【完結】婚約者を妹に奪われた私は、メイクで別人になって再び婚約者に近づきます~目的はもちろん復讐のためですよ?~

夏芽空

文字の大きさ
5 / 17

【5話】バレていた変装

しおりを挟む

 満足いく結果を残せた買い物デートから、一夜が明けた。
 
 午前七時。
 朝食を済ませたシルフィは、馬車に乗ってジョセフィリアン学園へ向かう。
 
 一人きりの車内で、シルフィは浮かれていた。

 昨日の興奮が、未だ冷め止らぬままでいるのだ。
 こんなに高揚感を感じているのは、生まれて初めてかもしれない。
 
 
 二十分ほどして、馬車が学園に到着した。
 
「ありがとうございました!」

 御者にかけたシルフィの声は、元気で満ちあふれていた。
 
 こんなにハイテンションでお礼を言ったのは初めてだ。
 お礼自体は毎回しているのだが、いつもはもっと静かで淡々としている。
 
 御者は困惑しながらも、「行ってらっしゃいませ」と口にした。
 
 
 在籍しているクラス――二年A組の教室に入ったシルフィは、自席へ座る。
 
 それからしばらくして、クラスを受け持つ講師が教室に入ってきた。
 
「皆さんおはようございます。朝のホームルームを始めます」

 いつものように、朝のホームルームが始まる。
 連絡事項をいくつか話した後、講師は小さく咳払いした。
 
「本日は席替えを行います」

 講師がそう言うと、教室が一気にざわついた。
 
「レナルド様の隣になれたら、私、嬉し死にしちゃうかも!」
「イレイシュさんの隣は俺のものだ!」

 美男美女であるレナルドとイレイシュは、学園のアイドル的存在だ。
 
 ジョセイフィリアン学園では横長の机を二人一組で使っているので、隣席になれば距離はグッと近くなる。
 それが目的で、狙っている生徒はかなり多い。
 
 多くの生徒が盛り上がっている中、シルフィは冷めていた。
 
 特別仲の良いクラスメイトがいない彼女は、隣席が誰になろうと構わなかった。
 希望があるとすれば、最前列の席だけは避けたいところ。周囲から目立つのはどうも嫌だった。
 
「はい、静かにして下さい!」

 両手をパンと叩いた講師が、盛り上がっていた場を静めた。
 
 席決めは、公平にクジ引きで行われた。
 
 シルフィが引き当てたのは、最後列窓側の席。
 教室において、最も目立たない最高の席だ。
 
(なんて最高のくじ運なの!)
 
 元々ハイテンション状態なのも相まってか、シルフィは嬉しさが止まらない。
 スキップでその席まで向かい、勢いよく着席する。
 
 その時だった。
 教室中の女生徒たちから、刺さるような視線を向けられる。
 
 その中でも特に鋭いのは、最前列真ん中の席に座っているイレイシュだ。
 殺気すら感じる視線に、シルフィは鳥肌を立てた。
 
(いったいどういうことなの)

 その疑問の答えを、シルフィは一秒後に知ることとなった。
 
「昨日ぶりだな」

 そう言ってシルフィの隣席に座ったのは、学園のアイドル、レナルドだった。
 彼の隣席を引き当てたことで、シルフィは女生徒たちの怒りを買ってしまったのだ。
 
(せっかく良い席を引き当てたと思ったのに、どうしてこんな――ん、ちょっと待って)

 心の中で悪態をついていたシルフィだったが、その途中、何か違和感のようなものを感じた。
 それは、つい先ほどレナルドが口にした言葉だ。
 
「……あの、昨日ぶりってどういう意味ですか?」

 レナルドが言っていることは事実だ。
 
 だが、それを知っているのはシルフィだけのはず。
 シルフィの変装メイクに気付かなかったレナルドが、真実を知っているのはおかしい。
 
「私、昨日は家から一歩も出ていません。人違いではないでしょうか?」
「なぜごまかすんだ。王都の街を、茶髪の男と歩いていただろう」

 シルフィの背筋が凍りつく。
 
(バレていたんだわ! どうしよう!)

