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雲一つない青空。
ラセール公爵家の広大な庭園は、色とりどりの花々と、それ以上に色鮮やかな高級スイーツの香りに包まれていた。
「……お嬢様。……最後にもう一度だけ聞きますが、そのドレスのウエスト、本当に大丈夫ですか? 今朝、隠れて試作のベリータルトを三つ食べましたよね」
ネルが冷ややかな手つきで、私の背中の編み上げを限界まで締め上げる。
「……ふぐっ。だ、大丈夫よネル。これくらいの圧迫感、ハッピーエンドの重みに比べれば、空気みたいなものですわ!」
「吐かないでくださいね。大将軍に介錯される花嫁なんて、前代未聞ですから」
鏡の中に映るのは、ギルバート様が贈ってくれた真紅のシルクをふんだんに使った、特製のウェディングドレス。
純白ではなく、私の「情熱」と「自由」を象徴する赤。
これこそが、私の物語の完結にふさわしい戦闘服……いえ、正装だ。
「さあ、お嬢様。……世界で一番幸せな『悪役』の、お披露目です」
ネルに背中を押され、私は新緑のバージンロードへと足を踏み出した。
参列者たちの視線が一斉に集まる。
そこには、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたお父様や、なぜか端の方で小さくなっているエドワード殿下の姿もあった。
……殿下、わざわざ見に来てくださったのね。……私の幸せ、しっかり目に焼き付けていってちょうだい。
そして、祭壇の前。
そこには、直立不動で私を待つ、一人の巨大な壁……ギルバート様がいた。
「………」
相変わらず、顔が怖い。
周囲の招待客の中には、彼のあまりの威圧感に、お祝いの拍手を忘れて祈りを捧げ始めている者もいる。
だが、私にはわかる。
彼の拳が、小刻みに震えていることを。
「遅い。待ちくたびれて、危うく祭壇の飾り菓子をすべて食い尽くすところだった」
「まあ、ギルバート様。……それは私のセリフですわよ」
私は彼の隣に並び、そっとその大きな手を取った。
鋼のような筋肉と、甘いバニラの香り。
ああ、なんて落ち着く組み合わせかしら。
「ジョアン。俺は、誓う。君の人生のすべてのページを、糖分と安心で満たすことを」
「ふふ。私も誓いますわ。…あなたの険しい眉間の皺を、一生かけて、私の笑顔と美味しいお菓子で伸ばし続けることを!」
誓いの言葉。
それは、神への報告というよりは、二人で歩む新しい物語への「あとがき」のようなもの。
「……では。……誓いのキスを」
司祭様の震える声が響く。
ギルバート様が、ゆっくりと私のベールを持ち上げた。
至近距離で見つめ合う。
彼の瞳には、世界中の誰よりも私を愛おしむ、深い熱が宿っていた。
「ギル様。最後くらい、最高の笑顔を見せてくださる?」
「善処する、と言っただろう」
ギルバート様が、渾身の力で口角を上げた。
……会場の子供が一人、怯えて泣き出したけれど。
私には、それが太陽よりも眩しく、愛らしい微笑みに見えた。
「……合格ですわ、私の旦那様」
触れ合った唇から、甘酸っぱいベリーのような、そして温かなハッピーの味が広がった。
割れんばかりの拍手。
空を舞う花びら。
私の「第二章」は、ここで一度ペンを置くけれど。
明日からはきっと、「第三章・新婚甘々編」が爆速で始まるに違いない。
「さあ、皆様! 式典は終わりですわ! ここからは、私が厳選した三十種類の特製ケーキの試食会ですわよ!!」
花嫁の第一声が「食欲」の宣言。
でも、これが私の、私だけのハッピーエンド。
前世なんていらない。
魔法なんてなくてもいい。
ただ、好きな人の隣で、好きなものを食べて、笑っていられる今。
これ以上のハッピーエンドが、この世界のどこにあるっていうの?
