婚約破棄を受け入れたら溺愛ルートに突入。没落する暇もありません!

萩月

文字の大きさ
28 / 28

28

しおりを挟む
「セバス。最終確認ですわ。……私のまつ毛の角度、右側が零点五度ほど下がっていませんこと?」

「お嬢様……いえ、大臣閣下。それはもはや神の領域の差異でございます。ですがご安心を。私がこの『超精密・美学定規』で測りましたところ、左右対称、完璧なる黄金比でございます」

ついに、この日がやってまいりました。
隣国の第一神殿。
今日は、私、キラリ・フォン・ルミナスと、アルベルト・フォン・ナイトレイド公爵の結婚式ですわ。
空は一点の曇りもないクリスタル・ブルー。
まるで世界全体が、私の肌のコンディションに合わせて調整されたかのようですわね。

「閣下、お迎えに上がりました。……っ! 失礼しました、一瞬、あまりの輝きに網膜が焼き切れるかと思いました」

部屋に入ってきたアルベルト様が、目を細めて立ち尽くしました。
今日の彼は、漆黒の礼服に銀の刺繍。
私の隣に立つのに相応しい、まさに「歩く芸術品」としての完成度を見せています。

「あら、アルベルト様。失礼ですわね、焼き切れるなんて。これは私の内側から溢れ出す『幸福のオーラ』が、ドレスの特殊繊維と共鳴しているだけですわ」

「……そのオーラのせいで、式場の参列者全員に『防護用サングラス』を配布する羽目になったんだぞ。……だが、いい。君が世界で一番輝いているのは、事実だからな」

アルベルト様が差し出した手を取り、私はゆっくりと歩き出しました。
重厚な扉が開くと、そこには隣国の貴族、周辺諸国の使節、そして私の「美容教」の信者となった大勢の国民たちが詰めかけていました。

「見ろ……! あれが、美の女神……!」

「眩しい! 眩しすぎて、直視できないのに目が離せない!」

参列者たちの感嘆の声が、ステンドグラスを震わせます。
私はバージンロードを歩きながら、ふと最後列に目を向けました。
そこには、特別に招待……いえ、「視察」を許可した、ルミナス王国の使節団の姿がありました。

彼らの中心で、真っ白な顔をして(私の強制パックの跡ですわね)震えているレオン様と、泥パックのやりすぎで逆に肌がツルツルになりすぎてアイデンティティを失ったミナさんの姿が見えました。

「……ふふ。レオン様、見ていらして? これが、あなたが手放した『世界の真理』ですわよ」

私が小さく微笑みかけると、レオン様は「ひっ!」と短い悲鳴を上げて椅子から転げ落ちました。
あら、お行儀がよろしくありませんわね。
後でセバスに、彼を『マナー矯正・美肌ブートキャンプ』の再履修コースに放り込むよう伝えておかなくては。

祭壇の前で、私たちは向き合いました。
国王陛下が、慈愛に満ちた(そして少しだけ私の迫力に圧倒された)顔で問いかけます。

「アルベルト・フォン・ナイトレイド。汝は、このキラリ・フォン・ルミナスを妻とし、その美学を尊重し、共に歩むことを誓うか?」

「誓います。彼女の暴走を止め、彼女の輝きを一番近くで守り続けることを」

「キラリ・フォン・ルミナス。汝は、このアルベルトを夫とし、生涯をかけて愛し、共にこの世界を美しくしていくことを誓うか?」

私は、隣で微笑むアルベルト様を見つめました。
かつて婚約破棄をされたあの日、私は自由を手に入れました。
そして今、私は「自分を誰よりも美しく見せてくれる最高の鏡」を手に入れたのです。

「誓いますわ! 夫であるアルベルト様を世界一のイケメンに保ち続け、そして……私自身が、永遠にこの世界の中心で輝き続けることを!」

「……誓いの言葉に、自分への愛が半分以上混ざっているのは君くらいだろうな」

アルベルト様が苦笑しながら、私の指にダイヤモンドのリングを嵌めました。
その瞬間、会場全体に魔法の薔薇の花びらが舞い散り、参列者たちの「美意識」が最高潮に達して全員が涙を流しました。
……ええ、もちろん、その涙で化粧が崩れないよう、事前に私の新作「全天候型・鉄壁メイクセット」を配っておいたおかげで、会場の美しさは保たれたままですわ!

