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【17話】これからの生き方
しおりを挟むレナルドに手を引かれ、教室を出ていく。
「シルフィ、俺の家へ行こう」
「はい」
シルフィはすぐに頷く。
とにかく今は、愛おしい彼の側にずっといたい。
そのためなら、向かう先がどこであろうと構わなかった。
学園の隅に設けられた、馬車の停車場に着いた。
ロクソフォン家の馬車のところへ、二人は向かった。
「今日は帰ることになった。急で悪いが、ロクソフォン邸まで頼む」
レナルドの言葉に、御者は少し動揺しながらも頷いてくれた。
馬車が動き始めて少し、対面に座っているレナルドが頭を下げた。
「すまなかった」
「いきなりどうしたんですか! お顔をあげて下さい!」
いきなりの謝罪に、慌ててしまうシルフィ。
謝罪される理由なんて、まったく見当たらない。
しかしレナルドは、顔を上げてくれなかった。
「嫌がらせされていることを、君は敢えて言わなかった。それなのに俺は、君の決意を踏みにじってしまった。本当にすまない」
膝の上に握り拳をのせ、プルプルと体を震わせるレナルド。
言葉の端から端まで、後悔がにじみ出ていた。
(レナルド様は、こんなにも私のことを思ってくれているのね)
それがどんなに嬉しいことか。
シルフィは口元に微笑みを浮かべる。
「レナルド様、お顔をあげて下さい」
先ほどと同じ言葉でも、まったく違う落ち着いた優しいトーン。
語りかけるようにして声をかける。
レナルドの両肩を優しく掴み、下を向いている体を起こした。
顔を上げたレナルドは、申し訳なさそうな表情をしていた。
「我慢してくれたことも、怒ってくれたことも、全部私のためですよね。本当にありがとうございます」
シルフィはニコリと笑いかける。
「今思えば最初からずっと、レナルド様は私に尽くしてくれました。その気持ちが、本当に嬉しかったんです」
瞳を瞑ったシルフィは、胸の前で両手をギュッと合わせた。
小さく呼吸を整えてから瞳を開き、愛おしい彼をまっすぐに見つめる。
「だから私は、あなたという人を好きになりました」
ストレートに愛の言葉を伝える。
瞳を大きく開いたレナルドは、ポロポロと涙を流し始めた。
シルフィは大慌て。
まさか泣かれるとは思っていなかった。
「ご、ごごごめんなさい!」
「違うんだ。これは嬉し涙だ。謝らないでくれ」
ニッコリ笑ったレナルド。
シルフィに向かって、顔をグイっと近づける。
「シルフィ、俺も愛している」
さらに顔を近づけたレナルドが、そっとシルフィに口づけをした。
どこまでも優しくて温かい気持ちが、シルフィの胸に溢れていく。
きっとこれが、幸せというものなのかもしれない。
幸せいっぱいなシルフィは、シアンとグレイのことなどすっかり忘れていた。
二人がどういう末路を辿ったのかには、正直もう興味がない。
これからは、愛するレナルドのことだけを考えて生きていたい。
そう思っている。
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