断罪された悪役令嬢、行き先は推しの住む辺境ですが、何か問題でも?

萩月

文字の大きさ
3 / 28

3

しおりを挟む
ガタゴトと揺れる馬車の中で、私は優雅に(自称)お茶をすすっていました。

実際には、道が荒れているせいでカップの中身が半分くらいドレスに飛び散っていますが、そんなことは些細な問題です。

「お嬢様、落ち着いてください。先ほどからニヤニヤが止まっていませんよ。不気味です」

向かい側に座るアンナが、冷めた目で私を見ています。

「いいじゃない、アンナ。思い出していたのよ。セドリック殿下が突きつけてきた、あの『悪行の数々』をね」

「……ああ、あの濡れ衣ですね。よくもあんな出鱈目を並べ立てたものです」

アンナは憤慨したように鼻を鳴らしましたが、私はクスクスと笑い声を漏らしました。

「出鱈目? そうね、半分くらいは身に覚えがないわ。でも、リリア様の靴を全部右用に入れ替えたっていうのは、名案だと思わない?」

「……お嬢様がやったのではないのですか?」

「私なわけないじゃない。そんな面倒なことするくらいなら、その時間でアレクセイ様の肖像画を眺めているわ。たぶん、彼女の自作自演か、あるいは彼女の天然ボケが極まった結果でしょうね」

私は窓の外を流れる景色を見つめました。王都の洗練された街並みはもう見えません。

「でもね、アンナ。冤罪を晴らそうなんて、これっぽっちも思わなかったわ。だって、もし私が無実だと証明されたら、どうなると思う?」

「……普通なら、婚約破棄は撤回され、名誉が回復されるでしょうが」

「そう! それよ! 最悪だわ!」

私はテーブルをバンッ!と叩きました。

「婚約破棄が撤回? 冗談じゃない! あんな、鏡を見る時間の方が私と喋る時間より長い王子様と、一生添い遂げなきゃいけないのよ? 挙句の果てには、毎日お茶会と刺繍の日々……。そんなの、筋肉不足で私が枯れ果ててしまうわ!」

「筋肉不足、という言葉を初めて聞きました」

「だから、あの断罪は私にとって『神からのギフト』だったの。殿下がリリア様の涙に騙されてくれて、本当に良かった。彼が賢明な王子じゃなくて、本当に助かったわ!」

私は心の底から感謝の祈りを捧げました。

「もし今、王宮の使いが来て『冤罪だった、戻ってきてくれ』なんて言いに来たら、私はその場で全速力で逃走する自信があるわね。泥を塗られたままで結構。悪役令嬢、上等じゃない!」

「……お嬢様のポジティブさが、時々怖くなります」

アンナは深いため息をつき、お茶を飲み干しました。

その時、後方から馬の蹄の音が聞こえてきました。

「待てー! バートン侯爵令嬢、止まりなさい!」

追いかけてくる複数の影。制服からして、王宮直属の騎士のようです。

「あら、噂をすれば。もしかして、ローストビーフの食べ残しについて文句でも言いに来たのかしら?」

「お嬢様、そんなわけないでしょう! まさか本当に、連れ戻しに来たのでは……」

アンナの顔が青ざめます。

私は窓から身を乗り出し、追いすがってくる騎士たちに向かって叫びました。

「追っ手の皆さん、お疲れ様です! 忘れ物ならありませんわ! 冤罪の証明なら結構です! 私は喜んで追放されますので、どうかそのままお帰りください!」

「何を言っている! 貴様に新たな容疑がかかっているのだ!」

騎士の一人が叫び返しました。

「新たな容疑? なんですの? 私の美貌が罪だとか、そういう話?」

「黙れ! リリア嬢の愛用していた香水の瓶を、こっそりプロテインの粉末と入れ替えただろう! 彼女は今、プロテインを全身に浴びて真っ白になっているんだぞ!」

「……ぶっ!!」

私は思わず吹き出しました。

「お嬢様……まさか、それは……」

アンナの疑惑の眼差しが突き刺さります。

「……身に覚えがあるわ。昨日、ちょっと王宮の控え室に忍び込んだ時に、あまりにもリリア様の香水の匂いがキツかったから、健康的な粉末に変えておいてあげたのよ。親切心よ、親切心!」

「それを世間では嫌がらせと言うんです!」

「いいえ、美容よ! プロテインは肌にも髪にもいいんですから。彼女もいつか、大胸筋の素晴らしさに目覚めるはずだわ!」

私は馬車の速度を上げるよう、御者さんに指示を出しました。

「御者さん! もっと飛ばして! プロテイン泥棒として捕まるのは、私の美学に反しますわ!」

「ひえぇぇ、承知しました!」

馬車は猛然と加速し、騎士たちの罵声を置き去りにしていきました。

「……はぁ。お嬢様、これから先が思いやられます。北の辺境に着くまでに、これ以上何かやらかさないでくださいよ」

「失礼ね。私はいつだって、愛と筋肉のためにしか動かないわ」

私はふんぞり返って、高らかに笑いました。

悪役令嬢としての評判がこれ以上落ちようと、私には関係ありません。

目指すは、憧れのアレクセイ様が治める北の大地。

そこには、きっと香水なんてつけない、汗と努力の結晶である素晴らしい筋肉たちが待っているはずなのです。

「冤罪? いいえ、これは『自由へのパスポート』ですわ!」

私の高らかな宣言とともに、馬車は国境の砦を目指してひた走るのでした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

婚約破棄を申し入れたのは、父です ― 王子様、あなたの企みはお見通しです!

