魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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第一章 魔法少女大戦

終わりの始まり

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 バレッタが意識を取り戻すと、目の前にはイクローの部屋の天井があり、彼女を心配そうに覗き込むルーとイクローの顔があった。

「あ、あいつは……?」

 彼女がそう口にすると、ルーが優しく言った。

「大丈夫、もう誰もいないわ。 それにしても……あなたがこんなにやられるなんて……敵はどんな強い奴だったのよ?」

 バレッタは大きく目を見開いて、ため息をついた。

「あたしっすよ。 敵は……あたしだったっす」
「そう……昨日は私とも戦ったのよね?」
「そうっす。 昨日のルーにしても今日のあたしにしても……あいつらはあたしたちそのものっす……」
「昨日私が会ったスピカ様の事もあるし……」

 ルーが思案していると、バレッタは勢いよく布団から飛び起きてルーの肩を掴んだ。

「ここにいたら危険っす! あいつら……お兄ちゃんを……お兄ちゃんを狙ってるっす!!」

 焦るバレッタをルーがそっと抱きしめて、その背中をさするようにした。

「とりあえず落ち着きなさい……。 キルカには連絡してあるから。 もうすぐ迎えのゲートを開いてくれるわ」
「そ、そうっすか……」

 ため息をついてベッドに腰かけた体中絆創膏だらけのバレッタにイクローが情けない顔で笑いかける。

「しかし、お前いっつもなんかボロボロだよなぁ……」

 バレッタは、にぱ、と笑った。

「あたしだってボロボロになりたくはないんすが……。 敵が攻めてくるんじゃ仕方ないっすよ」

 彼女はそう言って情けない笑顔になるとポツリと呟いた。

「……それにしてもこれじゃなんかあたしが弱いみたいでカッコ悪いっす……」

「いや、お前がすごく強くてカッコイイって俺は知ってるから! 気にするなよ」

 イクローがニッっと笑ってそう言うと、バレッタは顔を真っ赤にして照れ臭そうにしながらも嬉しそうに笑った。

「お兄ちゃんはずるいっすよ……」

 彼女が小さな声でそう呟くのを、ルーが聞いて、くすっと笑った。

「すごくわかるわ、それ」

 二人は顔を見合わせて吹き出した。

「な、なんだよお前ら……気持ち悪ィなぁ……」

 イクローは困惑した顔で笑い転げる二人を見つめた。




 何やら仄昏ほのぐらい洞窟のような所に、大勢の魔法少女が集まっている。
 彼女たちはみな黒いマントを身に着けていて、ほとんどの者は顔すらもよくわからない。

「さて、と……そろそろあちらさんもあたいらのこたァ、しっかり認識したんじゃねェかな?」

 マントに身を隠してはいるがこの声の主は明らかにライアットであろう。
 いや、正確にはこちらのライアットはオリジナルのライアットではない。
 仮にライアット´ダッシュとしておく事にする。

「そうね……そろそろ私たちが討って出るのには好機かもしれないわね……」

 こちらはオスティナ´である。

「あたしはなんだっていいよ! たくさんぶっ殺して、……最後にぶっ殺されて、とことんそれを楽しめればさ!」

 剣呑な事を言いながら楽し気に笑うのはメタルカ´だ。

「なのなの。 わたしたちの目的のために……よき死をなの」

 最後に暗がりの中から真っ白な魔導鎧の小さな魔法少女が出てきてそう言った。
 ……キルカ´、である。
 彼女の純白の魔導鎧には血飛沫の模様がなかった。

「そうですわね、ヤツらにわたくしたち人間の意地と尊厳……見せてやりますわ」

 キルカ´の背後でスピカ´が腕を組みながら忌々し気な顔をして言った。
 もちろん彼女の魔導鎧にも血飛沫の模様がなかった。
 これはルーと接触したあのスピカであろう。

「姐さん、ご命令をっす」

 キルカ´の傍らでバレッタ´とルー´が膝をついて控えた。

 キルカ´が後ろを振り返ってオリジナルが今までただの一度も浮かべた事のないだろう、ふんわりとした心からの笑顔を浮かべた。
 その笑顔の先には椅子に座って足を組んだ少年らしい者の姿があった。
 顔には金属製の怪しげな仮面をつけている。
 円と角柱のようなもので構成されたデザインで、まるでインカの古代の王の仮面の簡易版のようなものだ。
 銀色のような金色のようなメタリックな表面が光を浴びて時々鋭く光っていた。

