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別荘の居間。そこには、およそ貴族の邸宅とは思えないシュールな光景が広がっていた。
豪華なソファに並んで座る、クマの仮面を被った女(私)と、キツネの仮面を被った女(リリアーナ)。
その正面で、腕を組み、仁王立ちで二人を見下ろす騎士ゼクス。
「……まず、そのふざけた被り物を脱げ。話はそれからだ」
「嫌ですわ。今さら素顔を見せるなんて、恥ずかしくて死んでしまいますもの。私は一生、このクマとして生きていく覚悟ですわ」
私は、クマの仮面の奥からくぐもった声で抵抗した。
「私もですわ。キツネこそが私の真の姿……。コンコン、ですわよ」
リリアーナが力なくキツネの手真似をする。
「脱げと言っている。……三秒待つ。三、二……」
「「脱ぎますわよ!!」」
私たちは、ゼクスの「一」を聞く前に、弾かれたように仮面を脱ぎ捨てた。
露わになった私たちの顔は、汗と恥ずかしさで真っ赤に染まっている。おまけにリリアーナの頬には、揚げパンの砂糖が白く付着していた。
ゼクスは深く、本日何度目か分からない、魂が抜けるような溜息を吐いた。
「……あれほど『出るな』と言ったはずだ。もし街で王宮の刺客に見つかっていたらどうするつもりだった?」
「だって、ゼクス様。あんたが買い物に行ったっきり、ちっとも帰ってこないんですもの。私たちは退屈で、飢え死にしそうだったのですわ!」
「買い出しに出てからまだ二時間も経っていない。……リリアーナ嬢、君もだ。君は『衰弱して動けない』という設定はどうした」
「……あ、あれは、その……。お姉様が『リリアーナ、外には王宮では味わえない、油ギトギトの魔法の食べ物があるのよ』って誘惑したせいですわ! 私は被害者ですの!」
「リリアーナ!? あんた、今さら私を売るんですの!?」
「親友(ズッ友)だからこそ、お姉様の罪を背負わせて立ち直らせてあげたいのですわ!」
「いい性格してるわね、このヒロイン!」
私たちが言い争い始めると、ゼクスがテーブルを「ドンッ」と拳で叩いた。
静まり返る居間。ゼクスの冷徹な瞳が、私たちを射抜く。
「……二人とも、今の自分たちの立場を忘れるな。ここは戦場ではないが、君たちが『自由』を勝ち取るための潜伏期間中だ。その自覚がないなら、今すぐ王宮に突き返してやる」
突き返される。その言葉に、私とリリアーナは同時に震え上がった。
あのナルシスト王子の隣で、一生ポエムを聞かされる生活に戻るくらいなら、一生ここで草をむしっている方がマシだ。
「……ごめんなさい。調子に乗りましたわ」
「……私も、反省しておりますわ。揚げパンの誘惑に負けた自分を恥じます」
私たちが揃って頭を下げると、ゼクスの威圧感が少しだけ和らいだ。
「……分かればいい。……だが、無断外出の罰は受けてもらう」
「えっ、また草むしりですの!? もう抜く草がありませんわよ!」
「いや。今日は私が買ってきた食材の下ごしらえを手伝え。マーサ一人では時間がかかる」
「……私たちが、料理を?」
私は耳を疑った。貴族令嬢が包丁を握るなんて、スキャンダル以外の何物でもない。
「そうだ。自分たちで食うものくらい、自分で作れるようになれ。それが『自由』への第一歩だ」
ゼクスはそう言い捨てると、キッチンへと向かった。
「……ねえ、お姉様。今のゼクス様、ちょっと格好良くありませんでした?」
リリアーナが、砂糖のついた頬を緩ませて囁く。
「……うるさいわね。ただの料理好きの小言よ」
私はそう答えながらも、ゼクスの広い背中を見送った。
自由への道。それは、ドレスを脱ぎ捨て、包丁を握ることから始まるのかもしれない。
私たちは、顔を見合わせ、再び小さくハイタッチを交わした。もちろん、ゼクスに見つからないように、音を立てずに。
豪華なソファに並んで座る、クマの仮面を被った女(私)と、キツネの仮面を被った女(リリアーナ)。
その正面で、腕を組み、仁王立ちで二人を見下ろす騎士ゼクス。
「……まず、そのふざけた被り物を脱げ。話はそれからだ」
「嫌ですわ。今さら素顔を見せるなんて、恥ずかしくて死んでしまいますもの。私は一生、このクマとして生きていく覚悟ですわ」
私は、クマの仮面の奥からくぐもった声で抵抗した。
「私もですわ。キツネこそが私の真の姿……。コンコン、ですわよ」
リリアーナが力なくキツネの手真似をする。
「脱げと言っている。……三秒待つ。三、二……」
「「脱ぎますわよ!!」」
私たちは、ゼクスの「一」を聞く前に、弾かれたように仮面を脱ぎ捨てた。
露わになった私たちの顔は、汗と恥ずかしさで真っ赤に染まっている。おまけにリリアーナの頬には、揚げパンの砂糖が白く付着していた。
ゼクスは深く、本日何度目か分からない、魂が抜けるような溜息を吐いた。
「……あれほど『出るな』と言ったはずだ。もし街で王宮の刺客に見つかっていたらどうするつもりだった?」
「だって、ゼクス様。あんたが買い物に行ったっきり、ちっとも帰ってこないんですもの。私たちは退屈で、飢え死にしそうだったのですわ!」
「買い出しに出てからまだ二時間も経っていない。……リリアーナ嬢、君もだ。君は『衰弱して動けない』という設定はどうした」
「……あ、あれは、その……。お姉様が『リリアーナ、外には王宮では味わえない、油ギトギトの魔法の食べ物があるのよ』って誘惑したせいですわ! 私は被害者ですの!」
「リリアーナ!? あんた、今さら私を売るんですの!?」
「親友(ズッ友)だからこそ、お姉様の罪を背負わせて立ち直らせてあげたいのですわ!」
「いい性格してるわね、このヒロイン!」
私たちが言い争い始めると、ゼクスがテーブルを「ドンッ」と拳で叩いた。
静まり返る居間。ゼクスの冷徹な瞳が、私たちを射抜く。
「……二人とも、今の自分たちの立場を忘れるな。ここは戦場ではないが、君たちが『自由』を勝ち取るための潜伏期間中だ。その自覚がないなら、今すぐ王宮に突き返してやる」
突き返される。その言葉に、私とリリアーナは同時に震え上がった。
あのナルシスト王子の隣で、一生ポエムを聞かされる生活に戻るくらいなら、一生ここで草をむしっている方がマシだ。
「……ごめんなさい。調子に乗りましたわ」
「……私も、反省しておりますわ。揚げパンの誘惑に負けた自分を恥じます」
私たちが揃って頭を下げると、ゼクスの威圧感が少しだけ和らいだ。
「……分かればいい。……だが、無断外出の罰は受けてもらう」
「えっ、また草むしりですの!? もう抜く草がありませんわよ!」
「いや。今日は私が買ってきた食材の下ごしらえを手伝え。マーサ一人では時間がかかる」
「……私たちが、料理を?」
私は耳を疑った。貴族令嬢が包丁を握るなんて、スキャンダル以外の何物でもない。
「そうだ。自分たちで食うものくらい、自分で作れるようになれ。それが『自由』への第一歩だ」
ゼクスはそう言い捨てると、キッチンへと向かった。
「……ねえ、お姉様。今のゼクス様、ちょっと格好良くありませんでした?」
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「……うるさいわね。ただの料理好きの小言よ」
私はそう答えながらも、ゼクスの広い背中を見送った。
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