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14話:前桜の涙

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 大会までの日数は指で数えることが出来るほどの近さで、今まさに物理部は一つに団結されているような状態だ。

「残り9日…とても楽しみな分これで終わりなのか。散りゆく花びらのように終わるくらいなら最後まで抗い、勝つ!」

 石角は"優勝"の2文字を心の中で書き、気合を入れ直した。部長が弛んでいたら物理部失格だ、と言わんばかりに。授業が終わると前桜除く、大会参加希望の物理部員が入ってきた。石角は大演説を始めた。

「さて、今日を含めて大会まで残り9日です。今はやれる事をやって楽しみながら準備をしよう。その前に喬林さんと湯田君は大会の方おめでとう!鶴居さんからは何も聞いてないが表情見る限りだと負けたみたいだね…。それはともかく!まずは楽しむことが大事なので頑張っていこうぜ。優勝の2文字を目指して行くぞ」

 鶴居のバドミントンは、予選敗退したらしくあまり言葉を出さなかった。今は物理部の士気を上げないとダメなんだと思った。下原はそんな鶴居の横に座ってまた、いたずらしようと背中のツボを押した。

「痛っ!?こら、下原!ふざけるのも大概にしろよ。今、精神統一をしていたのに…下原貴様マジで許さん。覚悟してよね」
「笑うかなと思って…やべ怒ってる。逃げよ」

 下原は鶴居にセクハラするのは何度目だろうか?またもその背中付近にある下着を触り、親指を押し込んだ。鶴居は聞いたことのない声を上げて下原を追いかけた。数分後追いかけるのがめんどくさくなったのか、鶴居だけ帰ってきた。そして泣き崩れた。

「私だってバドミントン勝ちたかったよ!石角君と喬林さんに湯田君は本当に凄いしさ尊敬できるよ。だって両立できる人たちでもあるしさ、こんなにも部活に力注いでるのに何で勉強できるの?私本当に悔しい」
「そんな事はないよ鶴居さん!だって、体育祭の応援演舞は凄かったしさ感動したよ。普通、あんな動き出来ないからね。鶴居さんらしい所は努力家で何でも全力で取り組むこと、それが俺たち物理部の中では本当に強いよ!」

 石角は鶴居の涙を拭きながら彼女の素晴らしいところとその利点、悔しさを理解して慰めた。泣きじゃくる鶴居にちょっぴり石角は顔が赤くなり、彼女が可愛いと思ったようだ。

「あ、おい石角!前桜からテレビ電話しないか?って連絡きたぞ。今からプロジェクターに繋げて話せるようにするか?」
「前桜さんからか!よし、みんな作業一旦止めて前桜さんとリモートにはなるけど電話をしよう。何の用かは分からないけど話を聞こう」

 欅にきたテレビ電話の準備が進み、プロジェクターに繋げた後前桜に電話した。繋がったと思いきや、前桜の様子が変だった。少し泣いていたのかそれとも、伝えたいことが多すぎて泣いていたのか石角はその理由を自分なりに考えていた。

「あ、繋がったね。こっちはこんばんはってとこだけど日本だからこんにちは!もうすぐ大会だけどどう?」
「うん、うまく出来てるし俺たちはいつでも行ける状態だよ。それに、体育会系の部活で記録を残した人もいるよ。僕と湯田君と喬林さん!優勝、ベスト4、準優勝ってとこさ」

 石角の淡々とした説明に頷きながら聞き、前桜はおめでとうと言って自前のクラッカーを人数分鳴らした。しかし、鶴居の様子が変であることに前桜も気づき話しかけた。

「あれ、鶴居さん何で泣いてるの?ていうか誰が泣かせたのって言った方が良いのかな」
「前桜さん…下原にまたやられちゃった…。私の胸元触ってきた。もうお嫁に行けない…」

 嘘の報告をした鶴居は下原を落とそうと仕組んだ。しかし、返ってきた答えは前桜の苦しい状況の事だった。下原は逃げまくって元の物理室へ帰ってきた。

「鶴居さんにもみんなにも伝えるけど私も私でとても大変…。いろんな男性に触られて最初はとてもつらかった。こんなにボディタッチされるなんて思ってもなかった。触られて声を上げると、それを面白がられてすごく触られた。鶴居さん、下原にはガツンと言って良いから。私が許可する。だから…そんな変態野郎に負けないでよ!」
「分かった前桜さん!って下原いつの間に…?今から追いかけてしばき倒してくる。降参するまで私、諦めない!」

 この2人は元々応援団にも入っていて話がよく合うものだった。しかし、留学が決まった時点で応援団の練習へ行くことが出来なくなりその思いを鶴居に任せたという。前桜は泣きながら話したことに物理部総員はその気持ちにもらい泣きした。追いかけられる下原を追う鶴居、そして2人を追って寺野は走った。

「お前らはアメリカのアニメか?ほんっとうに面白すぎてツッコミようが無いわ。前桜さん、また何かあったら電話して欲しい。だから1人で抱え込むのはやめてよ!俺たち仲間だろ?夏に会ってみんなと話をしよう!」

 石角の約束に涙流しながら前桜は頷き通話は終了した。走り回ってる鶴居、下原、寺野は校長に捕まりこっ酷く怒られたらしい。石角はこんなメンツで優勝出来るのか、心配になった。そして、下原のスケべ心をどうにかしないといけないと別の課題が出た。
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