魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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第一章 魔法少女大戦

アポカリプス

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 サイレンがけたたましく鳴っていた。
 天井にパイプ類が無骨に飛び出したまま艤装されていない、工場のような廊下だ。
 廊下のあちこちに設置された赤い警告灯が明滅を繰り返し、警報と思われるサイレンが鳴り響いている。
 工場――ではなく、むしろ船の中、それも戦艦や軍艦の類のような廊下だ。
 見ればあちこちで慌てた様子で走り回る人影がある。
 それぞれがカーキ色のジャケットを身につけており、ある者は大仰な武器やら弾薬やらを身につけ、アーマージャケットを羽織ってヘルメットなども被っている。
 普通に考えて、武装組織であろう事が確実にわかる。
 はっきり言えば『軍隊』と認識すべきだ。
 ならばここは軍艦、もしくは基地のような施設の中なのだろう。
 一人の職員――あえて兵員と表現しないのはその人物が女性であり、武装しておらず、書類の束の様な物を胸に抱えていたからだ――が、廊下の奥の重厚な扉を半ば体当たりのような勢いで肩からぶつかるようにして開けようとした。
 あまり背は高くない。むしろ小さい方であろう。どう見ても百五十センチ台半ばくらいしかなさそうだ。
 だが彼女は明らかに軍属であり、尚且つその制服の襟に光る階級章からすれば、士官のようだった。
 そうであるからにはどんなに若くとも二十二歳は超えているはずである。
 ――だが、しかし彼女に関してはもっとずっと若い印象だ。
 十代、高校生ぐらい、いや、下手をすれば中学生と言われても信じてしまうような幼い顔立ちである。
 首筋がようやっと隠れる程度のショートカットの明るい茶色い髪も手伝って余計に幼い印象を与えていた。
 そしてあまりに細く華奢な体付きと薄い胸が余計に彼女を幼く見せている。
 ドアは特にロックがかかっていたようでもなく、そもそもわずかに開いていたようだ。
 見るからに無骨で頑丈そうな重厚さの割には簡単にそのまま彼女に押されるままに開いて、彼女は自らの勢いで少しつんのめるようにしてその奥の部屋の中へと立ち入った。

「司令!! 幕僚長からの電文です!!」

 彼女はその部屋に入るなり慌てた様子で体勢を立て直しつつ、そう叫んだ。

「やっと来たか……」

 一人の背の高い女性が仁王立ち、と言っていい様子で肩幅ほどに足を開き、腕を組んで部屋の前面にある大型のモニタを食い入るように見つめながら呟くように言った。

「わかりきっていた事だ……。 通常の兵器ではあれらにはクソの役にも立たん」

 部屋に飛び込んできた若い女性士官ウェイヴに対して、というよりはまるで自分に言い聞かせるように彼女は続けて低くそう呟いた。
 そしてその言葉を聞いて、若い女性士官は目を見開き、上官同様に部屋の前方にある巨大なモニタを見つめた。
 その背の高い女性は腕を組んだまま、鋭く叫んだ。

「……ただいまより、状況は我々AMSTF対魔法少女特殊戦術部隊へと移譲された! 各自、第一種戦闘配備!! 繰り返す! 第一種戦闘配備!!」

 そう支持を出した女性もまた司令、と呼ばれるにしては随分若そうではあるが、物腰はまさに軍隊の高等士官そのものと言えた。
 周囲の人員が皆動揺を隠せずに室内全体に落ち着かない空気が蔓延してる中で――無論平常通り、とはいかないにしても――冷静に状況を判断し、その上で命令を下そうとしている。
 やはり、まさに『司令』なのであろう。

