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(…………ききき、聞こえてる? 本当に? 空耳じゃなくて、私の脳内垂れ流し放送が、このイケメン領主様に筒抜けだって言うの!?)
私は口に咥えていたパンを、リスのようにモゴモゴと動かしながら、驚愕のあまり椅子から転げ落ちそうになった。
もし、もしそれが事実だとしたら。
私が今まで彼に対して抱いていた「不法侵入イケメン」だの「顔が良すぎてムカつく」だの「ベーコンの焼き加減が神」だのといった全ての思考が。
(……待って。昨日の『てへっ』とか『おもてなしの教科書』とか、あの辺も全部!? 死ぬ! 恥ずかしすぎて今すぐマントルまで穴を掘って埋まりたい!)
私の内面が、爆発した火山のようにパニックを起こしているその瞬間。
目の前のカイルは、優雅にコーヒーを啜りながら、さも当然のように頷いた。
「ああ、全部聞こえているよ。ちなみに今は、『マントルまで穴を掘りたい』と思っているね。残念だが、この屋敷の地下は硬い岩盤だから、魔法を使わないと難しいんじゃないかな」
「……っ!?」
私は勢いよく立ち上がった。
椅子がガタンと大きな音を立てて倒れる。
あまりの衝撃と羞恥心に、私の表情筋は過去最高の「怒り」と「殺意」を生成してしまった。
今、私の顔は「全世界の生物を苦痛に悶えさせながら絶滅させることを決意した邪神」のようになっているはずだ。
「……ひ、卑怯、者」
(「人の心を見るなんて、プライバシーの侵害です! 最低です! 今すぐ忘れてください!」って言いたい!)
「卑怯と言われても困るな。これは僕の体質なんだ。隣国の『魔導公爵家』の血筋には稀に現れる特性でね……強い魔力を持つ者の『心の叫び』は、望まずとも耳に入ってきてしまうんだよ」
カイルは少しだけ、寂しげな苦笑いを浮かべた。
「普通の人間は、外面では良いことを言っていても、心の中では欲望や嫉妬でドロドロしている。……正直に言えば、他人の心なんて、聞いても不快なことの方が多いんだ」
(……あ。そっか。他人の本音が聞こえちゃうのって、辛いことなのかもしれない。私だって、ラーナの『お姉様を嵌めてやる』なんて本音が聞こえたら、ショックで寝込んじゃうもん)
私は、少しだけカイルに対して同情の念を抱いた。
しかし、カイルはすぐに私の顔を覗き込んで、また楽しそうに目を細めた。
「でも、君は違う。君の心は……なんだろうな、ものすごく『うるさい』けれど、驚くほど真っ白だ。言いたいことが山ほどあるのに、一言も出せずに、中で叫んでいる。そのギャップが、僕にはたまらなく面白くて、そして心地良いんだ」
(……心地良い!? 私のこの、まとまりのない支離滅裂な思考が!? 変人だ! この人、顔が良いだけの変質者だわ!)
「変質者扱いは心外だな。……だが、ルミール。君が無理に喋る必要はないと分かって、少しは安心したんじゃないかい?」
(……っ。それは、そうだけど。でも、やっぱり恥ずかしいよ。思考は自由であるべきだもん。私の脳内は私だけの聖域なんだから!)
私は腕を組んで、ぷいっと顔を背けた。
しかし、私の「ぷいっ」という動作は、外見上は「貴様の存在そのものをこの世から抹消するための呪文を構成中である」という冷酷な合図に見えたらしい。
「ははは、そう怒らないでくれ。君の『聖域』の内容を、他人に言いふらしたりはしないよ。これは僕と君だけの、特別な秘密だ」
(秘密……。なんだか、悪い響きじゃないけど。でも、これからもずっと私の心を読み続けるつもりなの?)
