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第一章 魔法少女大戦
魔法少女がやってきた
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AMSTF《対魔法少女特殊戦術部隊》と魔法少女たちとの戦闘が行われる数日前へと時間は戻る。
『男性が失踪する事件が相次いでいる』――・
世間でそんなニュースが囁かれ出して、テレビやネットなどを賑わわせ始めたのはその頃だった。
年齢は関係なく日本中でまったくのランダムに突如として男性が消えてしまうのだ。
まさに文字通り『蒸発』してしまうかのように姿を消す。
そんな事件が起きているらしい。
下は中学生から上は四十代くらい。
まったく節操がなく突如消えてしまうとの事だった。
マスコミが騒ぎ出すという事はすでにかなりの数の失踪者が出たという事を表していた。
ネットではもっとかなり前から話題にされていた事だ。
もっとも男性であるというだけで無関係ではないのだが、そんな雲をつかむような話は一介の男子高校生である彼にはどうでもいい事だった。
彼、圓道生朗は今現在すでに何もかもやる気をなくしていて、非常にナーバスになっていた。
何かしらで気を紛らわせていないと、ずるずると気分がずり下がって落ち込んでいくような、そんな気持ちに囚われていた。
何でか? と聞かれたら今の彼であればきっと、何もかも、と答えるだろう。
夏の終わり、と言ってももうすでに九月に入っている。
まぁ彼ら学生にとっては夏の終わりというのはイコール夏休みの終わりみたいなもので、つまり彼にとっては今年の夏はもうとっくに終わっている。
ただ異常気象のせいかとても残暑が厳しく、九月に入っても連日最高気温が三十度を上回るような日が続いていた。
まるで今際の際に陥った夏そのものが意思を持って断末魔に苦しみながら、その呪いを全国に振りまいているんじゃないか?
そんなくだらない事を考えて彼はファーストフード店の窓際のカウンター席で苦笑した。
そして彼は仏頂面になると、目の前の紙コップに刺さったストローを咥えて、ずず、と中の液体を啜った。
氷がもうあらかた溶けていて、薄い味になった不味いコーラ、不純物の混じった氷水のようなそれを飲みながら彼は手元のスマートフォンを指先でちょいちょいとつついていた。
その画面にさっきの『失踪事件』の記事が映ったのがなんとなく彼の目に入ったのだ。
「いっそ俺も失踪してぇ……」
彼はそう独り言ちて、項垂れてカウンターのテーブルに突っ伏した。
高二の夏、それは本来青春の一ページに刻まれるような素敵なものだったはずだ、と彼は勝手に自分でイメージしていたのだが、ようするに今年の夏も何もなかった。
ただそれだけの事でここまで落ち込める、それこそが若さであろう。
ふと気づくと落ち込んで突っ伏している彼の背中をちょんちょん、と突く者がいる。
「センパイ、センパイ」
その可愛らしい声に彼はすごい勢いで起き上がるとその声の主を見た。
果たしてそこには背の小さなセーラー服を着た女子生徒が大きな目をまん丸くして彼を見ていた。
イクローにはその女子生徒には見覚えはなかった。
ショートカットで天パ気味のくりくりとした柔らかそうな茶色い髪、もみあげだけ長く伸ばした特徴的な髪型。
大きな髪と同じ茶色のどんぐり眼とふっくらした頬。
十二分以上の美少女である。
少しボーイッシュな印象を受けるそのわんぱく小僧のような無邪気な人懐こそうな表情も好感が持てるものだった。
そして何よりも背が小さいのに、とても胸が大きい。
これはイクローにとってはとんでもなくポイントが高いのだ。
全身がふっくらとしていてなんというかとても健康的なお色気を持った少女である。
なるほど、センパイ、と言うだけあって彼女は彼が通う高校の制服を着ている。
そして一年生である事を示す緑色のスカーフが目立っていた、
「き、きき、君は?」
イクローは思わず上ずった声でそう言って、その後自らに落ち着け、落ち着け、と心の中で言い聞かせた。
彼女は、にぱ、としか表現のできない笑顔をして、彼のとなりにいそいそと腰かけるとぺこり、と頭を下げた。
「あたしは一年三組、馬礼田まと、と言うっす。 以後お見知りおきをっす」
「お、おお……よろしく」
彼の手を彼女はとってぶんぶんと振って握手すると、そのどんぐり眼で彼をじっと見つめた。
「圓道イクロー……センパイっすよね?」
名を呼ばれて彼は驚いて目を瞬かせた。
「あ、ああ……俺の事をなんで知ってるんだ?」
彼は素直にそう尋ねると、まとはまたにぱ、と笑った。
「前からセンパイの事を見てたっすから!」
彼女は屈託なくそう言ってまた嬉しそうに笑った。
(え? マジ? 何? なんなの? なんかこれ……告られたりするの? なんか俺の青春がとうとう来たの?)