 このことをもし、グレイに告げ口でもされたら最悪だ。
 ほぼ成功していた復讐が、一気にひっくり返ってしまう。
 
 ごまかすのは無理そうだし、何とかして口止めしなければならない。
 
 机の中からノートを取り出すシルフィ。
 端の部分を千切り、ペンを走らせる。
 
”放課後、校舎裏に来てください”
 
 殴り書きしたそのメモを、レナルドに渡した。
 
 
 その日の放課後。
 影に覆われた人気ひとけの無い校舎裏に、シルフィとレナルドはいた。
 
「まずは、来てくれてありがとうございます」
「気にするな。それで、話とは何だ?」
「単刀直入に言います。レナルド様と私は昨日会っていない――そういうことにして下さいませんか!」

 レナルドにどう話を切り出したものか。
 今日一日、授業そっちのけでシルフィはそんなことを考えていた。
 
 その答えが、この直球勝負だった。
 色々ごまかしても、レナルドの青い瞳に全て見破られてしまう気がしたのだ。
 
 レナルドは面食らっていた。
 いきなりこんなことを言われて、きっと訳が分からないのだろう。
 
(理由を話すしかないわよね)

 誰にも言いたくなかったのだが仕方ない。
 これも復讐を最後まで成し遂げるためだ。
 
「少し長いのですが、聞いていただきたいお話があります」
「あぁ、聞こう」
「私の両親は妹ばかりを溺愛して、私には無関心でした。それを見て育った妹も、私のことをないがしろにしてきました。そんな中、元婚約者のグレイ様だけが優しくしてくれたんです。けど、私は裏切られた――」

 どうして復讐しようと思い至ったのか。どういう復讐計画なのか。
 
 その全てを、包み隠さずレナルドに話す。
 
 
 しばらくして、シルフィの話が終わる。
 
 最初から最後までずっと、レナルドは真剣に話を聞いてくれていた。
 
 引かれると思っていただけに、シルフィは少しだけ心が軽くなった気がした。

「私の復讐は、もうすぐ成功するんです。ですからどうか、今のことを誰にも言わないでいただけないでしょうか。もちろんタダでとは言いません。私にできることであれば、何でもいたします」
「ほう、何でもか。ならば、俺の願いを一つ聞いてもらおう」

 まさかさっそく、願いを叶えろ、と言ってくるとは思わなかった。
 
(何をさせられるのかしら……)

 ちょっと怖気づいてしまう。
 
 しかし自ら言った手前、シルフィは退く訳にはいかない。
 頑張って平静を装う。

「シルフィ・ルプドーラ、君に告白させてくれ。俺は君のことが好きだ」
「…………はい?」

 シルフィの呆けた声が、校舎裏にこだました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された聖女は、辺境で狼(もふもふ)とカフェを開く

橘 あやめ
ファンタジー
――もう黙らない。追放された聖女は、もふもふの白狼と温かい居場所を見つける―― 十二年間、大聖堂で祈り続けた。 病人を癒し、呪いを祓い、飢饉のときは畑に恵みの光を降ろす。 その全てを、妹の嘘泣きひとつで奪われた。 献金横領の濡れ衣を着せられ、聖女の座を追われたアーシャ。 荷物は革鞄ひとつ。行く宛てもない。 たどり着いた辺境の町で、アーシャは小さなハーブティーのカフェを開くことに。 看板は小枝の炭で手作り。 焼き菓子は四度目でようやく成功。 常連もできて、少しずつ「自分の居場所」が生まれていく――。 そんなカフェに夜ごと現れるのは、月光のように美しい銀色の狼。 もふもふで、不愛想で、でも何かとアーシャのことを助けてくれる。 やがて、穏やかな日々を壊しに――妹が現れる。 ※追放聖女のカフェ開業もの(もふもふつき)です!ハッピーエンド!