「もちろん。君がこの領地にいる限り、僕は君の『声』を聞きに来るよ。……さあ、冷めないうちにそのパンを食べなさい。心の中では『お腹空いた、早く食べたい』って大騒ぎしているよ」
(う、うるさーーーーい! もう、分かったよ! 好きにすればいいよ! どうせ私の口からは『……っ』しか出ないんだから!)
私はヤケクソになって、パンを大きく千切って口に放り込んだ。
(……おいしい。やっぱりカイル様の持ってくる食材は最高。悔しいけど、胃袋を完全に掌握されてる……!)
「それは光栄だ。明日はもっと美味しいチーズを持ってこよう」
(……聞こえてるって分かってると、心の中で喋るのも勇気がいるなぁ。あ、そうだ。一個だけ聞きたいことがあるんだけど。心の中で言えば伝わるんだよね?)
私は、鋭い眼光(本人は上目遣いのつもり)でカイルを見つめた。
(……私の名前のこと。王都の『氷の悪女』の噂で知ったって言ってたけど……本当は、どうなの? 本当の私のこと、どこまで知ってるの?)
カイルは、私の視線を真っ向から受け止めた。
彼の瞳が、真剣な光を帯びる。
「……ルミール。僕は、君が妹に陥れられ、婚約破棄されたことも、全て知っている。……そして、君がどれほど不器用で、どれほど優しい心を持っているかも、最初から知っていたよ」
(……え?)
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
(最初から……? 会ったこともなかったのに? どういうこと?)
「それは……追々話すよ。今は、この平穏な朝食を楽しもうじゃないか」
カイルはそれ以上語ろうとはせず、ただ優しく私を見つめ返した。
(……な、なに。なんなのこの雰囲気。心臓がうるさい。これ、絶対にカイル様にも聞こえてるよね!? 恥ずかしい! 爆発する! 私が爆発する前に、この場をなんとかしなきゃ!)
私は真っ赤になった顔(外見上は、怒髪天を衝く憤怒の表情)を隠すように、最後のお茶を一気に飲み干した。
二人の間の、言葉のない「お喋り」は。
朝日が差し込むテラスで、どこまでも賑やかに続いていくのだった。
私は口に咥えていたパンを、リスのようにモゴモゴと動かしながら、驚愕のあまり椅子から転げ落ちそうになった。
もし、もしそれが事実だとしたら。
私が今まで彼に対して抱いていた「不法侵入イケメン」だの「顔が良すぎてムカつく」だの「ベーコンの焼き加減が神」だのといった全ての思考が。
(……待って。昨日の『てへっ』とか『おもてなしの教科書』とか、あの辺も全部!? 死ぬ! 恥ずかしすぎて今すぐマントルまで穴を掘って埋まりたい!)
私の内面が、爆発した火山のようにパニックを起こしているその瞬間。
目の前のカイルは、優雅にコーヒーを啜りながら、さも当然のように頷いた。
「ああ、全部聞こえているよ。ちなみに今は、『マントルまで穴を掘りたい』と思っているね。残念だが、この屋敷の地下は硬い岩盤だから、魔法を使わないと難しいんじゃないかな」
「……っ!?」
私は勢いよく立ち上がった。
椅子がガタンと大きな音を立てて倒れる。
あまりの衝撃と羞恥心に、私の表情筋は過去最高の「怒り」と「殺意」を生成してしまった。
今、私の顔は「全世界の生物を苦痛に悶えさせながら絶滅させることを決意した邪神」のようになっているはずだ。
「……ひ、卑怯、者」
(「人の心を見るなんて、プライバシーの侵害です! 最低です! 今すぐ忘れてください!」って言いたい!)
