッテンハイムの似顔絵の描かれた紙を握りしめながら、人混みの中へと突入する。

 パッと見た感じだと、似顔絵に描かれている人物は見当たらなかった。

 歩きながら、1人1人の顔を確認していく。

 身長が180センチなら、185センチの俺より少し低いくらいなのでそれなりに目立つだろうと思ったのだが、俺の周りを歩いているのっぽは全員、似顔絵と顔が一致しなかった。

 おまけに、筋骨隆々の人物もあまり見かけない。

 いたとしても、似顔絵とは全く似ても似つかない顔をしている。

 舌打ちを堪えながら、俺は捜索を続ける。

 格好が格好なので、周囲の視線を掻っ攫っている。

 それでも俺は見向きもせずに、リッテンハイムを探し続けた。

「…………出てきやがれ」

 誰にも聞こえないような声量で呟く。
 当然のことながら、周りは見向きもしないしリッテンハイムも現れなかった。



 30分ほど探したが、リッテンハイムは見つからなかった。

 ミッチャーの情報では、奴は特定の家に住むのではなく、いくつもの家を転々としているようで、それがさらに捜索を難航させた。

 しかも、まさかの人の家に居候しまくっているというからタチが悪い。
 引っ越し業者の記録にも残らないからだ。

 まあ、諦める気はさらさらないのだが。

 人の行き交う歩道にて、俺は深々とため息をつくのだった。

「ちょいと待ちな」

 歩き出そうとした直前、背後から声をかけられた。
 振り向くと、3人の男女が並んで立っており、こっちを憎悪を隠そうともせずに睨んでいた。

 さっきギルドでトゥピラ達に絡んでいた冒険者だとわかるには数秒かかった。

「もっかい付き合ってけよ」

「誰だお前らは」

 敢えてそう言ってやった。
 案の定、目潰しを喰らった男は額に青いスジを浮かべながら捲し立てる。

 目が充血して火星のように赤くなっていた。

「さっきギルドでやり合っただろうがッ! トリかテメェはよ!」

「もう1ラウンド申し込みたいならキャンセルで頼む。今は取り込み中だ」

「場外乱闘なら、相手の許可はいらねえだろ?」

 冒険者達は剣をほぼ同時に引き抜く。
 通行人が悲鳴をあげ、徐々に混乱が伝染していく。

「……」

「マックスさんがよお、俺に言うんだ。喧嘩は負けっぱなしで終わらすなってなあ……! お前はそんなに弱かねえよな、ってなあ!」

「リーダーをイリエスのパーティみたいな目に遭わすわけにはいかないのよ! そう! 死んでも!」

 仲間の女が叫ぶ。

 俺はなんとなく事情を察し、顔だけでなく体も奴らに向かい合わせる。

「可哀想にな。恐怖か。恐怖で支配されてやがる」

「うるせえ!」

 充血男が吠えた。

 そして剣を振り上げて、こちらに向かって……。

 来なかった。

「は?」

 男の背後。
 奴の身長を上回る大男が立っており、巨大な手で男の頭を掴んでいた。

「やめねえか。頼むから喧嘩は他所でやってくれ。みんなが怖がってる」

 黒髪の筋肉ダルマだ。
 ピクルス鼻で、目は小さい。

 それでも、チビっちまうくらいの威圧感をバンバン放っている。

 頭を掴まれた冒険者は、何もできずにその場で固まっていた。

「……」

「果物のように簡単に潰せるんだぜ。ほら、帰りな」

 大男は、放心状態の冒険者から手を離す。

 がくりと崩れ落ちた冒険者を、仲間の男女が慌てて回収し、神輿のように担いで退散していった。

「よし」

「……誰だ、あんた?」

「ん?」

 大男の小さな目が俺を捉えた。

 妙な沈黙が、俺達の間に流れる。
 さて、どうしたものか……。
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