「……しかり! ……では、そろそろ行こうか、みんな」

 彼が優し気にそう声をかけると王女のダッシュたちはみんな、とても嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「では……魔法少女たちによき死を。 そして……我々にもよき死を」

 彼が歩いて皆の元へ来て、穏やかな声でそう言って手を出した。
 その場にいた魔法少女たちはみんな笑顔のままその手に自らの手を重ねていった。

 そしてみんなでがっちりと抱き合うと中には涙を流すものもいる。
 それはまるで決死隊のような有様だった。

 彼らは果たして何者なのか、なぜキルカたちにそっくりなのか……。
 そして彼らは言う、自分たちを人間である、と。
 そう、魔法少女ではなく、彼女たちは人間なのだ、と。




 それからほんの一時間程後の事だった。

 富士の演習場と樹海。
 その広大な土地の上に突如としてマントを着た多数の魔法少女たちが現れた。
 どこからどのようにして姿を現したのか、彼女たちはまるで影のようにすぅ、と現れてその数を増していった。

 自衛隊にスクランブルがかかり、戦車やその他の陸上兵器を駆使して彼らを排除しようと試みたが残念ながらまったく効果はなかった。
 魔法少女たちの足元に無残な武器の残骸や兵士の死体が多数横たわるだけの結果となった。

「ク……ククク……とうとう、とうとうあいつらがやってきやがった……」

 陸上自衛隊のAMSTF対魔法少女特殊戦術部隊司令、黒井瑪瑙くろい・めのうは歓喜に堪えない様子でそう呟いて、そのわらい顔を他の者に見られないように両手で顔を覆った。
 必死に自分の顔を取り繕って、冷静な表情を何とかつくると、彼女は腰に腕を当てて司令室の大型モニタを睨みつけた。
 だがやはりその瞳には歓喜……むしろ、狂気にも近い色が浮かんでいた。

 見るからに無骨で頑丈そうな司令室の扉が、体の小さな女性士官ウェイヴに押され開いて、彼女は自らの勢いで少しつんのめるようにして黒井の前へとやってきた。

「司令!! 幕僚長からの電文です!!」
「やっと来たか……」

黒井は腕を組んで部屋の前面にある大型のモニタを食い入るように見つめながら呟くように言った。

「わかりきっていた事だ……。 通常の兵器ではあれらにはクソの役にも立たん」

 黒井は 部屋に飛び込んできた若い女性士官ウェイヴに対して、というよりはまるで自分に言い聞かせるように低くそう呟いた。
 そしてその言葉を聞いて、若い女性士官、志木しきめぐみは目を見開き、上官同様に部屋の前方にある巨大なモニタを見つめた。
 黒井は腕を組んだまま、鋭く叫んだ。

「……ただいまより、状況は我|AMSTFへと移譲された! 各自、第一種戦闘配備!! 繰り返す! 第一種戦闘配備!!」

 黒井の何かを期待しているかのような愉悦が少し入り交じったようなその表情は何か恐ろしいような、だが見る者を虜にしてしまうような――あえて言うならば『背徳的でエロティック』な雰囲気を湛えていた。

 「そうだ。『やつら』……人類最大の敵『魔法少女』がいよいよ我々の世界へ総攻撃をしてきた! 今まで時間をかけて準備してきた我らの力を今こそ振るえ!!」

 黒井のその叫びは、だが実は正しくはなかった。
 そう、彼女たちは魔法少女でありながら魔法少女ではないのだ。

 バレッタ´は大事そうに彼女のベレッタを手に持って、気持ちを落ち着けるようにその銃身に口づけ、またそれをホルスターへとしまった。

「さぁ……AMSTFとやらの力、見せてもらうっすかね」
「どこまでやってくれるのかしらね?」

 彼女の隣でルー´がその魔導杖ロッド至高の一撃ブロウ・シュープリームを発現させながら言う。

「さぁ? どっちにしろ、ここで死ぬならあたしらもその程度って事っす」
「言うわね~!」

 二人は自分たちの魔導杖を構えながら、笑い合ってその銃身をぶつけ合ってお互いの健闘を祈った。

 バレッタ´とルー´は戦場を駆ける。
 それはまるで鬼神の如き戦いぶりだった。
 近距離突撃型のバレッタ´と遠距離砲撃型のルー´、魔弾の特性の銃器型魔導杖ロッドを持つ二人の魔法少女。
 普段仲のあまり良くない二人が組むとこれほどまでに恐ろしい二重唱デュオになるのだ。
 彼女たちの前に立つ部隊はことごとく撃破され駆逐されていった。