イクローはドキドキと心臓が高鳴るのを感じて頭の中でぐるぐるとそんな事を考えてから、ひとつ深呼吸をすると彼にとっての一番いい顔で彼女を見つめた。
「……そう? で、俺になんの用かな?」
彼はそう言って歯が光りそうな笑顔を見せた。
「ええとっすね……」
まとは言いながらごそごそと制服の胸ポケットに手を突っ込んで探った。
「あ、あった。 これっす、これこれ!」
「どれ?」
彼が彼女の手のひらの上の紙片を見つめて目を瞬かせると、彼女はそれをつまみ上げて差し出した。
「ナニコレ?」
イクローはそれを広げてみた。
そこにはなにやらURLのようなものが書いてあった。
「なんかのサイト?」
彼が尋ねるとまとはなんか急に真面目な顔になって頷いた。
「今スマホで見ちゃダメっす! 必ず、必ずっすよ。 家に帰ってからPCで見て欲しいっす!」
彼女の真面目な様子にイクローは思わず頷いた。
「スマホで見たらちっちゃくなっちゃうっす!」
彼女はなぜか少し必死な様子でそう言って胸のあたりで拳を握りしめた。
「あ? ああ、そうだな?」
「絶対っす。 あたしとの約束っすよ?」
「わ、わかった」
イクローが彼女の勢いに気おされて返事をすると彼女は安心したように、にぱ、と笑うと椅子から立ち上がった。
「それではあたしは今日の所はこれで失礼するっす。 ……またお会いしましょうっす!」
彼女はそう言ってぺこり、と頭を下げるととてとてで走り去っていった。
「な、なんだったんだ……あの子?」
彼はぽかんとその後ろ姿を見送りながらそう言って、彼女に手渡されたメモをしげしげと眺めた。
すると彼の後ろ頭を少々乱暴に叩かれた。
「よう、イクロー。 何やってんのお前?」
イクローが振り返るとひょろっとして背の高い男子高校生が不思議そうな顔で彼を見ていた。
彼の名は市馬泰二。
イクローのクラスメイトで、わかりやすく言えば悪友のような関係である。
友達の少ない彼にとってはありがたい存在ではあった。
「おぉ、タイジか」
「なんだお前? ぼんやりして」
彼は言いながらコーラの入った紙コップの載ったトレイをテーブルに置いて少し乱暴に腰かけた。
「んだよ、ぼっちで座ってんの見かけたからこうしてわざわざ来てやったのによ」
「ワリ」
イクローは彼の言葉にそう返してからメモを胸ポケットへとしまい込んだ。
別に悪いとは思ってはいないのだが、一応詫びの言葉を発しておく方が人間関係はスムーズに進むのだ、などとわけのわからない事を考えながらスマホに目を落とした。
まぁ、ありふれた男子高校生同士のありふれた日常におけるありふれた状況だろう。
別に二人が仲が悪いわけでもなく、必要以上に男同士でベタベタするのも気持ち悪いしと思ってる本当に普通の男子高生同士である。
「なぁ、タイジ」
「あン?」
「……馬礼田まとって娘知ってる?」
イクローがそう聞くと、タイジは一瞬目をぱちくりとしばばいてから大げさにガタガタと音を立てて椅子から立ち上がった。
「お、お前……まとちゃんに興味を持ったのか!?」
「いや、さっき知ったんだけど……」
彼がそう応えるとタイジは椅子に座り直してクソ真面目な顔でイクローを見つめた。
「いや、いい趣味をしてるぜ……イクロー」
「何がだ?」
「馬礼田まとちゃんと言えば……入学当時から俺が目を付けている一年生では五本の指に入る美少女だからな」
タイジはなぜか自慢そうにそう言って荒い鼻息を吐き出した。
「そうなのか……たしかに可愛い子だったな」
イクローは彼女を思い出しながらそう口にした。
何かが引っかかる。
それが何かはわからないのだが、何かが引っかかるのだ。
タイジと別れて家に帰るとイクローはぼぅっとしながらPCでネットを見始めた。
制服を着替えてTシャツにハーフパンツというラフな格好である。
そのうち、彼はまとに渡された例ののURLの書かれたメモを思い出して、制服のシャツのポケットを探り始めた。
「ああ、これだ」
彼はメモを手に持ってPCの前に座りなおすと、そのURLをブラウザの上部の検索バーへと打ち込んだ。
刹那、画面が激しく光を発した、と思ったらブラウザの画面は真っ黒になった。
「あれ? おかしいな……」
彼が不思議そうにその真っ黒なブラウザを覗き込むと突然そこにエメラルド色の瞳が映ってこちらを見つめた。
「う、うわぁぁぁ!」
イクローは驚いて慌ててブラウザバックボタンを押すと、それは別に何もおかしい事はなく普通に前の画面へと戻った。
だが、彼は確かに聞いた。
ブラウザバックボタンを押す少し前のその瞬間にその画面から小さな声がしたのを。
「見……ツケ……タ」
その声はたしかにそう言っていた。
あまりの不気味さに彼は座ったまま茫然としてPCの画面を見つめた。
見つけた? 何を? ……俺を?
イクローは考えると怖気を感じて、とりあえず部屋を出ると台所へ行って冷蔵庫を開けた。
「あれ? 飲み物何もないじゃん……」
彼はそう呟いて冷蔵庫のドアを閉じると居間に向かって声をかけた。
「母さ~ん! 飲み物切れてるから俺ちょっとコンビニ行ってくるわ」
「は~い。 いってらっしゃ~い」
居間でテレビを見ている母親の呑気な声を聞くと彼はなんとなく安心して部屋へ戻ると自分の財布を引っ掴んで表へと出た。
もう外は真っ暗だったが、それでも妙に湿気が多く暑苦しかった。
昼に太陽に充分以上に熱せられたアスファルトからむわっと熱気が立ち上っている。
その嫌な暑さにうんざりした顔をしながらイクローは夜の道をとぼとぼと歩いて三分くらいのコンビニへと向かった。
道の端にある街灯に大きな蛾がぶつかってバシバシと音を立てていた。
イクローはまた歩いて次の街灯の下にくる、やはり大きな蛾が電灯にぶつかっていた。
彼はそのまま歩き続けたが、ふとおかしい、と思った。
どの街灯の下にもまったく同じ大きな蛾がいて街灯に体をぶつけていたのだ。
そして、歩いてほんの三分ほどのコンビニが未だに見えても来ない。
おかしい。
彼が立ち止まって怪訝そうな顔で辺りを見回すと、いつから居たのか反対側にこの暑いのに全身にマントのような服を着た女が立っていた。
彼女はフードを上げるとにっこりとほほ笑んだ。
顔を見ればまだ若い。
中学生か高校生か……そのくらいに見えた。
まだ『少女』と言っていい年齢だろう。
もしかして知り合いだろうか? と思いイクローもぎこちなく笑顔を浮かべた。
刹那、一気にその少女は距離を詰めて彼の目の前に来るとその腕をつかんだ。
「ねぇ、お兄さん。 私に付き合ってくれない?」
「ど、どこへ?」
イクローは驚きながら聞き返したが彼女はまたふわりと笑って彼の手を引いた。
「いいとこ……」
そして、ろ、と言いかけながら彼女は突然真っ白な砂のようになって崩れ落ちた。
「な、な、な……!!」
イクローは驚きのあまりその場にへたり込んで尻もちをついた。
すると、街灯のない暗い路地から人影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
セーラー服を着たその両手にはまるでおもちゃのようなオレンジ色の拳銃のようなものが握られている。
右手に持った方の銃口からうっすらと煙を引いていた。
その人影が明かりの下へと姿を現すと、イクローは思わず叫んだ。
「ま、まとちゃん?!」
