11 / 66
第二章 魔法少年唯一無二(オンリーワン)
白き少年のテロル 01
しおりを挟む
その少年はただ一人ひたすらに歩いて果てしない砂漠を歩いていた。
見ればまだ十歳そこそこの年端も行かないやっと子供から少年になろうかという年頃である。
なぜこんな少年がたった一人でこのような砂漠を歩いているのか、それそのものが不可解ではあった。
少年はかなり消耗していて、その身体は疲れ足はもうまるでただの棒きれになってしまったかのように、今この瞬間にも歩みを止めて膝を突いてしまいそうだった。
そう彼は疲れきっていた。
幼い頃から母のお気に入りだったその美しいカールした金髪も今は灰色にくすみ、全身に纏う衣服もぼろ布のように傷んでみすぼらしい有様だ。
その母ももう今はいない。
母の事を思い出すなど……走馬灯ってやつかな? などと彼は朦朧とした意識で考える。
何がその足を前へと進ませているのか……彼自身にももはやわかってはいない。
それでも何かに突き動かされるように、一歩、また一歩とその足を確実に前へと彼は踏み出す。
砂混じりの風が彼のその痩せた身体をまるで木の葉のように翻弄する。
朦朧とする意識と目に入る砂はだんだんとその視界を歪ませて、彼の瞳から涙を溢れさせた。
目の前にはいつ果てるかもわからない広大な金色の一面の砂しかありはしない。
ふと、その歩む足が止まると彼は一瞬空を仰ぐようにして見上げると、その足下の砂の山へと倒れこんでいった。
「……ベッキー」
砂の中に伏せ、その身体を半ば砂に埋もれさせながら彼はそう小さな声で誰かの名を呼んだ。
それは彼の二つ年下の愛する妹の愛称だった。
薄れゆく意識の中で、彼は虚ろな目で彼女の幻を見た。
ふわふわとした若草色の髪、大きなまん丸い目。
瞳の色はまるで夕焼けのようなオレンジがかった赤。
普通の人間にはありえないような髪色と瞳の色。
そう彼の妹は、他ならぬ魔法少女だった。
……いや、魔法少女になった、というべきか。
彼らの母親もまた、元魔法少女であり……幼かった妹も五歳になった年、その魔力に覚醒した。
彼とおそろいだったふわふわとした金髪は、魔力のせいで若草のような緑色に変わり、彼と同じだった藍色の瞳は赤く染まった。
少年はそれを信じられない気持ちでありながらも受け入れた。
「べ……」
彼はもう一度彼女の名を呼ぼうとして、そのまま完全に意識を失いながら砂に埋もれ流砂に飲み込まれて地面を流れていった。
魔法少女になった妹を本当の名前で呼ぶのは、もう自分だけなのに。
少年は薄れゆく意識のなかでそんな事を考えた。
魔法少女になったその時から、真名は他人に知られる訳にはいかなくなるのだ。
父母が死に、今や彼女の親類は少年ただ一人だった。
その真名を知るものは、少年と父母が死んでから彼らの面倒を見てくれている家の少数の者だけだ。
真名を知られるのは魔導に携わる者にとっては致命的なのだ。
もし敵対する魔導士や他の魔法少女にそれを知られてしまうと、全ての魔法を封じられてしまう。
だから魔法少女になると、彼女たちは元の名を捨てる。
魔法的に組み合わせて迷彩された名前を名乗るようになるのだ。
魔導回路で作られた偽名は、本人が他者に名乗らない限り、真名を隠し通す。
その名前が魔法的に記憶に作用してすり込まれ、本当の名を強制的に忘れさせ、書き換えるのだ。
ただ一部の例外として主従関係であったり家族である者にはその名を伝える者も多い。
そして愛を伝える手段として、その真名を想い人に告げる魔法少女も数多い。
彼の妹もそうだった。
元の名前を捨てたその日に、彼に向かって彼女は言った。
――お兄ちゃんだけは、ずっとあたしの名前を覚えていてほしいっす!
