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ガタゴトと揺れる馬車の中で、私は優雅に(自称)お茶をすすっていました。
実際には、道が荒れているせいでカップの中身が半分くらいドレスに飛び散っていますが、そんなことは些細な問題です。
「お嬢様、落ち着いてください。先ほどからニヤニヤが止まっていませんよ。不気味です」
向かい側に座るアンナが、冷めた目で私を見ています。
「いいじゃない、アンナ。思い出していたのよ。セドリック殿下が突きつけてきた、あの『悪行の数々』をね」
「……ああ、あの濡れ衣ですね。よくもあんな出鱈目を並べ立てたものです」
アンナは憤慨したように鼻を鳴らしましたが、私はクスクスと笑い声を漏らしました。
「出鱈目? そうね、半分くらいは身に覚えがないわ。でも、リリア様の靴を全部右用に入れ替えたっていうのは、名案だと思わない?」
「……お嬢様がやったのではないのですか?」
「私なわけないじゃない。そんな面倒なことするくらいなら、その時間でアレクセイ様の肖像画を眺めているわ。たぶん、彼女の自作自演か、あるいは彼女の天然ボケが極まった結果でしょうね」
私は窓の外を流れる景色を見つめました。王都の洗練された街並みはもう見えません。
「でもね、アンナ。冤罪を晴らそうなんて、これっぽっちも思わなかったわ。だって、もし私が無実だと証明されたら、どうなると思う?」
「……普通なら、婚約破棄は撤回され、名誉が回復されるでしょうが」
「そう! それよ! 最悪だわ!」
私はテーブルをバンッ!と叩きました。
「婚約破棄が撤回? 冗談じゃない! あんな、鏡を見る時間の方が私と喋る時間より長い王子様と、一生添い遂げなきゃいけないのよ? 挙句の果てには、毎日お茶会と刺繍の日々……。そんなの、筋肉不足で私が枯れ果ててしまうわ!」
「筋肉不足、という言葉を初めて聞きました」
「だから、あの断罪は私にとって『神からのギフト』だったの。殿下がリリア様の涙に騙されてくれて、本当に良かった。彼が賢明な王子じゃなくて、本当に助かったわ!」
私は心の底から感謝の祈りを捧げました。
「もし今、王宮の使いが来て『冤罪だった、戻ってきてくれ』なんて言いに来たら、私はその場で全速力で逃走する自信があるわね。泥を塗られたままで結構。悪役令嬢、上等じゃない!」
「……お嬢様のポジティブさが、時々怖くなります」
アンナは深いため息をつき、お茶を飲み干しました。
その時、後方から馬の蹄の音が聞こえてきました。
「待てー! バートン侯爵令嬢、止まりなさい!」
追いかけてくる複数の影。制服からして、王宮直属の騎士のようです。
「あら、噂をすれば。もしかして、ローストビーフの食べ残しについて文句でも言いに来たのかしら?」
「お嬢様、そんなわけないでしょう! まさか本当に、連れ戻しに来たのでは……」
アンナの顔が青ざめます。
私は窓から身を乗り出し、追いすがってくる騎士たちに向かって叫びました。
「追っ手の皆さん、お疲れ様です! 忘れ物ならありませんわ! 冤罪の証明なら結構です! 私は喜んで追放されますので、どうかそのままお帰りください!」
「何を言っている! 貴様に新たな容疑がかかっているのだ!」
騎士の一人が叫び返しました。
「新たな容疑? なんですの? 私の美貌が罪だとか、そういう話?」
「黙れ! リリア嬢の愛用していた香水の瓶を、こっそりプロテインの粉末と入れ替えただろう! 彼女は今、プロテインを全身に浴びて真っ白になっているんだぞ!」
「……ぶっ!!」
私は思わず吹き出しました。
「お嬢様……まさか、それは……」
アンナの疑惑の眼差しが突き刺さります。
「……身に覚えがあるわ。昨日、ちょっと王宮の控え室に忍び込んだ時に、あまりにもリリア様の香水の匂いがキツかったから、健康的な粉末に変えておいてあげたのよ。親切心よ、親切心!」
「それを世間では嫌がらせと言うんです!」
「いいえ、美容よ! プロテインは肌にも髪にもいいんですから。彼女もいつか、大胸筋の素晴らしさに目覚めるはずだわ!」
私は馬車の速度を上げるよう、御者さんに指示を出しました。
「御者さん! もっと飛ばして! プロテイン泥棒として捕まるのは、私の美学に反しますわ!」
「ひえぇぇ、承知しました!」
馬車は猛然と加速し、騎士たちの罵声を置き去りにしていきました。
「……はぁ。お嬢様、これから先が思いやられます。北の辺境に着くまでに、これ以上何かやらかさないでくださいよ」
「失礼ね。私はいつだって、愛と筋肉のためにしか動かないわ」
私はふんぞり返って、高らかに笑いました。
悪役令嬢としての評判がこれ以上落ちようと、私には関係ありません。
目指すは、憧れのアレクセイ様が治める北の大地。
そこには、きっと香水なんてつけない、汗と努力の結晶である素晴らしい筋肉たちが待っているはずなのです。
「冤罪? いいえ、これは『自由へのパスポート』ですわ!」