彼女は馬鈴田まと、その人だった。
「危なかったっす。 センパイ」
彼女はそう言いながら、にぱ、と笑顔を見せた。
そして彼女の髪が少しずつ茶色から目の覚めるような若草のような黄緑色へと変わっていき、その瞳もまるで夕方の太陽のような燃えるような赤オレンジ色へと変わっていった。
「すいませんっす。 結界を破るのに少し手間取っちまったす」
まとはそう言ってぺこり、と頭を下げた。
「な、なんなんだ? これは……なんなんだ?」
イクローが狼狽えながら叫ぶと、まとはきょとんとした顔で首を傾げた。
「姐さんに会わなかったっすか?」
「だ、誰だって?」
「キルカ姐さんっす」
「だ、だから誰?」
イクローの様子にまとは考え込むような顔になった。
「センパイ。 もしかしてあたしのあげたメモのサイトにアクセスしてないんすか?」
「いや、した……でも不気味だったからすぐブラウザバックしちまった!」
彼がそう言うと、まとはあちゃー、という顔をしてその目のあたりを押さえた。
「すんませんっす。 あたし、ちゃん言っておけばよかったす……開いてしばらくそのまま待ってくださいっす」
「やだよ、気持ち悪い!!」
イクローが叫ぶとまとはふくれ面になって口をとがらせた。
「気持ち悪いとはなんすか!! あんなかわいいお人に向かって!!」
「か、かわいい?」
彼が呆気に取られて聞き返すと、まとはまだ怒った顔で言った。
「そうすればキルカ姐さんに会えるはずっす。 そうしたらわかるっす」
イクローの脳内の処理能力は限界を迎えていたが、そこでハッとしてまた叫んだ。
「と、とりあえずわけがわからないんだ! 説明してくれよ!!」
するとまとは困った顔になった。
「すいませんっす。 あたしにはその権限がないんす。 とにかくキルカ姐さんに会っていただければ、全部説明してもらえると思うっす」
彼女はそう言ってまたぺこり、と頭を下げた。
一応彼に対して敬意を払っているという事は彼女はどうやら敵ではないのだろう、とはイクローは思った。
そして根源的な質問をすることにした。
「じゃあ、これだけは教えてくれ」
「なんすか?」
まとは真ん丸い目をさらに大きく丸くして聞き返した。
その間に彼女の髪と瞳がまただんだんと茶色へと戻っていった。
「お前は……何者なんだ?」
彼の問いにまとはまた、にぱ、と笑顔を見せた。
「あたしは魔法少女っす。 魔法少女バレッタっす」
そして彼女の両手のオレンジ色の拳銃のようなものも光の粒子のようになってすぅ、と消えていった。
「ま、魔法……少女?」
イクローが呆けた顔で聞き返すと、まと、いやバレッタは笑顔で力強く頷いた。
「っす!」
そしてバレッタが護衛をする、と言って聞かないので二人並んでコンビニへと行き買い物をした帰り道。
「ほら」
イクローはコンビニで買ったゴリゴリくんというアイスを袋から取り出してバレッタに渡した。
「え? いいんすか? ありがとうございますっす!!」
彼女は嬉しそうにゴリゴリくんを手に取るとその坊主頭のゴリラの描かれた包み紙をバリバリと裂いて丸めて空中へと放り投げた。
「ばん!」
バレッタは指鉄砲で狙いをつけながらそう口にした。
次の瞬間アイスの包み紙はぽん、と小さな音を立てて爆発して消えてなくなった。
「それも……魔法、なのか?」
ゴリゴリくんを咥えながらイクローが尋ねるとバレッタは頷いた。
「そっす。 便利でしょ?」
「まぁな……」
二人アイスを齧りながら夜道を歩く。
イクローは嬉しそうにアイスを食べるバレッタを眺めて思った。
本当にどうやら彼の護衛をしているように見えるし、彼女は本当に敵ではないのだろう。
そもそもどこからどう見ても人を騙せるタイプには思えなかった。
家の前でバレッタと別れ、イクローは自分の部屋へと戻るとPCのスリープを解除して、ごくり、と唾を飲み込んだ。
「よ、よし……やってみるか!」
彼は意を決して例のURLをまた入力した。
なぜかなんとも言えない緊張感を覚える。はっきりいって不気味だ。気持ち悪かった。
暑さも手伝って喉がカラカラに渇いていて、気管が貼り付きそうだ。
彼は傍らに置いてあったコップに注いだコーラを一気に飲み干すと、ぷはー、と声を上げて落ち着きを取り戻す。
そして真っ黒だった画面が切り替わる。
グロ動画もグロ画像も表示されはしなかった。
ただ画面からすごい光が発散された。
「なんだこれ…? なんだこれあぁぁぁ!!」
そして一瞬眼も眩むような赤い閃光を受けて思い切り目を瞑る。
それでも瞼の中でさえ眩い紅い光がその眼球を灼くかのように広がり、光がまるで圧力を持っているかのようにイクローの体は後方へとふっとばされていた。
眼を閉じているので、自分の状況もよくわからないが、壁に背中からぶつかった感覚とも共に、彼はうっ、と息を詰まらせた。
眼球を灼くような光が収まったのを感じて思い切って眼を開くと、イクローの身体はドアの横の壁に背中を付けて座り込んだような体勢になっていた。
と、その光が帯状の何かを形作りながら漏れ出るように、わき出るように伸び始めた。
リボンのような、テープのような……そしてその帯の中心が透けていくようにだんだんと抜け落ちていく。
それは何かの文字のように見えた。
光る紅い文字で構成されたリボンはだんだんとその発生する数を増して、数本から……数十本になるとほどけていくように溢れながら部屋の真ん中へと集まり、今度は結びついていくかのようにいくつもの円を描いて並んでいく。
アニメや映画でこんなのを観たことがある! 彼は咄嗟にそう思った。
「ま…魔法陣?」
信じられない気持ちでその記憶にある名称を口に出しながらも、イクローは動く事ができずにいた。
魂が魅入られたようにただその魔法陣らしき方円を見つめ続けていた。
ちなみに本来の意味であれば……魔法陣というのは誤記であるらしい。
『魔方陣』が正しいそうだ。
但し、こちらは数学的な意味での用語であり、それも円形ではなく四角形だ。
英語ではMagic Squareと表記する。
方陣というのはスクエア、即ち正方形の事なのだ。
なのでこの場合は正しくは『魔法円』と言うべきであろう。
何らかの魔力の込められた円陣。
つまり魔法円である。
どちらかと言えば魔法の出てくる映画やアニメでイメージされる魔法陣よりも仏教的な曼荼羅図により近いデザインに見える。
それが何であるかにしろ……今この時に於いて、このような事を起こせるのは魔法的な何か、としか彼には思えなかった。
バレッタに見せられて一応納得はしたとはいえ、魔法というものを受け入れる心構えというものが彼にはまだなかった。
夢見がちな妄想や、あり得ない何かを信じられる時期は過ぎている。
そして全国の高二男子の中でも正に代表格と言えるクラスタに存在するくらいにそういった妄想とは無縁な、ある意味リアリストの方である彼にとって、それでも魔法としか思えないこの事象を受け入れるしかない。
自分の脳味噌の処理能力の限界を完全に超えている状況に再度陥って、イクローは動けずに固まったままである。
PCでいえばCPUが処理しきれずにフリーズしている状態だ。
ただただ固唾を飲んで『魔法円』を見守るのみである。
そのうちどうやら完全に床にその図形を描き終わったらしく、その――複雑な文様の見た事もない文字と円形のラインのみで形勢された円がいくつも寄り集まってさらに大きな円が形作られている――『魔法円』はぴたり、と動きを止めた。
