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【4話】令嬢教育
しおりを挟むアクアの前に立ったエレナは、ニコリ。
朗らかな笑顔を見せる。
「私はエレナ。今日からあなたとフレイの令嬢教育の教育係になったわ。よろしくね」
「……は、はい」
アクアのかなり声は小さく、そして震えていた。
顔は強張っている。
表情は緊張と怯えでいっぱいになっていた。
人見知りな子なのかもしれない。
(時間が経てば緊張も解けるはずよね)
ということで、さっそく授業を始めることに。
「今日の座学は、この国シュタルプ王国の歴史についてね」
エレナは教材の本を開いた。
解説を交えつつ、本の内容読み上げていく。
それを聞いているアクアは、ペンを持った手を一生懸命に動かしてメモを取っていく。
雰囲気は真剣だ。
「テストするわよ」
区切りのいいところまで解説を終えたエレナは、テスト用紙を配った。
今の内容をしっかり理解できているかどうかを、このテストで確認をする。
問題は全部で十問。
制限時間は三十分だ。
「はい、そこまで!」
三十分後。
テスト用紙を回収したエレナは、採点をしていく。
(うーん)
採点を終えたエレナは、渋い顔をした。
十問のうち、正解していたのは五問。
ちょうど半分だった。
劇的に悪くもなければよくできましたと褒めることもできない、そんな点数。
アクアの初めての確認テストの結果は、なんともいえないものだった。
「間違えた問題の解説をするわね」
間違えてしまった問題を丁寧に解説していく。
それが終わると、先ほどの繰り返し。
区切りがいいところまで解説をしてから、確認のテストを行う。
(今度は少しでも点が良くなっているといいのだけど……)
確認テストの問題を解いているアクアを見ながら、そんなことを祈る。
そうして、採点。
(…………うーん)
エレナはまたしても渋い顔になる。
今回の正解数も先ほどと同じ、五問。
二回目のテスト結果は、またまたなんともいえないものだった。
「……あれ?」
手元のテスト用紙を見たエレナは、あることに気付く。
先ほどと同じだったのは点数だけではない。正誤の箇所まで、ぴったり同じだったのだ。
二、四、六、八、十問目――偶数はすべて正解。
そして、奇数の問いだけをすべて間違えている。
点数が同じだけならわかるが、正誤の箇所までもが同じというのは少し不自然な気がする。
(もしかして意図的にやっているのかしら?)
しかし決めつけるのは早い。
偶然にもそうなったという可能性だってある。
ここは解答をした本人に聞いてみるしかないだろう。
「ねぇアクア。あなたわざと問題を間違えていない?」
アクアは背筋をビクッと跳ねさせた。
バツが悪そうに目線を逸らす。
(当たりだったみたいね)
声にしないまでも、その反応はやましいことがあるときのもの。
エレナの疑惑は正解だったようだ。
「どうしてこんなことをしたの?」
「ごめんなさい!」
勢いよく立ち上がったアクアは、大きな声で謝罪した。
表情は恐怖で覆いつくされている。
今にも泣き出してしまいそうだった。
「責めるような言い方をしてごめんね。そうじゃないのよ」
安心させるようにして、エレナは笑いかける。
恐怖していたアクアの表情がわずかに和らいだ。
「私はただ、わざと問題を間違える理由が気になっただけなの」
「それは……」
アクアは少し迷ってから、
「お姉ちゃんが怒るんです」
小さな声でそう呟いた。
(お姉ちゃんって……フレイのことよね?)
「私が良い点数を取るのが、お姉ちゃんは嫌みたいなんです。理由はわかりません」
アクアが良い点数を取ることが、フレイにとっては不都合なのだろう。
(でもいったい、なにが不都合なのかしら?)
いまいちよくわからない。
「このことはお姉ちゃんには言わないでください」
「わかったわ。……でもね、アクア。今はわざと間違える必要はないんじゃないかしら?」
「え?」
アクアはスカイブルーの大きな瞳を、パチクリとまばたきした。
不思議そうにエレナを見上げる。
「今はフレイがいないでしょ。だからあなたがいくら良い点を取っても、怒られることはないわ」
ハッとしたアクアは、あ! 、と驚いたように声を上げた。
今言ったことをちゃんと理解してくれたようだ。
微笑んだエレナは、令嬢教育を再開していく。
そして、三度目の確認テストが行われた。
今回のアクアは、手抜きなしの本気。きっと点数は上がっているはずだ。
「素晴らしいわ!」
採点を終えたエレナは、大きな賞賛の声を上げた。
十問中、正解した問題は十。つまり全問正解。
本気になったアクアは、満点を取った。
「おめでとう!」
エレナはアクアの頭へ手を伸ばした。
優しく頭を撫でる。
アクアは固まっている。
ぼーっとしながらエレナを見上げていた。
(もしかして嫌だったのかしら? ……私ったらなんてことを)
確認もとらずに撫でてしまったことを反省。
エレナは手を引っ込めた。
「いきなり頭を触ってごめんね。嫌だった?」
「……あ、違うんです。こういうことされたのは初めてなのですが……その、とっても嬉しくて」
「じゃあ撫でてもいいの?」
アクアは小さく頷く。
恥ずかしいのか、ちょっと顔が赤くなっていた。
(くぅっー!)
その反応はかわいすぎる。
あまりの威力に悶えてしまう。
「あのエレナ様?」
「えっと、なんでもないわ」
ははは、とわざとらしく笑う。
「それじゃ遠慮なく、撫でてさせてもらうわね!」
アクアへ手を伸ばすエレナはウキウキ。
口元は大いに綻んでいる。
それからは、心ゆくまでアクアの頭を撫で続けた。
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