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第二章
新しく生まれいずる命。
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兄妹の中で一番小さく生まれたのが、スラヴォミールだったとは聞いていた。
当時4歳だったカシュパルは、ほぼ残る記憶は生まれたスラヴォミールが泣いていて、抱っこしたり頬をつついているくらい。
しかし今、現状は……時々産室から聞こえてくるマグダレーナの声と、励ます祖母や助産師達の声。
遡った前日に一旦、イェレミアーシュに3人は別室に集められた後、そのまま一緒に眠ってしまった。
多分、イェレミアーシュは今までの……特に自分とカシュパルとの違和感を感づかれないようにしたのだろう。
特にカシュパルはもともと賢い子供だったが、現在、4歳の身体にいるのは、23歳の青年の意識。
無邪気だった子供が急に大人びては、周囲に怪しまれるだろう。
翌日、目を覚ました3人は朝食を食べ、今日は勉強はしなくていいと言われ喜んだ。
そして、ちょっと廊下に出ようと扉を開け、驚いた。
特に母の苦しげな声が聞こえてくるたびに兄弟は青ざめ、手を握り合った。
何も知らない……当然だ、置き去りにしてしまったのだから……26歳の兄を思い出し、目の前で涙目になっている兄を見上げる。
「大丈夫だよ! 母さまも妹も大丈夫! だから、泣かないで?」
「兄上も泣かないで?」
「あれ? カーシュ、今までボクのこと、兄上なんて言ってなかったのに?」
「えっ……えーと、ボクもお兄ちゃんだから、そう呼ぼうと思ったんです。えっと……本当はにーさまの方が好きです……」
うわっ、そう言えば……幼い頃はマティアーシュをにーさまと呼んでいた。
それに、自他共に認めるブラコンだ。
マティアーシュが進学するときには、かなり嫌がって泣き叫んだ気がする。
俯く弟を見たマティアーシュは、ニコニコと弟の頭を撫でる。
「あー! にーさま! ボクも!」
「はいはい。ラディも一緒」
抱きつくラディスラフに笑いかけたマティアーシュは、父を振り返る。
「父さま。ボクが二人を見ています。今日、お仕事は?」
「いや、大丈夫だよ。それに手につかないからね……マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ。おいで」
首を傾げ近づく長男次男を両脇に、幼い三男を膝に座らせ、話し始める。
「マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ。今は、お前たちに伝えられないことがある」
「父さま?」
不思議そうな顔をするマティアーシュを、カシュパルとラディスラフもじっと見つめる。
ラディスラフは嘘はつけないが、まだ幼く喋るのが難しい。
カシュパルは知識はあるが、どうしても説明が辛い。
「意味をまだ伝えられない……これを知っているのは母さまと父さまだけだから……お前が大きくなってわかる時が来たら、必ず話すことにする。だから、今は生まれてくる赤ん坊と母さまに祈ってくれるかな?」
「……いつか話してくれますか?」
「あぁ。約束するよ。だから、一緒に赤ん坊の名前を考えよう」
「はい!」
マティアーシュは返事をする。
イェレミアーシュはいくつか決めていた名前を並べる。
その中には当然、『スラヴォミール』の名前を書いている。
カシュパルとラディスラフは、その名前を見ていたが、再び不思議そうに、マティアーシュが問いかける。
「父さま。なんで男の子の名前だけなのですか? 女の子の名前は?」
「えっ……そうか……そうだったね。男の子だと思っていたけれど、女の子だったら……なんて考えてなかったよ」
苦笑する。
そういえば、前は、女の子だったらと大騒ぎだった。
生まれた時は大変だったため、落ち込むより生まれてくれてよかったと涙にくれたのだが、今回は……。
「そうだね……女の子だったら……」
言いかけた時に、扉が開かれる。
「イェレミアーシュ!」
「母上? どうしましたか?」
扉を破るかのような、過激さはないはずの実母の行動に驚く。
「イェレミアーシュ! みんな! 女の子が生まれましたよ!」
「えっ? 子供が? 男の子ですか?」
「何を言っているの! 女の子ですよ!」
「……は?」
立ち上がった時、膝に乗せていたラディスラフが滑り落ち、マティアーシュが落ちる寸前で抱きとめたことも気がつかず、イェレミアーシュは母親に問い返す。
「母上……男の子じゃないのですか?」
「だから女の子ですよ。もう少ししたら連れてきますからね? その顔はなんです? 頑張ったマグダレーナと赤ん坊に、そんな顔を見せるのですか?」
「……母上……本当に娘ですか? えっと……マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ……女の子っておばあさまは言ったのかな?」
マティアーシュは大きく頷く。
「はい! 女の子だそうです! 妹です!」