そして、ふわり、と空中へと浮いた。
数十センチほど浮き上がるとまたその位置で止まる。
イクローはこれから何が始まるのかと、怖さ半分興味半分でただひたすら息を呑んで見守るだけだ。
「あ、あ、悪魔とか召喚されたりしないだろうな…」
なぜかふとそんな考えが浮かんで思わず口にする。
彼は以前に悪魔召喚をするとあるゲームにハマっていた事があるので、それを思い浮かべていた。
「じょ、冗談じゃねぇぞ……!」
彼はリアリストの割に中々アニメ的な発想に行き着いた。
それに気づいてはいてもその時の彼にとっては精一杯の状況だった。。
実際の所、当たらずとも遠からずではあった。
――事実はそんな程度じゃ済まないくらいに――アニメ的だったからだ。
空中に浮いた『魔法円』は相変わらず紅く発光しながら少しずつ回転しているのみであった。
そしてゆっくりと上下に分かれた。
分割したのか、コピー&ペーストされたように増えたのかはわからないが、どちらにしろ上下二つになって上と下とに間隔を広げていた。
そして上下の円陣の中央にぽつり、と何か紅い点が現れた。
彼はその小さな点を眼を見開いて、何一つ見逃すまい、とでもいうように凝視した。
その点はだんだんと大きくなって、やがて一〇センチほどの球体になった。
そしてまるで沸騰しているかのようにぼこぼこと表面が泡立ち、瞬時に広がった。
よもや爆発したかと思って彼は一瞬眼を伏せて両手で顔を守るかのような姿勢を取ったが、そうではなかった。
爆発的にその球体は体積を増し、やがて複雑な形状の何か――生物の内臓を思わせる器官へと変貌する。
「ありゃなんだ……まさか、し……心臓?」
イクローは誰に言うでもなく言葉にしていた。
人間一人で何かしらの感情の大きな動きがあるとついつい口に出してしまうものだ。
たとえば室内を歩いてて足の小指をぶつけた時とか、痛いとか言ってしまう、あれと同じだ。
空中に浮かぶそれは生物の教科書やらで見た事のある心臓の形そのものに見える。
やがて静脈や動脈が伸び広がって、血管が広がる。
血管だけの状態で人間の形状になるとその内部に骨や他の内臓器官が形成されていく。
恐るべき速さのようではあるが、彼にとってはまるでスローモーションに感じられた。
頭蓋骨ができあがると、その落ちくぼんだ穴だけの眼窩に眼球が生まれる。
眼球は明らかに動きを見せて、そのまるでエメラルドのような色の瞳がイクローをぎろり、と睨んだ。
「ひっ!」
反射的に声をあげて、彼は恐怖に完全にすくみ上がった。
逃げようにも腰が抜けて動く事ができずに、ただ蒼白な顔でそのあまりにもグロい、逆解剖の有様を見せつけられている事しかできなかった。
やがて筋肉が形成され、理科室の人体標本のようになった。
それでもその眼はずっと俺の事を見つめている。
まさに蛇に睨まれた蛙のような気分で彼はガクガクと体を震わせた。
正直かなり精神的には限界に近づいてきていると言っていいだろう。
イクローはいつしか声にならない悲鳴を上げ続けて、それでも驚くほど意識ははっきりしていて気絶するような事にはならない。
いっそ意識を手放してこれ以上見ないで済むならばその方が幸せだ、と望んでも、そうはならなかった。
そうこうしている内にその人体標本にはだんだんと皮膚が形成されていった。
そこで、今度は恐怖とは違う意識が彼の中で芽生えた。
「う……美しい……」
皮膚が形成され終わるとまるで高級なハチミツのようなオレンジ色っぽいふわふわとした金髪が生えてきた。
それは見た目的にはほんの十一~二歳の少女に見える。
よく見ればエメラルドグリーンの瞳もとても綺麗だった。
気が遠くなりそうな白い肌、とても華奢で何もかもが細く、発達しきっていない身体。薄い胸板にはほんのり膨らみかけたそれでも柔らかそうな曲線を描く双丘があり、先端にはまだ膨らみきれない蕾のような小さく愛らしいピンク色の突起が同じ薄いピンク色の円の中心に根付いていた。
膨らみの下にはうっすらとあばらが浮いている。
強く抱いたら折れてしまいそうな細い腰はまだくびれきっていないが緩やかなカーブを描いてこれもまだ肉厚のないお尻へと続いている。
柔らかそうな腹部は小さな縦長の臍にかけて、これもまだ幼さが残るラインを描いていた。
ほんの少しだけ下腹がぽっこりと出ている。
そして更に下へ目を移せば太もも、と表現していいのかと思ってしまうほどに細い腿はその間に三角形の空間を形作り、さらに小さな丸い膝、ふくらはぎ、足首へと下に行くにつれどんどん細さを増していくがその足全体は意外なほどすらりと長い。
彼は、なんでこんな少女に恐怖を抱いていたのだ? と先ほどまでの恐慌すら忘れて、そう脳内で自問自答してしまう程に、その幼さを残した美しくか弱い存在である少女の姿。
言葉すら発する事ができずに、まるで神聖な者を前にしたようにただただ見つめ続けていた。
先ほど内臓の全てまでをも見せられたというのに、まるで血肉の通っていない人形のようにも感じてしまう、それくらいに信憑性の薄い存在。
簡単に言えば――魅せられた。
彼は目の前で空中に浮かんだ、全裸のまだ幼い少女の持つ美しさに魅せられてしまっていた。
先ほどとは正反対の意味で、身動きが取れなくなっている。
あまりの恐怖を感じた瞬間とあまりにも美しいものを見た瞬間というのは存外似ているのかも知れない。
そう、それは畏怖にも似た感情だろう。
その時、少女の薄桃色の可憐な唇がわずかに動いた。
声すらもまるで鈴の音のように透き通って美しい。
だが、少女の口から発せられた言葉は――。
「あなた、ロリコンなの?」
その一言だった。
『男性が失踪する事件が相次いでいる』――・
世間でそんなニュースが囁かれ出して、テレビやネットなどを賑わわせ始めたのはその頃だった。
年齢は関係なく日本中でまったくのランダムに突如として男性が消えてしまうのだ。
まさに文字通り『蒸発』してしまうかのように姿を消す。
そんな事件が起きているらしい。
下は中学生から上は四十代くらい。
まったく節操がなく突如消えてしまうとの事だった。
マスコミが騒ぎ出すという事はすでにかなりの数の失踪者が出たという事を表していた。
ネットではもっとかなり前から話題にされていた事だ。
もっとも男性であるというだけで無関係ではないのだが、そんな雲をつかむような話は一介の男子高校生である彼にはどうでもいい事だった。
彼、圓道生朗は今現在すでに何もかもやる気をなくしていて、非常にナーバスになっていた。
何かしらで気を紛らわせていないと、ずるずると気分がずり下がって落ち込んでいくような、そんな気持ちに囚われていた。
何でか? と聞かれたら今の彼であればきっと、何もかも、と答えるだろう。
夏の終わり、と言ってももうすでに九月に入っている。
まぁ彼ら学生にとっては夏の終わりというのはイコール夏休みの終わりみたいなもので、つまり彼にとっては今年の夏はもうとっくに終わっている。
ただ異常気象のせいかとても残暑が厳しく、九月に入っても連日最高気温が三十度を上回るような日が続いていた。
まるで今際の際に陥った夏そのものが意思を持って断末魔に苦しみながら、その呪いを全国に振りまいているんじゃないか?