私の高らかな宣言とともに、馬車は国境の砦を目指してひた走るのでした。
実際には、道が荒れているせいでカップの中身が半分くらいドレスに飛び散っていますが、そんなことは些細な問題です。
「お嬢様、落ち着いてください。先ほどからニヤニヤが止まっていませんよ。不気味です」
向かい側に座るアンナが、冷めた目で私を見ています。
「いいじゃない、アンナ。思い出していたのよ。セドリック殿下が突きつけてきた、あの『悪行の数々』をね」
「……ああ、あの濡れ衣ですね。よくもあんな出鱈目を並べ立てたものです」
アンナは憤慨したように鼻を鳴らしましたが、私はクスクスと笑い声を漏らしました。
「出鱈目? そうね、半分くらいは身に覚えがないわ。でも、リリア様の靴を全部右用に入れ替えたっていうのは、名案だと思わない?」
「……お嬢様がやったのではないのですか?」
「私なわけないじゃない。そんな面倒なことするくらいなら、その時間でアレクセイ様の肖像画を眺めているわ。たぶん、彼女の自作自演か、あるいは彼女の天然ボケが極まった結果でしょうね」
私は窓の外を流れる景色を見つめました。王都の洗練された街並みはもう見えません。
「でもね、アンナ。冤罪を晴らそうなんて、これっぽっちも思わなかったわ。だって、もし私が無実だと証明されたら、どうなると思う?」
「……普通なら、婚約破棄は撤回され、名誉が回復されるでしょうが」
「そう! それよ! 最悪だわ!」
私はテーブルをバンッ!と叩きました。
「婚約破棄が撤回? 冗談じゃない! あんな、鏡を見る時間の方が私と喋る時間より長い王子様と、一生添い遂げなきゃいけないのよ? 挙句の果てには、毎日お茶会と刺繍の日々……。そんなの、筋肉不足で私が枯れ果ててしまうわ!」
「筋肉不足、という言葉を初めて聞きました」
「だから、あの断罪は私にとって『神からのギフト』だったの。殿下がリリア様の涙に騙されてくれて、本当に良かった。彼が賢明な王子じゃなくて、本当に助かったわ!」
私は心の底から感謝の祈りを捧げました。
「もし今、王宮の使いが来て『冤罪だった、戻ってきてくれ』なんて言いに来たら、私はその場で全速力で逃走する自信があるわね。泥を塗られたままで結構。悪役令嬢、上等じゃない!」
「……お嬢様のポジティブさが、時々怖くなります」
アンナは深いため息をつき、お茶を飲み干しました。
その時、後方から馬の蹄の音が聞こえてきました。
「待てー! バートン侯爵令嬢、止まりなさい!」
追いかけてくる複数の影。制服からして、王宮直属の騎士のようです。
「あら、噂をすれば。もしかして、ローストビーフの食べ残しについて文句でも言いに来たのかしら?」
「お嬢様、そんなわけないでしょう! まさか本当に、連れ戻しに来たのでは……」
アンナの顔が青ざめます。
私は窓から身を乗り出し、追いすがってくる騎士たちに向かって叫びました。
「追っ手の皆さん、お疲れ様です! 忘れ物ならありませんわ! 冤罪の証明なら結構です! 私は喜んで追放されますので、どうかそのままお帰りください!」
「何を言っている! 貴様に新たな容疑がかかっているのだ!」
騎士の一人が叫び返しました。
「新たな容疑? なんですの? 私の美貌が罪だとか、そういう話?」
「黙れ! リリア嬢の愛用していた香水の瓶を、こっそりプロテインの粉末と入れ替えただろう! 彼女は今、プロテインを全身に浴びて真っ白になっているんだぞ!」
「……ぶっ!!」
私は思わず吹き出しました。
「お嬢様……まさか、それは……」
アンナの疑惑の眼差しが突き刺さります。
「……身に覚えがあるわ。昨日、ちょっと王宮の控え室に忍び込んだ時に、あまりにもリリア様の香水の匂いがキツかったから、健康的な粉末に変えておいてあげたのよ。親切心よ、親切心!」
「それを世間では嫌がらせと言うんです!」
「いいえ、美容よ! プロテインは肌にも髪にもいいんですから。彼女もいつか、大胸筋の素晴らしさに目覚めるはずだわ!」
私は馬車の速度を上げるよう、御者さんに指示を出しました。
「御者さん! もっと飛ばして! プロテイン泥棒として捕まるのは、私の美学に反しますわ!」
「ひえぇぇ、承知しました!」
馬車は猛然と加速し、騎士たちの罵声を置き去りにしていきました。
「……はぁ。お嬢様、これから先が思いやられます。北の辺境に着くまでに、これ以上何かやらかさないでくださいよ」
「失礼ね。私はいつだって、愛と筋肉のためにしか動かないわ」
私はふんぞり返って、高らかに笑いました。
悪役令嬢としての評判がこれ以上落ちようと、私には関係ありません。
目指すは、憧れのアレクセイ様が治める北の大地。
そこには、きっと香水なんてつけない、汗と努力の結晶である素晴らしい筋肉たちが待っているはずなのです。
「冤罪? いいえ、これは『自由へのパスポート』ですわ!」
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