 見た目はせいぜい二十代半ばから後半くらいに見える。
 まさしくカラスの濡れ羽色とはこの事だろう、と誰もが思うような漆黒の艶やかな長い髪を首あたりから一本にまとめて垂らしている。
 毛先は腰近くにまで及ぶかなりの長さだ。
 元々色白であろうと思われるその顔は緊張のせいか、やや蒼白に見える……が、その美しさは少しも失われていない。
 ややきつい目付きをしているが、誰もがはっとするような美形である。
 蒼白でありながら、まるで口調とは裏腹に『この時を待ちわびていた』かのように頬は上気して少し赤く染まっていた。
 緊張した面持ちの中に、何かを期待しているかのような愉悦が少し入り交じったような、複雑な表情は何か恐ろしいような、だが見る者を虜にしてしまうような――あえて言うならば『背徳的でエロティック』な雰囲気すら湛えていた。

 「そうだ。『やつら』……人類最大の敵『魔法少女』がいよいよ我々の世界へ総攻撃をしてきた! 今まで時間をかけて準備してきた我らの力を今こそ振るえ!!」

 そう、周囲の部下達に――これもまた、まるで自分を納得させるかのような、落ち着かせるかのような様子ではあるが――そう口にして、彼女はギリ、と強く歯を食いしばりモニタを食い入るように――彼女、このAMSTF基地司令である黒井瑪瑙くろい・めのうはそれを見つめながら叫んだ。
 
 彼女が眼前に見据えるモニタには何百人――いや、千を超えているかも知れない――という多数の『少女』が黒いマントを羽織って空中に浮いている姿が映っていた。
 皆まさに『少女』と呼ぶにふさわしい、あまりにも『少女』としか表現できない存在だった。
 それだけの人数がいるというのに、その誰もが皆、せいぜい十代の半ばから後半程度にしか達してはいなかった。
 十歳~十六歳前後くらいに見える『少女』が大半だ。
 『童女』と言っても差し障りないくらいの者もかなり混じっている。
 それぞれが黒いマントに半分程度は隠されているものの、色とりどりのひらひらした派手ではあるが可愛らしい衣装を纏っていた。
 そして各々が何やらいろいろな形をした武器らしき物を携えている。。
 そのファンシーな絵面は、数から受ける圧迫感はともかくとしても、どこか滑稽で呑気ですらあった。
 ……だが、その背後にはその呑気そうな雰囲気とはまるでそぐわない、巨大な火柱が立ち上っていた。
 その火柱の手前には破壊された戦車や、武器、無残に殺された兵士の死体が累々と転がっていた。
 現実味のない、とても何か悪い冗談のような映像を見せられているようだった。

「人工魔法少女部隊……発進!!」

 瑪瑙が叫ぶとオペレーターが通信をしながら復唱した。

「了解! 人工魔法少女部隊……発進せよ!」

 そして黒井は先ほど部屋に飛び込んできた女性士官の方を見ようともせずに、彼女に対して怒鳴った。

志木しき!!」
「は、ハッ!!」

 志木と呼ばれた背の小さなウェイヴは慌てて敬礼しながら上官の命令を待った。

「博士のところへ行って、向こうを手伝ってやれ」
「は?」
「復唱はどうした!」
「は、ハッ! 志木めぐみ三尉!! これより圓道えんどう博士の手伝いに向かいます!」
「……よろしい」

 彼女はまた敬礼をすると、慌てて先ほど飛び込んできたドアを開けると司令室を走って出ていった。
 黒井は僅かに横目でその姿を見るとすぐに前に向きなおってまた叫んだ。

「よし! 対魔法防御シールドを張れ!!」
「了解! 対魔法防御シールド、展開!!」

 そして黒井はまた、モニタ越しにふわふわと浮いている魔法少女たちを睨みつけた。

「人工魔法少女部隊発進後、随時対魔法少女特殊部隊も発進させろ!!」

 オペレータが復唱するのを聞きながら、彼女は目の前の机に手を載せて口元を引き締めた。

「いよいよお出ましって事らしいぜ!」

 対魔法少女特殊部隊発進せよ、という建物内の放送を聞きながら、髪をツンツンに立てた若い自衛官はひとつ短く口笛を吹くと、座っていた施設の手すりから飛び降りた。

「このまま冷や飯食いで終わらなくてよかったぜ」

 その後ろでタレ目の少しニヒルそうな青年がそううそぶいてその手に持った特殊弾頭を撃てるライフルのマガジンを確認して照準器サイトを覗き込んで、撃つ真似をした。
 そして彼らの奥の通路から体の大きな髭だらけの中年男性がライフルを肩に担ぎながら出てきて怒鳴った。

