もう行き詰まったので、逃亡したい私〜異世界でこの中途半端な趣味を活かしてお金を稼ぎたいと思います〜

刹那玻璃

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ミュリエルの独り言

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 自分は中間管理職のような立場だなといつも思っている……うん、物心ついてからもずっとそうだ。
 器用貧乏だの、苦労性長男気質だの言われ続けてきたが、まぁ、一番苦労してるよねと言われる妻との関係……は納得している。

 うん、自分がちょっと、やりすぎたなぁと反省はする。
 でも、あの義父……今は見る影もなく飄々として、自分の孫……ヴァーロやアルスをからかって遊んで、それに飽きると自分の妻である義母を嫌がるのにいじめて泣かせて追い詰めて、蹴り倒されて喜ぶマゾ化しているが、昔のあの人は抜き身の刃そのものだった。
 声をかけるのも躊躇うほど、人を世界を全て拒絶していて、知らず近づいた人間を半殺しどころか血祭り、肉片に変えることも日常だった。
 ……精神的が多々だが、物理的には数回あるのは妻や子供たちには内緒である。

 ヴィルナが生まれた日も、結構ピリピリしていたけれど、義母の養父母……つまりミュリエルにとって祖父母が文字通り義父の性根を叩き直した。
 ヴィルナが生まれて嬉しいはずなのに、義母は弱々しく泣き続けるし、義父は躾けられてる中、一人取り残されていたヴィルナを覗き込み、

「この子……ボクのものにしよう」

と決めた。
 それからは、産後の肥立ちが良くなく長い間床に伏せる義母や、生活のために働かなければならないと細工師として修行に入った義父の代わりに三歳だった自分は祖母からおむつかえに、ミルクを与えたり、着替えのお手伝い、首が座り始めてからは背負って子守もした。
 今更ながら、良く祖母や義母は許してくれたと思う。
 四六時中一緒で、寝る時も起きてからもずっと一緒。
 卑怯なことはしなかったけど、ずっとそばにいてそれが当たり前だと思い込ませた。

 ……うん、後悔してない。
 まぁ、義父は自分に懐いてくれなかったと文句を言うけれど、それは仕方ないし、他に二人の娘がいたんだからいいじゃないかと思う。
 でも、ヴィルナのこのバカ可愛いのは本当に何年経っても、変わらない。

「でも、私もそろそろ引退したいんだけどね……アルスは医薬関係の仕事に集中したいらしいし……せっつくべきかな……」



 小さい頃の自分に瓜二つの【長男】。
 自分に全部似ていたらそこまで思わなかったかもしれないけれど、ちょっと瞳の色や髪の色は妻に似ていて、喋り方は語尾を伸ばすところは妻、少々理論的と言えばいいけれど、かなり鬱陶しいくらい神経質で凝り性なのは私に似てしまった。
 でも、きっと自分がヴィルナと会わなかったら、きっとこの子のようになっていたのかもしれないなぁ……と、思える部分が多いのはずっと【家族】として過ごしていたからだろうか?
 ヴァーロが私……を写しとっているのか?
 いや、私自身が劣化版なのか?

「どうしたのぉ?」

 可愛く愛おしい私の半身は、なんだかんだ言いつつ、いつのまにかパラプルのポーチをゲットしていた。
 綿を詰めたというまん丸のパラプルそのままと言いたくなる形、口をパカッと開けて、甘いものを丸呑みする口を、お金の出し入れ口にしたそのコインケースは、まぁ、ヴィルナでなくても面白くて可愛いと気にいるだろう。
 よく考えたものだと逆に感心したが、今度これを簡単にあげるあげると言わないで欲しいと切に祈っている。
 そして、ヴィルナのコインケースのお金を払うと言ったのだが、琴葉という少々ポワポワしたある意味商売人失格の少女は、自分の作ったものを喜ぶ姿に、嬉しそうにして、

「あの、沢山買ってくださいましたし、色々教えていただいたので、これはほんの気持ちとして、もらってください。それにこんなに喜んでいただけるなんて思いませんでした。自信になります。嬉しいです」

と言っていた。
 バラバラになったテーブルの上を片付ける姿を横目に見つつ、人間の姿に戻し正座させた……最初は裸だったので、琴葉に見えないところで拳を一発お見舞いしてやったのは仕方ないと思う。
 公共の場で自分の幼少期の裸はいただけない。
 急いで脱いだマントを投げつけ、すぐに服を着るように命じる。
 そして、割れた食器を後で様子を伺いにきたラハシアと共にカートを押して持って行ってくれた隙に、

「……ヴァーロ。あの子が大盤振る舞いしないか見張りなさい。いいね?」

と念を押したが、

「あ、それもう遅いよ。だって初対面のフェリシアやメリッサ、アルファードにその不思議な魚のコインケースをプレゼントしてたし、次に会いに来たジョシュとバーバラも含めたメンバーに可愛いカップやお皿やバッグやお菓子をプレゼント。確か、珍しい籐とも違う薄い板のようなもので編んだ籠のバッグも3人にあげてたし、このボクのバッグ……あの前に腰に挟んでいたマジックバッグをこっちに移したのも琴葉で、アルファードのバッグも容量変更にランクアップまでしてお金要求しなかったもん」

と飄々と返された時、勢い余って襟首を掴み、ついつい揺さぶってしまった。

「……ヴァーロ……マジックバッグ前のバッグの購入費とランクアップはアルファードに、コインケース以外のバッグ代などの請求書をジョシュに出すから……私が、ギルドが、あの子の後見人となったことをしっかりはっきり分からせるからね! どれだけアレらに使ったか紙に書き出しなさい!」
「あ、お皿とカップは確か、琴葉がいうにはさっき言っていたポイントカードを溜めて交換したような物で、沢山あるからって言ってました。今度のお店でもお客さんに使うらしいです」
「……はぁぁ……全く危機感が足りない」
「ボクもそう思う。でも、ニコニコ嬉しそうだし、一所懸命何か考えてる時も可愛いけど、何か思いついた時の表情も花が咲いたみたいになってハッとするし、お菓子いい匂いして美味しいけど、琴葉ってもっとふわふわして美味しそうだし……齧ったら甘いのかなぁ……」
「……ヴァーロ。冷静になって自分の言ってる言葉の意味を確認しなさい」

 次第に発言が危うくなる息子に、手を離す。
 無意識の言葉だろうが、かなり危険である。

 追い出したヴァーロを見送りため息をつきつつ、早々にジョシュを呼びつけるのと、前代未聞のマジックバッグを見せてもらうために王太子であるアルファードと繋ぎをつける段取りを手配し、疲れ果てたのだった。



「あのねぇ? なんか、思ったけど、ドルフってヴィルナより弱いとか思ってなぁい?」

 コインケースのふわふわを思う存分堪能し……ヴィルナの加減ない力に耐えうるのがある意味すごいが……ニコニコしながら私を見た。

「ドルフってヴィルナよりすごいよ~? ヴィルナって力だけだもん、本能の人なんだって。理性ないの。突き進むのみ、引くこと考えないおばかちゃんなのね。でも、ドルフっていっぱい考えるでしょ? それにその合間にご飯作って、洗濯して、掃除して~だもん。いっぱいすごいの。ヴィルナが1ならドルフ100だもんね! コトハ言ってたよ。万能の人っているんですねって」
「……ヴィルナがすごいよ」
「えへへ~! それもドルフのおかげ! 絶対無茶してもそばにいてくれるもん!」

 信頼してくれるのはありがたいが、かなり無謀な挑戦を続ける妻に、もう少し自重を覚えてほしいなと思いつつ、抱き締めるミュリエルだった。
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