彼女の名は、レベッカ・パルメ・ズィターノ。
放浪民を表すイタリア語から来る姓を持つ。
魔法少女となってからの名は、バレッタ・パッラ・ベレッタ。
魔導によってその在り様を歪められた家族は多い。
彼らの一家はそのうちの一つの例に過ぎない。
少年……バレッタの兄、トリガー・ペルラ・ズィターノは、その愛する妹のいるティアマト王国から遠く離れてなぜこのような砂漠を一人歩いていたのか。
それは近隣諸国を旅して、一人でも多くの不遇な魔法少女を救いたい、せめて魔導国家であるティアマトへ連れていってやりたい、その思いからだった。
先述の通り、彼の母親は元魔法少女だった。
それが元でどこへ行ってもその居場所を追われ、いわれのない迫害を受けながら放浪生活を続け、最後は無理がたたって病に臥せって死んだ。
そしてあろう事が、妹までも魔法少女として覚醒してしまった。
魔法が使える、それは普通の人間から見れば脅威である。
故に魔法少女たちを異端視して迫害する人間は少なくはない。
その多くがティアマトのような魔導国家へと身を寄せる理由は主にそれだ。
魔法少女の人権をそれなりに認めている先進国に生まれた者はまだ幸福だ。
それでも地方に行けば、まるで中世の魔女狩りのような残酷な仕打ちが行われているとも言われている。
魔法少女になる、という事は良い事だ、とはトリガーにはどうしても思えなかった。
彼のような境遇であれば魔導を憎みこそすれ、素晴らしい事だ、などとは到底思えまい。
わずか十歳の少年の身にはあまりにも不条理に過ぎる世界へと、彼なりの抵抗を試みているのだろう。
だが、その世界に抗う少年の心は無残にも砂に埋もれて消えかけていた。
愛すべき妹の姿も彼の脳裏からだんだんと薄くなって消えていく。
「ベ……キ……」
最後にまた呻くように彼はその名を呼ぼうとした。
だが彼の意識はすでにブラックアウトして消え失せていくところだった。
やがて少年は、はっと目を覚ました。
そこは暗い洞窟のような所だった。
彼はその中にまるでベッドのように作られた岩のような所に寝かされていた。
傍らに目を落とすと、幼い少女が気を失っていた彼を看病してくれていたのか、そのすぐ横に座り込んだままうつらうつらと船を漕いでいた。
派手なオレンジ色の髪。
……おそらく彼女もまた魔法少女なのだろう。
年の頃は七歳か八歳くらいだろうか……彼の妹と同じかそれよりもやや幼い印象を受けた。
「……おい、おまえ」
少年は傍らの少女の肩に手を当ててその小さな身体を揺すった。
「う~……」
彼女は唸りながら寝ぼけ眼を両手で擦ってから、ぼうっとしたその瞳で少年を見つめた。
みるみるうちにその瞳にはきらきらと光が溢れ、嬉しそうな表情になっていった。
「おにいちゃん、目が覚めたの?!」
「う、うん……おまえが……もしかして僕を助けてくれたの?」
少年、トリガーは彼女の「おにいちゃん」という呼び名に妹の事を思い起こされて少し動揺しながらも、状況を尋ねた。
「うん! おにいちゃん砂に流されてここに落ちてきたんだよ!」
彼女はそう言いながら、古くさい革製の水筒を差し出した。
トリガーはごくり、と喉を鳴らしてひったくるように水筒を彼女の手から奪うとごくごくと水を飲んだ。
何日も水を飲むこともできないまま砂漠を歩き続けていたのだ。
まだ十歳のその身にあってはそれはとてもつらかっただろう。
彼が水を飲みながら周囲を見回すとそこは洞窟のような岩に囲まれた場所で、岩のひび割れた部分からさらさら、と金色の乾いた砂がまるで水のように流れ込んでいた。
時折、大きな砂の塊がどさどさ、と流れ込んでくる。
砂漠に洞窟がある、というのも不思議ではあったが、そのおかげで彼は砂に埋もれたまま干からびてしまわなくて済んだともいえる。
「もっとほしい?」
少女のつぶらな瞳に覗き込まれると少年ははっ、と何かに気づいたように彼女を見つめ返した。
