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サイモンの動機

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「メリピの人は家族を何よりも大切にする。毎日家族と過ごせるようしてほしい」
牧歌的な大家族での生活を大切にしているメリピの人々。食事は一緒にとるのが当たり前の考えをもつ。仕事は肉体労働が基本で体力はつかうので夜は早めに休む。朝は早く夜が明ければ家から畑に向かい朝食の頃に帰宅する。お昼ご飯は簡単なもので農作業の合間にとり夕暮れ時に帰宅して家族が集まり夕食になる。


ハンド―ラ国の民とは考え方も生活スタイルも違う。ハンド―ラは農業に適さない北の土地なので加工品が中心になる。メリピなどの穀倉地帯から仕入れて加工して販売する。多くの人が工場に集まり加工するために効率を大事にする。一日十二時間勤務に週一の休みに近くの宿で共同生活が当然となっていた。


考え方と生活スタイルの違いからサイモンたちの要求はハンド―ラの宰相には理解ができなかった。ハンド―ラの大臣方にも賛成派はいなかった。なにを甘えているのだと言われる始末。ハンド―ラが合併したイートスの町はハンド―ラのしきたりに強制的に切り替えられることになった。


旧メリピの人々は父親のいない生活を強いられた。週に一度帰って来るのだが、帰ってきても共同生活の愚痴ばかりこぼす父親に家族は困惑した。慣れとは恐ろしいもので週に一度しか帰ってこない生活に慣れてきてしまう。それで収入は以前と変わらないがハンド―ラの国の物が入ってくるようになると生活レベルがあがっていった。


合併前は食べてはいけたが贅沢もなかった。どこの家庭も同じような境遇だったのだ。農業をしっかりすれば食べていける豊かな土地だ。それがハンド―ラに合併されてから競争社会になったのだ。この仕組みについていけない一家の大黒柱は多く存在してサイモンを頼って来るようになった。サイモンを頼る必要のない器用な父親は出世して収入が増えてハンド―ラに溶け込んでいった。


一方サイモンを頼りにする変化ができない父親たちは週一回の帰宅も理由をつけて帰らなくなっていく。月に一度帰るまで頻度が減ると父親の場所は無くなっていく。そんな気分を味わうならと余計に帰れなくなっていく。悪循環の輪にどんどんはまっていく。



サイモンのまわりに来る連中は家に帰りたくない連中がこぞって集まり、自分たちで元の世界に戻してやろうと考え出した。この理想に反ハンド―ラ連中がのっかり個人同士のつながりで国境を超えたノマキとヘワケリカの連中とも連絡がつくようになる。協力者は増え軍資金もそれなりに用意できた。



サイモンの企ては二度失敗した。一度目は決行当日に嵐になりアジトが水没し半分近い同士が命を落した。二度目は軍資金を根こそぎ持ち逃げされた。でも諦めないサイモンは時間をかけて計画しやっと決行できたのである。



「俺たちは毎日家族と会うために決起したんだ!」

叫ぶサイモンに宰相が冷ややかに告げる。
「それではお前の家族に聞いてみるか?」
「今なんて言った?」
「サイモンの家族を呼んである。聞いてみよう」


「あなた、お久しぶりです」
「おお、お前」
「お前なんて呼ばないでほしいわ。帰ってこなくなってお金も送らなくなってどれだけ経つのかしら?」
「お前たちと一緒にいるために」
「だれもこんなことしてほしいなんて誰が頼んだの!私も子供たちもハンド―ラのおかげで働かせてもらってあなたがいなくてもしっかりやっていけるわ」
「お前たちのため・・・」
「宰相様お願いです。今すぐに離縁の承認をしてください。犯罪者は我が一族には必要ありません」
「了解した。サイモンの両親とあなたの両親も承諾しているのか?」
「もちろんです。こちらにサインもあります」
「では離縁成立じゃ。わしのサインで完了だ」



泣きわめくサイモンに未練のない離縁した夫人は足早に去っていった。こんな男が六ダースはいる。これから山となる離縁の書類のサインにうんざりする宰相であった。
立ち会った俺もうんざりして外にでる。建物の外にまで泣き声が聞こえてくる。


男の泣き声をアンドレアとルカも聞いていた。


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