「てめぇら!! 何をチンタラやってやがる!! 出撃だぞ!!」
「へいへい……わかってますって隊長殿!」

 さきほどのツンツン頭がにやけながら敬礼してボディアーマーを付けてライフルを構えて通路へと走った。
 周りには似たような装備の兵士たちが多数同じように出動のために基地の出口へと走っていた。

「よっしゃ! ボーナスはたっぷりもらうぜ!」
「おうよ! 豪遊としゃれこむぜ!」

 ツンツン頭とニヒルな青年の二人はそう言い合ってライフルの銃口をぶつけ合うと笑い合った。

「よし、鋼鉄魔神アイアン・イーヴィル隊! 行くぞぉ!!」

 髭面の隊長が叫ぶと数人の部下がそれぞれ武器を構えながらジープに乗り、合計三台、少女たちの元へと走り出した。
 それに付随するように十数台のジープや装甲車、戦車がそれに続いた。

「よりによって俺らの基地の真ん前に出てくるとは……マヌケなヤツラだぜ!」

 ツンツンに髪を立てた若い自衛官が叫んでライフルを構える。

「おい! アマ公! あまりはしゃぐな!!」

 隊長が怒鳴ると彼は舌を出した。
 アマ公というのは彼のあだ名である。
 彼は名前を天城祐騎あまぎ・ゆうきというのだ。
 その名字をもじって付けられたあだ名である。
 そして彼の相棒であるニヒルそうな青年は名を折原翔斗おりはら・しょうとという。
 防衛大学以来の腐れ縁である。

