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第二章
誕生報告が届きました。
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『今日、赤ん坊が生まれました』
と、ブレイハ公爵家から早馬が来たのに驚いた。
確か、まだ臨月まで一月近くあったはずである。
早産で、準備はできていたのだろうか?
先王ベンヤミーンは報告に驚く。
同様に思ったのか、現国王ダリミルが使者に問いかける。
「マグダレーナ……公爵夫人と赤ん坊は無事だったのかな?」
「はい。公爵夫人は大変お疲れのようですが、生まれたお子様と一緒にお過ごしです。公爵と若君方は、生まれたお子様にお名前をと一緒に考えておられました」
「……では、どのような名前に?」
ガブリエラが目を輝かせ、身を乗り出すようにして問いかける。
「スラヴォミールさまとおっしゃられます」
「まぁ、男の子?」
「お小さいですが、とても可愛らしいお子様でいらっしゃいます」
「会いにいくのはいけないかしら?」
「……すぐにというのは無理だろうね。まぁ、可愛らしい赤ん坊を私も見たいけれどね」
妹夫妻と違い、恋愛結婚ではないが、それでも隣国の皇女であったガブリエラと共にこの国を守っていたダリミルは、すぐに会いに行きたいと言いたげに自分を見る妃に微笑む。
「落ち着いてから……と言いたいけれど、2週間後くらいにでも、時間があれば見にいこうか?」
「ほ、本当ですか? 陛下」
「あぁ。その代わり、うちの王子がどうだろうね? まぁ、3歳だからだいぶん聞き分けが良くなったかな?」
一人息子に新しい従兄弟が生まれたのだ、きっと喜ぶだろう。
「ありがとうございます、陛下」
「これくらい……君は、本当に欲がないね。私は全く気が利かない。儀式用、公式用の宝石とドレスを贈るだけで、全く君の心に響くものを贈ることができない。本来、君のために必要なのは静養や、大好きな読書に刺繍だというのに……マグダレーナも子育てと嫁ぎ先のことで忙しく、一人で担わせることになってしまった」
「構いませんのよ? わたくしはこちらに来る前は、ベッドや軟禁されていた離れに閉じ込められていて、忘れられておりましたの。お義父さまや陛下がお越しになられ、数少ない手駒を思い出された伯父にあの場に連れてこられた時、わたくしはもう殺されるのだと思っておりましたの」
「オレはガブリエラを殺す気はなかったぞ?」
お茶を飲みながらベンヤミーンは息子の嫁を見る。
すると、当時は痩せこけ青ざめ震えていた少女が、微笑む。
マグダレーナは美貌の持ち主だが、ガブリエラは平凡から少し上の容貌。
そして小柄で細く痩せていて、マグダレーナより年上だが、子供のいる母親という印象は薄い。
「いいえ、お義父さまがお越しでなかったら、多分殺されていたと思いますわ。わたくしのように美しくもなく身体の弱い子供など役立たずだったと思います。小賢しい、可愛くない、醜いと……言われておりましたもの」
「お前は可愛いぞ? 本当はこの可愛げのない馬鹿の嫁より、イェレミアーシュの弟の嫁にと思ったんだが……アレは阿呆だった。どこをどうすればあのイェレミアーシュよりも自分が優っていると思ったんだろうな? 自らを滅ぼすとは。ブレイハ公爵家を傾ける前に烈女とイェレミアーシュが殺さなければ、あいつを殺していただろうよ」
「まぁ、オレク前公爵はお優しいのでおやめください。これからも頑張っていただかないと」
ダリミルは口を挟む。
「それに、アルシュベタ前公爵夫人は見た目はお小さく、庇護欲をかきたてられるようなお可愛らしい方ですが、お強い方ですから。それよりも、ガブリエラ? 君が昼の時間があるときに手にしていた刺繍は素晴らしいね。私は、あまりそういった芸術の目はないけれど、君の針のひと針ひと針が生み出すものは素晴らしいと思うんだ」
「あ、ありがとうございます……この間、グスタフとへ……ダリミルさまのハンカチに刺繍をしましたの。お義父さまにも先日贈りましたのよ」
「……本当に、アレは強烈だったな」
苦笑する。
「オレをなんだと思ってるのか……」
「ドラゴンの刺繍ですわ。一応、竜の国の絵画を参考にしましたの。ダリミルさまには公式用と普段使いに。後でお渡ししますわね」
「嬉しいよ。ありがとう」
「では、今度、わたくしの自己流ですけれど、マグダレーナと赤ちゃんに贈らせていただきますわ。本当はおくるみとか、スタイとか贈りたかったのですが間に合いませんでしたわ。急いで注文して贈らせていただきますわ」
ガブリエラは微笑みながら、義妹と甥たちに会えるのを楽しみに準備を進めるのだった。
と、ブレイハ公爵家から早馬が来たのに驚いた。
確か、まだ臨月まで一月近くあったはずである。
早産で、準備はできていたのだろうか?