みかぼう。
恋愛
公爵令嬢クラリッサ・エインズワースは、王太子ルーファスの婚約者。 幼い日に「共に国を守ろう」と誓い合ったはずの彼は、 いま、別の令嬢マリアンヌに微笑んでいた。 そして――年末の舞踏会の夜。 「――この婚約、我らエインズワース家の名において、破棄させていただきます!」 エインズワース公爵が力強く宣言した瞬間、 王国の均衡は揺らぎ始める。 誇りを捨てず、誠実を貫く娘。 政の闇に挑む父。 陰謀を暴かんと手を伸ばす宰相の子。 そして――再び立ち上がる若き王女。 ――沈黙は逃げではなく、力の証。 公爵令嬢の誇りが、王国の未来を変える。 ――荘厳で静謐な政略ロマンス。 (本作品は小説家になろうにも掲載中です)

何も決めなかった王国は、静かに席を失う』

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として、 表には立たず、裏で国を支えてきた公爵令嬢ネフェリア。 だが―― 彼女が追い出されたのは、嫉妬でも陰謀でもなかった。 ただ一つ、「決める役割」を、国が彼女一人に押しつけていたからだ。 婚約破棄の後、ネフェリアを失った王国は変わろうとする。 制度を整え、会議を重ね、慎重に、正しく―― けれどその“正しさ”は、何一つ決断を生まなかった。 一方、帝国は違った。 完璧ではなくとも、期限内に返事をする。 責任を分け、判断を止めない。 その差は、やがて「呼ばれない会議」「残らない席」「知らされない決定」となって現れる。 王国は滅びない。 だが、何も決めない国は、静かに舞台の外へ追いやられていく。 ――そして迎える、最後の選択。 これは、 剣も魔法も振るわない“静かなざまぁ”。 何も決めなかった過去に、国そのものが向き合う物語。

白い結婚で結構ですわ。愛人持ちの夫に興味はありません

鍛高譚
恋愛
公爵令嬢ルチアーナは、王太子アルベルトとの政略結婚を命じられた。だが彼にはすでに愛する女性がいた。そこでルチアーナは、夫婦の義務を果たさない“白い結婚”を提案し、お互いに干渉しない関係を築くことに成功する。 「夫婦としての役目を求めないでくださいませ。その代わり、わたくしも自由にさせていただきますわ」 そうして始まった王太子妃としての優雅な生活。社交界では完璧な妃を演じつつ、裏では趣味の読書やお茶会を存分に楽しみ、面倒ごととは距離を置くつもりだった。 ——だが、夫は次第にルチアーナを気にし始める。 「最近、おまえが気になるんだ」 「もっと夫婦としての時間を持たないか?」 今さらそんなことを言われても、もう遅いのですわ。 愛人を優先しておいて、後になって本妻に興味を持つなんて、そんな都合の良い話はお断り。 わたくしは、自由を守るために、今日も紅茶を嗜みながら優雅に過ごしますわ——。 政略結婚から始まる痛快ざまぁ! 夫の後悔なんて知りませんわ “白い結婚”を謳歌する令嬢の、自由気ままなラブ&ざまぁストーリー!

【完】出来損ない令嬢は、双子の娘を持つ公爵様と契約結婚する~いつの間にか公爵様と7歳のかわいい双子たちに、めいっぱい溺愛されていました~

夏芽空
恋愛
子爵令嬢のエレナは、常に優秀な妹と比較され家族からひどい扱いを受けてきた。 しかし彼女は7歳の双子の娘を持つ公爵――ジオルトと契約結婚したことで、最低な家族の元を離れることができた。 しかも、条件は最高。公の場で妻を演じる以外は自由に過ごしていい上に、さらには給料までも出してくてれるという。 夢のような生活を手に入れた――と、思ったのもつかの間。 いきなり事件が発生してしまう。 結婚したその翌日に、双子の姉が令嬢教育の教育係をやめさせてしまった。 しかもジオルトは仕事で出かけていて、帰ってくるのはなんと一週間後だ。 (こうなったら、私がなんとかするしかないわ!) 腹をくくったエレナは、おもいきった行動を起こす。 それがきっかけとなり、ちょっと癖のある美少女双子義娘と、彼女たちよりもさらに癖の強いジオルトとの距離が縮まっていくのだった――。

断罪後の気楽な隠居生活をぶち壊したのは誰です!〜ここが乙女ゲームの世界だったなんて聞いていない〜

白雲八鈴
恋愛
全ては勘違いから始まった。  私はこの国の王子の一人であるラートウィンクルム殿下の婚約者だった。だけどこれは政略的な婚約。私を大人たちが良いように使おうとして『白銀の聖女』なんて通り名まで与えられた。  けれど、所詮偽物。本物が現れた時に私は気付かされた。あれ?もしかしてこの世界は乙女ゲームの世界なのでは?  関わり合う事を避け、婚約者の王子様から「貴様との婚約は破棄だ!」というお言葉をいただきました。  竜の谷に追放された私が血だらけの鎧を拾い。未だに乙女ゲームの世界から抜け出せていないのではと内心モヤモヤと思いながら過ごして行くことから始まる物語。 『私の居場所を奪った聖女様、貴女は何がしたいの?国を滅ぼしたい?』 ❋王都スタンピード編完結。次回投稿までかなりの時間が開くため、一旦閉じます。完結表記ですが、王都編が完結したと捉えてもらえればありがたいです。 *乙女ゲーム要素は少ないです。どちらかと言うとファンタジー要素の方が強いです。 *表現が不適切なところがあるかもしれませんが、その事に対して推奨しているわけではありません。物語としての表現です。不快であればそのまま閉じてください。 *いつもどおり程々に誤字脱字はあると思います。確認はしておりますが、どうしても漏れてしまっています。 *他のサイトでは別のタイトル名で投稿しております。小説家になろう様では異世界恋愛部門で日間8位となる評価をいただきました。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

処理中です...