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プロローグ

マーヤ、神様? と会う。

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 痛いなぁ……。
 うん、ものすごく痛い……。

 でも、おじいちゃんとおばあちゃんの目の前でだなんて……おじいちゃんたち、泣いてるよね。
 あぁ、それより……おじいちゃんたちには黙ってたけど、母さんがうちの土地を名義変更して取り上げようとしてたから、弁護士さんにお願いしてたけど、大丈夫だよね?

 最近、母さんのブランドの服が売れなくなって、それに父さん、設計して応募しても最近のデザインより古いから……借金だらけだって。

 それにお姉ちゃんも、妻子ある人と不倫疑惑はないよね……。
 しかも、絶対不倫しそうにない、愛妻家で有名なあの人と付き合ってますって宣言するなんて……絶対おかしいよ……。

 周りに迷惑かけるのやめてほしいなぁ。

 おじいちゃん、おばあちゃん……先に逝くなんて、ごめんね。
 おじさんたちと仲良くしてね……。



 耳元で聞こえる祖父母や、慌てる人々の声が遠くなっていった。



「……………っ! ですが……」
「ですがも何もないわ! このクズが!」

 どかっと言う音とともに、真彩まあやにぶつかる。

「いたっ!」

 上にのしかかった、なぜかヌメヌメしたものに、

「い、いやぁぁ! 気持ち悪い!」

バタバタと暴れる。
 そして、目を開けようとしたが、目を覆う……固く巻かれているのを感じ、

「何? お、おじいちゃんとおばあちゃん! ここどこ?」

必死に目を見えるようにするが、解けない。

「何で……」
「……えーと、落ち着いてくれないだろうか?」
「……う、わぁぁん、やっぱりいや~! おじいちゃんとおばあちゃんの所に戻りたいよ~! 死にたくないよ! それに何で、どいて! 目を覆うのやめて!」
「お、落ち着いてくれ。おい、この馬鹿を捨ててこい! そして、カイマーヤだったか? 落ち着いてくれ」

 優しい少年のような声と共に、上のものはどかれる。

「お、おじいちゃんとおばあちゃん……ごめんね、ごめんね。どうしよう。おじいちゃんとおばあちゃんの所に、父さん達が行くかもしれない。弁護士さんの連絡先、分からなかったらどうしよう……」
「……おい、カイマーヤ。聞こえてるか?」
「……せっかく、せっかく……」

 真彩はしゃくりあげる。

「わぁぁ! 泣くな! えっと、話を聞いてくれるか? ここは、カイマーヤの世界と半分繋がっている空間で、実はさっき我が怒鳴りつけた者が……」
「目を見えるようにして下さい」
「それは出来ん。ここに長い間もいられないのだ。カイマーヤ、申し訳ない。カイマーヤに突っ込んできた車が、その前にぶつかったのが我の部下で、本来起きる事故ではなかったのだ」
「じゃぁ、帰して! おじいちゃんとおばあちゃんの所に!」
「それは無理だ。済まない……代わりに何度も呟いていた祖父母のこれからを、私が守ろう。安心するがいい。そして、カイマーヤ……そなたは地球にはいられない。だから、我がもう一つ見守っている世界に生まれ変わって貰う……と言うか、こちらはこの馬鹿が、散々いじめ抜いて自殺してしまった聖女の代わりを探していて、そのオーラの色に似ているのだ。あ、聖女自身は命はあるが、魂がどこに行ったのか分からぬ。解ったとしても戻ってこないだろう。だから、カイマーヤ。この聖女の体に入り、その世界の為に生きてくれるだろうか?」

 真彩は唇を噛む。
 だが、違和感があった……酷い頭痛と吐き気が襲っているのである。

「……わかりました。だったら、おじいちゃんとおばあちゃんをお願いします。実の両親と姉が嫌がらせをしているのです。助けて下さい。お願いします」
「分かった。我は神の中でも4番目に高位の者。誓いは違えん。では、カイマーヤ。目を閉じるがいい」

 その言葉に目を閉じて、そのままスゥッと意識をなくし、そしてこの空間から消えてしまった。

「この……あほんだらぁぁ! バス! テメェの所為で、お気に入りのカイマーヤを手放す羽目になったじゃねぇか!」

 少年はがっしりとはしているが、少々オツムの軽そうな部下に八つ当たりする。

「カイマーヤ程、珍しい色のオーラの輝きは今まで見たことがない。それに、カイマーヤは自己評価は低いが、あんなに綺麗な姿形に髪をしているものはおらぬ。瞳もだ。だから特に気に入っていたのに! ずっと見てたのに! 今、目を隠していたのは我ら神を直接見て、失明するのを避けるためだったが……あぁぁぁ。間近で見てみたかった!」
「アーラァ~ン。どうしたの? 4番目」

 姿を見せたのはレースクイーンばりの、薄い水着のようなドレスの美女。

 ちなみに、4番目と呼ばれた少年は、左胸に勲章、肩当て、マントに腰のベルトには細身の剣を帯剣していた。
 少年騎士である。

「……で、バスを失敗するように仕向けたおばはん……カイマーヤに手を出すようなら、ぶっ殺す」
「あらぁ、怖い怖い。じゃぁね~!」

 あっさり帰っていったのが気味悪かった彼は、腕をこすりながら水晶球の中で眠る真彩を見守ったのだった。
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