22 / 25
【22話】決死の戦い ※エリック視点
エリックとマリアが転移した場所は、クルダール王国の王宮近くだった。
「さっきまで僕たちは宿にいたのに……信じられない」
地獄のような街並みを、キョロキョロ眺めるエリック。
急変してしまった景色に、驚きを隠せないでいる。
【ワープ】の魔法はとてもハイレベルの魔法。
扱える魔術師は、世界中でも数えるほどしかいないとされている。
魔術師として希代の素質を持って産まれてきたエリックの兄、ラウドですら扱えない。
(そんな魔法をいとも簡単に操るマリアさんって、いったい……)
エリックはゴクリと息を呑む。
常識では考えられない身体能力と武力を持ち、ハイレベルの魔法を使いこなす。
それが、マリアという女性だ。
(僕はいつになったら、この人の横に並べられるのかな)
とてつもなく長い道のりに感じる。というよりも、本当に実現可能なのだろうか。
考えるだけで、気分がすーんと沈みそうになる。
「それじゃ私は、ホワイトドラゴンを探してくるわね。エリック君はどうする?」
「僕はこの辺りで魔物を狩ります」
ホワイトドラゴンと遭遇したところで、簡単に殺されてしまうだけだろう。
そのことでもしマリアに迷惑をかけるようなことになれば、死んでも死にきれない。
彼女の足かせになるのだけはごめんだ。
「分かったわ。ホワイトドラゴンを倒したら空に合図を打ち上げるから、その場所まで来て。それじゃあ、健闘を祈っているわ」
フリフリと手を振り、マリアは去って行く。
これから伝説級の魔物と戦うとは思えない、見事なまでの落ち着きぶりだ。
「やっぱりマリアさんには敵わないな」
小さく笑うエリック。
剣を引き抜き、ゆっくりと歩き始めた。
「ふぅ、大分倒したな」
一人で行動を初めてから、多くの魔物を倒したエリック。
その多くはホブゴブリンとビッグボアで、かれこれ各十体以上は倒した。
休まず剣を振るい続けたせいで、腕がパンパンだ。
足腰からも悲鳴が上がっている。
(体がこんなになるのは、先生との鍛錬以来かもしれないな)
そんなことをボケっと考えていたエリックだったが、すぐさま剣を構えた。
ホブゴブリンやビッグボアとは違う、ただならぬ気配を感じたのだ。
ズシンズシン、大きな足音が地面を揺らし近づいてくる。
「こいつは……」
エリックの前に姿を現したのは、鬼の顔をした赤き魔物――オーガだった。
筋肉隆々の巨大な体躯をしているそれは、圧倒的な雰囲気を持っている。
あまりの迫力に怖気づき、エリックは一歩後ずさってしまう。
オーガの危険度はかなり高い。
Bランク冒険者でも手こずることがあり、場合によっては殺されるケースもあるという。
今のエリックの実力では、まったく敵わない相手かもしれない。
死にたくなければ早くここから逃げろ、と脳が全力で警告を発している。
「でも、それでも僕は逃げない!」
二の足を強く踏み、オーガを睨みつける。
「グォォォオオ」
唸り声を上げ、間合いを詰めてきたオーガ。
大きな体に見合わない素早い動きで、拳を繰り出してきた。
剣を盾にして、その一撃を受け止める。
ビリビリとした激しい振動が、剣を通して伝わる。
「なんて重い一撃なんだ」
想像以上の一撃に、エリックの顔が歪む。
あと何度か同じことをしたら、剣が折れてしまうかもしれない。
(長期戦はまずい。早く片をつけなきゃ)
「ハアッ!」
オーガの首筋目掛けて剣を振り下ろす。
しかし、筋肉に覆われた首筋はまるで金属の塊だった。簡単に弾かれてしまう。
(なんて硬さをしているんだ……!)
まったく歯が立たなかったことに、エリックは驚きを隠せない。
したり顔で笑うオーガ。
その隙を待っていたかのように、右腕が繰り出される。
とっさに体を捻ったエリックは、その攻撃を間一髪で回避。
しかし、完全に避けきれてはいなかった。
右肩に拳がかすってしまった。
たったそれだけで、激しい痛みが肩に走る。
骨にひびが入っているのかもしれない。
素早く重い、オーガの拳。
もし一撃でもまともに食らえば、それだけで致命的なダメージになるだろう。
(早く勝負を決めないと)
焦りを感じたエリックは、何度も首筋へ斬りかかっていく。
しかし、その刃がオーガに届くことはない。
しかもそれだけでなく、エリックが攻撃をする度に、カウンターの拳を飛ばしてくる。
直撃だけはなんとか避けていたエリックだったが、完全に回避できているという訳でなかった。
避けきれず食らってしまった攻撃で、今や全身はボロボロ。
剣を握っているのがやっとの状態だった。
気を抜いたら、今すぐにでも倒れてしまいそうだ。
対して、オーガはほとんどダメージを受けていない。
余裕たっぷりに笑みを浮かべている。
優劣は誰が見ても明らかだった。
もうじきエリックには、逃れられない死が訪れるだろう。
そんな中、エリックの脳裏に浮かんだのは昔の出来事。
剣を教えてくれた、先生とのやり取りだ。
「剣が通らないほど硬い敵に出会った時、エリック、お前ならどうする?」
「うーん……逃げる!」
「ほっほほほ! それも一つの手じゃな。しかしな、時には逃げずに戦わねばいけない場合があるんじゃ」
「でも、剣が通らないんじゃ勝てないよ」
「それは攻撃する箇所が悪いだけじゃ。どんなに硬い相手でも、剣が通る柔らかい箇所というものがある。そこを狙うのじゃ」
圧倒的な不利な状況にもかかわらず、エリックはフッと笑う。
かつての記憶から、勝ち筋が見えた気がした。
「先生、ありがとうございます」
飛び出したエリックは、オーガの首筋目掛けて剣を振るう。
何度も繰り返しては弾かれてきた攻撃。
その剣を何度も受けてきたオーガは無駄な攻撃と分かっているのか、何もしてこない。
しかし、エリックの狙いは別にあった。
首筋に斬りかかる直前、突如として剣筋を変更。
オーガの両眼を、横一線に薙ぎ払う。
「オオオオオオオ!!」
光を奪われたことで、暴れ出すオーガ。
ジタバタと右腕を振り回す。
目を抑えている左手の隙間からは、ボタボタと血が流れている。
(今だ!)
