婚約破棄を受け入れたら溺愛ルートに突入。没落する暇もありません!

萩月

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「キラリ・フォン・ルミナス! 貴様のような薄汚い心を持った女との婚約など、今この場をもって破棄させてもらう!」

煌びやかなシャンデリアが輝く、卒業パーティーの真っ最中。
第一王子レオンの声が、大広間に響き渡りました。

エスコートしていたはずの私の隣を離れ、彼は男爵令嬢のミナさんの肩を抱き寄せています。
周囲の貴族たちは、待ってましたと言わんばかりにひそひそと囁き始めました。

「ついに出たわね……」

「悪役令嬢キラリの年貢の納め時だ」

そんな周囲の冷ややかな視線を浴びながら、私は扇を口元に当てて、ゆっくりと瞬きをしました。
……今、なんて言いました?
婚約、破棄?
つまり、明日から王妃教育のために朝五時に叩き起こされることも、深夜まで歴史書を読み漁ることも、コルセットを限界まで締め上げて「淑女の呼吸」を強要されることもない……ということかしら。

「……レオン様。それは、本当でございますか?」

「ふん、今さら命乞いをしたところで遅い! ミナへの数々の嫌がらせ、証拠はすべて挙がっているんだ!」

私は震える手で、そっと胸を押さえました。
ああ、どうしましょう。
心臓の鼓動が早くなっていくのがわかります。
これは……歓喜。
圧倒的な、自由へのファンファーレですわ!

「ああ、なんてこと……! 信じられませんわ!」

「そうだ、絶望するがいい! これがお前の自業自得というものだ!」

「いいえ、レオン様! 感謝いたします! これほど素晴らしいプレゼントをいただけるなんて、私、夢を見ているのかしら!」

私は扇を放り投げ、両手を広げて天を仰ぎました。
広間の空気が、一瞬で凍りついたのがわかります。
レオン様も、勝ち誇った顔のまま固まっていますわ。

「……は? 感謝? お前、ショックで頭が沸いたのか?」

「何を仰いますの! 今、この瞬間、私の視界はかつてないほどキラキラと輝いています! 見てください、あのシャンデリアの輝き! まるで私の門出を祝うダイヤモンドの雨のようですわ!」

「キラリ様、何を……。私はあなたに虐められて、こんなに傷ついたのに……っ!」

ミナさんが、わざとらしく涙を浮かべてレオン様の胸に顔を埋めました。
あら、彼女。
泣くと鼻の頭が赤くなるタイプなのね。
せっかくの可愛らしいお顔が台無しですわ。

「ミナさん、そんなに泣かないで。あなたのその涙さえも、今の私には自由への祝杯を彩る真珠に見えます。そうだわ、あなたがレオン様の愛を奪ってくれたおかげで、私は自由になれたのね! ありがとう、ミナさん! あなたは私の救世主だわ!」

「な、ななな……何を言っているの!? この人、やっぱりおかしいわ!」

ミナさんが怯えたようにレオン様の後ろに隠れました。
失礼しちゃうわね。
私は至って真面目ですわよ。

「キラリ、ふざけるな! 貴様、自分が何をしたか分かっているのか!? ミナの教科書を破り、ドレスにワインをかけ、あまつさえ階段から突き落とそうとしただろう!」

「あら、それには深い理由がありますのよ?」

私は優雅に一歩、前へ踏み出しました。
周囲の騎士たちが身構えますが、気にしません。

「教科書を破ったのは、そのページに載っていた挿絵のモデルが、あまりにも肌荒れを放置していたからですわ! あんなものを見続けていたら、ミナさんの審美眼が腐ってしまいます。だから私は、より美しい構図に切り抜いてあげただけですの」

「……は?」

「ドレスにワインをかけたのも、あのアクアブルーの生地には、もっと深いボルドーのアクセントが必要だと思ったからですわ! 色彩の黄金比を考えれば、当然の処置です。そして階段の件ですが……あれは突き落としたのではなく、重力に従って美しく舞い降りる練習を促しただけですわ! ミナさんの歩き方は、少しばかり体幹がブレていましたもの」

私が自信満々に言い放つと、会場は水を打ったような静寂に包まれました。
レオン様は口をパクパクさせ、金魚のようになっています。

「き、貴様……本気で言っているのか? それが通ると思っているのか?」

「通りも何も、事実ですもの。美しさは正義。そして私は、その正義のために尽力しただけ。でも、そんな私の深い愛情(エステティック)も、この国では理解されないようですわね。……ええ、分かりましたわ! 私は喜んで、この泥沼の社交界から身を引かせていただきます!」

「泥沼……だと? この豪華絢爛な王宮を!」

「あら、レオン様。お顔に疲れが見えますわよ? そんな険しい表情ばかりしているから、眉間にシワが寄って、将来『不機嫌なジャガイモ』のような顔になってしまうのですわ。どうぞ、その若作りな男爵令嬢とお幸せに!」

私はドレスの裾を大きく広げ、完璧なカーテシーを披露しました。
それから、くるりと背を向けます。

「待て! まだ話は終わっていない! 貴様には公爵家からの追放と、北方の古い屋敷での謹慎を言い渡す!」

「北方の屋敷! まあ、素敵! あそこは空気が澄んでいて、お肌のターンオーバーが促進されると評判の場所ではありませんか! 天然の冷気で毛穴を引き締めるチャンスだわ!」

「……くっ、どこまでも話の通じない女だ。おい、誰かこの狂女を連れて行け!」

警備の騎士たちが困惑しながら近寄ってきます。
私は彼らの手を払いのけ、颯爽と歩き出しました。

「触らないで。私の肌は、最高級のシルクと自作の美容液で仕上げたばかりなんですの。下手に触れて指紋でもついたらどうするつもり?」

騎士たちが気圧されて道をあけます。
私は出口に向かって歩きながら、ふと思い立って立ち止まりました。
そして、会場のオーケストラに向かって指を鳴らします。

「そこのあなたたち! もっと明るい曲を演奏してちょうだい! これはお葬式ではなく、私の『自由記念日』のパーティーなんですのよ!」

指揮者が呆然としながらも、私の気迫に押されてタクトを振りました。
流れ出したのは、軽快なアップテンポの舞曲。

私はそのリズムに合わせて、軽やかにステップを踏みました。
「婚約破棄!」「追放!」「自由!」
心の中でその言葉を唱えるたびに、体が羽が生えたように軽くなります。

「それでは皆様、ごきげんよう! 私はこれから、自分をさらに磨き上げる最高の隠居生活を楽しんできますわ! オーホッホッホッホ!」

高笑いを残して、私は大広間を飛び出しました。
背後でレオン様の「追え! いや、放っておけ!」という混乱した叫び声が聞こえましたが、もう関係ありません。

馬車に乗り込むと、私はすぐに顔の筋肉をほぐしました。
「ふう……完璧な退場シーンでしたわ」

さあ、忙しくなりますわよ。
まずは実家に戻って、私専用の美容道具一式と、隠し持っていた裏金……失礼、正当な慰謝料代わりの資産を回収しなければ。
没落? 追放?
そんな言葉、私の辞書にはありませんわ。
あるのは「さらなる美の探求」と「ストレスフリーな毎日」だけです!

夜風を浴びながら、私は馬車の窓から遠ざかる王宮を眺めました。
明日からの生活を想像するだけで、お肌のツヤが一段と増していくような気がしますわ。
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