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【41話】ステラからの呼び出し ※リリーナ視点
しおりを挟むメルティ魔法学園の屋上。
放課後、そこへ来るように、とリリーナは呼び出されていた。
呼び出してきたのは、
「話って何よ――ステラ」
昨日のダンスパーティーでの一件から、ギクシャクしている相手だ。
「もしかして、お昼のことで何か言いたことがあるわけ? 先に言っておくけど、悪いことしたなんて、私、思ってないから。むしろ、感謝してほしいくらいだわ。もし講師にバレていたら、あんたたちは二人とも処分されるとこだったのよ」
昨日の件をリヒトに謝罪したくて、リリーナは中庭を訪れた。
そうしたら、リヒトとステラが体を密着させている場面に出くわしてしまったのだ。
過度な異性交遊は校則で固く禁じられている。
あんなにもピッタリ密着しているところを講師に見つかれば、二人が処分を受ける可能性は十分にあった。
だからあの場から、リヒトを引き離した。
文句を言うつもりで呼び出したのなら、それはお門違いというものだ。
「そうなんですか。てっきり私は、密着しているのが面白くないのだと思っていました。勘違いしてしまい、申し訳ございません」
ステラの推理に、リリーナは動揺してしまう。
図星だった。
あのとき、体を密着させている二人を見て、大きな苛立ちを感じたのだ。
どうしてそうなったのかは分からないが、とりあえず一刻も早く二人を引き剥がしたかった。
「ですが、お昼休憩のことで呼び出したのではありません。私、リリーナさんにお伝えしたいことがあるんです」
首にかけていたシルバーのネックレスを外したステラ。
愛おしそうにそれを眺めてから、胸にギュッと押し当てた。
「私、リヒトさんが好きです。大大大好きです」
「うるさいわね。そんなに強調しなくたって知ってるわよ」
ダンスパーティーでの宣戦布告に続き、昼の密着。
馬鹿の一つ覚えのように好き好き宣言してもらわなくとも、そんなことは分かっていた。
「今度の休日、リヒトさんをデートに誘おうと思っています。そのとき私、自分の気持ちを正直に打ち明けようと思っているんです」
「それを言うためだけに、わざわざ私をここへ呼び出したの?」
「はい。あなただけには、どうしても伝えておきたかったんです。……恋敵であるあなたには」
ステラの青い瞳が、ギラリと鋭く尖った。
純度百パーセントの明確な敵意が、そこには映っている。
「昨日のダンスパーティーで言いましたよね。あなたには負けない、って。だから私、リリーナさんとは正々堂々勝負したいんですよ。ここで黙って告白したら、抜け駆けしたみたいじゃないですか。そんなことはしたくなかったんです」
「……意味わかんないだけど。何が恋敵よ。何が正々堂々の勝負よ。馬鹿馬鹿しい」
肩をすくめたリリーナは、ハン、と小さく笑って一蹴。
「告白でもなんでも、勝手にしたらいいじゃない。告白が成功しようが失敗しようが、リヒトが誰と付き合うことになろうが、私、心底どうでもいいもの」
「これは意外です。リリーナさんも私と同じ気持ちなのだとばかり思っていました」
「私が好きなのはクロードだけよ。リヒトはただの友達でしかない。それ以上でも以下でもないわ」
「……そうですか。私の勘違いだったのですね。リリーナさん、申し訳ありませんでした」
ペコリと頭を下げたステラは、リリーナの真横まで歩いてくるとピタッと立ち止まった。
「それでは、私の告白がうまくいくように祈っていてください。私たち、お友達、ですものね」
耳元でそんなことを囁いたステラは、ふふふ、と楽し気に笑う。
そうして、軽やかな足取りで屋上から去っていった。
「なんなのよ!!」
心からの叫びが、屋上に広がった。
挑発的で攻撃的なステラの態度に苛ついている――のもあるが、それだけではない。
認めるのは癪だが、ステラはとても可愛らしい。
そんな相手に告白されたら、リヒトはきっと首を縦に振るはずだ。
そうなった時、リヒトとの関係はどうなるか。
簡単に想像がつく。
リリーナさんには二度と会わないでください。私だけを見ていてください。
あれだけリリーナに対抗心を燃やしているステラであれば、こんなことを言うはずだ。
つまり、ステラが告白した時点でリヒトとの関係は終わる。
リリーナは、それがとても辛かったのだ。
けれど本来であれば、祝ってあげるべき場面なのかもしれない。
喜ぶべき場面なのかもしれない。
リヒトは大切な友達だ。
常に一番近くで、いつも必死になって、リリーナを応援してくれていた。
あれだけ険悪な仲だったクロードとうまくいっているのも、全部リヒトのおかげだ。
感謝してもしきれない恩がある。
リリーナにとっての恩人だ。
そんな恩人であるリヒトは今、ステラと結ばれようとしている。
ステラの想いは熱くて重厚な、本物の愛だ。
彼女ならば、リヒトを不幸にするようなことは絶対にしないだろう。
つまりリヒトは、幸せな道を歩もうとしているのだ。
恩人が幸せになろうとしている――それなのに、リリーナはまったく喜べないでいた。
心に沸き立つのは、喜びとは正反対のドロドロした感情。
悲しい。
苦しい。
そんな感情たちが暴れ回り、胸を抉られるような気分を味わっていた。
しかし、どうしてそんなドロドロした気持ちになるのか。
それを考えたとき、リリーナは自分の本心にやっと気づいた。
「そっか……。私、リヒトが好きなんだ」
だからこんなにも悲しいのだ。苦しいのだ。
胸が痛いのだ。
「今さら気がつくなんて、私って馬鹿ね。何が天才よ」
宣戦布告されて初めて気がつくとは、なんというマヌケか。
自分の馬鹿さ加減に呆れてしまう。
ははは、と乾いた笑いが口から漏れる。
それは誰に向けたものでもなく、他でもない自分への嘲笑だ。
こんな馬鹿には、リヒトを幸せにすることなんてできないだろう。
だったらもういっそ、関係を絶ち切ってしまいたい。
彼を好きという気持ちも何もかもを、全て忘れてしまいたい。
中途半端に繋がっていても、きっと辛くなるだけだ。
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