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3話:陽キャと陰キャ

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 SL状態の石角だったが次第に冷静を保ち始める。柿渋の用意をするべく化学室にて冷凍保存した渋柿をもらいに行くのだが、そこでは陽キャの化学部員らがTNTを作っていた。

「陰キャの物理部が入ってきたよ。何のようだい?」

 顧問が言うと石角は大会の事諸々説明する。

 顧問の梓馬がいつも使っている冷凍庫を開けて探した。顧問は桃栗柿を育てるのが趣味で会社のデッキにはその3本が植えられている。

「これか…ここからは柿渋の作り方調べなきゃな…。それと同時並行に壊れにくい作りを探さないとね。今あの人は応援団の練習で大変だろうから参加は難しいが、あの人の知恵が必要かもな」

 ワイワイ騒ぐ化学室から出て物理室へ戻った石角は欅の指導の元、検証と研鑽をしていた。

「ねぇねぇ石角ー!化学部何しててうるさかったの?」

 喬林が問うと見た通りに石角は説明する。

 石角も疲れを隠していたが、部活と日々の勉強に疲れ始めて立ってるのがやっとだった。

「おい石角!疲れすぎだろ…部長だからって何もかも抱えすぎだ。一回休め!オレンジジュースあるから飲め飲め!」

 富林の勧めで石角は座ってオレンジジュースを紙コップに注いで様子を見ながら飲んだ。飲んだ数分後物理部のドアが開く。そこには軽装で足は砂だらけの女の子がいた。

「応援団の練習で長引いちゃった…。後輩の指導でちょっと遅れた。どこまで進んでる?」

 彼女こそ石角が待っていた副部長の鶴居言海。下原の友人で体育祭応援団演舞に所属している。天然な部分もあり、理解するまでの時間は人並みよりちょっとかかるがその分女子の中では理系科目No. 1という偉業を成し遂げている。下原と同じように空気読めない一言を話すところから下原二世と部員から言われている。

「鶴居!応援団の練習大変な中来てくれて申し訳ない。これを読んでくれれば分かるはずだから…」

 石角は手元にあった大会運営からの通達を見せる。それを読んだ鶴居は、動揺を隠しきれなかった。

「何このヤバさ…。条件多すぎでしょ。全校の物理部過労死するレベルだよ(笑)」

 鶴居はそう言いながらもすぐに的確な建築術を模索した。

 彼女の得意分野は見た目にこだわりながらも、目に見えないところの補強や欅のプログラミングを忠実に再現しながらどこか欠陥があったときにすぐ修理をする。石角はその技術に惚れて副部長に任命した。

「おー鶴っ!忙しいのによく来れたね!」

 下原が言うといつもの儀式が始まった。その儀式は、名前の呼び合いだ。流石は下原二世だ、と部員は呆れるどころかいつも通りの景色だなと感じている。

 物理部には光と影がはっきり分かれている。下原、鶴居、富林、寺野、湯田、前桜はみんなからも愛されるため、陽キャの集団である。対して、石角、欅、左右田、喬林、加賀木は自分から進んですることもなければ一部の人らにしか馴染めない事で陰キャの集団になる。石角は居ても立っても居られず、黙々と爪楊枝を加工しては柿渋の作り方を検索した。

「この後私、暇だけど下原暇?」

「もちろんだよ鶴居!喬林もそうだし、寺野、前桜、湯田も時間あるよな?後の作業そいつらに任せて街行こうぜ!」

 この2人が揃うと部屋の中で世界滅亡の序曲だと思わんばかりに騒がしい。そして、その後は見ての如く鶴居の一言で学校を後にした。

「あんな奴ら信用できんわ。USBメモリーも壊すし、静かに集中したいからそりゃ邪魔がいなくなってありがたいわ!欅君、左右田君、富林君、とりあえず作業を進めよう。アイツらいたら物理部は動物園だと間違えられる」

 部長の苦言に3人は心配した。

 欅は復旧したデータと爪楊枝を合わせながら慎重に土台を作り始めた。左右田はそれを見て、

「どうやってこれ計算したん?めちゃめちゃ土台しっかりしてるし…」

「これは、事前にノートパソコンを使ってプログラミングした。USBメモリーに入れて最初は石角君に渡してたけど石角君から湯田君に渡ったところで湯田君が壊しちゃった…」

 その事実に左右田はやれやれと言わんばかりな表情になった。

 見た目はあんなに可愛い美男子で卓球部の女子からもモテモテなのにこんな一面があると思われるとドン引きだろうなと左右田はそのように考える。

「湯田は本当にヤベェな。一度ハマるとこんなにも失敗するし、いつか爪楊枝をデコピンだけで割りそうだな。物理法則を無視してくるぞ…マジな方で」

 左右田のボヤキに石角は腹を抱えて大笑いした。

 石角と湯田は仲が良いように見えて実際はあまり良いとは言えない、何かがあるようにも見える。

「まぁそれは置いといて、どんな地震でも倒れない土台の建築術見つけたからこの方法使おうよ。京都の昔の建て方みたいだけど、どうかな?難しそうか…?」

 欅はその土台を見て、計算をし始めた。地震が来る時のP波、S波の速度とマグニチュードを7と仮定してノートパソコンへタイピングする。そして、その答えが出て欅は小さく笑顔を見せた。

 一度ゾーンにハマると欅の勢いを止めれる人は誰もいない。加賀木は怖くなったのか、そーっと部室から出てさよならも言わずに加賀木が通う塾へ向かった。

「いや早いな、おい…。始まったよ。計算ミスって部室内で暴走するなよ?」

 一方の陽キャ集団は、街で素敵なカフェにて彼らに大会準備を押し付けておきながら呑気にフラペチーノを飲みながらオンラインゲームをしていた。下原は鶴居と前桜にそのゲームの勧誘をしたが、2人は即答する。

「あ、いいです…」

「私、勉強と演舞の両立が前提で入ってるからそれしちゃったら多分物理部辞めさせられるかもしれないよ…」

 詳しく話すと前桜は外国への留学をする為に、鶴居は親の条件を理由に下原へ伝える。一口飲んで2人に約束の意を込めて答えた。

「分かった。2人のために俺と湯田、喬林で世界一位取ってくるわ!その勇姿見届けてくれよな!」

 2人は笑った。

 下原の隠れた特技は同じクラスメートや同期の女子を口説く事らしい。余計な一言ばかり言う一面は有るのにと思ったが湯田は、下原に余計な一言を放つ。

「下原君はそんなとこがあるから彼女も出来ないし、喬林さんからお金借りる時点で男の中ではクズ野郎って部類だね」

 下原は怒ったが、3人の女子は大笑い。

 欅、富林、左右田、石角はその間に土台などをきっちりと建てて今回のキーである柿渋を作り始めていた。
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