『魔力ゼロの欠陥品』と蔑まれた伯爵令嬢、卒業パーティーで婚約破棄された瞬間に古代魔法が覚醒する ~虐げられ続けた三年間、倍返しでは足りない~

スカッと文庫
恋愛
「貴様のような無能、我が国の王妃には相応しくない。婚約を破棄し、学園から追放する!」 王立魔道学園の卒業パーティー。きらびやかなシャンデリアの下、王太子エドワードの声が冷酷に響いた。彼の隣には、愛くるしい表情で私を嵌めた男爵令嬢、ミナが勝ち誇ったように寄り添っている。 伯爵令嬢のリリアーヌは、入学以来三年間、「魔力ゼロの欠陥品」として学園中の嘲笑を浴び続けてきた。 婚約者であるエドワードからは一度も顧みられず、同級生からはゴミのように扱われ、ミナの自作自演による「いじめ」の濡れ衣まで着せられ……。 それでも、父との「力を隠せ」という約束を守るため、泥を啜るような屈辱に耐え抜いてきた。 ――だが、国からも学園からも捨てられた今、もうその約束を守る必要はない。 「さようなら、皆様。……私が消えた後、この国がどうなろうと知ったことではありませんわ」 リリアーヌが身につけていた「魔力封印の首飾り」を自ら引き千切った瞬間、会場は漆黒の魔力に包まれた。 彼女は無能などではない。失われた「古代魔法」をその身に宿す、真の魔道の主だったのだ。 絶望する王太子たちを余目に、隣国の伝説の魔術師アルベルトに拾われたリリアーヌ。 彼女の、残酷で、甘美な復讐劇が今、幕を開ける――。

【完結】幽霊令嬢は追放先で聖地を創り、隣国の皇太子に愛される〜私を捨てた祖国はもう手遅れです〜

遠野エン
恋愛
セレスティア伯爵家の長女フィーナは、生まれつき強大すぎる魔力を制御できず、常に体から生命力ごと魔力が漏れ出すという原因不明の症状に苦しんでいた。そのせいで慢性的な体調不良に陥り『幽霊令嬢』『出来損ない』と蔑まれ、父、母、そして聖女と謳われる妹イリス、さらには専属侍女からも虐げられる日々を送っていた。 晩餐会で婚約者であるエリオット王国・王太子アッシュから「欠陥品」と罵られ、公衆の面前で婚約を破棄される。アッシュは新たな婚約者に妹イリスを選び、フィーナを魔力の枯渇した不毛の大地『グランフェルド』へ追放することを宣言する。しかし、死地へ送られるフィーナは絶望しなかった。むしろ長年の苦しみから解放されたように晴れやかな気持ちで追放を受け入れる。 グランフェルドへ向かう道中、あれほど彼女を苦しめていた体調不良が嘘のように快復していくことに気づく。追放先で出会った青年ロイエルと共に土地を蘇らせようと奮闘する一方で、王国では異変が次々と起き始め………。

姉から奪うことしかできない妹は、ザマァされました

饕餮
ファンタジー
わたくしは、オフィリア。ジョンパルト伯爵家の長女です。 わたくしには双子の妹がいるのですが、使用人を含めた全員が妹を溺愛するあまり、我儘に育ちました。 しかもわたくしと色違いのものを両親から与えられているにもかかわらず、なぜかわたくしのものを欲しがるのです。 末っ子故に甘やかされ、泣いて喚いて駄々をこね、暴れるという貴族女性としてはあるまじき行為をずっとしてきたからなのか、手に入らないものはないと考えているようです。 そんなあざといどころかあさましい性根を持つ妹ですから、いつの間にか両親も兄も、使用人たちですらも絆されてしまい、たとえ嘘であったとしても妹の言葉を鵜呑みにするようになってしまいました。 それから数年が経ち、学園に入学できる年齢になりました。が、そこで兄と妹は―― n番煎じのよくある妹が姉からものを奪うことしかしない系の話です。 全15話。 ※カクヨムでも公開しています