 大量に空に浮かぶ魔法少女たちが見えてくると、天城は舌なめずりをした。

「ははっ、こいつは大漁だ……」

 そう言って照準を構えると射程内に目標が入るのを待った。

「そろそろ基地からの砲撃が始まるぞ! キサマら、耳をふさげ!!」

 隊長がそう怒鳴ると隊員たちは一斉に耳を塞いだ。
 彼らが今来た方角から多数のミサイルやら砲弾が飛んでくるのが見えた。

「ひゃぁ! こいつは盛大なパーティだぜ!!」

 天城が空を見上げて声をあげるとその頭上を砲弾の雨が通り過ぎて魔法少女たちの軍団へと突き刺さった。


 司令室では黒井が傍らにあった軍刀を腰に付け、官帽を被ってまたモニタを見据えていた。

「砲撃はどうか?」
「敵が多すぎてあまり効果がありません!!」

 オペレータの返事を聞いて、彼女は頷いた。

「……だろうな」

 それでもモニタで多数の魔法少女が攻撃で吹き飛んでいく様が映し出されていた。

「人工魔法少女部隊はまだか? ……通信を博士に繋げ!!」

 黒井が鋭い声で叫ぶとモニタの端に小さいウインドウが開いてぼさぼさ髪の中年男性が映し出された。

「おう、黒井くんか! 発射用のリボルバーカノンの調子が悪い、すまんがあと少し持たせてくれ」

 彼がそう言うのを聞いて黒井はギリ、と一瞬唇を噛んだ。

「博士、何分かかる?」
「三分……いや二分でいい、頼む」
「……了解した」

 彼女はそう短く応えると通信を切ってオペレーターに叫んだ。

「第二次砲撃を開始しろ!!」
「了解!! 第二次砲撃開始!!」



 通信を聞いていた隊長がまた怒鳴った。
「第二次砲撃が来るぞぉ!!」
「了解!」

 天城と折原は耳を塞いで砲撃がまた魔法少女の集団へと炸裂するのを眺めた。

「おいおい~。 砲撃は一旦やめて俺らが突入した方がいいんじゃね?」

 天城がそう言うと、折原が頷いた。

「だな!」

 そして二人はジープを飛び降りるとライフルを抱えて走った。

「おいっ! てめえら!! 勝手に動くな!!」

 隊長が怒鳴るのを後目に二人は走ってライフルを乱射した。

「おらおらっ! 魔法弾を食らえ!!」

 天城が叫ぶと彼らから少し離れた所にいた魔法少女がばたばたと倒れていく。
 彼は少し妙だ、と思いながらもトリガーを引き続けた。
 本来は魔法少女は魔法の力で殺されると塩の塊となるのだ。
 だが、どういうわけか彼女たちはそうならずに無残な死体を晒していた。
 そして二人に気づいて魔法少女の集団が押し寄せる。

「ハッ、よりどりみどりだぜ!」

 天城は嬉しそうにそう言うと胸に付けていた手榴弾を外すとピンを抜いて放り投げた。

「ば、バカ野郎! そんなの投げるなら先に言え!!」

 折原が叫んで慌てて地に伏せた。
 天城もにやついた顔で血に伏せると、すぐ後に魔法少女が数人吹き飛んだ。
 二人は顔を見合わせるとすぐに起き上がってライフルを撃ちまくった。

「バッカ野郎ども! 無茶しやがって!!」

 隊長も叫びながら彼らの所へと飛び込んできて、同じようにライフルを撃った。
 彼らの周りにも他の隊員たちが集まってきて、四方へと銃弾の雨を降らせた。、



「志木くん! リボルバーカノンの準備をしてくれ」

 博士が叫ぶと志木ははい、と返事をして操作パネルを操作した。

「よ~し、リボルバーカノン発射だ」

 彼はそう言って、操作パネルの前面にある大きなボタンを殴るように叩いた。
 博士と志木の目の前にある巨大なリボルバーの拳銃の弾倉のようなものが機械音と共にせりあがっていく。
 それが彼らのいる施設の屋上へと出るとそこにあった巨大な銃身のような装置へと接続された。

「人工魔法少女発進!!」

 博士が叫ぶとその巨大な砲身から黒い人間大の弾丸が発射された。
 一発ずつ、合計六発。
 それは雲を引いて、魔法少女たちの集団へと飛んでいく。
 そして直前でそれは割れて、中から全身にぴったりとしたスーツを着て、腕や足にアーマーを付け、ジェット機のような翼を付けた少女の姿になると、魔法少女の集団の中へ踊るように飛び込んでいった。

「目標発見。 排除開始……」

 それのひとつがそう呟くように言って、腕を上げた。



「おお? 我が部隊が誇る人工魔法少女のお出ましだぜ?」

 折原が遠くを見ながら言うと天城が顔を上げた。

「マジかよ……。 あいつらに手柄全部持ってかれちまうぜ……」

 彼はライフルのマガジンを交換すると、すぐにまた撃ち始めた。
 彼らの奮闘によってその一帯の魔法少女は確実に数を減らしていった。

「ははは!! なんでえ大した事ねえな、魔法少女とやらも!」

 天城は勝ち誇ったように叫んでライフルの銃口を空に向けた。

「……なんか手ごたえがなさすぎる気がするがな」

 折原はそう言いながら周囲を見回す。
 隊長はそんな二人を見ながらしきりに何か考え込んでいるようだった。
 そして隊長は立ち上がって双眼鏡で魔法少女たちのいる方向を眺めた。

