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第一章
お前たちは、国にも3人の未来にも必要ないんだよ。
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「あの~ツィリル。お願いがあるんだけど~」
突然扉が開き入ってきたのは、魔法省の正装であるフード付きマントを羽織ったスラヴォミール。
普段頭からフードをかぶっているのに、今はフードを下ろしけだるげというか、物憂げな表情で近づいてくる。
後ろから入ってくるのは、ツィリルの双子の弟妹の手を引いた妖艶な美女……スラヴォミールの母、マグダレーナ。
マグダレーナは元々公爵領を采配するため、滅多に王都に戻っておらず、そして社交界にも顔を出すことは少なかった。
ツィリルも長期休暇にスラヴォミールに誘われ、領地に連れて行ってもらった時に会い挨拶をさせてもらったのが最初である。
ちなみにその時には親にはバイトをすると言い、バイト代でエマヌエルとクリスチナを預かってもらうと嘘を言い、場所は告げず出て行った。
「あっ、お久しぶりでございます。ブレイハ公爵夫人。ツィリルです。今回は本当に、本当に申し訳ございませんでした!」
必死に頭を下げる。
あの時にはバイトのつもりだったのに、ほとんどスラヴォミールやラディスラフと家庭教師を呼んでもらい勉強し、一緒に遊んだ。
双子はスティファーリアに懐き、絵本を読んだり、庭でお茶会ごっこをしたりしていた。
親たちは双子を育児放棄しており、全くマナーを教えていなかったが、マグダレーナやスラヴォミールの次兄のカシュパルが忙しい中、二人に言葉遣いやテーブルマナー、ダンスを教えてくれた。
クリスチナはレディのように扱ってくれ、ゆっくりとダンスを教えてくれる王子様のようなカシュパルに憧れ、そして姉のようなスティファーリアのしていることを真似たり、エマヌエルはラディスラフと仲良くなり、騎士になりたいというようになった。
あの時が自分たちにとって、一番幸せだったのだろう。
「兄さまぁぁ!」
「兄さま、抱っこして!」
マグダレーナから離れ、ツィリルに抱きついた双子は、
「レーナ母さま。ミール兄さま、ごめんなさい。でも、兄さま悪くないの!」
「兄さまは、チナ……私とエマを連れてもうすぐ家を出るつもりだったの。こんなことしてるなんて知らなかったの!」
泣きながら頭を下げる。
「ごめんなさい。リリー姉さま……」
「リリー姉さまが助かるなら、私の命を差し出します。だから、兄さまを助けてください」
「駄目だ! エマ、チナ! お願いです! 二人は関係ないんです!」
「それよりも、ワシの命を助けてくれ! ワシは悪くない!」
「私は知らなかったわ!」
兄妹の必死の命乞いに便乗する声に、マグダレーナは柳眉をひそめ、無視をしたスラヴォミールは親友に近づきロープを解き放ちながら、
「何であんたたちを助けなきゃならないのよ。助けるなら、ツィリルとエマとチナに決まってるでしょ? それに、あんたたちなんて魔力もないし、頭も顔も悪いし、下半身男に尻軽女。ちなみにアバズレを作って、煽らせてわたくしの可愛いリリーを傷つけたクズども。解き放つはずがないじゃない! ここで死ねばいい!」
「なっ? こいつらは凡庸で……」
「そうよ! 何で! この子たちは魔法は使えない、役立たずって……」
「はっ? そんなこと魔法省のトップや陛下方、ひとっことも言ってないわよ。3人とも魔力の質も量も特級。でも、使える魔法がなかったの。わたくしは一応炎、水、風、土とかすぐに何かを発生させやすい元素系だけど、ツィリルは最近まで分かりにくかったけど光、緑よ。エマとチナは二人で促進系……緑とかね。エマたちは一応家の領地で預かってた時に、庭を1日で花畑にしたから、そうじゃないかって言ってたのよ~。でも、どういう風に過ごせばいいのかって魔法省でも話してたの。ツィリルにも説明しにくいでしょ? 特に使いにくい魔力垂れ流し系よ?」