そんなくだらない事を考えて彼はファーストフード店の窓際のカウンター席で苦笑した。
そして彼は仏頂面になると、目の前の紙コップに刺さったストローを咥えて、ずず、と中の液体を啜った。
氷がもうあらかた溶けていて、薄い味になった不味いコーラ、不純物の混じった氷水のようなそれを飲みながら彼は手元のスマートフォンを指先でちょいちょいとつついていた。
その画面にさっきの『失踪事件』の記事が映ったのがなんとなく彼の目に入ったのだ。
「いっそ俺も失踪してぇ……」
彼はそう独り言ちて、項垂れてカウンターのテーブルに突っ伏した。
高二の夏、それは本来青春の一ページに刻まれるような素敵なものだったはずだ、と彼は勝手に自分でイメージしていたのだが、ようするに今年の夏も何もなかった。
ただそれだけの事でここまで落ち込める、それこそが若さであろう。
ふと気づくと落ち込んで突っ伏している彼の背中をちょんちょん、と突く者がいる。
「センパイ、センパイ」
その可愛らしい声に彼はすごい勢いで起き上がるとその声の主を見た。
果たしてそこには背の小さなセーラー服を着た女子生徒が大きな目をまん丸くして彼を見ていた。
イクローにはその女子生徒には見覚えはなかった。
ショートカットで天パ気味のくりくりとした柔らかそうな茶色い髪、もみあげだけ長く伸ばした特徴的な髪型。
大きな髪と同じ茶色のどんぐり眼とふっくらした頬。
十二分以上の美少女である。
少しボーイッシュな印象を受けるそのわんぱく小僧のような無邪気な人懐こそうな表情も好感が持てるものだった。
そして何よりも背が小さいのに、とても胸が大きい。
これはイクローにとってはとんでもなくポイントが高いのだ。
全身がふっくらとしていてなんというかとても健康的なお色気を持った少女である。
なるほど、センパイ、と言うだけあって彼女は彼が通う高校の制服を着ている。
そして一年生である事を示す緑色のスカーフが目立っていた、
「き、きき、君は?」
イクローは思わず上ずった声でそう言って、その後自らに落ち着け、落ち着け、と心の中で言い聞かせた。
彼女は、にぱ、としか表現のできない笑顔をして、彼のとなりにいそいそと腰かけるとぺこり、と頭を下げた。
「あたしは一年三組、馬礼田まと、と言うっす。 以後お見知りおきをっす」
「お、おお……よろしく」
彼の手を彼女はとってぶんぶんと振って握手すると、そのどんぐり眼で彼をじっと見つめた。
「圓道イクロー……センパイっすよね?」
名を呼ばれて彼は驚いて目を瞬かせた。
「あ、ああ……俺の事をなんで知ってるんだ?」
彼は素直にそう尋ねると、まとはまたにぱ、と笑った。
「前からセンパイの事を見てたっすから!」
彼女は屈託なくそう言ってまた嬉しそうに笑った。
(え? マジ? 何? なんなの? なんかこれ……告られたりするの? なんか俺の青春がとうとう来たの?)