「おい、おりは……」

 隊長がそう折原を呼ぼうとしてそのまま固まった。

「なんすか? 隊長……」

 折原が彼を見上げるとその顔にぽたぽたと何がが滴り落ちた。
 それは隊長の額に空いた穴から垂れる血だった。

「な……!! た、隊長?!」

 隊長はすでに事切れていて、そのまま前のめりにどさり、と音を立てて倒れた。
 折原と天城はその顔に緊張を漲らせて周囲を見回す。

 すると少し離れたところから黒いマントを羽織った魔法少女と思しき影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
 二人が身構えるとその影はフードを上げた。
 目を見張るような若草色の髪、夕焼けのように燃えるような色の瞳。
 そしてそいつはマントを脱ぎ捨てた。
 目が覚めるようなオレンジ色の魔導鎧マギカ・アルマ

「まぁ、あんまり簡単にやられちゃうのも面白くないっすから……」

 それはそう呟くように言って、左右の手を胸のあたりでクロスするように構えた。
 するとその手にオレンジ色のハンドガンのようなものが光の粒子とともに現れた。

「あたしは精一杯抵抗させていただくっす。 ……いくっすよ」

「上等だぁ! この野郎!!」

 天城が叫んでライフルを撃つと、そいつは素早い動きでまるで弾を避けるように動いて彼の目の前に立った。
 そしてその燃えるような瞳で彼を見下ろすと口元を少し歪めて笑った。

「そんなもんすか?」

「んなろぉ!!」

 天城は胸のシースからコンバットナイフを引き抜きながらそいつに向かって突き立てた。
 だがその刃先は空を切った。
 気づけばそいつは数メートル離れた所に立って、やれやれ、というように手を広げていた。

 そいつの背後で折原がライフルを構えた。
 直後、折原の頭を銃弾が撃ち抜き、彼の頭はまるでトマトのようにぐちゃりと潰れた。

「な、お、折原!!」

 天城が叫ぶと周りで仲間の兵士たちの頭がどんどんと同じようにひしゃげて潰れていった。

 そして彼の前にいるそいつは遠くを見て、軽く舌打ちをした。

「ちっ……アイツ、余計な事をしやがってっす」

 その視線の先を思わず天城が追うと、遥か遠くにまるで対戦車ライフルのような長い青い銃を構えた、水色の髪の魔法少女がその銃を構えながら笑っていた。

「まぁいいっす。 あんただけはあたしがカタを付けてあげましょう」

 そいつはそう言って、まるで明後日の方向へとその両手のハンドガンの弾を左右一発ずつ放った。

「ハッ、どこへ撃って……」

 天城がそう言っている間に彼の頭はスイカ割りのスイカのように砕け散った。

「すいませんっす。 あたしの弾丸タマはどっからでも当てられるんす……」

 そう呟くと、そいつの両手からその銃は消えてなくなり、そいつは逆方向へとゆっくりと歩いていった。
 そして最後にこう、呟いた。

「フン。 大した事ないっすね、AMSTFとやらも……」




 六体の人工魔法少女の前にも別の魔法少女が立ちはだかった。

「よう。 てめえらが人工魔法少女かい?」

 そいつは口を歪めて不敵にそう笑いながら声をかけた。

「……排除対象と確認。 攻撃開始」

 一体の人工魔法少女がそう呟いて腕を上げると腕に装着したアーマーからビームが発射される。
 だがその影はどこからいつの間に取りだしたのか、長さ五十センチ程度の二本の棒状のものを両手に持ち、それでビーム弾くと、その棒を肩に担ぐようにした。