と慣れ親しんだ言葉遣いに、笑い返す。
「その方が君らしいよ」
「ツィリルは、わたくしの兄様たちと同じくらいかっこいいわ。わたくしが女の子だったら、ツィリルの奥さんになるのにね?」
「それもよかったね」
その言葉に、スラヴォミールは面白がるようにウインクをして、立たせると、
「母さま、ツィリルたちを」
「えぇ」
四人を見送った後、スラヴォミールは腕を組み、元凶の両親を見下ろし、
「さて、国王陛下に許可を得てるよ。ダグマル子爵。禁じられている違法薬物、媚薬、堕胎薬を自らも使い、そして売り捌いたよね? 元々、ダグマル領は国の魔法省、医療省へ納めるべき薬草の産地だった。でも、30年ほど前、大雨の濁流で領地が壊滅的状況になり、良質な薬草が収穫できなくなり先代自身の希望で解消された。確か先代の子爵は必死に領地を立て直そうとし、川の堤防を作ったり、領民に手厚い手当をしたはずだ。15年前急死されたが、僕は覚えてるよ? 朝、祖父……先代ブレイハ公爵に会いに来られた。『5年ほど前からこう言った薬草が生えるようになった。孫のツィリルが世話をする庭に生えていて、不思議な花だ』と。『王宮の書庫に許可を得て、調べていたところ竜の国に咲く花に似ている』と。『この花を育てて見たいのだ』と嬉しそうに笑っておられた」
睨み付ける。
「先代は立派な方だった。ツィリルは先代にそっくりだ。お前たちが愛するアバズレよりも、ツィリルやエマとチナの方がよっぽど特別だ。それに、ツィリルは竜の国から直々に留学をしないかと問い合わせられている。エマとチナもこちらより向こうのほうが魔法……魔術が発達した国で成長するほうがマシだろうね。で、お前たちは、この国にも、旅立つ3人にとっても、必要悪なんだよ。だからね? 最後に役に立ってもらうよ?」
「何を!」
スラヴォミールは手を伸ばして、二人の頭を触れた。
にっこりと笑い、告げる。
「良かったよ。少しでも力が必要なんだ……時間を巻き戻す為にね?」
突然扉が開き入ってきたのは、魔法省の正装であるフード付きマントを羽織ったスラヴォミール。
普段頭からフードをかぶっているのに、今はフードを下ろしけだるげというか、物憂げな表情で近づいてくる。
後ろから入ってくるのは、ツィリルの双子の弟妹の手を引いた妖艶な美女……スラヴォミールの母、マグダレーナ。
マグダレーナは元々公爵領を采配するため、滅多に王都に戻っておらず、そして社交界にも顔を出すことは少なかった。
ツィリルも長期休暇にスラヴォミールに誘われ、領地に連れて行ってもらった時に会い挨拶をさせてもらったのが最初である。
ちなみにその時には親にはバイトをすると言い、バイト代でエマヌエルとクリスチナを預かってもらうと嘘を言い、場所は告げず出て行った。
「あっ、お久しぶりでございます。ブレイハ公爵夫人。ツィリルです。今回は本当に、本当に申し訳ございませんでした!」
必死に頭を下げる。
あの時にはバイトのつもりだったのに、ほとんどスラヴォミールやラディスラフと家庭教師を呼んでもらい勉強し、一緒に遊んだ。
双子はスティファーリアに懐き、絵本を読んだり、庭でお茶会ごっこをしたりしていた。
親たちは双子を育児放棄しており、全くマナーを教えていなかったが、マグダレーナやスラヴォミールの次兄のカシュパルが忙しい中、二人に言葉遣いやテーブルマナー、ダンスを教えてくれた。
クリスチナはレディのように扱ってくれ、ゆっくりとダンスを教えてくれる王子様のようなカシュパルに憧れ、そして姉のようなスティファーリアのしていることを真似たり、エマヌエルはラディスラフと仲良くなり、騎士になりたいというようになった。
あの時が自分たちにとって、一番幸せだったのだろう。
「兄さまぁぁ!」
「兄さま、抱っこして!」
マグダレーナから離れ、ツィリルに抱きついた双子は、