 ふと二人は前方に巨大な隕石が飛来して堕ちていくのを見て苦笑した。

「スピカ様もやりたい放題みたいっす」
「ほんと。 まぁ、ここが私たちの……」

 二人は弾丸をばら撒いた。

「一番の見せ場、だけど」
「っす」

 二人の周囲で戦車が爆発し、自衛官たちが穴だらけになって飛び散っていった。

 地下空間で仮面をつけた少年が傍らにある分厚い古そうな本を大事そうに抱えて、その本へと話しかけた。

「偉大なる魔導書グリモワールよ。 ではそろそろ名乗りをあげる準備をした方がいいかな?」
「……好きにするがいい。 お前が闇を照らす光となって、その逼塞ひっそくした世界を拓けるか、もしくはお前が闇となってこの世界をも飲み込むのか……やってみるがいい」

 どこからか、そんな声が聞こえて、仮面は満足そうに頷いた。

「でもね、魔導書。 俺たちにとってはどちらでも同じなんだ。 今、この時点で俺たちはもう解放されているんだから」

「そうであったな……」

 またどこからかから聞こえる声に仮面は頷いた。

「さぁ、俺の大事な魔法少女たち! このサン・ジェルマンの想いの為に、踊っておくれ!」

 仮面の少年はそう叫んで、その瞳に悲しみの色を映して俯いた。

「サン・ジェルマン……」

 彼の隣にキルカ´が来て彼の手を取った。

「そろそろわたしもいくの」

 彼女は彼の手をとってじっと彼を見つめた。

「そうか……君もたっぷりと踊ってくれるかい?」
「もちろんなの」

 仮面の少年は彼女にそっと口づけをして名残惜しそうにその手を握っていた。
 そして彼女はふんわりとした美しい笑顔を浮かべてその足元からだんだん薄くなり、姿を消していった。



 AMSTF対魔法少女特殊戦術部隊と謎の魔法少女集団が交戦状態に入ってからわずか二十分足らずで、AMSTFの基地は壊滅した。
 潰れた基地の司令室のあたりに、ふわり、と白い影が降りた。
 周りの魔法少女たちも彼女の周りへと集まってくる。

 わずかに埋まりかけた机と壁の残骸が動いて、その下から這うようにしてこの基地の司令であった黒井瑪瑙くろい・めのうが顔を出して、憎々し気にキルカ´を見た。

「貴様ら……どうして人間世界へ……進出してきたのだ……」

 彼女は必死に瓦礫の下から這い出そうとしながら呻いた。

「あなたは勘違いしているの」

 キルカ´はぽつり、と彼女にそう言った。

「どういう意味だ? 乙女災害ディザスター・メイデン!!]