「せっかちだなぁ。 まぁ、そんなに焦りなさんな」

 そいつは呆れたようにそう言ってフードを上げた。
 その魔法少女も黒いマントを脱ぎ捨てると、今度は背中にまるで雷様の太鼓のような物を装着した。
 黒いくせ毛のロングヘア、黒くて吊り上がった強気そうな瞳。前髪には稲妻型の赤いメッシュが入っている。
 その魔導鎧マギカ・アルマは全身真っ黒で魔法少女には珍しいレオタードスタイルで、足の先まで真っ黒いスーツに覆われている。
 そいつは手に持った棒をくっつけるとそのまま一本の長い棒へと変化させてまるで功夫の棒術のようにそれを構えた。
 その姿はまるで西遊記に出てくる孫悟空である。
 そいつがその棒状の魔法少女それぞれの固有の武器、魔導杖ロッドを振るうと、瞬時に空に雷鳴が轟き人工魔法少女の一人に落雷が突き刺さった。
 雷に撃たれた人工魔法少女は声もなく黒焦げになって地上へと落下していく。

「へへ……油断はすんなよ」

 そいつはそう言って魔導杖を構えて、右手の親指で鼻の頭を擦った。
 するとそいつの背後からもう一人マントをまとった魔法少女がすぅ、と前に出てそいつの隣へと並んだ。

「ああン? なんだよ。 一人でいいっつったのによ」
「つれない事を言うもんじゃないわ。 私にも少しは遊ばせてくれなきゃ」

 そう言いながら もう一人もマントを脱ぎ捨てた。
 水色の魔導鎧を身に着けた銀髪のメガネをかけた理知的な雰囲気の魔法少女である。
 その衣装はノースリーブで大きな襟が付いていて、下はタイトスカートである。
 少し褐色の肌をしていて、冷たそうな眼差しが印象的だった。
 そいつが右手を振るとその手に如何にも魔法の杖という形状の魔導杖が現れ、それを構えた。
 その魔導杖をぐい、と前に出すとまた別の人工魔法少女が一瞬で凍りついて先ほどと同じように地上へと落下していった。

 残った四人の人工魔法少女たちはその体の前に光輝く魔法陣のような物を浮かび上がらせて身構えている。

「……そんじゃ遠慮なく」
「行かせてもらうとしようかしらね」

 二人の魔法少女は背中合わせに立って自らの魔導杖を構えた。




 AMSTF対魔法少女特殊戦術部隊の司令室では変わらず黒井司令が仁王立ちでモニタを見つめていた。

「司令! 各部隊が個別に撃破されています! 第一、第二、第三部隊音信不通! 人工魔法少女もすでに二体が撃破されました!」

 オペレータがそう叫ぶと黒井はモニタを見つめたまま、呟いた。

「称号持ちが出てきたか……」

 そして彼女は声を張り上げた。

「構わん! 出せるだけの部隊を出せ!! 砲撃も引き続き行え! 少しでも奴らの数を減らせ!」
「りょ、了解!」

 オペレータが慌てて他部署に通信を始めるのを聞きながら黒井はギリ、と唇を噛んだ。

「え……!! だ、第七、第八、第九部隊……沈黙!! な、なにかしら? これ……」
「なんだと? そちらの映像を回せ!!」

 黒井の声にモニタに映し出されたのは巨大なクレーターだった。
 まるで今この時にできたとしか思えない。
 その巨大な穴の中は何もかもが赤熱化して溶けていた。
 それはまるでマグマのようだ。

 よく見るとその真っ赤に燃え盛る穴の上空に小さな影が浮かんでいた。

「あの影を拡大しろ! 急げ!!」

 黒井の声にそれはだんだんとズームアップされていった。
 そいつは長い金髪を熱でなびかせた、青い色のビキニのような魔導鎧を身に着けた魔法少女だった。
 腰に巻かれた布もまた髪の毛と同様にはためいている。
 その手には弓矢のような魔導杖が握られていた。
 彼女の姿はまるで戦場に立つ戦乙女ヴァルキリーのようだ。

 クレーターの遥か後方では第十、第十一部隊の兵士たちがその顔に恐怖を貼り付けたままじりじりと後退しているのが見える。
 魔法少女は無表情のままその弓に矢をつがえるとそれを天空へと向けて放った。
 