先王ベンヤミーンは報告に驚く。
同様に思ったのか、現国王ダリミルが使者に問いかける。
「マグダレーナ……公爵夫人と赤ん坊は無事だったのかな?」
「はい。公爵夫人は大変お疲れのようですが、生まれたお子様と一緒にお過ごしです。公爵と若君方は、生まれたお子様にお名前をと一緒に考えておられました」
「……では、どのような名前に?」
ガブリエラが目を輝かせ、身を乗り出すようにして問いかける。
「スラヴォミールさまとおっしゃられます」
「まぁ、男の子?」
「お小さいですが、とても可愛らしいお子様でいらっしゃいます」
「会いにいくのはいけないかしら?」
「……すぐにというのは無理だろうね。まぁ、可愛らしい赤ん坊を私も見たいけれどね」
妹夫妻と違い、恋愛結婚ではないが、それでも隣国の皇女であったガブリエラと共にこの国を守っていたダリミルは、すぐに会いに行きたいと言いたげに自分を見る妃に微笑む。
「落ち着いてから……と言いたいけれど、2週間後くらいにでも、時間があれば見にいこうか?」
「ほ、本当ですか? 陛下」
「あぁ。その代わり、うちの王子がどうだろうね? まぁ、3歳だからだいぶん聞き分けが良くなったかな?」
一人息子に新しい従兄弟が生まれたのだ、きっと喜ぶだろう。
「ありがとうございます、陛下」
「これくらい……君は、本当に欲がないね。私は全く気が利かない。儀式用、公式用の宝石とドレスを贈るだけで、全く君の心に響くものを贈ることができない。本来、君のために必要なのは静養や、大好きな読書に刺繍だというのに……マグダレーナも子育てと嫁ぎ先のことで忙しく、一人で担わせることになってしまった」
「構いませんのよ? わたくしはこちらに来る前は、ベッドや軟禁されていた離れに閉じ込められていて、忘れられておりましたの。お義父さまや陛下がお越しになられ、数少ない手駒を思い出された伯父にあの場に連れてこられた時、わたくしはもう殺されるのだと思っておりましたの」
「オレはガブリエラを殺す気はなかったぞ?」
お茶を飲みながらベンヤミーンは息子の嫁を見る。
すると、当時は痩せこけ青ざめ震えていた少女が、微笑む。
マグダレーナは美貌の持ち主だが、ガブリエラは平凡から少し上の容貌。
そして小柄で細く痩せていて、マグダレーナより年上だが、子供のいる母親という印象は薄い。
「いいえ、お義父さまがお越しでなかったら、多分殺されていたと思いますわ。わたくしのように美しくもなく身体の弱い子供など役立たずだったと思います。小賢しい、可愛くない、醜いと……言われておりましたもの」
「お前は可愛いぞ? 本当はこの可愛げのない馬鹿の嫁より、イェレミアーシュの弟の嫁にと思ったんだが……アレは阿呆だった。どこをどうすればあのイェレミアーシュよりも自分が優っていると思ったんだろうな? 自らを滅ぼすとは。ブレイハ公爵家を傾ける前に烈女とイェレミアーシュが殺さなければ、あいつを殺していただろうよ」
「まぁ、オレク前公爵はお優しいのでおやめください。これからも頑張っていただかないと」
ダリミルは口を挟む。
「それに、アルシュベタ前公爵夫人は見た目はお小さく、庇護欲をかきたてられるようなお可愛らしい方ですが、お強い方ですから。それよりも、ガブリエラ? 君が昼の時間があるときに手にしていた刺繍は素晴らしいね。私は、あまりそういった芸術の目はないけれど、君の針のひと針ひと針が生み出すものは素晴らしいと思うんだ」
「あ、ありがとうございます……この間、グスタフとへ……ダリミルさまのハンカチに刺繍をしましたの。お義父さまにも先日贈りましたのよ」
「……本当に、アレは強烈だったな」
苦笑する。
「オレをなんだと思ってるのか……」
「ドラゴンの刺繍ですわ。一応、竜の国の絵画を参考にしましたの。ダリミルさまには公式用と普段使いに。後でお渡ししますわね」
「嬉しいよ。ありがとう」
「では、今度、わたくしの自己流ですけれど、マグダレーナと赤ちゃんに贈らせていただきますわ。本当はおくるみとか、スタイとか贈りたかったのですが間に合いませんでしたわ。急いで注文して贈らせていただきますわ」
ガブリエラは微笑みながら、義妹と甥たちに会えるのを楽しみに準備を進めるのだった。
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