 黒井は目を剥いた。
 キルカ´は彼女の前にしゃがみこんでその顎あたりに両手の人差し指を当てて少し面白そうな顔をして見ている。

「……答えろ。 キルカ・ティアマト!」

 黒井がもう一度彼女の名を呼ぶと、キルカ´はふんわりと笑った。

「もうそこが間違っているのよ。 私はキルカ・ハニーオランジェ・ティアマト。 あなたの知るキルカではないの」

「な、なんだと? 何を言っている?」

 黒井がやっとの事で瓦礫から這い出してキルカ´を睨む。
 キルカ´の横にいたスピカ´が彼女の首筋あたりに自分の弓型の魔導杖を突き付けて彼女を冷たい目で見下ろした。

「お姉さまに対して無礼ですわよ? ブラック・オニキス」

 ブラック・オニキス、と呼ばれて黒井の頬はカッと赤くなってその貌に激しい怒りが浮かび上がった。

「な、なぜその名を知っている? スピカ・ティアマト!!」

 スピカ´はフン、と鼻を鳴らして訂正した。

わたくしの名は、スピカ・ブラウコメイテス・ティアマトですわ。 私もまた、あなたの知るスピカではございませんの」

 黒井は彼女の魔導杖に抑えつけられる形になって動けないまま目だけを上げて彼女たちを睨みつけた。
 その瞳には激しい憎悪の色が浮かび上がっている。

「……そうか、魔力が上がっちまった元魔法少女っていうのは哀れなもんだな」

 キルカ´とスピカ´の後ろからそう言いながら前へと出てきた背の高いマントを着た女性がそう言った。
 声からすれば少女、ではない。
 いや、むしろこの声は……。

 彼女がマントのフードを上げるとそこにあったのは紛れもなく、黒井瑪瑙、彼女本人の顔であった。

「わ……私……だと?」

 黒井が愕然としながらもう一人の自分の姿を見て、ガタガタと震えだした。

「ば、バカな……そんな……バカな……」

「うーん、いやまぁ……驚くのはわかるが。 とりあえずな、オニキス。 ……こっちの私はけっこう楽しくやっているよ。 魔力上がりを迎えて散々苦労して組織を作り上げたお前には……同情はするがな。 そもそもその組織自体が間違ってるから、こうして潰させてもらったわけだ。 言っておくが私たちは別に人間と敵対しようとは思ってない」

「な……何を言っている?」

 黒井は茫然自失になっているが、もう一人の黒井は構わず続けた。

「まぁ、これを見てもらう方が早いだろうな……なぁ、オニキス。 私は……魔力上がりを迎えていないんだ」
「な……んだ……と?」

 そして黒井の目の前でもう一人の黒井が手を伸ばすと光の粒子とともに巨大なトマホーク型の魔導杖がその手の中に現れた。
 見間違うはずがなかった。
 それは彼女、黒井瑪瑙……いやブラック・オニキスが魔力上がりを迎える前に持っていた魔導杖そのものなのだ。

「で……現世を歪ませる戦斧ディストーション・ホーク……」

 彼女はうわごとのようにその名を口にした。

「その通りだ……。 懐かしいかい?」

 黒井はその魔導杖を眩しそうに見つめて手を伸ばした。

「……まさかな。 私もこっちの私がここまで堕ちてるとは思ってなかったよ。 そういうわけで私が責任をもって片を付けてやらなきゃならなくなった」

 もう一人の黒井はそう言いながらタバコを口に咥えて火をつけた。

「悪いな。 ほんとお前の境遇には同情する。 魔法上がりを迎えて奴隷としてこき使われて、人間界に追放され……その恨みでこんな組織を作っちまうとはな……」

 タバコの煙を思い切り吸い込んで。吐き出しながら彼女は魔導杖を構えた。

「せめて……いい夢を見て……くたばりな」

 トマホーク型の魔導杖をまるでギターのように構えると彼女は思い切りそれをつま弾いた。
 音は聞こえない。
 いや、その音は黒井の耳にしか届いていないのだ。

 黒井は幸せそうな顔をして白目を剥くと、その目、耳、鼻、口から一気に血を吹き出してそのまま倒れた。
 そして、真っ白な塩の塊になってぐしゃり、と潰れた。

「魔法で塩になって死ねるなら……本望だろう? お前らにとっては」

 そしてもう一人の黒井はタバコを吸ったままそこにぺたんと座ると周りの魔法少女に笑いかけた。

「じゃあな! 私のかわいい生徒たち!!」

 すると周りの魔法少女たちがみんな口々に「先生」と声をかけて、ある者は涙した。

「達者でな! あばよ!」

 黒井は叫んでそのまま前後不覚に気を失ってばったりと倒れ込んだ。
 キルカ´が彼女の髪を触って少し悲しそうな顔をした。

「さようならなの……黒井先生……」
「今までありがとうございました……黒井先生……」

 キルカ´の隣のスピカ´がそう言って涙を流した。




 その一部始終を隠れて見ていた、志木しきめぐみ三等陸尉はビビりまくっていた。

「どどど、どうしたら……いいんでしょうか? 私は!」

 彼女は隣にいる中年男性に聞いたが、彼はなんだかよくわからない装置をいじるのに夢中なようで返事はしなかった。

圓道えんどう博士ってば!」

 めぐみは我慢できずに叫んだ。




 AMSTF対魔法少女特殊戦術部隊が壊滅していく姿をオリジナルの魔法少女たちは魔導スクリーンで見て、茫然としていた。
 だからと言って彼らは彼女たち魔法少女からすればあの塩にならない魔法少女たちと同様に敵である。
 助けに行くのも筋がおかしいだろう。
 薄暗い洞窟のような異空間の中でスクリーンの明かりが魔法少女たちの顔を照らし、揺らめいていた。