イクローはドキドキと心臓が高鳴るのを感じて頭の中でぐるぐるとそんな事を考えてから、ひとつ深呼吸をすると彼にとっての一番いい顔で彼女を見つめた。
「……そう? で、俺になんの用かな?」
彼はそう言って歯が光りそうな笑顔を見せた。
「ええとっすね……」
まとは言いながらごそごそと制服の胸ポケットに手を突っ込んで探った。
「あ、あった。 これっす、これこれ!」
「どれ?」
彼が彼女の手のひらの上の紙片を見つめて目を瞬かせると、彼女はそれをつまみ上げて差し出した。
「ナニコレ?」
イクローはそれを広げてみた。
そこにはなにやらURLのようなものが書いてあった。
「なんかのサイト?」
彼が尋ねるとまとはなんか急に真面目な顔になって頷いた。
「今スマホで見ちゃダメっす! 必ず、必ずっすよ。 家に帰ってからPCで見て欲しいっす!」
彼女の真面目な様子にイクローは思わず頷いた。
「スマホで見たらちっちゃくなっちゃうっす!」
彼女はなぜか少し必死な様子でそう言って胸のあたりで拳を握りしめた。
「あ? ああ、そうだな?」
「絶対っす。 あたしとの約束っすよ?」
「わ、わかった」
イクローが彼女の勢いに気おされて返事をすると彼女は安心したように、にぱ、と笑うと椅子から立ち上がった。
「それではあたしは今日の所はこれで失礼するっす。 ……またお会いしましょうっす!」
彼女はそう言ってぺこり、と頭を下げるととてとてで走り去っていった。
「な、なんだったんだ……あの子?」
彼はぽかんとその後ろ姿を見送りながらそう言って、彼女に手渡されたメモをしげしげと眺めた。
すると彼の後ろ頭を少々乱暴に叩かれた。
「よう、イクロー。 何やってんのお前?」
イクローが振り返るとひょろっとして背の高い男子高校生が不思議そうな顔で彼を見ていた。
彼の名は市馬泰二。
イクローのクラスメイトで、わかりやすく言えば悪友のような関係である。
友達の少ない彼にとってはありがたい存在ではあった。
「おぉ、タイジか」
「なんだお前? ぼんやりして」
彼は言いながらコーラの入った紙コップの載ったトレイをテーブルに置いて少し乱暴に腰かけた。
「んだよ、ぼっちで座ってんの見かけたからこうしてわざわざ来てやったのによ」
「ワリ」
イクローは彼の言葉にそう返してからメモを胸ポケットへとしまい込んだ。
別に悪いとは思ってはいないのだが、一応詫びの言葉を発しておく方が人間関係はスムーズに進むのだ、などとわけのわからない事を考えながらスマホに目を落とした。
まぁ、ありふれた男子高校生同士のありふれた日常におけるありふれた状況だろう。
別に二人が仲が悪いわけでもなく、必要以上に男同士でベタベタするのも気持ち悪いしと思ってる本当に普通の男子高生同士である。
「なぁ、タイジ」
「あン?」
「……馬礼田まとって娘知ってる?」
イクローがそう聞くと、タイジは一瞬目をぱちくりとしばばいてから大げさにガタガタと音を立てて椅子から立ち上がった。
「お、お前……まとちゃんに興味を持ったのか!?」
「いや、さっき知ったんだけど……」
彼がそう応えるとタイジは椅子に座り直してクソ真面目な顔でイクローを見つめた。
「いや、いい趣味をしてるぜ……イクロー」
「何がだ?」
「馬礼田まとちゃんと言えば……入学当時から俺が目を付けている一年生では五本の指に入る美少女だからな」
タイジはなぜか自慢そうにそう言って荒い鼻息を吐き出した。
「そうなのか……たしかに可愛い子だったな」
イクローは彼女を思い出しながらそう口にした。
何かが引っかかる。
それが何かはわからないのだが、何かが引っかかるのだ。
タイジと別れて家に帰るとイクローはぼぅっとしながらPCでネットを見始めた。
制服を着替えてTシャツにハーフパンツというラフな格好である。
そのうち、彼はまとに渡された例ののURLの書かれたメモを思い出して、制服のシャツのポケットを探り始めた。
「ああ、これだ」
彼はメモを手に持ってPCの前に座りなおすと、そのURLをブラウザの上部の検索バーへと打ち込んだ。
刹那、画面が激しく光を発した、と思ったらブラウザの画面は真っ黒になった。
「あれ? おかしいな……」
彼が不思議そうにその真っ黒なブラウザを覗き込むと突然そこにエメラルド色の瞳が映ってこちらを見つめた。
「う、うわぁぁぁ!」
イクローは驚いて慌ててブラウザバックボタンを押すと、それは別に何もおかしい事はなく普通に前の画面へと戻った。
だが、彼は確かに聞いた。
ブラウザバックボタンを押す少し前のその瞬間にその画面から小さな声がしたのを。
「見……ツケ……タ」
その声はたしかにそう言っていた。
あまりの不気味さに彼は座ったまま茫然としてPCの画面を見つめた。
見つけた? 何を? ……俺を?
イクローは考えると怖気を感じて、とりあえず部屋を出ると台所へ行って冷蔵庫を開けた。
「あれ? 飲み物何もないじゃん……」
彼はそう呟いて冷蔵庫のドアを閉じると居間に向かって声をかけた。
「母さ~ん! 飲み物切れてるから俺ちょっとコンビニ行ってくるわ」
「は~い。 いってらっしゃ~い」
居間でテレビを見ている母親の呑気な声を聞くと彼はなんとなく安心して部屋へ戻ると自分の財布を引っ掴んで表へと出た。
もう外は真っ暗だったが、それでも妙に湿気が多く暑苦しかった。
昼に太陽に充分以上に熱せられたアスファルトからむわっと熱気が立ち上っている。
その嫌な暑さにうんざりした顔をしながらイクローは夜の道をとぼとぼと歩いて三分くらいのコンビニへと向かった。
道の端にある街灯に大きな蛾がぶつかってバシバシと音を立てていた。
イクローはまた歩いて次の街灯の下にくる、やはり大きな蛾が電灯にぶつかっていた。
彼はそのまま歩き続けたが、ふとおかしい、と思った。
どの街灯の下にもまったく同じ大きな蛾がいて街灯に体をぶつけていたのだ。
そして、歩いてほんの三分ほどのコンビニが未だに見えても来ない。
おかしい。
彼が立ち止まって怪訝そうな顔で辺りを見回すと、いつから居たのか反対側にこの暑いのに全身にマントのような服を着た女が立っていた。
彼女はフードを上げるとにっこりとほほ笑んだ。
顔を見ればまだ若い。
中学生か高校生か……そのくらいに見えた。
まだ『少女』と言っていい年齢だろう。
もしかして知り合いだろうか? と思いイクローもぎこちなく笑顔を浮かべた。
刹那、一気にその少女は距離を詰めて彼の目の前に来るとその腕をつかんだ。
「ねぇ、お兄さん。 私に付き合ってくれない?」
「ど、どこへ?」
イクローは驚きながら聞き返したが彼女はまたふわりと笑って彼の手を引いた。
「いいとこ……」
そして、ろ、と言いかけながら彼女は突然真っ白な砂のようになって崩れ落ちた。
「な、な、な……!!」