「ジョアン。ケーキは、全種類半分こ、だぞ」
「あら、もちろん。でも、私の分の方が一口大きいですわよ、ギル様!」
賑やかな笑い声に包まれて、私たちの物語は、どこまでも続く青空へと溶けていった。
――ハッピーエンド至上主義の令嬢ジョアン。
彼女の物語は、これからも永遠に、最高の「完結」へと更新し続けるのである。
ラセール公爵家の広大な庭園は、色とりどりの花々と、それ以上に色鮮やかな高級スイーツの香りに包まれていた。
「……お嬢様。……最後にもう一度だけ聞きますが、そのドレスのウエスト、本当に大丈夫ですか? 今朝、隠れて試作のベリータルトを三つ食べましたよね」
ネルが冷ややかな手つきで、私の背中の編み上げを限界まで締め上げる。
「……ふぐっ。だ、大丈夫よネル。これくらいの圧迫感、ハッピーエンドの重みに比べれば、空気みたいなものですわ!」
「吐かないでくださいね。大将軍に介錯される花嫁なんて、前代未聞ですから」
鏡の中に映るのは、ギルバート様が贈ってくれた真紅のシルクをふんだんに使った、特製のウェディングドレス。
純白ではなく、私の「情熱」と「自由」を象徴する赤。
これこそが、私の物語の完結にふさわしい戦闘服……いえ、正装だ。
「さあ、お嬢様。……世界で一番幸せな『悪役』の、お披露目です」
ネルに背中を押され、私は新緑のバージンロードへと足を踏み出した。
参列者たちの視線が一斉に集まる。
そこには、涙で顔をぐちゃぐちゃにしたお父様や、なぜか端の方で小さくなっているエドワード殿下の姿もあった。
……殿下、わざわざ見に来てくださったのね。……私の幸せ、しっかり目に焼き付けていってちょうだい。
そして、祭壇の前。
そこには、直立不動で私を待つ、一人の巨大な壁……ギルバート様がいた。
「………」
相変わらず、顔が怖い。
周囲の招待客の中には、彼のあまりの威圧感に、お祝いの拍手を忘れて祈りを捧げ始めている者もいる。
だが、私にはわかる。
彼の拳が、小刻みに震えていることを。
「遅い。待ちくたびれて、危うく祭壇の飾り菓子をすべて食い尽くすところだった」
「まあ、ギルバート様。……それは私のセリフですわよ」
私は彼の隣に並び、そっとその大きな手を取った。
鋼のような筋肉と、甘いバニラの香り。
ああ、なんて落ち着く組み合わせかしら。
「ジョアン。俺は、誓う。君の人生のすべてのページを、糖分と安心で満たすことを」
「ふふ。私も誓いますわ。…あなたの険しい眉間の皺を、一生かけて、私の笑顔と美味しいお菓子で伸ばし続けることを!」
誓いの言葉。
それは、神への報告というよりは、二人で歩む新しい物語への「あとがき」のようなもの。
「……では。……誓いのキスを」
司祭様の震える声が響く。
ギルバート様が、ゆっくりと私のベールを持ち上げた。
至近距離で見つめ合う。
彼の瞳には、世界中の誰よりも私を愛おしむ、深い熱が宿っていた。
「ギル様。最後くらい、最高の笑顔を見せてくださる?」
「善処する、と言っただろう」
ギルバート様が、渾身の力で口角を上げた。
……会場の子供が一人、怯えて泣き出したけれど。
私には、それが太陽よりも眩しく、愛らしい微笑みに見えた。
「……合格ですわ、私の旦那様」
触れ合った唇から、甘酸っぱいベリーのような、そして温かなハッピーの味が広がった。
割れんばかりの拍手。
空を舞う花びら。
私の「第二章」は、ここで一度ペンを置くけれど。
明日からはきっと、「第三章・新婚甘々編」が爆速で始まるに違いない。
「さあ、皆様! 式典は終わりですわ! ここからは、私が厳選した三十種類の特製ケーキの試食会ですわよ!!」
花嫁の第一声が「食欲」の宣言。
でも、これが私の、私だけのハッピーエンド。
前世なんていらない。
魔法なんてなくてもいい。
ただ、好きな人の隣で、好きなものを食べて、笑っていられる今。
これ以上のハッピーエンドが、この世界のどこにあるっていうの?
「ジョアン。ケーキは、全種類半分こ、だぞ」
「あら、もちろん。でも、私の分の方が一口大きいですわよ、ギル様!」
賑やかな笑い声に包まれて、私たちの物語は、どこまでも続く青空へと溶けていった。
――ハッピーエンド至上主義の令嬢ジョアン。
彼女の物語は、これからも永遠に、最高の「完結」へと更新し続けるのである。
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