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アルスとの会話

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【で、聞きたいのは、あのアホドラ、健康優良児だったみたいだけど、本気で一回も体調不良ないの?】

「……2回あるが……笑い話にしかならないが聞くか?」

【……お笑いライブ、聴かせてもらおうじゃないの】

 胸の前で腕を組む美しい人形に、家族間でも笑い話にもならない話を話すことにした。



「……俺が生まれる前だから詳しくはわからないんだが、確か当時はこれくらいの毛玉サイズだったんだ。尻尾を除くだけど。兄貴は500年前までこれくらいだったらしい」

 アルスが手でサイズを作り、桜智は大体把握する。
 この黒髪のドールの半分くらいのようだと。

「真っ白のもふもふふわふわで、足取りもおぼつかないよちよちで、一日の大半は執務に明け暮れる父さんの膝の上で寝てたらしい……って、あ……」

 自分達の正体をバラしかけたと口を押さえるアルスに、桜智は、

【詳しくは聴かないし聞いても意味がない。アタシたちは、今のアンタたちの友人で家族だからね。アタシたちを騙したりしなければいいわ。こっちも説明してない秘密なんて沢山あるしね】

「……すまん。まぁ、有り体に言えば、元は貴族の端くれのようなものだ。父さんはあの性分もあって、次々仕事を渡されたら必死に裁きつつ、母さんとじいさまとおばあさまの食事に掃除洗濯をしてと、こなしていたんだが……仕事を優先すると、食事が作れない、でも、好き嫌いの多い欠食児童……家族が飢える。ということで、一度部下に頼んだんだが、ソイツが暗殺者で、毒入りを持ってきて大騒ぎ。まぁ、3人は元々好き嫌いが多いから、父さんが作ったものじゃないなら食べたくないと拒絶したんだが、置きっぱなしの食事を兄貴が口にして……」

【毒にやられた?】

「……いや、酔っ払った」

【……はぁ? 酔った?】

口を大きく開け愕然とする。
 予想外のセリフに頭の中で整理しようとするが、全く言葉が繋がらない。
 毒に酔うとはどういうことなのだろう?

「あ、毒全部が兄貴の酔っ払う元ってわけじゃない。とあるドラゴンの牙の奥にある特殊な毒があるんだ。神経毒で、人間が吸収すると、呼吸器に影響を与えるものなんだ。それが兄貴にとっては強い醸造酒並みに強いアルコール同然だったらしくて、それに酔って、尻尾を振り回しながらバタンバタン暴れまくり、あちこちの壁に突撃したり頭突きして……破壊しまくったらしい。途中でバタンキューした後に頭の傷を縫い、飛んできた破片で怪我をした手足を治療したのが一回。後は、出来上がったチェニア宮……カズールの館に遊びに行って、階段から落ちて、叩きつけられた……くらいか? いや、あれは睡眠不足だったからそのまま寝てたんだったか? 切り付けられてもケロッとしてるし……」

【……厄介な奴だわね。まさしく殺しても死なない】

「……うん、だから今回の熱が異常というか、びっくりなんだ」

【そりゃそうかもね……】

 頑丈すぎるドラゴンに呆れるしかない。

【で、ちょっと聞きたいんだけど、このバカドラの苦手なことってあるの?】

 桜智は首を傾げて問いかける。
 これは聞いてみたかったのだ。
 毒も平気、階段から落ちても平気なら、コイツは苦手なものはないのか?
 しばらく考え込んだアルスは、ゆっくりと言い聞かせるように答えた。

「あぁ……崖から落ちても、階段からでも大丈夫だが、兄貴は泳げないんだ。で、溺れて死にかけてだな」

【は? 風呂ではバチャバチャしてるじゃないの】

「ドラゴンの姿では犬かきはできる……だが、人間の姿では泳げない……ドラゴンだと毛に空気が含まれて体が浮くみたいで……人の体では浮かないらしい。時々人間の姿で浮くときは、あえて体の下に見えないように力を操作する……が、それだけで泳げないんだ……」

 真剣なアルスの言葉に、ぶっと噴き出す。

【泳げない……】

「力で何とか浮いてるだけっていう感じらしい。移動もできないから、途中で誰かが回収に行く」

【笑える! それはいいこと聞いたわ!】

「とかいうが、桜智は大丈夫なのか?」

【一応昔は泳げたわよ。今は無理ね。残念だけど】

 両手で口を隠し、まるで生きているかのように笑った。

 その後、再び百人一首の話や、色々と彼らの気になる雑学について話していたのだった。
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