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翌朝。カーテンの隙間から差し込む暴力的な日差しが、私の瞼(まぶた)を突き抜けた。
「……んぅ……リリアーナ、重いですわよ……どいて頂戴……」
「むにゃ……。お姉様こそ、私の足を枕にするのは……やめてくださいませ……」
私とリリアーナは、広大なキングサイズのベッドの上で、お互いに絡まり合うようにして泥のように眠っていた。
昨夜、脱走劇の興奮とゼクスの夜食で胃を満たした私たちは、語り合う間もなく爆睡してしまったのだ。
「……いつまで寝ている。お前たち、レディとしての自覚をどこに捨ててきた」
聞き覚えのある、低くて不機嫌そうな声。
私は、目を開ける前になんとか指先だけで「帰れ」のポーズを繰り出した。
「……ゼクス様……。レディの……聖域に……許可なく入るなんて……もう三回くらい死刑ですわよ……」
「あいにく、ここは私の監視区域だ。それに、入り口の扉を全開にして寝ていたのは君たちだろう。不用心すぎる」
ドカドカという軍靴の音が近づき、私の頭を覆っていた毛布が豪快に剥ぎ取られた。
「「ひゃうん!?」」
私とリリアーナは、魚が跳ねるような動きで同時に起き上がった。
二人とも髪は爆発し、リリアーナに至っては口角に昨夜の蜂蜜の跡がうっすら残っている。
「……ひどい有様だな」
ゼクスは、腕を組んで冷ややかな視線を私たちに投げかけていた。
「……ぜ、ゼクス様。見てはいけませんわ! 今の私たちは、呪いで姿を変えられた魔物のようなものですのよ!」
「お姉様! 今の私を見たら、王宮の支持率がゼロになってしまいますわ!」
リリアーナは慌てて自分の顔を両手で覆い、指の間からゼクスを覗き見た。
「安心しろ。支持率どころか、私の君たちに対する評価は既にマイナス圏内だ。……それより、リリアーナ嬢。王宮から連絡があったぞ」
その言葉に、部屋の空気が一気に凍りついた。
「……やっぱり、バレましたのね。ヴィルフレド殿下、怒っていましたかしら?」
「いや。殿下は『リリアーナは僕の歌声に感動しすぎて、聖地巡礼の旅に出たに違いない。さすが僕のフィアンセ候補だ!』と、鏡に向かって満足げに頷いていたそうだ」
「「…………」」
私とリリアーナは、顔を見合わせた。
「……あの馬鹿、どこまで自分に都合のいい脳みそをしているんですの?」
「お姉様……。私、あの方のポジティブさだけは尊敬に値すると思いますわ……」
「おかげで捜索隊はまだ組織されていない。だが、側近の何人かは君がここにいると踏んでいる。いつ公式な使者が来てもおかしくない状況だ」
ゼクスは椅子をこちらに向け、ドカッと座り込んだ。
「……リリアーナ嬢。君、本気で殿下との婚約を避けるつもりか? 相手は次期国王だぞ」
リリアーナは、シーツをギュッと握りしめ、それまでのふざけた態度を捨てて真剣な顔になった。
「ゼクス様。あの方は悪い人ではありませんわ。でも、あの方の隣にいたら、私は一生『王子の瞳に映る美しい人形』で終わってしまいます。私は、お姉様と美味しいものを食べて、笑って、自分の足で歩きたいんです」
リリアーナの告白に、私は胸が熱くなるのを感じた。
「……聞いたかしら、ゼクス様。これが、この可憐なヒロインの本音ですわ! さあ、騎士なら今すぐ跪いて、私たちの自由のために剣を捧げなさいな!」
私は調子に乗って、ベッドの上で立ち上がり、指を差して命じた。
「……断る。私は王命でここにいる」
「堅物ですわね!!」
「だが」
ゼクスは、少しだけ視線を逸らし、首筋を掻いた。
「……使者が来ても、『リリアーナ嬢など見ていない。メリー嬢が狂ったように草をむしり続けているだけだ』と報告してやるくらいなら、やぶさかではない」
「「……!」」
私は、思わずリリアーナとハイタッチ……をしようとして、ゼクスの鋭い視線に気づいて手を止めた。
「……ハイタッチはやめろ。あれを見ると、なぜか私の眉間が痛む」
「厳しいですわね。……でも、ありがとうございます、ゼクス様」
リリアーナが満面の笑みを浮かべると、ゼクスは露骨に顔を赤くして立ち上がった。
「……勘違いするな。私は朝食の準備に行く。リリアーナ嬢、君は蜂蜜よりバターだと言っていたな。……メリー、君はシナモン多めだ。……早く着替えてこい」
ゼクスが足早に部屋を出ていく。
リリアーナは、私の腕をツンツンと突いた。
「お姉様……見ました? あの堅物様、私じゃなくてお姉様の好みを先に言いましたわよ」
「……気のせいですわ。さあ、着替えるわよ! 自由の朝は忙しいんですから!」