「ここ……水があるのか?」
このような場所で水を確保する事の難しさを少年は思い知って、それで倒れたばかりではなかったか。
もしかしたら少女にとってもとても貴重であろう水を彼はがぶ飲みしてしまったのだ。
些か申し訳ない気持ちになりながら彼は少し微妙な表情で少女の反応を待った。
少女は無邪気な笑顔を浮かべて、その首を左右に振った。
「え!? な、なんかごめん……水……全部飲んじゃって……」
少年が肩を落とすと、少女はにっこりと笑ったまま、また首を振った。
「水はないけど、わたしが出せるの!」
「え?」
少女の言葉の真意を測りかねて少年は目を意外そうに瞬かせた。
彼女ははもう一度笑顔を浮かべると目を閉じて、手を上に伸ばすと「えい」とかけ声をかけた。
するとどういうわけか少年が寝転んでいた場所から少し離れた岩盤のヒビからチョロチョロと水が溢れ始めた。
そしてあっという間にその細い水の線がだんだんと太くなり、とうとう壊れた水道管のように激しく水を拭きだし始めた。
――少女は水属性の魔力の持ち主なのだろう、水属性の魔法少女はどこからでも水分を呼び寄せる事ができるのだ。
少女は立ち上がるときゃっきゃとはしゃぎながら水の噴き出る所へと走り、全身にそれを浴びながら口を開けて水を飲み始めた。
「ほら! おにいちゃんもきなよ!」
少女にそう声を掛けられて少年はのろのろと立ち上がると頭から水を被った。
「あはは! 気持ちいい!」
彼も明るく笑いながら砂だらけになってくすんだ色に変わっていた金髪を洗いながらたっぷりと喉を潤した。
まさに文字通り生き返るような気持ちになって、思わず顔が綻ぶ。
トリガーは明るい表情になって少女に声をかけた。
「おまえ、やっぱり魔法少女なのか?」
少年が尋ねると少女は水浸しになったオレンジ色の長く伸びすぎた髪を絞りながら頷いた。
「そうだよ! 覚醒したばかりでまだ上手に魔法は使えないけど!」
そして彼女は彼を見て、その髪と同じオレンジ色の目を大きく見開いた。
トリガーにとっては、それもまたバレッタを思い出させる。
「うわぁ! お兄ちゃんの髪きれいなんだね!」
少年は頭を振って水で洗い流され、本来の色を取り戻した美しい金髪を照れ臭そうに掻き上げた。
「おまえ、名前は?」
彼が聞くと少女は笑いながら答えた。
「エリザベス・ロマ! ……お兄ちゃんは?」
少年も笑みを浮かべた。
「トリガー。 トリガー・ペルラ・ズィターノ」
トリガーは手を伸ばした。
エリザベスはその手を握る。
「よろしくな、ベス。 助けてくれてありがとう」
すると彼女は少しぷっと頬を膨らました。
「ベスって呼ばないで! はすっぱな感じがするから! どうせならリズ、って呼んでよ!」
彼女は"おしゃま"な様子でそう言うとにっこりと笑顔を見せた。
トリガーも笑顔を返した。
「そうか、リズか」
見ればまだ十歳そこそこの年端も行かないやっと子供から少年になろうかという年頃である。
なぜこんな少年がたった一人でこのような砂漠を歩いているのか、それそのものが不可解ではあった。
少年はかなり消耗していて、その身体は疲れ足はもうまるでただの棒きれになってしまったかのように、今この瞬間にも歩みを止めて膝を突いてしまいそうだった。
そう彼は疲れきっていた。
幼い頃から母のお気に入りだったその美しいカールした金髪も今は灰色にくすみ、全身に纏う衣服もぼろ布のように傷んでみすぼらしい有様だ。
その母ももう今はいない。
母の事を思い出すなど……走馬灯ってやつかな? などと彼は朦朧とした意識で考える。
何がその足を前へと進ませているのか……彼自身にももはやわかってはいない。
それでも何かに突き動かされるように、一歩、また一歩とその足を確実に前へと彼は踏み出す。
砂混じりの風が彼のその痩せた身体をまるで木の葉のように翻弄する。