イクローは驚きのあまりその場にへたり込んで尻もちをついた。
すると、街灯のない暗い路地から人影がゆっくりと歩いてくるのが見えた。
セーラー服を着たその両手にはまるでおもちゃのようなオレンジ色の拳銃のようなものが握られている。
右手に持った方の銃口からうっすらと煙を引いていた。
その人影が明かりの下へと姿を現すと、イクローは思わず叫んだ。
「ま、まとちゃん?!」
彼女は馬鈴田まと、その人だった。
「危なかったっす。 センパイ」
彼女はそう言いながら、にぱ、と笑顔を見せた。
そして彼女の髪が少しずつ茶色から目の覚めるような若草のような黄緑色へと変わっていき、その瞳もまるで夕方の太陽のような燃えるような赤オレンジ色へと変わっていった。
「すいませんっす。 結界を破るのに少し手間取っちまったす」
まとはそう言ってぺこり、と頭を下げた。
「な、なんなんだ? これは……なんなんだ?」
イクローが狼狽えながら叫ぶと、まとはきょとんとした顔で首を傾げた。
「姐さんに会わなかったっすか?」
「だ、誰だって?」
「キルカ姐さんっす」
「だ、だから誰?」
イクローの様子にまとは考え込むような顔になった。
「センパイ。 もしかしてあたしのあげたメモのサイトにアクセスしてないんすか?」
「いや、した……でも不気味だったからすぐブラウザバックしちまった!」
彼がそう言うと、まとはあちゃー、という顔をしてその目のあたりを押さえた。
「すんませんっす。 あたし、ちゃん言っておけばよかったす……開いてしばらくそのまま待ってくださいっす」
「やだよ、気持ち悪い!!」
イクローが叫ぶとまとはふくれ面になって口をとがらせた。
「気持ち悪いとはなんすか!! あんなかわいいお人に向かって!!」
「か、かわいい?」
彼が呆気に取られて聞き返すと、まとはまだ怒った顔で言った。
「そうすればキルカ姐さんに会えるはずっす。 そうしたらわかるっす」
イクローの脳内の処理能力は限界を迎えていたが、そこでハッとしてまた叫んだ。
「と、とりあえずわけがわからないんだ! 説明してくれよ!!」
するとまとは困った顔になった。
「すいませんっす。 あたしにはその権限がないんす。 とにかくキルカ姐さんに会っていただければ、全部説明してもらえると思うっす」
彼女はそう言ってまたぺこり、と頭を下げた。
一応彼に対して敬意を払っているという事は彼女はどうやら敵ではないのだろう、とはイクローは思った。
そして根源的な質問をすることにした。
「じゃあ、これだけは教えてくれ」
「なんすか?」
まとは真ん丸い目をさらに大きく丸くして聞き返した。
その間に彼女の髪と瞳がまただんだんと茶色へと戻っていった。
「お前は……何者なんだ?」
彼の問いにまとはまた、にぱ、と笑顔を見せた。
「あたしは魔法少女っす。 魔法少女バレッタっす」
そして彼女の両手のオレンジ色の拳銃のようなものも光の粒子のようになってすぅ、と消えていった。
「ま、魔法……少女?」
イクローが呆けた顔で聞き返すと、まと、いやバレッタは笑顔で力強く頷いた。
「っす!」
そしてバレッタが護衛をする、と言って聞かないので二人並んでコンビニへと行き買い物をした帰り道。
「ほら」
イクローはコンビニで買ったゴリゴリくんというアイスを袋から取り出してバレッタに渡した。
「え? いいんすか? ありがとうございますっす!!」
彼女は嬉しそうにゴリゴリくんを手に取るとその坊主頭のゴリラの描かれた包み紙をバリバリと裂いて丸めて空中へと放り投げた。
「ばん!」
バレッタは指鉄砲で狙いをつけながらそう口にした。
次の瞬間アイスの包み紙はぽん、と小さな音を立てて爆発して消えてなくなった。
「それも……魔法、なのか?」
ゴリゴリくんを咥えながらイクローが尋ねるとバレッタは頷いた。
「そっす。 便利でしょ?」
「まぁな……」
二人アイスを齧りながら夜道を歩く。
イクローは嬉しそうにアイスを食べるバレッタを眺めて思った。
本当にどうやら彼の護衛をしているように見えるし、彼女は本当に敵ではないのだろう。
そもそもどこからどう見ても人を騙せるタイプには思えなかった。
家の前でバレッタと別れ、イクローは自分の部屋へと戻るとPCのスリープを解除して、ごくり、と唾を飲み込んだ。
「よ、よし……やってみるか!」
彼は意を決して例のURLをまた入力した。
なぜかなんとも言えない緊張感を覚える。はっきりいって不気味だ。気持ち悪かった。
暑さも手伝って喉がカラカラに渇いていて、気管が貼り付きそうだ。
彼は傍らに置いてあったコップに注いだコーラを一気に飲み干すと、ぷはー、と声を上げて落ち着きを取り戻す。
そして真っ黒だった画面が切り替わる。
グロ動画もグロ画像も表示されはしなかった。
ただ画面からすごい光が発散された。
「なんだこれ…? なんだこれあぁぁぁ!!」
そして一瞬眼も眩むような赤い閃光を受けて思い切り目を瞑る。
それでも瞼の中でさえ眩い紅い光がその眼球を灼くかのように広がり、光がまるで圧力を持っているかのようにイクローの体は後方へとふっとばされていた。
眼を閉じているので、自分の状況もよくわからないが、壁に背中からぶつかった感覚とも共に、彼はうっ、と息を詰まらせた。
眼球を灼くような光が収まったのを感じて思い切って眼を開くと、イクローの身体はドアの横の壁に背中を付けて座り込んだような体勢になっていた。
と、その光が帯状の何かを形作りながら漏れ出るように、わき出るように伸び始めた。
リボンのような、テープのような……そしてその帯の中心が透けていくようにだんだんと抜け落ちていく。
それは何かの文字のように見えた。
光る紅い文字で構成されたリボンはだんだんとその発生する数を増して、数本から……数十本になるとほどけていくように溢れながら部屋の真ん中へと集まり、今度は結びついていくかのようにいくつもの円を描いて並んでいく。
アニメや映画でこんなのを観たことがある! 彼は咄嗟にそう思った。
「ま…魔法陣?」
信じられない気持ちでその記憶にある名称を口に出しながらも、イクローは動く事ができずにいた。
魂が魅入られたようにただその魔法陣らしき方円を見つめ続けていた。
ちなみに本来の意味であれば……魔法陣というのは誤記であるらしい。
『魔方陣』が正しいそうだ。
但し、こちらは数学的な意味での用語であり、それも円形ではなく四角形だ。
英語ではMagic Squareと表記する。
方陣というのはスクエア、即ち正方形の事なのだ。
なのでこの場合は正しくは『魔法円』と言うべきであろう。
何らかの魔力の込められた円陣。
つまり魔法円である。
どちらかと言えば魔法の出てくる映画やアニメでイメージされる魔法陣よりも仏教的な曼荼羅図により近いデザインに見える。
