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ヴァーロの家族

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 あらら……

という表情になったヴァーロは、琴葉を見上げる。

「父さんは生まれつき上級の鑑定スキルがあるんだ。でも色々見えすぎるから普段は一時的に見えなくしてる。で、アルスも同じ。自分からギルドの奥に置いている水晶球に触れないと細かいところまで見えないように暗示をかけてる。で、もう一人、こっちは後天的に観る能力を磨いた人がこの人」

 いつの間に部屋にいた、アルスによく似た片眼鏡モノクルをかけた青年を示す。

「この人、わかると思うけどアルスじゃないよ? アルスの祖父……この母さんの父親です。フェルディ・ルシル・フェルプスです。あ、紹介してなかったよね? このボクそっくりの人が、ドルフ・フォン・マガタの末裔で、ミュリエル・レクシア・フェルプス。ギルドの現トップで、ブリランテって祖母がつける前は【何でも屋】って部署を作ろうとした人」
「えぇぇ……【何でも屋】っていいと思うんだけどね?」
「【何でも屋】っていうのは父さんみたいな人のことでしょ! 何でもかんでもし始めると結構高ランクまで高めてしまって、時々覚えることがなくなった……って無気力症候群発症するくせに! この間の無気力は治った?」
「うん、このお菓子が気になって気になって、やる気がみなぎってくるよ!」

 結構ヴァーロの養父はある意味完璧主義者で凝り性、そして煮詰まって燃え尽きるタイプらしい。

「で、この人がアルスのお母さん、ヴィルナ・チェニア・フェルプス。見ての通り加減のできない人。でも、剣技の才は天才的で……騎士団程度なら薙ぎ倒します」
「そ、そうですか……」
「ヴィルナ強いよ! ヴァーロより強いもんね!」

 えっへん!

胸を張るさまは可愛いが、結構物騒だ。
 するとヴァーロが養父を見る。

「あぁ、そういえば、アルスがいろいろなハーブを手に入れてそれを一つ一つ確認してるよ。この琴葉がタネとか、琴葉の前にすんでいた地域の書物をアルスに貸してて、それを研究してる」
「へぇ……」
「ちなみに、ここに出てるお茶も琴葉とアルスのブレンドしたものだよ。ギルド全体が実験台」
「へぇ……普通のお茶にちょっと変わった香りがついた感じでおいしかったよ」
「えと、ミントとカモミールを入れました。普通カモミールは葉と花部分を使うのですが、一番太い茎は無理ですが、分かれた若い茎部分だけ使ってみました。ミントは柔らかい芽を使っています。でもミントは苦手な人も多いので香り程度ですね」

 琴葉の言葉に目を丸くする。
 そして、

「これはこれは楽しそうだね! 私も参加したいよ。お菓子とか……挑戦したくなっちゃった」
「あらら、ミュリエルのやる気に火をつけたね。やぁ、改めて……可愛いお嬢さん。私はフェルディだよ。細かい装飾から、このヴィルナの剣、ヴァーロの武器まで作ってる。よろしく」
「よろしくお願いします。私はコトハ・シュピーゲルです」

立ち上がり丁寧に頭を下げる。

「ふーん……言葉……反射という意味かな」
「えっ?」
「あ、私はね、一応母がグランディアの血を引いた人間で、人が喋る言葉が何を生み出しているか見えるんだ。例えばこの子が食べてる時に美味しいって言う度に、見えないかもしれないけど花がポンポン咲いて、それが空に舞い上がる。この子は特に感情表現が豊かで、何をしても楽しい嬉しい面白いと言うけれど、君は言葉は美しいけれど、その中が見えないように反射させてる……ううん、あれ?」

 モノクルを動かし、琴葉のそばにいるヴァーロとチャチャをじっと見ると、なぜかスンッとつまらなそうな顔になった。

「違った。君が言葉を反射させてるんじゃなかった。ヴァーロだ。ヴァーロ……どっちにしたいの?」
「何がさ……あ! 琴葉のおやつ取るな! これは母さんにあげたの! ジジイにじゃない!」
「いいじゃないか……へぇ……素朴で美味しいね。で、ヴァーロは見せびらかしたいの? それとも大事に大事に隠したいの?」
「何がだよ。琴葉に触っちゃダメ!」

 最終的には琴葉に抱きつき、あっかんべーをする。

「……わかってないのか……これは大変だね。巻き込まれたくないから、私は工房に引っ込ませてもらうよ。ラインに言っといて……逃げられると思うなって」

 ふふふ……

 最後に物騒な言葉を残して去っていったフェルディを見送った四人だが、いつのまにかヴァーロとヴィルナ、そして途中で目が覚めたチャチャがお菓子争奪戦を開催し、ミュリエルと琴葉は落ち着かせるのに必死になったのだった。
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