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「……見つけましたわ! これこそ、エドワード様からいただいた至宝『王国の星』ですわ!」
マリア様が、私のパーティーバッグに手を突っ込んだかと思った瞬間。
彼女の指先には、煌々と輝く大きなサファイアが握られていた。
会場に「ああ……」という失望と侮蔑の混じった溜息が漏れる。
エドワード殿下が、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「言い逃れはできんぞ、ジョアン! 現行犯だ。衛兵! この女を今すぐ――」
「ちょっと待ってくださいな。タイムですわ、タイム!」
私はエドワード殿下の言葉を遮り、マリア様の手首をガシッと掴んだ。
令嬢らしからぬ握力に、マリア様が「あだっ」と短い悲鳴を上げる。
「……なんですの!? 往き苦しいわよ、ジョアン様。証拠は上がっているんですの!」
「証拠? ええ、確かに上がっていますわね。マリア様、あなたの『袖口』から。……皆様、今、この方が私のバッグに手を入れる『前』に、青い光が袖の中でキラリと動くのをご覧になりませんでした?」
会場の貴族たちが顔を見合わせる。
「え、見てない」「早すぎて分からなかった」という声が上がる中。
「……俺は見ていたぞ」
地響きのような声とともに、ギルバート様が一歩前に出た。
その瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭く、冷徹にマリア様を射抜いている。
「……ギ、ギルバート大将軍。貴殿は彼女の味方だから、そんなデタラメを……」
「デタラメだと? ……俺の目は、一キロ先の敵の矢尻の数すら数え上げる。……先ほど、この女がバッグに触れる直前。左の袖口からサファイアを滑り込ませ、あたかもバッグの中から取り出したかのように見せた。……その一連の動作、三流の奇術師以下だな」
「……っ! そ、そんなの、証拠がありませんわ!」
マリア様が顔を引きつらせて後退ろうとする。
私はその手を離さず、さらにグイと引き寄せた。
「証拠なら、その袖の中にまだ残っているんじゃありません? マリア様、もう一つのサファイア……いえ、そのネックレスを固定していた『千切れたチェーン』の一部が」
「な、なぜそれを……!」
「あら、観察力はハッピーエンドへの基本スキルですわよ。……さあ、ネル。皆様に見せてあげて」
いつの間にかマリア様の背後に回っていたネルが、彼女の袖を軽く振った。
パラパラと、金色の鎖の破片が床に落ちる。
「……それは、あなたが自分で引きちぎった証拠ですわね。バッグに入れる際に、焦って袖に引っかかったのでしょう?」
「あ……ああ……」
マリア様の顔が、みるみるうちに土気色に変わっていく。
エドワード殿下も、呆然として立ち尽くしている。
「殿下。……どうやら『現行犯』だったのは、私ではなく、こちらの可愛らしい婚約者の方だったようですわ。……虚偽の告発。これはこの国の法律では、かなり重い罪になりませんでしたかしら?」
「……ジョ、ジョアン。これは何かの間違いだ。マリアがそんなことをするはずが……」
「間違い? いいえ、これは『演出ミス』ですわ。……皆様! 私のハッピーな食事を邪魔した罪は重いですわよ。……さあ、ギルバート様。仕上げをお願いしますわ」
ギルバート様は無言で、マリア様とエドワード殿下に向かって一歩踏み込んだ。
ただそれだけで、周囲の空気が凍りつき、マリア様は腰を抜かして床にへたり込んだ。
「……殿下。……この醜態、明日には国王陛下にすべて報告させていただく。……ジョアン嬢への謝罪は、言葉ではなく、先ほど彼女が提示した『マカロン』で済ませることだな」
「ま、マカロン……!?」
「ええ、全種類、箱詰めでお願いしますわね! あ、もちろん特注の高級品ですわよ!」
私は高らかに笑い声を上げ、呆然とする群衆を背景に、最後の一つ残っていたプチケーキを口に放り込んだ。
冤罪、粉砕。
そして、スイーツの山。
これぞまさに、悪役令嬢(引退済)による、完璧なハッピーエンドの法廷劇!
