もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜

刹那玻璃

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逝き遅れの術師と行き遅れの王女のその後

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【わ~い! お帰り、お帰り~アルフ~!】

 どーん!

と容赦なく突撃するぬいぐるみを軽々と受け止めるアルファードという青年。
 わぉ、頑丈ね。

「ただいま~ヴァーロ」

【お土産! ドーナツ食べた~い!】

「ダメだよ~こないだ、アルス様に怒られたとこだろ?」

【大丈夫だも~ん!】

 アルファードの足にしがみついて訴えるぬいぐるみ……大型すぎるけど子犬のように無邪気……尻尾が長いもふもふ。
 絶対、

 気持ちよさそうだなぁ……もふりたいなぁ……

と琴葉は思っているに違いない。

 いや、琴葉。この生き物は見た目だけ無害よ?

と心の中で言っておく。
 その間にも可愛いお姫様たちは、

「ヴァーロ様、こんにちは!」
「おみやげ買ってきたの」

とモフドラに挨拶をしている。

【わ~い! フェリとメリッサ大好き~! ……あれ? お客さま?】

 キョトンと琴葉を見るぬいぐるみに、琴葉は慌てて頭を下げた。

「あ、初めまして。コトハ・シュピーゲルと言います」

【コトハ? 不思議なお名前だね~?】

 そりゃぁね……琴葉っていうのはこの世界にはない言葉だからね。
 そしてシュピーゲルはドイツ語で【鏡】のことだ。
 加賀見琴葉のままでは不思議がられる。
 それらしい苗字をつけるべきだと伝えておいたのだ。

 アルファードから離れ、トコトコこちらに近づいてきたぬいぐるみは、ポーンと姿を変えると、10歳前後……いや、もうちょっと幼い少年になった。
 緑青の瞳と水色と青が混じったマーブル模様の不思議な髪をしている。

「コトハ、よろしくね~。ボクはヴァーロだよ~。本名はヴァーソロミューで~す! 年は……1000歳だよ~!」
「えっ? 1000さい?」
「正式には1098さ~い……だと思う!」

 えっへん!

 今度も胸を張るものの、幼すぎる……。
 しかも胸を張りすぎてバランスを崩して尻餅をついた。
 バランスの悪い体らしい。

「あ、違うから……ヴァーロはまだ、500を超えたくらいだから……」

 アルファードが口を挟むが、パンパン手を叩きながら立ち上がる。

「何言ってるの? メリッサの父親がそれくらいでしょ~? 不老の魔導師じゃ~ん。ボクの愛し子を嫁にしちゃったんだもん! やーい、アレコン! 幼女趣味~!」
「何を娘に教えてんだ! この年齢詐称!」

 白亜の建物から音もなく現れたのは、漆黒のマントの青年。
 30代になっていなさそうな歳若のひょろっとした青年。
 なんか一二度見たことがある……人に似ている。

「あ、とうさま!」
「お帰り、メリッサ。バーバラが心配していたよ」
「大丈夫! アルお兄ちゃんとフェリと一緒!」
「じゃないと出しません」

 琴葉から離れ駆け寄ったメリッサを抱き上げると、青年はデレデレになる。
 娘が可愛いらしい。

「あぁ、色は父親と同じだけど、顔は母親似だよね。メリッサって」
「うちの子良い子、可愛い子!」
「ウザッ! コトハ。一応、コレがマルムスティーン侯爵だよ。術師の長。この国一の魔力を誇ってるの。年が確か477だったかな?」

 見た目詐欺のヴァーロは、メリッサの父親を示す。

「マルムスティーン家は、さっきも言ったように精霊の末裔で、特にこの世界でも長命の一族なんだ。その中でもコレ……ジョセフィーン・クリスティアーノは長い方。それに外見もそんなに老けないから、見た目は若いけど、この国一のジジイです」
「ジジイって言わなくて良いでしょ! それに、そっちの方が長生きでしょうが!」
「ドラゴンは人間より長命なのは普遍的事実です……多分! それに、ボクはまだ子供だもん!」
「……その年でだもんはやめましょう。まぁ、弟の孫たちに後継者が生まれなかったので、80年ほど前に爵位継承する羽目になったんですけどね……」
「まぁ、君んとこ、傍系男子って血が薄くなって、力なくしちゃうらしいからね。それに水辺の領地から離れすぎるとダメなんじゃない?」

 しれっと言う少年に、愕然とするジョセフィーン……前にあった時はジョシュと呼ばれていたけれど、あれは愛称だったようだ。

「は? 私は傍系ですよ?」
「違うじゃん。直系でしょ? 君、アンディおじさんの直系の孫だし、先代侯爵って、君の異母弟の孫だったんだから、傍系も傍系、無理」
「……あぁ、やっぱり……オヤジ、再婚してたもんなぁ……」

 遠い目をするジョセフィーン……その話を察すると、多分、彼の母が直系の子孫だったようだ。
 女性の血筋に能力が受け継がれるらしい。

「そういえば、ねぇねぇ……」

 ヴァーソロミューが琴葉を見上げた。
 ううん、違う。
 見てるのはバッグ……真剣な眼差しでアタシを見ている。
 何かを確認しているようだ。

「ねえ、この人形って生きてるよね? 術の匂いとも違うけど、なんか強い力がプンプンする。それに、甘い甘い……花の香り……ん? なんだろう? コレ……」

 何かを思い出しているのか、それとも長い時間を生きている間に知った情報を掘り起こしているのか、あちこち視線を彷徨わせつつうんうん考え込んでいる。

「えっと……ヴァーソロミューさん?」
「あぁ、もどかし~! なんかわかりそうなのにわかんない、この感覚、イライラする~!」

 唇をへの字にして、眉を顰めた人化したドラゴンは、両手で頭をガシガシとして、キッとアタシを見る。

「わかんないなら、くっついてみることにする! 君たちのうちにお世話になります!」
「えぇぇ!」

 驚き首を振る琴葉に、ヴァーソロミューはへらりと笑い、

「大丈夫~! ボク、この姿じゃなくて、さっきの姿でいるから! それに、ボク強いよ~? これでも育ての親がこの世界で最強の剣士なんだからね! この国の攻撃の要、カズール伯爵と良い勝負なんだから!」

と言ってポンと胸を叩いたのだった。
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