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「……セバス。この、禍々しい金縁の封筒は何かしら。見るだけで肩が凝り、睡眠の質が下がりそうだわ」
私は、リリアンと「どちらがより長く、瞬きをせずに虚空を見つめられるか」という高度な精神修行(という名の暇つぶし)をしていた。
セバスが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、王家の紋章が刻印された招待状だった。
「お嬢様。国王陛下より、『生存確認パーティー』への招待……いえ、召喚状でございます」
「せいぞんかくにん……? パーティーの名前にしては、あまりに情緒が欠如していませんこと?」
リリアンが横から首を突っ込む。彼女の口元には、先ほど食べたドーナツの砂糖がついている。
「『我が国の至宝、ディアナ令嬢の容態を全国民が憂慮している。その健在を一度だけでいいから示せ。さもなくば、王宮の全魔導師を総動員して公爵邸の屋根を吹き飛ばし、強制的に診察を行う』……とのことです」
「……。陛下、意外と過激派ね」
私は深いため息をついた。屋根を吹き飛ばされては、雨の日に昼寝ができなくなってしまう。
そこへ、執務机を抱えたままのカイルが(もはや移動オフィスと化している)、氷点下の眼差しで現れた。
「……ディアナ。もはや限界だ。王都の物価が、君の『病状』への不安から乱高下している。君が死ぬと思っている連中が、葬儀用の黒い布を買い占めて市場がパニックだ」
「あら、経済を動かす女なんて、悪役令嬢冥利に尽きるわね」
「冗談ではない。おかげで私の仕事は、通常の五倍に増えた。……いいか、このパーティーに一度だけ出席して、『私は生きている、だから黒い布を売れ』と言ってこい」
「嫌よ。ドレスを着るなんて、今の私には鉄の枷をはめられるようなものだわ。リリアン、あなたからも言ってやって」
リリアンは、ドーナツを飲み込むと、キリッとした表情でカイルに向き直った。
「カイル様! お師匠様を外に出すなんて、あまりに酷ですわ! 彼女は今、『重度の布団依存症』という不治の病と戦っているんですのよ!?」
「……。それを世間では『怠慢』と呼ぶんだ。リリアン様、あなたもセットで出席です。あなたのご両親から、『娘が公爵邸で洗脳されている』という抗議文が、毎日矢文で届いているんですよ」
「矢文!? お父様、相変わらずアナログな攻撃を……」
カイルは私の枕元に、分厚い当日のスケジュール表を置いた。
「逃げ場はないぞ、ディアナ。拒否すれば、公爵邸に騎士団が突入する。……私も流石に、それを止める正当な理由が見つからない」
「……。わかったわ。そこまで言うなら、出てあげようじゃない」
私は不敵な笑みを浮かべ、クッションを力一杯握りしめた。
「ただし、私は『病死寸前』の令嬢なのよ? 華やかなドレスで着飾って、元気にダンスを踊るなんて、整合性が取れないわ」
「……。何か企んでいるな?」
「ええ。社交界の歴史に刻んであげるわ。……『世界で最もやる気のない生存確認』というものをね」
「お師匠様! 私もついていきますわ! 私、ボロボロのシーツを纏って、背後霊の役をやります!」
「いいわね、リリアン。その発想、天才的よ」
カイルが眼鏡を外し、そっと目元を覆った。
「……。セバス。当日は、気付け薬と……私の分の胃薬を、大量に用意しておけ」
「畏まりました、カイル様。最高の悲喜劇を特等席で拝見させていただきます」
こうして、私は一ヶ月ぶりに「外の世界」へ足を踏み出すことになった。
狙うは、二度とお呼びがかからないほどの「不健康な生存確認」。
私の定休日を守るための、最後(であってほしい)の決戦が始まろうとしていた。
私は、リリアンと「どちらがより長く、瞬きをせずに虚空を見つめられるか」という高度な精神修行(という名の暇つぶし)をしていた。
セバスが銀のトレイに乗せて持ってきたのは、王家の紋章が刻印された招待状だった。
「お嬢様。国王陛下より、『生存確認パーティー』への招待……いえ、召喚状でございます」
「せいぞんかくにん……? パーティーの名前にしては、あまりに情緒が欠如していませんこと?」
リリアンが横から首を突っ込む。彼女の口元には、先ほど食べたドーナツの砂糖がついている。
「『我が国の至宝、ディアナ令嬢の容態を全国民が憂慮している。その健在を一度だけでいいから示せ。さもなくば、王宮の全魔導師を総動員して公爵邸の屋根を吹き飛ばし、強制的に診察を行う』……とのことです」
「……。陛下、意外と過激派ね」
私は深いため息をついた。屋根を吹き飛ばされては、雨の日に昼寝ができなくなってしまう。
そこへ、執務机を抱えたままのカイルが(もはや移動オフィスと化している)、氷点下の眼差しで現れた。
「……ディアナ。もはや限界だ。王都の物価が、君の『病状』への不安から乱高下している。君が死ぬと思っている連中が、葬儀用の黒い布を買い占めて市場がパニックだ」
「あら、経済を動かす女なんて、悪役令嬢冥利に尽きるわね」
「冗談ではない。おかげで私の仕事は、通常の五倍に増えた。……いいか、このパーティーに一度だけ出席して、『私は生きている、だから黒い布を売れ』と言ってこい」
「嫌よ。ドレスを着るなんて、今の私には鉄の枷をはめられるようなものだわ。リリアン、あなたからも言ってやって」
リリアンは、ドーナツを飲み込むと、キリッとした表情でカイルに向き直った。
「カイル様! お師匠様を外に出すなんて、あまりに酷ですわ! 彼女は今、『重度の布団依存症』という不治の病と戦っているんですのよ!?」
「……。それを世間では『怠慢』と呼ぶんだ。リリアン様、あなたもセットで出席です。あなたのご両親から、『娘が公爵邸で洗脳されている』という抗議文が、毎日矢文で届いているんですよ」
「矢文!? お父様、相変わらずアナログな攻撃を……」
カイルは私の枕元に、分厚い当日のスケジュール表を置いた。
「逃げ場はないぞ、ディアナ。拒否すれば、公爵邸に騎士団が突入する。……私も流石に、それを止める正当な理由が見つからない」
「……。わかったわ。そこまで言うなら、出てあげようじゃない」
私は不敵な笑みを浮かべ、クッションを力一杯握りしめた。
「ただし、私は『病死寸前』の令嬢なのよ? 華やかなドレスで着飾って、元気にダンスを踊るなんて、整合性が取れないわ」
「……。何か企んでいるな?」
「ええ。社交界の歴史に刻んであげるわ。……『世界で最もやる気のない生存確認』というものをね」
「お師匠様! 私もついていきますわ! 私、ボロボロのシーツを纏って、背後霊の役をやります!」
「いいわね、リリアン。その発想、天才的よ」
カイルが眼鏡を外し、そっと目元を覆った。
「……。セバス。当日は、気付け薬と……私の分の胃薬を、大量に用意しておけ」
「畏まりました、カイル様。最高の悲喜劇を特等席で拝見させていただきます」
こうして、私は一ヶ月ぶりに「外の世界」へ足を踏み出すことになった。
狙うは、二度とお呼びがかからないほどの「不健康な生存確認」。
私の定休日を守るための、最後(であってほしい)の決戦が始まろうとしていた。
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