「さあ、ギルバート様! 勝利の美酒……ではなく、勝利のココアを飲みに行きましょう!」
「……ああ。……お前の胃袋の強さには、俺も完敗だ」
私たちは、崩れ落ちる主役(自称)二人を尻目に、意気揚々とビュッフェの深淵へと戻っていった。
マリア様が、私のパーティーバッグに手を突っ込んだかと思った瞬間。
彼女の指先には、煌々と輝く大きなサファイアが握られていた。
会場に「ああ……」という失望と侮蔑の混じった溜息が漏れる。
エドワード殿下が、勝ち誇ったように鼻を鳴らした。
「言い逃れはできんぞ、ジョアン! 現行犯だ。衛兵! この女を今すぐ――」
「ちょっと待ってくださいな。タイムですわ、タイム!」
私はエドワード殿下の言葉を遮り、マリア様の手首をガシッと掴んだ。
令嬢らしからぬ握力に、マリア様が「あだっ」と短い悲鳴を上げる。
「……なんですの!? 往き苦しいわよ、ジョアン様。証拠は上がっているんですの!」
「証拠? ええ、確かに上がっていますわね。マリア様、あなたの『袖口』から。……皆様、今、この方が私のバッグに手を入れる『前』に、青い光が袖の中でキラリと動くのをご覧になりませんでした?」
会場の貴族たちが顔を見合わせる。
「え、見てない」「早すぎて分からなかった」という声が上がる中。
「……俺は見ていたぞ」
地響きのような声とともに、ギルバート様が一歩前に出た。
その瞳は、獲物を狙う鷹のように鋭く、冷徹にマリア様を射抜いている。
「……ギ、ギルバート大将軍。貴殿は彼女の味方だから、そんなデタラメを……」
「デタラメだと? ……俺の目は、一キロ先の敵の矢尻の数すら数え上げる。……先ほど、この女がバッグに触れる直前。左の袖口からサファイアを滑り込ませ、あたかもバッグの中から取り出したかのように見せた。……その一連の動作、三流の奇術師以下だな」
「……っ! そ、そんなの、証拠がありませんわ!」
マリア様が顔を引きつらせて後退ろうとする。
私はその手を離さず、さらにグイと引き寄せた。
「証拠なら、その袖の中にまだ残っているんじゃありません? マリア様、もう一つのサファイア……いえ、そのネックレスを固定していた『千切れたチェーン』の一部が」
「な、なぜそれを……!」
「あら、観察力はハッピーエンドへの基本スキルですわよ。……さあ、ネル。皆様に見せてあげて」
いつの間にかマリア様の背後に回っていたネルが、彼女の袖を軽く振った。
パラパラと、金色の鎖の破片が床に落ちる。
「……それは、あなたが自分で引きちぎった証拠ですわね。バッグに入れる際に、焦って袖に引っかかったのでしょう?」
「あ……ああ……」
マリア様の顔が、みるみるうちに土気色に変わっていく。
エドワード殿下も、呆然として立ち尽くしている。
「殿下。……どうやら『現行犯』だったのは、私ではなく、こちらの可愛らしい婚約者の方だったようですわ。……虚偽の告発。これはこの国の法律では、かなり重い罪になりませんでしたかしら?」
「……ジョ、ジョアン。これは何かの間違いだ。マリアがそんなことをするはずが……」
「間違い? いいえ、これは『演出ミス』ですわ。……皆様! 私のハッピーな食事を邪魔した罪は重いですわよ。……さあ、ギルバート様。仕上げをお願いしますわ」
ギルバート様は無言で、マリア様とエドワード殿下に向かって一歩踏み込んだ。
ただそれだけで、周囲の空気が凍りつき、マリア様は腰を抜かして床にへたり込んだ。
「……殿下。……この醜態、明日には国王陛下にすべて報告させていただく。……ジョアン嬢への謝罪は、言葉ではなく、先ほど彼女が提示した『マカロン』で済ませることだな」
「ま、マカロン……!?」
「ええ、全種類、箱詰めでお願いしますわね! あ、もちろん特注の高級品ですわよ!」
私は高らかに笑い声を上げ、呆然とする群衆を背景に、最後の一つ残っていたプチケーキを口に放り込んだ。
冤罪、粉砕。
そして、スイーツの山。
これぞまさに、悪役令嬢(引退済)による、完璧なハッピーエンドの法廷劇!
「さあ、ギルバート様! 勝利の美酒……ではなく、勝利のココアを飲みに行きましょう!」
「……ああ。……お前の胃袋の強さには、俺も完敗だ」
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