「やっぱり……キルカも……あたいらもいるんだな」

 ライアットが低い声で呻くように呟くと周りの王女たちは黙ってその瞳に同意の色を浮かべた。

「あたしは……正直に言うと面白くなってきたよ? ライア」

 メタルカがその瞳に剣呑な色を浮かべながら舌なめずりをしそうな顔で言う。

「まぁ……てめェの気持ちもわからなかねえさ、ルカ。 あたいら魔法少女は基本的にはどいつもこいつも戦いに喜びを見出す性分だ。 あたいの中にもムズムズするもんはあるぜ」

 ライアットはそう言って組んでいた足を下ろすと立ち上がった。

「だがな。 こいつはどうやら戦争だぜ? このままただ殺されるのは面白くねぇ……。 ならこっちもきっちり作戦を立てて迎え撃とうって……そういう心づもりよ!」

 彼女のその言葉にオスティナが頷いて、鋭い目でメタルカを見た。

「あなたが勝手に飛び出していくのは勝手だけれど……残念ながら私たちにとってはあなたも重要な戦力なのよ。 軽率な行動はしないで欲しいわね」

 オスティナが落ち着いた声でそう言うとメタルカは目を吊り上げて叫んだ。

「なんなのよ! あたしは面白くなってきたって言っただけでしょーが!!」

 ライアットは口を歪めてニヤリ、と笑いながら彼女を見つめた。

「いいや。 あたいはまったく逆の考えだぜ? ルカ。 ぶっちゃけちまうと……この中ではお前が一番策士で腹黒え……。 だからその真っ黒な腹の中でどんな悪巧みをしてんのかって……それが気になるぜ?」
「人聞き悪いなぁ……」

 メタルカはすぐに彼女の言葉に非難する様な声を上げたが、その顔にはそれはそれは見事に腹黒そうな笑みを貼り付けていた。

 そこに純白の魔導鎧マギカ・アルマを身に着け、魔女のような帽子を被った魔法少女がその場に現れた。
 とても細くて華奢な体つきをしていて、わずかにふんわりとした笑顔を浮かべている。

 だがその右半身にはべったりと血飛沫のような模様が張り付いていた。

「キルカ……てめェ……マジかよ……」

 ライアットが茫然とした顔になって、そして彼女の姿を見てだんだんそれに魅せられるような顔になった。

 キルカの姿は身長がいくらか伸び、幾分女らしい体つきになって……そして元々とんでもない美少女であるのに、もはや女神のごときとてつもない美しさを放っていた。
 隣に並び立っているスピカも特に変わっていないのに、それはそれはとてつもなく美しく見える。
 双美人、というのは並び立った時に初めてその美しさをお互いに高め合うものなのかもしれない。