それが何であるかにしろ……今この時に於いて、このような事を起こせるのは魔法的な何か、としか彼には思えなかった。
バレッタに見せられて一応納得はしたとはいえ、魔法というものを受け入れる心構えというものが彼にはまだなかった。
夢見がちな妄想や、あり得ない何かを信じられる時期は過ぎている。
そして全国の高二男子の中でも正に代表格と言えるクラスタに存在するくらいにそういった妄想とは無縁な、ある意味リアリストの方である彼にとって、それでも魔法としか思えないこの事象を受け入れるしかない。
自分の脳味噌の処理能力の限界を完全に超えている状況に再度陥って、イクローは動けずに固まったままである。
PCでいえばCPUが処理しきれずにフリーズしている状態だ。
ただただ固唾を飲んで『魔法円』を見守るのみである。
そのうちどうやら完全に床にその図形を描き終わったらしく、その――複雑な文様の見た事もない文字と円形のラインのみで形勢された円がいくつも寄り集まってさらに大きな円が形作られている――『魔法円』はぴたり、と動きを止めた。
そして、ふわり、と空中へと浮いた。
数十センチほど浮き上がるとまたその位置で止まる。
イクローはこれから何が始まるのかと、怖さ半分興味半分でただひたすら息を呑んで見守るだけだ。
「あ、あ、悪魔とか召喚されたりしないだろうな…」
なぜかふとそんな考えが浮かんで思わず口にする。
彼は以前に悪魔召喚をするとあるゲームにハマっていた事があるので、それを思い浮かべていた。
「じょ、冗談じゃねぇぞ……!」
彼はリアリストの割に中々アニメ的な発想に行き着いた。
それに気づいてはいてもその時の彼にとっては精一杯の状況だった。。
実際の所、当たらずとも遠からずではあった。
――事実はそんな程度じゃ済まないくらいに――アニメ的だったからだ。
空中に浮いた『魔法円』は相変わらず紅く発光しながら少しずつ回転しているのみであった。
そしてゆっくりと上下に分かれた。
分割したのか、コピー&ペーストされたように増えたのかはわからないが、どちらにしろ上下二つになって上と下とに間隔を広げていた。
そして上下の円陣の中央にぽつり、と何か紅い点が現れた。
彼はその小さな点を眼を見開いて、何一つ見逃すまい、とでもいうように凝視した。
その点はだんだんと大きくなって、やがて一〇センチほどの球体になった。
そしてまるで沸騰しているかのようにぼこぼこと表面が泡立ち、瞬時に広がった。
よもや爆発したかと思って彼は一瞬眼を伏せて両手で顔を守るかのような姿勢を取ったが、そうではなかった。
爆発的にその球体は体積を増し、やがて複雑な形状の何か――生物の内臓を思わせる器官へと変貌する。
「ありゃなんだ……まさか、し……心臓?」
イクローは誰に言うでもなく言葉にしていた。
人間一人で何かしらの感情の大きな動きがあるとついつい口に出してしまうものだ。
たとえば室内を歩いてて足の小指をぶつけた時とか、痛いとか言ってしまう、あれと同じだ。
空中に浮かぶそれは生物の教科書やらで見た事のある心臓の形そのものに見える。
やがて静脈や動脈が伸び広がって、血管が広がる。
血管だけの状態で人間の形状になるとその内部に骨や他の内臓器官が形成されていく。
恐るべき速さのようではあるが、彼にとってはまるでスローモーションに感じられた。
頭蓋骨ができあがると、その落ちくぼんだ穴だけの眼窩に眼球が生まれる。
眼球は明らかに動きを見せて、そのまるでエメラルドのような色の瞳がイクローをぎろり、と睨んだ。
「ひっ!」
反射的に声をあげて、彼は恐怖に完全にすくみ上がった。
逃げようにも腰が抜けて動く事ができずに、ただ蒼白な顔でそのあまりにもグロい、逆解剖の有様を見せつけられている事しかできなかった。
やがて筋肉が形成され、理科室の人体標本のようになった。
それでもその眼はずっと俺の事を見つめている。
まさに蛇に睨まれた蛙のような気分で彼はガクガクと体を震わせた。
正直かなり精神的には限界に近づいてきていると言っていいだろう。
イクローはいつしか声にならない悲鳴を上げ続けて、それでも驚くほど意識ははっきりしていて気絶するような事にはならない。
いっそ意識を手放してこれ以上見ないで済むならばその方が幸せだ、と望んでも、そうはならなかった。
そうこうしている内にその人体標本にはだんだんと皮膚が形成されていった。
そこで、今度は恐怖とは違う意識が彼の中で芽生えた。
「う……美しい……」
皮膚が形成され終わるとまるで高級なハチミツのようなオレンジ色っぽいふわふわとした金髪が生えてきた。
それは見た目的にはほんの十一~二歳の少女に見える。
よく見ればエメラルドグリーンの瞳もとても綺麗だった。
気が遠くなりそうな白い肌、とても華奢で何もかもが細く、発達しきっていない身体。薄い胸板にはほんのり膨らみかけたそれでも柔らかそうな曲線を描く双丘があり、先端にはまだ膨らみきれない蕾のような小さく愛らしいピンク色の突起が同じ薄いピンク色の円の中心に根付いていた。
膨らみの下にはうっすらとあばらが浮いている。
強く抱いたら折れてしまいそうな細い腰はまだくびれきっていないが緩やかなカーブを描いてこれもまだ肉厚のないお尻へと続いている。
柔らかそうな腹部は小さな縦長の臍にかけて、これもまだ幼さが残るラインを描いていた。
ほんの少しだけ下腹がぽっこりと出ている。
そして更に下へ目を移せば太もも、と表現していいのかと思ってしまうほどに細い腿はその間に三角形の空間を形作り、さらに小さな丸い膝、ふくらはぎ、足首へと下に行くにつれどんどん細さを増していくがその足全体は意外なほどすらりと長い。
彼は、なんでこんな少女に恐怖を抱いていたのだ? と先ほどまでの恐慌すら忘れて、そう脳内で自問自答してしまう程に、その幼さを残した美しくか弱い存在である少女の姿。
言葉すら発する事ができずに、まるで神聖な者を前にしたようにただただ見つめ続けていた。
先ほど内臓の全てまでをも見せられたというのに、まるで血肉の通っていない人形のようにも感じてしまう、それくらいに信憑性の薄い存在。
簡単に言えば――魅せられた。
彼は目の前で空中に浮かんだ、全裸のまだ幼い少女の持つ美しさに魅せられてしまっていた。
先ほどとは正反対の意味で、身動きが取れなくなっている。
あまりの恐怖を感じた瞬間とあまりにも美しいものを見た瞬間というのは存外似ているのかも知れない。
そう、それは畏怖にも似た感情だろう。
その時、少女の薄桃色の可憐な唇がわずかに動いた。
声すらもまるで鈴の音のように透き通って美しい。
だが、少女の口から発せられた言葉は――。
「あなた、ロリコンなの?」
その一言だった。
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