その腕の中のラディスラフは、焦ったように次兄を見下ろす。
「にー!」
カシュパルは愕然として、この遡りが正しかったのかと思っていたのだった。
当時4歳だったカシュパルは、ほぼ残る記憶は生まれたスラヴォミールが泣いていて、抱っこしたり頬をつついているくらい。
しかし今、現状は……時々産室から聞こえてくるマグダレーナの声と、励ます祖母や助産師達の声。
遡った前日に一旦、イェレミアーシュに3人は別室に集められた後、そのまま一緒に眠ってしまった。
多分、イェレミアーシュは今までの……特に自分とカシュパルとの違和感を感づかれないようにしたのだろう。
特にカシュパルはもともと賢い子供だったが、現在、4歳の身体にいるのは、23歳の青年の意識。
無邪気だった子供が急に大人びては、周囲に怪しまれるだろう。
翌日、目を覚ました3人は朝食を食べ、今日は勉強はしなくていいと言われ喜んだ。
そして、ちょっと廊下に出ようと扉を開け、驚いた。
特に母の苦しげな声が聞こえてくるたびに兄弟は青ざめ、手を握り合った。
何も知らない……当然だ、置き去りにしてしまったのだから……26歳の兄を思い出し、目の前で涙目になっている兄を見上げる。
「大丈夫だよ! 母さまも妹も大丈夫! だから、泣かないで?」
「兄上も泣かないで?」
「あれ? カーシュ、今までボクのこと、兄上なんて言ってなかったのに?」
「えっ……えーと、ボクもお兄ちゃんだから、そう呼ぼうと思ったんです。えっと……本当はにーさまの方が好きです……」
うわっ、そう言えば……幼い頃はマティアーシュをにーさまと呼んでいた。
それに、自他共に認めるブラコンだ。
マティアーシュが進学するときには、かなり嫌がって泣き叫んだ気がする。
俯く弟を見たマティアーシュは、ニコニコと弟の頭を撫でる。
「あー! にーさま! ボクも!」
「はいはい。ラディも一緒」
抱きつくラディスラフに笑いかけたマティアーシュは、父を振り返る。
「父さま。ボクが二人を見ています。今日、お仕事は?」
「いや、大丈夫だよ。それに手につかないからね……マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ。おいで」
首を傾げ近づく長男次男を両脇に、幼い三男を膝に座らせ、話し始める。
「マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ。今は、お前たちに伝えられないことがある」
「父さま?」
不思議そうな顔をするマティアーシュを、カシュパルとラディスラフもじっと見つめる。
ラディスラフは嘘はつけないが、まだ幼く喋るのが難しい。
カシュパルは知識はあるが、どうしても説明が辛い。
「意味をまだ伝えられない……これを知っているのは母さまと父さまだけだから……お前が大きくなってわかる時が来たら、必ず話すことにする。だから、今は生まれてくる赤ん坊と母さまに祈ってくれるかな?」
「……いつか話してくれますか?」
「あぁ。約束するよ。だから、一緒に赤ん坊の名前を考えよう」
「はい!」
マティアーシュは返事をする。
イェレミアーシュはいくつか決めていた名前を並べる。
その中には当然、『スラヴォミール』の名前を書いている。
カシュパルとラディスラフは、その名前を見ていたが、再び不思議そうに、マティアーシュが問いかける。
「父さま。なんで男の子の名前だけなのですか? 女の子の名前は?」
「えっ……そうか……そうだったね。男の子だと思っていたけれど、女の子だったら……なんて考えてなかったよ」
苦笑する。
そういえば、前は、女の子だったらと大騒ぎだった。
生まれた時は大変だったため、落ち込むより生まれてくれてよかったと涙にくれたのだが、今回は……。
「そうだね……女の子だったら……」
言いかけた時に、扉が開かれる。
「イェレミアーシュ!」
「母上? どうしましたか?」
扉を破るかのような、過激さはないはずの実母の行動に驚く。
「イェレミアーシュ! みんな! 女の子が生まれましたよ!」
「えっ? 子供が? 男の子ですか?」
「何を言っているの! 女の子ですよ!」
「……は?」
立ち上がった時、膝に乗せていたラディスラフが滑り落ち、マティアーシュが落ちる寸前で抱きとめたことも気がつかず、イェレミアーシュは母親に問い返す。
「母上……男の子じゃないのですか?」
「だから女の子ですよ。もう少ししたら連れてきますからね? その顔はなんです? 頑張ったマグダレーナと赤ん坊に、そんな顔を見せるのですか?」
「……母上……本当に娘ですか? えっと……マティアーシュ、カシュパル、ラディスラフ……女の子っておばあさまは言ったのかな?」
マティアーシュは大きく頷く。
「はい! 女の子だそうです! 妹です!」
その腕の中のラディスラフは、焦ったように次兄を見下ろす。
「にー!」
カシュパルは愕然として、この遡りが正しかったのかと思っていたのだった。
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