「わたしは……この十七歳の身体の魔力を……制御してみせるの」

 彼女はキッと前を向いてそう呟いた。
 以前の彼女と比べるとだいぶ感情がその表情に読み取れた。

「キルカちゃん……きれい……」

 メタルカはうっとりとした顔で頬を赤く染めながら彼女をしげしげと眺めて、ほう、と熱い吐息を漏らした。

 そこにバレッタに肩を貸しながら歩いて入ってきたイクローの姿がある。

「き、キルカ……なのか?」

 彼がそう声をかけると彼女はふり向いてふんわり、と笑った。

「き、きききキルカが笑ってる!!」

 イクローは目を真ん丸くして驚きながら傍らのバレッタを見た。
 バレッタは目に涙をいっぱい溜めながら頷いて見せた。

 そう彼女の成長したこの姿こそがバレッタやルー、スピカたちがずっと見たかったものなのだろう。

 そしてイクローもまた、彼女の美しさに魂を抜かれてしまったかのようにただただその姿を見つめた。

「なぁ、キルカよ」

 ライアットがふと彼女に声をかけた。

「なぁに? ライア?」

 キルカは不思議そうに顔をあげた。

「なぁ、この……人間はお前の知り合いか?」

 彼女はそう言ってイクローを指さした。
 キルカは目を丸くしてから、こくこく、と頷いて見せた。

「このひとは、天子なの」

 彼女が何事もなくそう言うと、その場にいた魔法少女たちは全員凍り付いた。

 改めて説明しよう。
 『天子』とは僅かに魔力を持った人間男性である。
 魔法少女は大体十八歳を迎えると魔力を失ってしまう。
 これを『魔力上がり』という。
 ところが、この天子と交わる事でその魔力上がりを回避できるといわれているのだ。

 そもそも彼女たち魔法少女がこの人間界へとやってきたのはこの『天子』を探して自分の婿にするためなのである。
 王女クラスが天子と交わる事ができれば、その配下の忠誠の契約を交わした魔法少女たちも魔力上がりを回避できる。
 そのために王女の婿探しのためにやってきたはずだったのだ。

 キルカはにこにこと笑顔を浮かべながらバレッタの隣に立った。

「バレッタ。 わたしわかっちゃったの」
「な、なにがっす? 姐さん?」

 そしてキルカはバレッタの顎をつい、と指で触るとその顔を上げさせて、彼女に口づけをした。

「ん? んんんん?!」

 バレッタは驚きのあまり顔を赤くしたり青くしたり目を白黒させたりしながら、キルカの口づけが終わるのを待った。

「イキロ、こっちにきて」

 そして彼女はイクローを呼ぶと彼の首に手を回して、彼にも口づけをした。

「きききき、キルカ!! むぐ……」

 イクローもその口を塞がれて真っ赤になったり真っ青になったりしていたが……彼女の甘い口づけにいつしか我を忘れて目を閉じて、そっと彼女の肩を抱きしめた。

 キルカが真っ赤な、しかし幸せそうな表情で彼から離れるとイクローはへなへなと腰がくだけたようにその場に座り込んだ。

「これで終わったの」

 彼女がそう言うとバレッタは足元でへたり込むイクローとキルカを順番に見て、真ん丸いどんぐり眼をぱちくりと瞬いた。
 
 キルカは空中に五芒星を指先で描いて、赤い魔法円を作るとバレッタの手とイクローの手をそれにかざした。
 そして最後に自分の手をそれにかざすと、二人ににっこりとまた微笑みかけた。

 三人の手首の所に赤い小さな紋章が浮かび上がって光っていた。

「あ、ああ! 契約の書き換えっすか!!」

 バレッタが驚いて叫んだ。
 その赤い色はキルカの色であり、その紋章はキルカの紋章であった。

「なのなの。 バレッタも含めて三人で契約すれば問題がないことに気づいたのよ」

 キルカは言って笑うとバレッタに抱き着いた。

「だからバレッタもずっとずっとわたしと一緒じゃないと許さないのよ……めっ、なの!」

「姐さん……」

 バレッタは目に涙を一杯溜めて、ぐすぐすと鼻を啜った。

「それじゃ私が仲間外れみたいで、ちょっと気分悪いなぁ……」
わたくしもですわ!」

 ルーとスピカが不満そうに口を尖らせた。

「なのなの!」

 キルカは笑顔で二人に抱き着いて、二人にも口づけをした。
 なかば茫然自失でもはや自我を失っているような状態のイクローに最後はルーとスピカが口づけをすると、その契約の儀式は終わったようだ。

 そして周囲で茫然と彼らを見つめる魔法少女たちにキルカは凛とした様子で宣言した。

「彼はわたしたちティアマトの魔法少女全員と契約をしたの! もし彼と交わりたい子がいるなら……私たち全員を斃すことなの!!」

 それを見てライアットが眉毛を下げて情けない顔で笑った。

「無茶言いやがるぜ……この世界のどこのどいつがキルカを斃せるってんだヨ」

 イクローは廃人のような状態で床に座り込んで、今にも口からエクトプラズムが抜けていきそうになっていた。
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