「卑怯と言われても困るな。これは僕の体質なんだ。隣国の『魔導公爵家』の血筋には稀に現れる特性でね……強い魔力を持つ者の『心の叫び』は、望まずとも耳に入ってきてしまうんだよ」
カイルは少しだけ、寂しげな苦笑いを浮かべた。
「普通の人間は、外面では良いことを言っていても、心の中では欲望や嫉妬でドロドロしている。……正直に言えば、他人の心なんて、聞いても不快なことの方が多いんだ」
(……あ。そっか。他人の本音が聞こえちゃうのって、辛いことなのかもしれない。私だって、ラーナの『お姉様を嵌めてやる』なんて本音が聞こえたら、ショックで寝込んじゃうもん)
私は、少しだけカイルに対して同情の念を抱いた。
しかし、カイルはすぐに私の顔を覗き込んで、また楽しそうに目を細めた。
「でも、君は違う。君の心は……なんだろうな、ものすごく『うるさい』けれど、驚くほど真っ白だ。言いたいことが山ほどあるのに、一言も出せずに、中で叫んでいる。そのギャップが、僕にはたまらなく面白くて、そして心地良いんだ」
(……心地良い!? 私のこの、まとまりのない支離滅裂な思考が!? 変人だ! この人、顔が良いだけの変質者だわ!)
「変質者扱いは心外だな。……だが、ルミール。君が無理に喋る必要はないと分かって、少しは安心したんじゃないかい?」
(……っ。それは、そうだけど。でも、やっぱり恥ずかしいよ。思考は自由であるべきだもん。私の脳内は私だけの聖域なんだから!)
私は腕を組んで、ぷいっと顔を背けた。
しかし、私の「ぷいっ」という動作は、外見上は「貴様の存在そのものをこの世から抹消するための呪文を構成中である」という冷酷な合図に見えたらしい。
「ははは、そう怒らないでくれ。君の『聖域』の内容を、他人に言いふらしたりはしないよ。これは僕と君だけの、特別な秘密だ」
(秘密……。なんだか、悪い響きじゃないけど。でも、これからもずっと私の心を読み続けるつもりなの?)
「もちろん。君がこの領地にいる限り、僕は君の『声』を聞きに来るよ。……さあ、冷めないうちにそのパンを食べなさい。心の中では『お腹空いた、早く食べたい』って大騒ぎしているよ」
(う、うるさーーーーい! もう、分かったよ! 好きにすればいいよ! どうせ私の口からは『……っ』しか出ないんだから!)
私はヤケクソになって、パンを大きく千切って口に放り込んだ。
(……おいしい。やっぱりカイル様の持ってくる食材は最高。悔しいけど、胃袋を完全に掌握されてる……!)
「それは光栄だ。明日はもっと美味しいチーズを持ってこよう」
(……聞こえてるって分かってると、心の中で喋るのも勇気がいるなぁ。あ、そうだ。一個だけ聞きたいことがあるんだけど。心の中で言えば伝わるんだよね?)
私は、鋭い眼光(本人は上目遣いのつもり)でカイルを見つめた。
(……私の名前のこと。王都の『氷の悪女』の噂で知ったって言ってたけど……本当は、どうなの? 本当の私のこと、どこまで知ってるの?)
カイルは、私の視線を真っ向から受け止めた。
彼の瞳が、真剣な光を帯びる。
「……ルミール。僕は、君が妹に陥れられ、婚約破棄されたことも、全て知っている。……そして、君がどれほど不器用で、どれほど優しい心を持っているかも、最初から知っていたよ」
(……え?)
心臓が、ドクンと大きく跳ねた。
(最初から……? 会ったこともなかったのに? どういうこと?)
「それは……追々話すよ。今は、この平穏な朝食を楽しもうじゃないか」
カイルはそれ以上語ろうとはせず、ただ優しく私を見つめ返した。
(……な、なに。なんなのこの雰囲気。心臓がうるさい。これ、絶対にカイル様にも聞こえてるよね!? 恥ずかしい! 爆発する! 私が爆発する前に、この場をなんとかしなきゃ!)
私は真っ赤になった顔(外見上は、怒髪天を衝く憤怒の表情)を隠すように、最後のお茶を一気に飲み干した。
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