大きく開いている口内めがけ、エリックは剣を突き刺す。
真っすぐに入った剣は、後頭部まで貫通。
断末魔のような声を最期に上げて、オーガは事切れた。
「なんとか勝てた」
満身創痍で、なんとか勝利をもぎ取ったエリック。
オーガから剣を引き抜き、地面に大の字で倒れ込む。
「これで少しはあなたに近づけたましたかね……ねぇ、マリアさん」
煙が立ち上る灰色の空を見上げながら、エリックはポツリと呟いた。
あなたにおすすめの小説
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
失われた力を身に宿す元聖女は、それでも気楽に過ごしたい~いえ、Sランク冒険者とかは結構です!~
紅月シン
ファンタジー
聖女として異世界に召喚された狭霧聖菜は、聖女としての勤めを果たし終え、満ち足りた中でその生涯を終えようとしていた。
いや嘘だ。
本当は不満でいっぱいだった。
食事と入浴と睡眠を除いた全ての時間で人を癒し続けなくちゃならないとかどんなブラックだと思っていた。
だがそんな不満を漏らすことなく死に至り、そのことを神が不憫にでも思ったのか、聖菜は辺境伯家の末娘セーナとして二度目の人生を送ることになった。
しかし次こそは気楽に生きたいと願ったはずなのに、ある日セーナは前世の記憶と共にその身には聖女としての癒しの力が流れていることを知ってしまう。
そしてその時点で、セーナの人生は決定付けられた。
二度とあんな目はご免だと、気楽に生きるため、家を出て冒険者になることを決意したのだ。
だが彼女は知らなかった。
三百年の時が過ぎた現代では、既に癒しの力というものは失われてしまっていたということを。
知らぬままに力をばら撒く少女は、その願いとは裏腹に、様々な騒動を引き起こし、解決していくことになるのであった。
※完結しました。
※小説家になろう様にも投稿しています
大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!
向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。
土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。
とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。
こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。
土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど!
一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています
如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。
「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」
理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。
どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。
何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。
両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。
しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。
「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」
金喰い虫ですって!? 婚約破棄&追放された用済み聖女は、実は妖精の愛し子でした ~田舎に帰って妖精さんたちと幸せに暮らします~
アトハ
ファンタジー
「貴様はもう用済みだ。『聖女』などという迷信に踊らされて大損だった。どこへでも行くが良い」
突然の宣告で、国外追放。国のため、必死で毎日祈りを捧げたのに、その仕打ちはあんまりでではありませんか!
魔法技術が進んだ今、妖精への祈りという不確かな力を行使する聖女は国にとっての『金喰い虫』とのことですが。
「これから大災厄が来るのにね~」
「ばかな国だね~。自ら聖女様を手放そうなんて~」
妖精の声が聞こえる私は、知っています。
この国には、間もなく前代未聞の災厄が訪れるということを。
もう国のことなんて知りません。
追放したのはそっちです!
故郷に戻ってゆっくりさせてもらいますからね!
※ 他の小説サイト様にも投稿しています
ボロボロになるまで働いたのに見た目が不快だと追放された聖女は隣国の皇子に溺愛される。……ちょっと待って、皇子が三つ子だなんて聞いてません!
沙寺絃
恋愛
ルイン王国の神殿で働く聖女アリーシャは、早朝から深夜まで一人で激務をこなしていた。
それなのに聖女の力を理解しない王太子コリンから理不尽に追放を言い渡されてしまう。
失意のアリーシャを迎えに来たのは、隣国アストラ帝国からの使者だった。
アリーシャはポーション作りの才能を買われ、アストラ帝国に招かれて病に臥せった皇帝を助ける。
帝国の皇子は感謝して、アリーシャに深い愛情と敬意を示すようになる。
そして帝国の皇子は十年前にアリーシャと出会った事のある初恋の男の子だった。
再会に胸を弾ませるアリーシャ。しかし、衝撃の事実が発覚する。
なんと、皇子は三つ子だった!
アリーシャの幼馴染の男の子も、三人の皇子が入れ替わって接していたと判明。
しかも病から復活した皇帝は、アリーシャを皇子の妃に迎えると言い出す。アリーシャと結婚した皇子に、次の皇帝の座を譲ると宣言した。
アリーシャは個性的な三つ子の皇子に愛されながら、誰と結婚するか決める事になってしまう。
一方、アリーシャを追放したルイン王国では暗雲が立ち込め始めていた……。
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――