魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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第二章 魔法少年唯一無二(オンリーワン)

蒼き流星 02

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「な、何をするんだ! バレッタ!」

 彼が目を剥いて妹を振り返ると、バレッタは思い切りふくれ面で彼をジト目で睨んだ。

「何をするんだ! はこっちのセリフっす! あたしの敬愛するセンパイになんすか! その態度は! お兄ちゃんこそ、万死に値するっす!」

 トリガーは慌てたようにイクローの胸元から手を離すと、不満そうに妹を見つめた。

「で、でもバレッタ! こいつ、姫様のことを……」

「でももへったくれもないっす! センパイは姫様たちのご学友であらせられるっす! そんなことでいちいち目くじらを立てるお兄ちゃんの方がおかしいっす! 不敬もいいかげんっす!」

 二人が睨みあうのを見て、ラムが吹き出した。

「あらあら……バレッタの前じゃさすがの『白狼はくろう』も形無しねぇ……」

 トリガーはむすっとしてラムを睨んだ。

「う、うるさいな……。 『白狼』はやめろって言ってるだろ……」

 『白狼』とは彼の白髪とその手腕でついたあだ名である。
 テロリストの間ではその名で恐れられている。

 不満そうに口を尖らせるトリガーをラムは嬉しそうな顔で眺めて言った。

「でもわたし、嬉しいわ。 すっかり可愛げがなくなったと思ってたあなたが、バレッタやイクローの前だと昔のあなたみたいになるんだもの……。 あなたやっぱりちっとも変わってない」

 微笑むラムを見て、トリガーはため息をついた。

「ぼ、僕は別に……変わったつもりはないよ……」

 トリガーが呟くとラムはまたくすくすと笑った。
 彼らのやりとりを呆気にとられて眺めていたイクローが、何かに気付いたように慌てて耳を触った。

「魔法通信はできるかな?」

「ああ、そうっすね! キルカ姐さんたちに通信ができれば!」

 バレッタが頷くのを見てイクローは通信を試みた。

「ああ、ダメだ……なんかうまく繋がらない。 バレッタ、お前もやってみてくれないか?」

 彼に聞かれてバレッタは首を横に振った。。

「今魔力を封じられてるからあたしには魔法通信は使えないっす……」

「ああ、そうだった。 悪ぃバレッタ……。 禁呪を解除しようか?」

 彼が訊くとバレッタはまた首を振った。

「いいえ。 今解呪したら、あたし多分また魔力酔いしちゃうと思うっす。 なんかやけに血が騒ぐっていうか……おかしな感じなんす……。 まぁ、思い当たる節はあるんすが」

 彼女はそう言いながら首のマフラーを緩めてイクローに首筋の絆創膏を見せて、アオイを見た。
 アオイは申し訳なさそうな顔で笑った。
 そしてバレッタは彼に顔を寄せると耳元でこそこそと囁いた。

「あたし、アオイちゃんに血を吸わせたっす。 それでたぶん吸血鬼ヴァンパイアの血が入ったっす。 ヴァルプルギスの夜の月とその相乗効果でおかしなテンションになってるみたいなんす」

 イクローはバレッタに顔をすぐ傍に寄せられて赤くなりながら、頷いた。

「吸血鬼? なんだそりゃ?」

 ぽかんとするイクローにアオイが口を指で引っ張って牙を見せた。

「わたし……吸血鬼なんです」

 バレッタはイクローに顔を寄せたまま、にんまりと笑った。
 そして腰に手をかけると、ホルスターから実銃ベレッタを抜いて彼の目の前に見せた。

「魔力使えなくても、あたしにはコレがあるっす。 アオイちゃんを責めないであげてくださいっす。 この子はあたしのためにしてくれたんす」

 イクローは目を丸くして、しげしげと彼女の手の中で鈍く銀色に光る銃を見つめた。
 それを見てライアットが手を叩いた。

「おお! バレッタ! てめぇいいモン持ってきたじゃねぇか! ……実はな、敵の中に対魔法防御服アンチ・マギカ・スーツを着てる奴がいてな……さすがのあたいも手を焼いちまったんだ」

 彼女が腕を組んで眉間にしわを寄せながら唸るように言うと、バレッタはまん丸い目をさらに丸くした。

「えぇ? そんなもん持ってるテロリストがいたんすか? ……ずいぶん豪勢なテロリストっすねぇ……」

 バレッタが驚いたように言うと、ライアットは腕を組んだまま、顔をしかめた。

「あたいが戦った奴なんだけどよ。 そいつ、なんかお前みたいな技を使う奴でよ……正直あたいも今度ばかりはられるかと思ったぜ……」

 それを聞いてバレッタは愉しそうに顔を笑みの形に歪めた。

「へぇ……。 そいつはおもしろそうっすね……。 つまり、そいつは『ガン・カタ』使いってことっすよね? 姐さん?」

 嬉しそうなバレッタの様子をトリガーは少し憂鬱そうな顔で見つめながら、顎に手を当てて首をひねった。

「妙だな。 AMGGやつらにしてもそんな高価なものをそんなに簡単に投入はできないはずなんだが……?」

 イクローは顔を上げてトリガーに向かって言った。

「そんなことを言ってても仕方ねえ。 現にスーツを使ってる敵がいるのは間違いねえんだ。 そいつらの相手は俺たちにはきつい。 あんたとバレッタに踏ん張ってもらうしかねえ……」

 トリガーは彼を睨むようにしながら頷いた。

「……無論だ。 せいぜい足手まといにならないように貴様らは逃げるんだな」

 トリガーの腕を掴むようにしてバレッタも嬉しそうに叫んだ。

「あたしら兄妹におまかせっすよ! 何があってもセンパイはあたしがお守りするって言ったじゃないすか! バレッタちゃんの師匠仕込みの本物の『ガン・カタ』を目一杯披露してやるっす!」

 バレッタが胸のあたりで拳を握りしめて言った瞬間に、地響きの音が激しく起こって彼らのいる地下室が地震のように揺れた。

「な、なんだ? この揺れは!」

 イクローが叫ぶのとほぼ同時に全チャンネルで魔法放送が流れてきた。

「森の中にいらっしゃる全魔法少女に伝えますわ! これから私の魔法で隕石を落とします! 皆様魔法防御結界を張ってくださいまし!」

 その声を聴いて、イクロー、バレッタ、アオイが目を瞬かせて叫んだ。

「スピカだ!」

「スピカ様っす!」

「副会長!!」

 そしてトリガーがラムに向かって叫んだ。

「ラム! この穴はスピカ様の魔法に耐えられるか!?」

 ラムは首を振った。

「さすがに無理ね……。 外へ出て防御結界を張らないと生き埋めになるわ」

「冗談じゃねえぞ!」

 イクローが叫んで穴から顔を出すと上空に青く輝く隕石が降ってくるのがもう見えた。

「うわ……マジかよ!!」

 そして皆を見回すと叫んだ。

「スピカの魔法はあれはどうやら火属性みたいだ! だったら俺の防御結界が一番効果が高いだろう。 トリガーと今魔力の使えないバレッタは俺の近くにいてくれ!」

「わたしは地属性よ。 二人で防御結界を張りましょう」

 ラムが言うのを聞いてイクローは頷いた。
 そしてラムが何かを思い出したように、ぽん、と手を打った。

「ああ! そうだわ、あの子!」

 彼女はそう言って穴の奥へ戻ると黒と灰色の魔導鎧を着た気を失ってる少女を担いで戻ってきた。

「アマイア!」

「アマイアさん!」

 オスティナとアオイが叫んで、そのまま顔を見合わせた。
 アマイアは第三生徒会所属なので、当然オスティナの配下である。

「この子ほどの子がこんなにボロボロになるなんて……どんな相手と戦ったのかしら?」

 オスティナが首を傾げる横で、アオイが恥ずかしそうに手を上げた。

「す、すいません……わたし、です……」

「あ、あなたが?」

 オスティナが信じられない物を見るような顔でアオイを見ると、彼女は照れ臭そうに笑った。

「今はそんな事言ってる場合じゃねえ! 早くみんな表に出て結界を張るんだ!」

 ライアットが叫んで、ロッドでガリガリと地面に魔法円を描くと高速詠唱を始めた。
 他の者達もそれぞれライアットに倣って結界を張り始めた。

「センパイ……すいませんっす」

 バレッタが申し訳なさそうにイクローの側で言うと、彼は笑った。

「気にすんな! お前とお前の兄貴くらい、俺が守ってやるさ!!」

 すると彼女は照れ臭そうウインクをひとつして、イクローの頬にそっとキスをした。

「センパイこそ! 気を付けてくださいっす!」

 彼女は頬を少し赤く染めながらそそくさとイクローの背後に隠れて後ろを向いた。
 イクローはぽかんとして、自分の頬をさすりながら顔を赤らめる。

「んだよ! バレッタ! 抜け駆けしやがったな!!」

 ライアットは悔しそうに叫んで地団駄を踏んだ。


 トリガーとバレッタの兄妹は揃って並んでイクローの背後に隠れながら、それぞれ武器を構えた。

「……ベッキー。 僕はずっとお前に謝りたいことがあった」

 突然トリガーがそう声を掛けると、バレッタは驚いた顔で彼を見つめた。

「藪から棒になんすか? お兄ちゃん?」

 彼女が叫ぶと、トリガーはすこしつらそうに眉を寄せて呻くように言った。

「僕のせいで……お前を人殺しにしてしまったこと……ずっと謝りたかった。 ごめんよ、ベッキー……」

 トリガーは少し俯いて唇を噛んだ。
 バレッタは目を丸くして兄の顔を見つめながら、にっこりと笑った。

「いいんすよ! お兄ちゃん! だってあたしは魔法少女なんすから! どっちにしろ戦うのが運命さだめっす。 だったらその過程で人を殺めることも当然あるっす。 ……それで大好きなお兄ちゃんを守れたんだから、あたしはむしろ良かったと思ってるっすよ!」

 彼女が笑顔で言うと、トリガーは泣きそうな顔で妹を見つめ返した。
 そして口元をふっ、と緩めて僅かに笑いを浮かべると言った。

「お前はどこまでも前向きだな……」

「はい! いつも元気なバレッタちゃんっすから!」

 バレッタが明るく答えると二人は幼い頃と同じように笑い合った。
 その二人を後ろから黙って見ていたラムの口元にも笑みがこぼれた。

「それに……あたし、イクローセンパイが大好きっす。 だから今はあのひとを守るために……人殺しだろうがなんだろうがやる覚悟はできてるっす!」

 彼女は決意を込めた目で前を向きながら言った。

「だが、あいつはキルカ姫様の……」

 トリガーが少し複雑な顔で言うと、バレッタはまた明るく笑った。

「そんなのわかってるっす!! でも、大好きなんだから仕方ないっす!」

 彼女はそう言って目を輝かせた。
 トリガーはまた唇を噛んでから、諦めたようにふっ、と笑った。

「やはり……お前は七人の魔姫の一人だものな……」

「しちにんのまき? なんすか? それ?」

 バレッタが目を見開いて不思議そうに訊くのをトリガーは笑いながら見た。

「なんでもない。 お前はお前が正しいと思ったことをすればいいさ」

「はいっす!!」

 彼女はまた嬉しそうに笑うと両手の実銃ベレッタのスライドを順番に引いた。

「……実銃の腕はなまってないんだろうな? ベッキー」

 トリガーが言うと、バレッタは力強く頷いた。

「誰に向かって言ってるんすか、お兄ちゃん!」

 彼女の返事を聞いてトリガーは満足そうに頷いてARアサルトライフルを抱えて低い体勢で屈んだ。

「隕石が来るぞ! ラム! バレッタ!」

 彼が声を掛けると二人は頷いた。

「ふっ!!」

 ラムが息を吐き出しながら長槍ランスの魔導杖を構え、それを振り回して防御結界を張っていく。
 彼女がロッドを地面に突き刺すと地割れが起きて、皆の周囲に防御壁ができていった。

「ねえ、二人とも。 隕石を防いだ後の話なんだけど、対魔法防御服アンチ・マギカ・スーツの敵が出てくるまではなるべくわたしが倒すわ! 無駄弾使う余裕はないでしょ?」

 ラムが叫ぶとトリガーとバレッタは頷いた。

「さっすがラムっす! 相変わらずデキる女っすねえ!! お兄ちゃん! こういう人を嫁にするといいっすよ!」

 バレッタが嬉しそうに叫ぶと、ラムは頬を赤らめてもじもじと地面に視線を落とした。
 そしてさりげなくトリガーの表情を窺っている。

「……ああ、考えておく」

 トリガーは素っ気なく答えてライフルを構えながら周囲の様子を窺っている。

「あーいう奴なのよ……」

 ラムが肩を落としてため息をつくと、バレッタは歯を見せて笑いながら右手の親指を立てて見せた。

「ラム、ドンマイっす!」

「……ありがと」

 ラムはもう一度ため息をついて槍を構え直しながら防御結界に魔力を込めた。



 その時、彼らの前に妙な竜巻のような疾風が現れて、それは人の形になった。

「誰だ?」

 イクローの声にその人物はふり向いた。
 まるで古代のインカの王のモノを簡素にしたような妙な金属の仮面を付け、黒いマントを羽織り、その手に大きな古い本を抱えている。

「ああ、君かね? 圓道イクロー」

 そいつは少し嬉しそうに言った。

「てめぇ……てめぇは!!」

 イクローの顔はとてつもないほどの怒りに染まり、その体中から魔力の炎が噴きあがった。

「てめぇ……てめぇだけは許さねぇぞ!! サン・ジェルマン!!」

 イクローは叫んで立ち上がった。

 隕石はもう彼らのすぐ真上にまで迫ってきていた。

「サン・ジェルマン……」

 トリガーがその名を呼んだ。

「あぁ……君は『欠片』の少年か。 私の『記憶』を思い出したかね?」

 サン・ジェルマンはやや憂いを帯びた目で彼を見た。

「ああ。 僕は思い出したよ、サン・ジェルマン」

 トリガーは目を閉じた。

「そうか。 ならば……宿命の時のその瞬間まで君の生を全うするがいい。 私もそうする」

「そうだな、サン・ジェルマン」

 イクローが怒り狂ってまるで炎を映すような目で二人の間に割って入って叫んだ。

「わけのわからねえ話をしてんじゃねえ!! 俺は……俺は落とし前を付けなくちゃいけねえ……わかるな、サン・ジェルマン!!」

 イクローは激しく燃え盛る自らの腕をサン・ジェルマンに向けた。

「もちろんだとも。 だが、少し待ってくれ」

 彼はそう言って空を指さした。
 イクローはその先へ目を上げた。
 上空には迫りくる蒼く燃える隕石があった。

「あれをなんとかする時間をくれないか? 私はこの森を気に入っていてね。 できる事ならここを焼け野原にはしたくないんだ」

 イクローは必死にその怒りを抑えつけるように苦し気な表情をしてから、頷いた。

「いいだろう。 俺もここにいる仲間たちを傷つけたくはねえ」

「ありがとう、圓道イクロー」

 サン・ジェルマンは軽く礼をして頭を下げると、その腕を炎に染め上げた。
 そしてそこには突撃槍のような魔導杖ロッドが現れた。

「なっ!! サン・ジェルマン!! それは!!」

 イクローは信じられない物を見るような顔で叫んだ。
 そう、その魔導杖は彼の魔導杖、『炎の魔槍アラドヴァル』にあまりにもそっくりだったのだ。
 ただし、彼の物よりも大きく長くその形はより洗練されている様に見えた。

「さぁ、炎の魔槍よ……」

 サン・ジェルマンはイクローを無視して隕石を睨みながら槍を構えた。
 槍はそれに応えるかのように炎を噴き上げた。

「真・突撃劫火推進ロケット・ダイヴ!」

 サン・ジェルマンはそう静かに口にすると、自らが炎の塊のようになり、まるでもう一つ地上に赤い隕石が現れたようになって、次の瞬間そのまま飛び上がった。
 そしてすぐに目も眩むほどの激しい閃光を発すると巨大な蒼い隕石が粉々に砕け散った。

「な、なんて威力だ……」

 イクローは茫然としてそれを見守った。
 そして槍を抱えたサン・ジェルマンがすう、と上空から降りてきて、背を向けた。

「すまないが、もう少し時間をくれたまえ」

 彼はそう言うと、イクローの返事も待たずに瞬時に姿を消した。
 すぐにまるでデタラメな幾何学模様のような光跡を描いて、光の筋が周囲を駆けまわった。
 恐らくはあれがサン・ジェルマンの動きなのだろう。
 その光は森の先にいるテロリストを飲み込んでは燃やし尽くしていった。

「くっ! ……同じ火属性魔法でも格が違うッ!」

 イクローは悔しそうに顔を歪めて、地に膝を突くとそのまま地面を燃える拳で殴りつけた。
 それは爆発して地面に穴を空ける。

「そうだ。 あれはお前と同じ魔法だ。 同じ魔法を百年かけて磨き上げただけで、お前の魔法と全く同じ物だ」

 トリガーが静かにそう口にした。

「ひゃ、百年だと? ……トリガー、お前何を知ってやがる!」

 イクローが彼を睨み付けると、トリガーはフン、と鼻を鳴らした。

「知っている……というよりは、記憶にある、と言う方が近いな」

 トリガーはそう呟いて憂鬱そうな表情をして、またサン・ジェルマンの描く幾何学的な光跡を見つめた。

「お兄ちゃん……? ほんとにあんたはお兄ちゃんなんすか?」

 バレッタは不安そうな顔をして彼を見つめた。

「そうとも。 僕はトリガー・ぺルラ・ズィターノ。 紛れもなくお前の兄として……この世界に作られたモノだよ」

「お兄ちゃん? 何を……何を言ってるんす?」

 彼女は茫然とした顔で兄を見つめて、ぺたん、と座り込んだ。
 そこへスピカとルーが空中から降りてきた。

「まったく! 冗談じゃありませんわ! どなたですの? 私の隕石を壊してくださったのは!」

 スピカがぷんぷんと怒りながら叫んだ。

「と、トリガー!! あなたなの?!」

 ルーは目を丸くして腕を組んで 立つトリガーを見て、涙を浮かべて口元を押さえた。

「やぁ、ルー。 元気にしていたかい?」

 彼は優し気な顔で笑いかけた。
 それはルーの知るトリガーそのもの。
 記憶の中にある彼そのものだった。

 見れば少し離れた所でラムがキツネのような目をして笑いながら手を振っていた。

「ラム! ラムもいるの?」

「久しぶりね、ルー」

 彼女はそう言って、ルーの側に来ると彼女を抱きしめた。

「スピカ様もお久しぶりです」

 彼女は呆気に取られているスピカにも声をかけて笑顔を見せた。

「な、なんであなた方がここにいらっしゃるんですの?」

 驚くスピカにトリガーとラムは顔を見合わせて思わず吹き出した。

「ご無沙汰しています、スピカ姫様」

 トリガーは膝を突いて頭を下げた。

「挨拶なんて今はどうでもいい! どうなってるんだ! 俺にはさっぱりわけがわからねえ!」

 イクローが堪らず大声を出すと、トリガーは立ち上がって彼を見据えた。

「僕からは何も言う事はないよ。 全ては……」

 彼が言うとサン・ジェルマンが槍を携えて姿を現した。

「そうだね。 私が全てを知っている」

「説明しろ! サン・ジェルマン!!」

 イクローが激昂するとサン・ジェルマンは落ち着け、と手を出した。

「君と私の間には言葉は不要だよ」

「お前の言う事はまるでわからない!」

 イクローは我慢しきれずに魔導杖を現出させると槍の切っ先をサン・ジェルマンの鼻先に突き付けた。

「俺をこんな体にしてくれた落とし前……付けさせてもらうぞ!」

 彼はそう言って魔導鎧を解除すると、制服の胸をはだけた。
 イクローの胸の真ん中には高さ十センチほどの縦長の丸い金色の魔導石が嵌められていて、その周りにキラキラと魔法光を放っていた。

「イクローサマ!! 一体それはなんだ?!」

 ライアットが愕然として叫んだ。

「……俺がガキの頃だ。 こいつが突然俺の前に現れて、こいつを俺の胸に嵌め込んだ。 おかげで俺は早くから魔力を使えるようになったが……だが、だからと言って許せるわけがねえ!」

 イクローは怒りに打ち震えながら、サン・ジェルマンの顔を睨んだ。
 サン・ジェルマンは静かな目をしたまま、頷いた。

「その通りだ、圓道イクロー。 その石が何かわかるかね?」

「俺が知るわけがねえだろ!」

 イクローは今にも飛び掛かりそうな様子でなおも彼に槍の切っ先を向け続けた。
 だが、槍の先はピクリとも動かせなかった。
 サン・ジェルマンの魔法だろうか?

「それは、圓道イクローの『欠片』を集めたものだ。 時間をかければその『欠片』の記憶が君にも蘇ると思っていたのだが……どうやらまだのようだね」

「お、俺のカケラ?」

「君の『欠片』でもあるが違うとも言える」

「わかるように言え! どうにもお前の言う事は回りくどくてイライラする!」

 彼の槍を持つ手がぶるぶると震えている。

「この世界の圓道イクローよ。 君もまた、圓道生朗の『欠片』なのだよ。 私も『欠片』のひとつ。 そしてそこにいるトリガー、彼も『欠片』だ」

 サン・ジェルマンはそう言って、仮面に手をかけた。
 カチャカチャと音を立てて、仮面の留め具を外すと彼はそれを脱ぎ去った。

「な、なんだ……と?!」

 イクローは彼の顔を見て驚き、茫然として地に膝を突いた。
 彼の魔導杖は赤い光の粒子となって消え去っていった。

「そんな……そんなバカな事があるかよ……」

 そこにあるのは大分イクローよりも年かさの、だが間違いなくイクローの顔そのものであった。
 その年かさのイクローは仮面を地面に置くと、左手に大きな古い魔導書を現出させ、それを仮面の隣へと置いた。

「詳しい事はこの魔導書グリモワールが知っている。 ……私は今回のイクロー。 君に賭けてみようと思っているんだ」

 イクローは真っ青な顔をしながら上目遣いでサン・ジェルマンを見た。

「な、何をだ?」

 サン・ジェルマンはなぜか全てを悟ったような笑顔を浮かべた。

「この世界の……終末を」
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