「レーナ母さま。ミール兄さま、ごめんなさい。でも、兄さま悪くないの!」
「兄さまは、チナ……私とエマを連れてもうすぐ家を出るつもりだったの。こんなことしてるなんて知らなかったの!」
泣きながら頭を下げる。
「ごめんなさい。リリー姉さま……」
「リリー姉さまが助かるなら、私の命を差し出します。だから、兄さまを助けてください」
「駄目だ! エマ、チナ! お願いです! 二人は関係ないんです!」
「それよりも、ワシの命を助けてくれ! ワシは悪くない!」
「私は知らなかったわ!」
兄妹の必死の命乞いに便乗する声に、マグダレーナは柳眉をひそめ、無視をしたスラヴォミールは親友に近づきロープを解き放ちながら、
「何であんたたちを助けなきゃならないのよ。助けるなら、ツィリルとエマとチナに決まってるでしょ? それに、あんたたちなんて魔力もないし、頭も顔も悪いし、下半身男に尻軽女。ちなみにアバズレを作って、煽らせてわたくしの可愛いリリーを傷つけたクズども。解き放つはずがないじゃない! ここで死ねばいい!」
「なっ? こいつらは凡庸で……」
「そうよ! 何で! この子たちは魔法は使えない、役立たずって……」
「はっ? そんなこと魔法省のトップや陛下方、ひとっことも言ってないわよ。3人とも魔力の質も量も特級。でも、使える魔法がなかったの。わたくしは一応炎、水、風、土とかすぐに何かを発生させやすい元素系だけど、ツィリルは最近まで分かりにくかったけど光、緑よ。エマとチナは二人で促進系……緑とかね。エマたちは一応家の領地で預かってた時に、庭を1日で花畑にしたから、そうじゃないかって言ってたのよ~。でも、どういう風に過ごせばいいのかって魔法省でも話してたの。ツィリルにも説明しにくいでしょ? 特に使いにくい魔力垂れ流し系よ?」
と慣れ親しんだ言葉遣いに、笑い返す。
「その方が君らしいよ」
「ツィリルは、わたくしの兄様たちと同じくらいかっこいいわ。わたくしが女の子だったら、ツィリルの奥さんになるのにね?」
「それもよかったね」
その言葉に、スラヴォミールは面白がるようにウインクをして、立たせると、
「母さま、ツィリルたちを」
「えぇ」
四人を見送った後、スラヴォミールは腕を組み、元凶の両親を見下ろし、
「さて、国王陛下に許可を得てるよ。ダグマル子爵。禁じられている違法薬物、媚薬、堕胎薬を自らも使い、そして売り捌いたよね? 元々、ダグマル領は国の魔法省、医療省へ納めるべき薬草の産地だった。でも、30年ほど前、大雨の濁流で領地が壊滅的状況になり、良質な薬草が収穫できなくなり先代自身の希望で解消された。確か先代の子爵は必死に領地を立て直そうとし、川の堤防を作ったり、領民に手厚い手当をしたはずだ。15年前急死されたが、僕は覚えてるよ? 朝、祖父……先代ブレイハ公爵に会いに来られた。『5年ほど前からこう言った薬草が生えるようになった。孫のツィリルが世話をする庭に生えていて、不思議な花だ』と。『王宮の書庫に許可を得て、調べていたところ竜の国に咲く花に似ている』と。『この花を育てて見たいのだ』と嬉しそうに笑っておられた」
睨み付ける。
「先代は立派な方だった。ツィリルは先代にそっくりだ。お前たちが愛するアバズレよりも、ツィリルやエマとチナの方がよっぽど特別だ。それに、ツィリルは竜の国から直々に留学をしないかと問い合わせられている。エマとチナもこちらより向こうのほうが魔法……魔術が発達した国で成長するほうがマシだろうね。で、お前たちは、この国にも、旅立つ3人にとっても、必要悪なんだよ。だからね? 最後に役に立ってもらうよ?」
「何を!」
スラヴォミールは手を伸ばして、二人の頭を触れた。
にっこりと笑い、告げる。
「良かったよ。少しでも力が必要なんだ……時間を巻き戻す為にね?」
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