朦朧とする意識と目に入る砂はだんだんとその視界を歪ませて、彼の瞳から涙を溢れさせた。
目の前にはいつ果てるかもわからない広大な金色の一面の砂しかありはしない。
ふと、その歩む足が止まると彼は一瞬空を仰ぐようにして見上げると、その足下の砂の山へと倒れこんでいった。
「……ベッキー」
砂の中に伏せ、その身体を半ば砂に埋もれさせながら彼はそう小さな声で誰かの名を呼んだ。
それは彼の二つ年下の愛する妹の愛称だった。
薄れゆく意識の中で、彼は虚ろな目で彼女の幻を見た。
ふわふわとした若草色の髪、大きなまん丸い目。
瞳の色はまるで夕焼けのようなオレンジがかった赤。
普通の人間にはありえないような髪色と瞳の色。
そう彼の妹は、他ならぬ魔法少女だった。
……いや、魔法少女になった、というべきか。
彼らの母親もまた、元魔法少女であり……幼かった妹も五歳になった年、その魔力に覚醒した。
彼とおそろいだったふわふわとした金髪は、魔力のせいで若草のような緑色に変わり、彼と同じだった藍色の瞳は赤く染まった。
少年はそれを信じられない気持ちでありながらも受け入れた。
「べ……」
彼はもう一度彼女の名を呼ぼうとして、そのまま完全に意識を失いながら砂に埋もれ流砂に飲み込まれて地面を流れていった。
魔法少女になった妹を本当の名前で呼ぶのは、もう自分だけなのに。
少年は薄れゆく意識のなかでそんな事を考えた。
魔法少女になったその時から、真名は他人に知られる訳にはいかなくなるのだ。
父母が死に、今や彼女の親類は少年ただ一人だった。
その真名を知るものは、少年と父母が死んでから彼らの面倒を見てくれている家の少数の者だけだ。
真名を知られるのは魔導に携わる者にとっては致命的なのだ。
もし敵対する魔導士や他の魔法少女にそれを知られてしまうと、全ての魔法を封じられてしまう。
だから魔法少女になると、彼女たちは元の名を捨てる。
魔法的に組み合わせて迷彩された名前を名乗るようになるのだ。
魔導回路で作られた偽名は、本人が他者に名乗らない限り、真名を隠し通す。
その名前が魔法的に記憶に作用してすり込まれ、本当の名を強制的に忘れさせ、書き換えるのだ。
ただ一部の例外として主従関係であったり家族である者にはその名を伝える者も多い。
そして愛を伝える手段として、その真名を想い人に告げる魔法少女も数多い。
彼の妹もそうだった。
元の名前を捨てたその日に、彼に向かって彼女は言った。
――お兄ちゃんだけは、ずっとあたしの名前を覚えていてほしいっす!
彼女の名は、レベッカ・パルメ・ズィターノ。
放浪民を表すイタリア語から来る姓を持つ。
魔法少女となってからの名は、バレッタ・パッラ・ベレッタ。
魔導によってその在り様を歪められた家族は多い。
彼らの一家はそのうちの一つの例に過ぎない。
少年……バレッタの兄、トリガー・ペルラ・ズィターノは、その愛する妹のいるティアマト王国から遠く離れてなぜこのような砂漠を一人歩いていたのか。
それは近隣諸国を旅して、一人でも多くの不遇な魔法少女を救いたい、せめて魔導国家であるティアマトへ連れていってやりたい、その思いからだった。
先述の通り、彼の母親は元魔法少女だった。
それが元でどこへ行ってもその居場所を追われ、いわれのない迫害を受けながら放浪生活を続け、最後は無理がたたって病に臥せって死んだ。
そしてあろう事が、妹までも魔法少女として覚醒してしまった。
魔法が使える、それは普通の人間から見れば脅威である。
故に魔法少女たちを異端視して迫害する人間は少なくはない。
その多くがティアマトのような魔導国家へと身を寄せる理由は主にそれだ。
魔法少女の人権をそれなりに認めている先進国に生まれた者はまだ幸福だ。
それでも地方に行けば、まるで中世の魔女狩りのような残酷な仕打ちが行われているとも言われている。
魔法少女になる、という事は良い事だ、とはトリガーにはどうしても思えなかった。
