田舎の元騎士団長はどタイプメイドに振り回される

れおぽん

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第3部_「右手に剣を。左手に血を」

第48話:沈黙の誓い

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 レティの葬儀は、王都の外れにある小さな墓地で、ひっそりと行われた。  参列者は少なかった。彼女の両親と、近所の常連客たち。そして、ミトスとアルベルトだけだ。

 国を救った英雄の妻の葬儀としては、あまりにも質素だった。  だが、それはアルベルトの強い希望だった。  国旗も、勲章も、弔砲もいらない。  彼女は「英雄の妻」として死んだのではない。ただの「レティ」として、俺の帰りを待ちわびて眠りについたのだから。

 墓石の前で、アルベルトはずっと立ち尽くしていた。  涙は枯れ果てていた。  あるのは、胸に空いた巨大な風穴と、後悔だけだった。

「……アルベルト」

 式が終わり、誰もいなくなった墓地で、ミトスが声をかけた。  彼女の目は赤く腫れていたが、その表情は憑き物が落ちたように静かだった。

「あの子から、貴方への伝言を預かっているわ」

 アルベルトの肩が、ピクリと震えた。  彼は恐ろしかった。  彼女が最期に何を思ったのか。恨み言か、嘆きか。  「どうして帰ってきてくれなかったの」と責められるのが、怖かった。

「……あの子は、言っていたわ」

 ミトスは、固く拳を握りしめ、喉まで出かかった「真実」を飲み込んだ。    



――『死にたくない』  
――『アルさんに会いたい』  
――『怖いよ、寂しいよ』


言ってはいけない。伝えてはいけない真実を心の奥底に沈める。もう破ることすらできない亡き友との約束を守るために。

「『幸せでした』って」

 ミトスは、精一杯の穏やかな声で告げた。

「『ごめんなさいは無しよ』。『貴方のおかげで、私の人生は最高に輝いていました』……そう言って、笑って逝ったわ」

 嘘だ。  半分は本当で、半分は残酷な嘘だ。  彼女は笑ってなどいなかった。涙で顔をぐしゃぐしゃにして、震えながら逝ったのだ。  けれど、ミトスはこの嘘を突き通した。  アルベルトを生かすために。彼を「妻を絶望の中で死なせた男」にしないために。

「……そうか」

 アルベルトは、崩れ落ちるように墓石に額を押し当てた。

「……馬鹿な奴だ。俺なんかのために……最後まで……」

 嗚咽が漏れる。  彼は、レティの最後の優しさに救われ、そして同時に、その優しさに一生縛られることになった。  俺は、こんなに愛されていたのに。彼女の期待に応えられなかった。  その罪悪感が、彼を永遠に「英雄」の座から引きずり下ろした。

 数日後。  アルベルトは、騎士団長の職を辞した。  王の慰留も、国民の嘆願も、すべて無視した。  彼は剣を置き、功績のすべてを放棄し、王都を去ることに決めた。

「……行くのね」

 城門の出口で、ミトスが見送りに来ていた。  アルベルトの荷物は少ない。背中の鞄と、首に巻かれた赤いチェックのマフラーだけだ。  不揃いな編み目のそのマフラーだけが、今の彼に残された全てだった。

「ああ。……どこか静かな場所で、何も持たずに。」 
「そう」

 ミトスは、引き止めなかった。  引き止める資格も、言葉も、もう持っていなかった。

「ミトス。……ありがとう」

 アルベルトは、穏やかだが光のない瞳で彼女を見た。

「お前がいてくれてよかった。……お前のおかげで、俺は最期まで彼女の夫でいられた」

 ミトスは、泣き笑いのような表情で首を横に振った。

「……よしてよ。私は、ただの彼女の友人よ」

 最後まで、言えなかった。  『私が貴方を支える』とも、『行かないで』とも。  彼女は、レティとの秘密を抱えたまま、彼を見送ることを選んだ。  彼女にとっての最大の愛情はそれしか許さなかった。

 アルベルトの背中が遠ざかっていく。  雪が舞う街道を、一人で歩いていく孤独な男。  ミトスは、その姿が見えなくなるまで、ずっと立ち尽くしていた。

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