絶対に可愛い妹をバッドエンドから取り戻す。

刹那玻璃

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第一章

自称ヒロインの兄弟は苦労している。

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 こちらは、ダグラム子爵令嬢グラフィーラの兄ツィリル。

 わがままに育った上の妹の犯した罪で捕らえられて、項垂れている。
 ツィリルの横では、『自分は悪くない』だの、『娘は無実』だのと叫ぶ親を殴り付けてやりたいほど、腹が立っていた。

 ツィリルは凡庸だ。
 ブサイクではないがさほど印象に残るような特徴のない顔に、ぼやーっとした薄い金とも茶色とも言い難い髪と瞳の色。
 貧乏な家のため学院では必死に特待生で入学し、学力のみトップのまま卒業したが、剣を握っても中レベル、魔法はろくに使えなかったが、何故か魔法省の人までやってきて色々調べられた。

「彼なら悪いこと使わないと思うから、大丈夫でしょう」

と、一つ下で、すでに魔法省に出入りしていたブレイハ公爵家の四男、スラヴォミールの一言で最低限の魔法を教わったのと、魔法省の温室に出入りできるようになった。
 その中で草抜きや珍しい草花の手入れをしてほしいと言われ、アルバイトにしては高額のお金を銀行に振り込まれていた。

 ツィリルには、13歳の離れた可愛い弟妹がいる。
 双子の名前は、エマヌエルとクリスチナという。
 親に言わせればツィリル同様凡庸だが、大きな瞳はそれぞれ緑、髪の色はツィリルと同じ色。
 素直で、歳の離れたツィリルに全力で甘えてくる。

 両親は母親に似た鼻につく3歳下のグラフィーラのみ溺愛し、財政が逼迫ひっぱくしているというのに何でも買い与え、文句を言うと怒鳴り、泣き喚く。
 その上、まだ幼い双子に手をあげようとするグラフィーラを止めようとしない。
 もうダメだと、ツィリルは学院を卒業後、バイトの延長のようにそのまま魔法省の薬草保管、薬草園の職員として就職したこともあって、貯めていたお金を使い二人を連れて家を出ようと思っていた。
 ちょうどそれを、学生時代に何度か魔法の扱いを教えてくれたスラヴォミールに相談しようとしたばかりだったのだ。

「どうしてこんなことに……ミールやブレイハ公爵家の皆さんに顔向けできない……! あんなに良くしてもらったのに」

 当時、すでに両親は上の妹ばかり溺愛し、ツィリルだけでなく、まだよちよち歩きの双子に容赦しなかった。
 グラフィーラも親の前では可愛い子を装うが、庭で遊んでいた双子を蹴ったり突き飛ばしたり、おやつを取り上げたりと、お前の方こそ子供か? と言いたくなるほど傍若無人に振る舞った。
 ツィリルが叱り付けても両親に言いつけ、逆に妹を虐待したと食事抜きで納屋に閉じ込められた。

 今更思うが、よくこの年まであの家に居続けられたものだと思う。
 いや、双子のために残ると言い訳せず、もっと早く小さくてもいい普通の街のアパートで良い、仕事があるのだから連れて出ていればよかった。

「エマ、チナ……」

 涙が溢れる。

 こんなクズ両親なんて捨てればよかった。
 グラフィーラが更生するなんて、淡い期待なんてもたなければよかった!
 そうすれば、学生時代から仲良くしてくれたスラヴォミールの大事な妹をこんな目に合わせるクズが家族と思わずに済んだのに!

「おい! おい! ツィリル! グラフィーラが、何をしたんだ!」
「そうよ! あの子は可愛くて優しい子よ? 家で騎士に踏み込まれた時言ってたのは、嘘よね? そうよ! ツィリル! 貴方、ブレイハ公爵家の方と仲が良いんでしょう? 言って頂戴! 冤罪えんざいだって!」
「……黙れ! クズが!」

 息子の口から漏れた言葉に、信じられないと言いたげに振り返る。

「なっ? 今何と言った!」
「クズと言ったんです。お前らのせいで、あの尻軽、アバズレが増長して思い上がり、そんなに可愛くも美しくもない、貧乏な家の娘だと言うのに、家の金を食い尽くした。あんたたちもそれが分かっていながら何でも買い与え、家の財政はより逼迫していった!」
「だ、黙れ!」
「おじいさまがいた頃は、まだマシだった。領地で作っていたハーブや魔法省に納めていた薬草が、普通より高く買ってもらえた。そのために領地に投資もできた、家の補修、保全も定期的にできた。あんたが当主になってからだ! あのアバズレに貢ぎ、あいつの言うことだけ聞いて! 俺はいい、まだ小さいエマやチナを苦しめた!」

 両腕を後ろに回し戒められているだけだったツィリルは膝で立ち、両親に近づく。

「俺は知っているんだぞ? 家の恥だから、こんなのバラしたら、エマたちの将来に傷をつけるからと黙ってたが、どうせ死ぬんだ! あんたが母さんに黙ってたのをバラしてやる!」
「お、おい! やめろ!」
「これで最後なんだよ! 聴け! あんた、7年ほど前からだったか? 母さんが実家に帰ってる時を狙って、グラフィーラを寝室に連れ込んでたな? しかも発売禁止の精力剤や媚薬、惚れ薬を買い込んで、脅してメイドたちとも!」
「い、言うなぁぁ!」
「確か、子供ができたよな? メイドは5人だったか? 他にも外で遊んでたんだろ? で、どうしたんだっけ? 堕胎薬飲ませたんだよな?」

 子爵は青を通り越し白い顔で、昔は美しかった妻をチラッと見る。

「娘とそう言う関係、まだ10歳の自分の子供に手を出して、何してんだ? そしてその弱味を利用されて、溺れて何処まで堕ちたんだ? 母さんも同じだ! 自分の若い頃に似てない? そっくりだ? でもそれはそうだろうさ! あんたの子供だからな。あんたも浮気してたんだろ? そっちに似たんだよな?」
「何だと?」
「ち、違う! 違うわ! 私はそんなことしてない!」
「俺に似てないと思った! このアバズレがぁぁ!」

 妻に詰め寄る子爵に、キッと睨み返した。

「あんたこそ下がゆるいじゃないの! それに、まだ幼い娘に手を出して! あぁ、近親相姦なんて許されないわ! 穢らわしい!」
「浮気者同士、仲良くしてくださいね」

 ニヤッと笑う。

 スカッとした……。
 多分、スラヴォミールと、何度か会ったことのあるラディスラフ先輩、同僚が二人を何とかしてくれる……。
 成人した自分よりまだ幼く、それでいて素直で真面目なあの子たちなら、どこかの子供のいない一般の家の養子にでも……まぁ、そこまでではなくても、孤児院でも家よりマシ。

「……これで思い残すことはない……」

 捕まる前に口に毒を仕込んでおいた。
 これをカプセル状のこれを噛みしめれば……。
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