彼のような境遇であれば魔導を憎みこそすれ、素晴らしい事だ、などとは到底思えまい。
わずか十歳の少年の身にはあまりにも不条理に過ぎる世界へと、彼なりの抵抗を試みているのだろう。
だが、その世界に抗う少年の心は無残にも砂に埋もれて消えかけていた。
愛すべき妹の姿も彼の脳裏からだんだんと薄くなって消えていく。
「ベ……キ……」
最後にまた呻くように彼はその名を呼ぼうとした。
だが彼の意識はすでにブラックアウトして消え失せていくところだった。
やがて少年は、はっと目を覚ました。
そこは暗い洞窟のような所だった。
彼はその中にまるでベッドのように作られた岩のような所に寝かされていた。
傍らに目を落とすと、幼い少女が気を失っていた彼を看病してくれていたのか、そのすぐ横に座り込んだままうつらうつらと船を漕いでいた。
派手なオレンジ色の髪。
……おそらく彼女もまた魔法少女なのだろう。
年の頃は七歳か八歳くらいだろうか……彼の妹と同じかそれよりもやや幼い印象を受けた。
「……おい、おまえ」
少年は傍らの少女の肩に手を当ててその小さな身体を揺すった。
「う~……」
彼女は唸りながら寝ぼけ眼を両手で擦ってから、ぼうっとしたその瞳で少年を見つめた。
みるみるうちにその瞳にはきらきらと光が溢れ、嬉しそうな表情になっていった。
「おにいちゃん、目が覚めたの?!」
「う、うん……おまえが……もしかして僕を助けてくれたの?」
少年、トリガーは彼女の「おにいちゃん」という呼び名に妹の事を思い起こされて少し動揺しながらも、状況を尋ねた。
「うん! おにいちゃん砂に流されてここに落ちてきたんだよ!」
彼女はそう言いながら、古くさい革製の水筒を差し出した。
トリガーはごくり、と喉を鳴らしてひったくるように水筒を彼女の手から奪うとごくごくと水を飲んだ。
何日も水を飲むこともできないまま砂漠を歩き続けていたのだ。
まだ十歳のその身にあってはそれはとてもつらかっただろう。
彼が水を飲みながら周囲を見回すとそこは洞窟のような岩に囲まれた場所で、岩のひび割れた部分からさらさら、と金色の乾いた砂がまるで水のように流れ込んでいた。
時折、大きな砂の塊がどさどさ、と流れ込んでくる。
砂漠に洞窟がある、というのも不思議ではあったが、そのおかげで彼は砂に埋もれたまま干からびてしまわなくて済んだともいえる。
「もっとほしい?」
少女のつぶらな瞳に覗き込まれると少年ははっ、と何かに気づいたように彼女を見つめ返した。
「ここ……水があるのか?」
このような場所で水を確保する事の難しさを少年は思い知って、それで倒れたばかりではなかったか。
もしかしたら少女にとってもとても貴重であろう水を彼はがぶ飲みしてしまったのだ。
些か申し訳ない気持ちになりながら彼は少し微妙な表情で少女の反応を待った。
少女は無邪気な笑顔を浮かべて、その首を左右に振った。
「え!? な、なんかごめん……水……全部飲んじゃって……」
少年が肩を落とすと、少女はにっこりと笑ったまま、また首を振った。
「水はないけど、わたしが出せるの!」
「え?」
少女の言葉の真意を測りかねて少年は目を意外そうに瞬かせた。
彼女ははもう一度笑顔を浮かべると目を閉じて、手を上に伸ばすと「えい」とかけ声をかけた。
するとどういうわけか少年が寝転んでいた場所から少し離れた岩盤のヒビからチョロチョロと水が溢れ始めた。
そしてあっという間にその細い水の線がだんだんと太くなり、とうとう壊れた水道管のように激しく水を拭きだし始めた。
――少女は水属性の魔力の持ち主なのだろう、水属性の魔法少女はどこからでも水分を呼び寄せる事ができるのだ。
少女は立ち上がるときゃっきゃとはしゃぎながら水の噴き出る所へと走り、全身にそれを浴びながら口を開けて水を飲み始めた。
「ほら! おにいちゃんもきなよ!」