【完結】伯爵令嬢は婚約を終わりにしたい〜次期公爵の幸せのために婚約破棄されることを目指して悪女になったら、なぜか溺愛されてしまったようです〜

よどら文鳥
恋愛
 伯爵令嬢のミリアナは、次期公爵レインハルトと婚約関係である。  二人は特に問題もなく、順調に親睦を深めていった。  だがある日。  王女のシャーリャはミリアナに対して、「二人の婚約を解消してほしい、レインハルトは本当は私を愛しているの」と促した。  ミリアナは最初こそ信じなかったが王女が帰った後、レインハルトとの会話で王女のことを愛していることが判明した。  レインハルトの幸せをなによりも優先して考えているミリアナは、自分自身が嫌われて婚約破棄を宣告してもらえばいいという決断をする。  ミリアナはレインハルトの前では悪女になりきることを決意。  もともとミリアナは破天荒で活発な性格である。  そのため、悪女になりきるとはいっても、むしろあまり変わっていないことにもミリアナは気がついていない。  だが、悪女になって様々な作戦でレインハルトから嫌われるような行動をするが、なぜか全て感謝されてしまう。  それどころか、レインハルトからの愛情がどんどんと深くなっていき……? ※前回の作品同様、投稿前日に思いついて書いてみた作品なので、先のプロットや展開は未定です。今作も、完結までは書くつもりです。 ※第一話のキャラがざまぁされそうな感じはありますが、今回はざまぁがメインの作品ではありません。もしかしたら、このキャラも更生していい子になっちゃったりする可能性もあります。(このあたり、現時点ではどうするか展開考えていないです)

【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。

本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」 そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。 しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない! もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!? ※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。 3月20日 HOTランキング8位!? 何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!! 感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます! ありがとうございます! 3月21日 HOTランキング5位人気ランキング4位…… イッタイ ナニガ オコッテンダ…… ありがとうございます!!

何もしていない聖女と言われたので、婚約破棄を受け入れます

鍛高譚
恋愛
聖女と呼ばれながらも、目立った奇跡を見せたことのない公爵令嬢ホーリィー・メイデン。 ある日突然、王太子から「何もしていない聖女」と断じられ、さらに身に覚えのない嫌がらせを理由に婚約破棄され、王都を去るよう命じられてしまう。 婚約に未練はなく、静かに追放を受け入れたホーリィー。 けれど、面識すらない相手を本当に傷つけたのかという疑問だけが胸に残る。 そして彼女が王都を離れたあと、王城では少しずつ不穏な出来事が起こり始める。 これは、見えない場所で王都を支えていた聖女が、再び“夜の王城”へ戻るまでの物語。

婚約破棄をお望みでしたので。――本物の公爵令嬢は、奪った全員を生き地獄へ落とす

鷹 綾
恋愛
卒業舞踏会の夜。 公爵令嬢エルシェナ・ヴァルモンは、王太子エドガーから大勢の前で婚約破棄を言い渡された。 隣にいたのは、儚げな涙で男たちの同情を集める義妹セラフィナ。 「お姉様に虐げられてきました」と訴える彼女を庇い、王太子はエルシェナを悪女として断罪する。 けれど彼らは知らなかった。 王家の華やかな暮らしも、王太子の立場も、社交界での信用も、その多くがヴァルモン公爵家――そしてエルシェナの存在によって支えられていたことを。 静かに婚約破棄を受け入れたその日から、エルシェナはすべてを止める。 王宮に流れていた便宜も、信用も、優先も。 さらに継母イザベルの不正、義妹セラフィナの虚飾、王太子の浅はかさを、一つずつ白日のもとへ晒していく。 奪ったつもりでいた義妹も、捨てたつもりでいた王太子も、家を食い潰していた継母も―― やがて名誉も立場も未来も失い、二度と這い上がれない生き地獄へ落ちていく。 これは、すべてを奪われかけた本物の公爵令嬢が、 自分を踏みにじった者たちへ救済なき断罪を下す物語。

処理中です...