Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第一章……ゲームの章

43…… drei und vierzig(ドライウントフィルツィヒ)

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「ディーデリヒ様。歩けますよ?」

 ずっと抱かれたままのアストリットは、訴える。
 しかし、ニッコリと笑ったディーデリヒは、

「大丈夫だよ。落とさないからね」
「そ、そう言う心配じゃないです。み、皆が見てます。イタルさんやフィーちゃんやお母様も……」
「気にしてないと思うよ?」
「きゃぁぁ! ほっぺにキス!」
「親愛の挨拶でしょ?」

 イタルは遠い目になる。

 本当のディーデリヒは、もうちょっと奥手だ……は、嫌味ではなくフェロモン垂れ流し系、無自覚タラシなのだ。

「あらあら、仲良しさんね。ディーくんとアスティ」
「お母様~!」
「いいじゃないの。行きましょうね」

 楽しげに笑うエリーザベト。

「イタルくんもどうぞ。先に食事を。後でお部屋に案内するわね」

 その言葉に、汚い当時の食堂事情を思い出すイタルだったが、案外綺麗で、

「あ、ここは、猟をして飲み食いする時は、猟犬や共に猟に出た皆を慰労する時は、ぐちゃぐちゃなのよ。でも、普段は質素だから。それに不衛生でしょ? アスティが掃除していたから、最近は、気がついた者が掃除をしているの」
「そうなのですか……」

内心ほっとする。
 自分達ならいいが、アストリットのドレスが汚れては可哀想だろう。

「はい。どうぞ、お姫様」
「あ、ありがとうございますって、ディさま、またおひざ抱っこ! 私はフィーちゃんじゃないです。フィーちゃん抱っこしてあげてください」
「フィーは、イタルと楽しそうだから」

 見ると、フィーのそばにいる桃李タオリーと仲良しになり、話をしている。
 そして、こちらは、いつのまにかアナスタージウス一家とリューンとラウが集まっている。
 ドラゴンたちと狼一家を手懐けるアストリットの様子に、後から入ってきたカシミールはレッドドラゴンのロットを肩に載せている。
 その後ろから、頭の上にヴァイスを載せたテオドールまで……。

 イタルは、滅多に見られないドラゴンの幼生たちに絶句する。

「まだ赤ん坊だから。ロットは噛むよ。ヴァイスは甘えっ子だから大丈夫だと思う」
「そうなのですか? えっと、ヴァイス……初めまして」

 きゅわ! きゅきゅきゅわ、きゅわ、きゅわ!

 嬉しそうに返事をした幼い竜は、何故かクネクネ踊り出す。

「あー、ヴァイスはご機嫌なんだ。好き嫌いはこのダンスで解る。ヴァイスにイタルは気に入られてるよ」
「私はこんなに小さい幼生は初めて観ました。ラウ位なら何度か見ましたが、ヴァイスは小さすぎます」
「俺がロットとヴァイスの卵をこの近くで拾ったんだ。そうしたら兄さんの手に載ったらロットが孵って、ヴァイスも」
「凄いですね。すぐ孵るなんて……私はもう死んでいるのかも……」

 胸元から巾着状の袋を取り出すと、そこには金色と銀色の卵が。

「金の卵はもう数百年。この銀色の卵も私が生まれる前からこの状態だそうで、エルフの王がお前と相性がいいから連れて行きなさいと。相性がいいと言う意味がよく分からなくて、このままです」
「あっ! それってマジックアイテムじゃん? 妖精の国に行くイベント攻略しないと、手に入らないやつだ」

 テオドールが素……那岐なぎに戻って呟く。

「普通、イベント攻略後、妖精王子エルフプリンスに認められたら赤銅の卵……でも、それは無精卵と言うか、中から出てこれなくてすでに死んでるんだ。妖精女王エルフクイーンに気に入られたら銀の卵、妖精王エルフキングに認められたら金の卵なんだ。イタルは何かのイベントを複数攻略したのか?」
「えっ? ご、5歳の時……あ……王子が自慢げに見せた赤銅の卵、死にかかってますよと言って……急いで孵したんです。そうしたら、王子の乗竜になるはずが、孵すのが遅れたせいで身体が歪んで寝たきりになったんです……王子が本当は悪いのだと周囲は知ってました。けれど、王子がこんな風にしたのは、自分に懐かないのは、僕のせいだと追い出されたんです。それに……本当は、見た目も詐称していて……この姿は、借り物なんです」

 ポワポワと煙があふれ、現れたのは、フィーよりも幼い大体5歳児。
 しかも、地味な外見だったのが瞳、髪が何故かオパールのような全ての色が乱反射し踊っている。
 顔立ちは整っているが、温和さと幼さの中に知性と高貴な印象が醸し出され、その上に色が乗っている。

「……一応、妖精王第二子、イタルです。年は人間の歳では5歳位です。馬の姿をしているのは、兄の卵から孵ったキュイーヴルです。本当は、代々妖精王の血を引く者は、自分の騎乗するドラゴンの卵を見つけますが、僕は見つけられず……でもキュイーヴルは優しく可愛い兄弟で、この卵も元気です。きっといつか孵して、両親の元に送り届けたら、僕は旅に戻るでしょう。あ、僕はアスティと約束したので、この地で生きます。どうぞ宜しくお願いします」
「えぇぇぇぇ! 妖精の王子!」
「元ですよ。今はただのエルフです」

 5歳児のままで、大人びた表情で卵を見て微笑んでいる。
 服は自由にサイズを調整できるらしく、着替えの心配はない。

 呆然とするアストリットをよそに、ゲームやりこみ派で、裏情報に詳しい那岐が入ったテオドールと、教わったディーデリヒの中にいる雅臣まさおみは、

「……声優のつかない、特別隠れキャラ、妖精王の秘蔵っ子である第二王子がこれかぁ……一般に紛れるには年齢上げてると思ったけど、アスティと臣さんと来るとは!」
「……俺が呼んだんじゃないぞ。出会ったんだ。アスティの運の良さだ」

と言い合っていたのだった。
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