式を終え、私たちは大聖堂のバルコニーに立ちました。
眼下に広がる街並み。
私の指導によって清潔に整えられ、人々が皆、自分に自信を持って笑っている美しい国。

「……キラリ。君がここに来てから、本当に世界が変わったよ」

「あら、アルベルト様。まだ始まったばかりですわ。私の目標は、全人類の毛穴を消滅させ、この惑星を宇宙で一番キラキラした星にすることですもの!」

「……また、とんでもないことを。……だが、君なら本当にやってしまいそうだな」

アルベルト様が私の腰を引き寄せ、唇を重ねました。
歓声が地響きのように鳴り響き、私はその熱狂の中で、心からの充足感に包まれました。

ふと空を見上げると、太陽の光が私のドレスに反射して、無数の虹を描き出しています。
ああ、なんて……なんて素晴らしい光景かしら。

「……ねえ、アルベルト様。見てくださいな」

私は扇を大きく広げ、最高に輝く笑顔で世界を指し示しました。

「世界はなんて、キラキラしているのかしら!!」

私の高笑いが、青空の彼方まで突き抜けていきました。
あとに残されたのは、あまりの光量に目をしばたたく参列者たちと、幸せすぎて思考を停止させた読者の皆様……。

いいえ、そんなことは関係ありませんわ!
私が美しく、私が幸せなら、それで世界は完璧なのですから!

オーホッホッホッホ……!!
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

貧乏人とでも結婚すれば?と言われたので、隣国の英雄と結婚しました

ゆっこ
恋愛
 ――あの日、私は確かに笑われた。 「貧乏人とでも結婚すれば? 君にはそれくらいがお似合いだ」  王太子であるエドワード殿下の冷たい言葉が、まるで氷の刃のように胸に突き刺さった。  その場には取り巻きの貴族令嬢たちがいて、皆そろって私を見下ろし、くすくすと笑っていた。  ――婚約破棄。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

【完結】家族に愛されなかった辺境伯の娘は、敵国の堅物公爵閣下に攫われ真実の愛を知る

水月音子
恋愛
辺境を守るティフマ城の城主の娘であるマリアーナは、戦の代償として隣国の敵将アルベルトにその身を差し出した。 婚約者である第四王子と、父親である城主が犯した国境侵犯という罪を、自分の命でもって償うためだ。 だが―― 「マリアーナ嬢を我が国に迎え入れ、現国王の甥である私、アルベルト・ルーベンソンの妻とする」 そう宣言されてマリアーナは隣国へと攫われる。 しかし、ルーベンソン公爵邸にて差し出された婚約契約書にある一文に疑念を覚える。 『婚約期間中あるいは婚姻後、子をもうけた場合、性別を問わず健康な子であれば、婚約もしくは結婚の継続の自由を委ねる』 さらには家庭教師から“精霊姫”の話を聞き、アルベルトの側近であるフランからも詳細を聞き出すと、自分の置かれた状況を理解する。 かつて自国が攫った“精霊姫”の血を継ぐマリアーナ。 そのマリアーナが子供を産めば、自分はもうこの国にとって必要ない存在のだ、と。 そうであれば、早く子を産んで身を引こう――。 そんなマリアーナの思いに気づかないアルベルトは、「婚約中に子を産み、自国へ戻りたい。結婚して公爵様の経歴に傷をつける必要はない」との彼女の言葉に激昂する。 アルベルトはアルベルトで、マリアーナの知らないところで実はずっと昔から、彼女を妻にすると決めていた。 ふたりは互いの立場からすれ違いつつも、少しずつ心を通わせていく。

【完結】番としか子供が産まれない世界で

さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。 何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。 そんなニーナが番に出会うまで 4話完結 出会えたところで話は終わってます。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。

ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」 その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...