私は、熱くなった頬を隠すように、クローゼットへと駆け込んだ。
「……んぅ……リリアーナ、重いですわよ……どいて頂戴……」
「むにゃ……。お姉様こそ、私の足を枕にするのは……やめてくださいませ……」
私とリリアーナは、広大なキングサイズのベッドの上で、お互いに絡まり合うようにして泥のように眠っていた。
昨夜、脱走劇の興奮とゼクスの夜食で胃を満たした私たちは、語り合う間もなく爆睡してしまったのだ。
「……いつまで寝ている。お前たち、レディとしての自覚をどこに捨ててきた」
聞き覚えのある、低くて不機嫌そうな声。
私は、目を開ける前になんとか指先だけで「帰れ」のポーズを繰り出した。
「……ゼクス様……。レディの……聖域に……許可なく入るなんて……もう三回くらい死刑ですわよ……」
「あいにく、ここは私の監視区域だ。それに、入り口の扉を全開にして寝ていたのは君たちだろう。不用心すぎる」
ドカドカという軍靴の音が近づき、私の頭を覆っていた毛布が豪快に剥ぎ取られた。
「「ひゃうん!?」」
私とリリアーナは、魚が跳ねるような動きで同時に起き上がった。
二人とも髪は爆発し、リリアーナに至っては口角に昨夜の蜂蜜の跡がうっすら残っている。
「……ひどい有様だな」
ゼクスは、腕を組んで冷ややかな視線を私たちに投げかけていた。
「……ぜ、ゼクス様。見てはいけませんわ! 今の私たちは、呪いで姿を変えられた魔物のようなものですのよ!」
「お姉様! 今の私を見たら、王宮の支持率がゼロになってしまいますわ!」
リリアーナは慌てて自分の顔を両手で覆い、指の間からゼクスを覗き見た。
「安心しろ。支持率どころか、私の君たちに対する評価は既にマイナス圏内だ。……それより、リリアーナ嬢。王宮から連絡があったぞ」
その言葉に、部屋の空気が一気に凍りついた。
「……やっぱり、バレましたのね。ヴィルフレド殿下、怒っていましたかしら?」
「いや。殿下は『リリアーナは僕の歌声に感動しすぎて、聖地巡礼の旅に出たに違いない。さすが僕のフィアンセ候補だ!』と、鏡に向かって満足げに頷いていたそうだ」
「「…………」」
私とリリアーナは、顔を見合わせた。
「……あの馬鹿、どこまで自分に都合のいい脳みそをしているんですの?」
「お姉様……。私、あの方のポジティブさだけは尊敬に値すると思いますわ……」
「おかげで捜索隊はまだ組織されていない。だが、側近の何人かは君がここにいると踏んでいる。いつ公式な使者が来てもおかしくない状況だ」
ゼクスは椅子をこちらに向け、ドカッと座り込んだ。
「……リリアーナ嬢。君、本気で殿下との婚約を避けるつもりか? 相手は次期国王だぞ」
リリアーナは、シーツをギュッと握りしめ、それまでのふざけた態度を捨てて真剣な顔になった。
「ゼクス様。あの方は悪い人ではありませんわ。でも、あの方の隣にいたら、私は一生『王子の瞳に映る美しい人形』で終わってしまいます。私は、お姉様と美味しいものを食べて、笑って、自分の足で歩きたいんです」
リリアーナの告白に、私は胸が熱くなるのを感じた。
「……聞いたかしら、ゼクス様。これが、この可憐なヒロインの本音ですわ! さあ、騎士なら今すぐ跪いて、私たちの自由のために剣を捧げなさいな!」
私は調子に乗って、ベッドの上で立ち上がり、指を差して命じた。
「……断る。私は王命でここにいる」
「堅物ですわね!!」
「だが」
ゼクスは、少しだけ視線を逸らし、首筋を掻いた。
「……使者が来ても、『リリアーナ嬢など見ていない。メリー嬢が狂ったように草をむしり続けているだけだ』と報告してやるくらいなら、やぶさかではない」
「「……!」」
私は、思わずリリアーナとハイタッチ……をしようとして、ゼクスの鋭い視線に気づいて手を止めた。
「……ハイタッチはやめろ。あれを見ると、なぜか私の眉間が痛む」
「厳しいですわね。……でも、ありがとうございます、ゼクス様」
リリアーナが満面の笑みを浮かべると、ゼクスは露骨に顔を赤くして立ち上がった。
「……勘違いするな。私は朝食の準備に行く。リリアーナ嬢、君は蜂蜜よりバターだと言っていたな。……メリー、君はシナモン多めだ。……早く着替えてこい」
ゼクスが足早に部屋を出ていく。
リリアーナは、私の腕をツンツンと突いた。
「お姉様……見ました? あの堅物様、私じゃなくてお姉様の好みを先に言いましたわよ」
「……気のせいですわ。さあ、着替えるわよ! 自由の朝は忙しいんですから!」
私は、熱くなった頬を隠すように、クローゼットへと駆け込んだ。
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