少女にそう声を掛けられて少年はのろのろと立ち上がると頭から水を被った。
「あはは! 気持ちいい!」
彼も明るく笑いながら砂だらけになってくすんだ色に変わっていた金髪を洗いながらたっぷりと喉を潤した。
まさに文字通り生き返るような気持ちになって、思わず顔が綻ぶ。
トリガーは明るい表情になって少女に声をかけた。
「おまえ、やっぱり魔法少女なのか?」
少年が尋ねると少女は水浸しになったオレンジ色の長く伸びすぎた髪を絞りながら頷いた。
「そうだよ! 覚醒したばかりでまだ上手に魔法は使えないけど!」
そして彼女は彼を見て、その髪と同じオレンジ色の目を大きく見開いた。
トリガーにとっては、それもまたバレッタを思い出させる。
「うわぁ! お兄ちゃんの髪きれいなんだね!」
少年は頭を振って水で洗い流され、本来の色を取り戻した美しい金髪を照れ臭そうに掻き上げた。
「おまえ、名前は?」
彼が聞くと少女は笑いながら答えた。
「エリザベス・ロマ! ……お兄ちゃんは?」
少年も笑みを浮かべた。
「トリガー。 トリガー・ペルラ・ズィターノ」
トリガーは手を伸ばした。
エリザベスはその手を握る。
「よろしくな、ベス。 助けてくれてありがとう」
すると彼女は少しぷっと頬を膨らました。
「ベスって呼ばないで! はすっぱな感じがするから! どうせならリズ、って呼んでよ!」
彼女は"おしゃま"な様子でそう言うとにっこりと笑顔を見せた。
トリガーも笑顔を返した。
「そうか、リズか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳主婦のカレンはインスタグラムで20歳大学生の晴人と知り合う。親密な関係となった3度目のデートのときに、晴人が実は17歳の高校2年生だと知る。
カレンと晴人はその後、どうなる?
ママはヤンママ女子高生! ラン&ジュリー!!
オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》
キャラ文芸
神崎ランの父親の再婚相手は幼馴染みで女子高生の高原ジュリーだった。
ジュリーは金髪美少女だが、地元では『ワイルドビーナス』の異名を取る有名なヤンキーだった。
学校ではジュリーは、ランを使いっ走りにしていた。
当然のようにアゴで使われたが、ジュリーは十八歳になったら結婚する事を告白した。
同級生のジュリーが結婚するなんて信じられない。
ランは密かにジュリーの事を憧れていたので、失恋した気分だ。
そう言えば、昨夜、ランの父親も再婚すると言っていた。
まさかとは思ったが、ランはジュリーに結婚相手を聞くと、ランの父親だと判明した。
その夜、改めて父親とジュリーのふたりは結婚すると報告された。
こうしてジュリーとの同居が決まった。
しかもジュリーの母親、エリカも現われ、ランの家は賑やかになった。
ハズレ職業の料理人で始まった俺のVR冒険記、気づけば最強アタッカーに!ついでに、女の子とVチューバー始めました
グミ食べたい
ファンタジー
現実に疲れた俺が辿り着いたのは、自由度抜群のVRMMORPG『アナザーワールド・オンライン』。
選んだ職業は“料理人”。
だがそれは、戦闘とは無縁の完全な負け組職業だった。
地味な日々の中、レベル上げ中にネームドモンスター「猛き猪」が出現。
勝てないと判断したアタッカーはログアウトし、残されたのは三人だけ。
熊型獣人のタンク、ヒーラー、そして非戦闘職の俺。
絶体絶命の状況で包丁を構えた瞬間――料理スキルが覚醒し、常識外のダメージを叩き出す!
そこから始まる、料理人の大逆転。
ギルド設立、仲間との出会い、意外な秘密、そしてVチューバーとしての活動。
リアルでは無職、ゲームでは負け組。
そんな男が奇跡を起こしていくVRMMO物語。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる