魔法少女はそこにいる。

五月七日ヤマネコ

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第二章 魔法少年唯一無二(オンリーワン)

蒼き流星 01

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「ぼ、僕はトリガー・ぺルラ・ズィターノ!! そこのレベ……バレッタの兄だ!!」

 トリガーの叫びを聞いて周りにいた皆は目を瞬かせた。

「バレッタの……兄貴?」

 イクローが聞くとトリガーは腕を組んで頷いた。

「文句あるのか?」
「……いや、別に文句はねぇけど。 その兄貴が……なんでここにいるんだ?」

「はいはい! とりあえずストップ!!」

 真っ赤な髪の魔法少女が二人の間に割って入った。

「話がややこしくなるから、とりあえずトリガーは黙ってて!」

 彼女はジト目でトリガーを見て嗜めるような口調で言った。

「う……うむ」

 彼は渋々と頷いた。

「君は?」

 イクローに聞かれて彼女はつり目気味の目を線のようにして笑った。

「私はラム。 この子の幼馴染みたいなものよ」

 彼女はそしてぼんやりとしているバレッタのおでこを指先で軽く小突いた。
 するとバレッタは瞳孔の開いたままの瞳をイクローに向けると身体を震わせ始めた。

「お、おい?! バレッタ! どうした!? 大丈夫か? おい!」

 イクローは必死に彼女の表情を覗き込むようにして呼びかけた。
 バレッタは、一筋、つつ、と涙を零して右手を伸ばすとイクローの頬に触れた。

「……センパイ……あたし……」

 彼女が言いながら苦しそうに顔をしかめるとイクローは彼女を抱きしめた。

「今はいい! 何も考えるな! お前はなにも悪くねえ!」

 バレッタはイクローの胸に顔を埋めながら方を振るわせて泣きじゃくった。

「でも! でも! あたしは……あたしは! 大好きなセンパイや仲良しのアオイちゃんや……尊敬するライア姐さんや……大事な人たちに……魔導杖を向けてしまったっす!!」

 イクローは彼女の髪に手を置いて撫でながら笑った。

「気にすんな! 今はルードゥス期間中だろ? 俺たちが戦うことだってあるさ! だいたいお前、あんな酔っ払いのへろへろ弾なんてみんな避けられるからな! ちっとも効いちゃいねえよ!」

 バレッタはぽこぽこ、とイクローの胸を叩いた。

「ひどいっす! センパイ! ……でも……ありがとうっす。 センパイに真名を教えておいて本当によかった……」

 彼女がまたぐすぐすと泣き始めると、イクローの隣でラムがやれやれ、と手を広げた。

「とりあえずこの子が正気に戻ったのなら、一度撤退しましょう! ……それにしてもイクロー、あんた女の子の慰め方まるでなっちゃいないわ!」

 イクローは不満そうな顔になった。

「そ、そうか? そりゃ悪かったな……」

 バレッタは目を丸くしてイクローの肩越しに赤い髪の魔法少女を見つめる。

「ラム? なんでラムがここにいるっす? ……じゃあ……もしかして本当にお兄ちゃんも?」

 彼女がそう尋ねた瞬間に周囲の警戒をしていたトリガーが彼らの所まで全力で走ってくると、イクローの首ねっこを掴んだ。

「さっきから我慢していたが……貴様……いつまで妹に抱きついてるつもりだ?」

 トリガーが鋭い目で彼を持ち上げた瞬間に、トリガーの背中にバレッタが抱きついた。

「ほんとにお兄ちゃんだ!! お兄ちゃんがいる!! うわあぁぁぁ!!」

 彼女は激しく泣き叫びながらトリガーにしがみついた。
 彼はイクローの顔を気まずそうに見つめてから、彼の襟首を掴んでいた手を離して、後ろを向いてバレッタを抱きしめた。

「……今まで会いに来れなくてすまなかった、ベッキー……」
「うあああああん、お兄ちゃぁぁぁん!! なんであたしを一人にしたんすかぁぁぁ!! なんで連絡の一つもよこさなかったんすかぁぁ!!」

 バレッタは子供のように彼の身体に必死にしがみついて、何度も何度もトリガーの胸を叩いて泣き叫んだ。
 それが夢や幻でないことを確かめるかのように。
 三年ぶりに会えた兄の姿がまた消えてしまわないかと不安なのもあるのだろう。
 彼女の若草色の髪を撫でながら、彼の目にもまた光るものがあった。

「あ~ぁ、相変わらずのシスコン、ブラコンぷりねぇ……」

 ラムが呆れたように笑いながら言うと、隣のイクローも彼女に笑って見せた。

「いいんじゃねぇの? 久しぶりに会えたんだろ?」
「まぁね」

 彼女も嬉しそうに笑いながら魔法で高い土の壁を横へどんどん伸ばしていった。

「これで、しばらく敵はこっちにはこれないでしょう……」

 ラムの言葉にイクローは頷いた。

「で、あんたらはなんでここにいるんだ?」

 イクローの問いにラムは簡潔に答えた。

「私たちは反AMGG組織に属しているの。 だからAMGGがここを攻撃したって聞いて飛んできたのよ。 今頃学園の校舎にヘリが行って怪我人とかを保護しているはずよ」
「なるほど……。 まぁ、AMGGの仲間に魔法少女がいるわけがないからな。 信じるぜ。 まぁバレッタの兄貴もいるしな」

 イクローが笑顔をラムに向けると、彼女はくすくすと笑い始めた。

「な、なんだよ?」
「いえ。 あなたとトリガーはよく似てるなと思って」
「そうかぁ? なんか納得いかねぇんだけど……」

 彼の返事にラムは吹き出してけらけらと笑った。

 ラムの空けた地下の穴に移動してみんな落ち着くと、突然トリガーは仏頂面でイクローやライアットたちに頭を下げた。

「改めて……トリガー・ペルラ・ズィターノだ……。 その……妹が、世話になっている」
「お兄ちゃん! なんすか、その無愛想っぷりは! はい、もう一度やり直し!!」

 バレッタが人差し指を立てながら口を尖らせて言う。

「……もういいよ、バレッタ。 兄貴を許してやれよ」

 イクローが笑って彼女に言うと、バレッタはふくれ面になった。

「そうはいきませんす! お世話になっているセンパイやライア姐さんたちにまともな挨拶もできないような兄では、あたしが恥をかくっすよ!」

 バレッタはなおも怒った様子で答えた。

「あたいもイクローサマもあんたの兄貴の仲間のラムに助けてもらったんだ……これで貸し借りなしでいいじゃねえか。 なぁ? イクローサマよ」

 ライアットもくだけた様子で言いながらバレッタの頭に手を置いた。

「ああ」

 イクローは頷いてトリガーを見た。
 トリガーは変わらず仏頂面で少しすねたような顔で目を逸らした。

「これが……『天子様』か~。 なるほどねぇ~」

 ラムが改めてしげしげとイクローを見てにんまりと笑った。

「な、なんだよ……。 ラム?」

 イクローが少し恥ずかしそうに頬を赤らめて彼女に言うと、ラムはうんうん、と頷いた。

「うん。 いやさ『天子様』ってどんな人だろうってわたしも気になってたからね。 魔法少女憧れの人だもの! うん、なんかいろいろよくわかった気がする」

 ラムが尚も感心したようにイクローを眺めるのをイクローは落ち着かない気持ちでもじもじしながらぶつぶつと言った。

「さ、冴えない『天子』で悪かったな……」

 彼が言うと、ラムは首を振った。

「そんなことないよ。 魔法少女を惹き付ける力、ってのは間違いなくあるんだろうけど、それはそれとして人として嫌いになれないタイプだよ! うん、自信持ちなよ『天子様』! わたしはこれでも人を見る目はあるんだから!」

 彼女がにんまりと笑いながら言うと、イクローは真っ赤な顔で俯いた。

「あ、ありがとうよ……」

 彼が照れ臭そうに頭を掻くと、トリガーが顔を上げてその場の全員を見回しておもむろに口を開いた。

「さて……それではこれからのことを決めよう」

 イクロー、ライアット、バレッタ、アオイ、オスティナ、メタルカ、それにラムはトリガーの顔を見つめた。

「これからって……とりあえず俺はキルカやスピカたちが心配だ。 あいつらのとこに戻りたい!」

 イクローが顔を上げて言うと、すかさずトリガーがまた彼の胸元を掴んだ。

「貴様! 我が主であるキルカ姫様やスピカ姫様を呼び捨てにするなど! あまつさえ、あいつ呼ばわりとは……その不敬、万死に値するぞ!」

 トリガーが彼を睨め付けると、その後ろ頭をバレッタが思い切りチョップした。
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