 するとすぐに状況の変化は現れた。
 なんと遥か上空に巨大な隕石が炎を上げながら撤退している部隊へと向かって堕ちていくのが見えた。
 その巨大さと速度では明らかに逃げるのは不可能だろう。
 兵士たちの顔に絶望の色が広がっていった。

 そして少しすると隕石は堕ち、まるで地獄の蓋が開いたかのような惨状と化した。
 土も木もコンクリートも鉄も地形すら変わるくらいのただただ大きな災害。
 それは災害としか表現ができないほどの強大な『暴力』だった。
 そこに生きる者などもうひとつも存在しないだろう。

 魔法少女はそのコバルトブルーの瞳になんの感慨の色も見せずに弓を下ろした。

星を喚ぶ者スターダスト・コーラーの称号は伊達じゃなくってよ?」

 そいつはそううそぶいてその手の中の魔導杖を消した。

「ば、バカな……あれは……」
「だ、第十、十一部隊……沈黙……」

 オペレータの報告を聞くまでもなく、黒井はその普段の冷静さからはあり得ないほど取り乱した様子でよろけるとその傍らの机にぶつかった。

「き、基地前方に魔法少女が現れました!」

 オペレータの怒鳴り声に黒井はその瞳だけをそちらへと向けた。
 そこには明らかな焦燥感が浮かんでいる。

「か、拡大しろ!」

 彼女はそう怒鳴りつけて机に手をついて立ち上がるとモニタを凝視した。

「一人……だと?」

 黒井が目を剥いて食い入るようにその姿を見つめていると、その小さな影はフードを下ろして頭の後ろへと跳ね上げた。
 ハチミツ色の鮮やかな金髪、エメラルドグリーンの瞳。
 そして彼女は空中にいかにも魔法使い、という形をしたよれよれのとんがり帽子を発現させるとそれの縁を両手で握って頭に被った。
 サイズが大きいらしくそれはすとんと落ちて彼女の顔を覆った。
 すぐに慌てるように帽子を持ち上げると彼女はそのままマントを脱ぎ捨てた。
 その体はとても小さく、まだ十一~二歳程度に見える。

 真っ白なビスチェのような上半身、ふわふわと膨らんだミニスカートに、太ももまでのロングブーツ。
 腕にも二の腕までの長い手袋をつけていた。
 それぞれ端には赤いラインが入るデザインである。
 胸にはやたら大きなジッパーの取っ手がぶら下がっていた。
 奇しくもその意匠は先に登場したオレンジ色と青色の魔法少女の物とよく似ていた。

「……斬るか」

 そいつはそう独り言のように口にした。

 黒井は顔面を蒼白にして息も絶え絶えな様子でこう、呟いた。

「ま、まさか……そんな……。 あ、あれは……『乙女災害ディザスター・メイデン』……」

 そしてすぐにハッとした顔になると大声で怒鳴った。

「貴様ら!! 全員伏せろ!!」
「は?」

 オペレータがぽかんとした顔で聞くと黒井はまた怒鳴る。

「いいから! 早く伏せろ!! できれば物陰に隠れろ!!」

 そして黒井本人も頑丈そうな机の下に潜り込んだ。

 その魔法少女の背後に突然亀裂が入った。
 そうどういうわけか何もない空間にまるでガラスのようにヒビが入っていくのだ。
 パリン、と軽い音を立てて穴が空くとそこから少しずつ何やら黒い棒状のものがせり出てきた。
 そいつはそれを無造作に右手でつかむと一気に引き抜いた。
 
 それは巨大な……刃渡りが軽く二メートルを超すであろう……大きな大きな剣だった。
 禍々しくその色は真っ黒である。
 剣、というにはあまりにも大雑把な形をしていて、それはどちらかというと巨大な出刃包丁のようでもある。

 引き抜いたそれを彼女が頭の上に振り上げた次の瞬間、AMSTFの基地は潰れた。
 そう、文字通り……『潰れた』のである。
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