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第一章……ゲームの章
一条雅臣(いちじょうまさおみ)
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ログアウトすると、ゲームの電源を切り、ため息をつく。
今までにない世界観……いや、自分がゲームの世界に身を置く、そんなことが起こるとは思わなかった。
このゲームは昔、姉の糺とその夫であり、戸籍上は兄になる日向とよく遊んだTRPGに良く似ているものである。
TRPGは、和製英語で書くとTabletalk role-playing game。
正式はTabletop role-playing game……(卓上ロールプレイングゲーム、もしくはペンと紙を用いたロールプレイングゲーム)である。
アメリカで1974年に生まれて大ヒットした『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、通称『D&D』や、日本では無料シナリオや設定が利用でき、それにネットで調べられる無料シナリオの、2012年に公開された『りゅうたま』がある。
『りゅうたま』は、インターネットで公開されているだけあって、世界観やキャラクターが分かりやすいが、世代が古い雅臣は『D&D』の世界観を、7歳上の姉と、6歳上の兄と共に遊んだ。
小さかったのもあり、ダンジョンマスター(ゲームの親)にはなれなかったが、かなり鍛えられた覚えがある。
なぜなら……、
「すぅ姉さんは、世界観に浸って、喋り続けて設定が細かくなって……ひな兄さんに止められるし、逆に兄さんがすると、設定は簡単だけど、大雑把な姉さんがズルすると指摘して喧嘩だからなぁ……」
自分がゲームに参加したいとねだる頃は、二人は高校生位である。
途中からいちゃつくのを、ため息をつきながら見ていたとも言う。
元々想像力と文才のあった糺は、中学校の時からすでに小説の投稿を始めていたらしい。
そして、実家で書いていると原稿用紙やノートを捨てられたので、隣の家の日向の部屋にそれらを隠し、投稿を続けていた。
そして、高校卒業前に、ある出版社の小説賞に投稿し大賞受賞。
それで受け取ったお金と身の回りのものを持って、兄と駆け落ちした。
ちなみに、駆け落ちしていなければ、没落寸前の家の為に、親より年上の爺さんと結婚させられるはずだったらしい。
それに、駆け落ちしていなければ、甥の風早と那岐はいなかった。
兄は兄で、高校3年になる前に姿を隠したのだが、もうその歳には兄の方の祖父の名義で株を買い、それを増やしてトレーダー並みの収入を得ていたらしく、その収入と共に逃走した。
しかし、兄は恐ろしい事に、半年に一回、実家にその収入の一部を振り込んでいたらしく、その半端ない……真面目に勤勉に会社に出勤していた養父の年収を遥かに超える額に、かなり養父は落ち込んでいたらしい。
だが、冷静沈着と言うよりも、姉や大切な人間以外はほぼゴミと口にしていた兄曰く、
「すぅの実家から臣を引き取ったって噂に聞いたけん。すぅが臣を心配しよったけんなぁ。それに、父さん母さんも、ある程度老後考えとった方がええと思って」
兄は一人息子だったので、それも心配だったのだろう。
まぁ、そのお金の一部を両親や兄と姉に貰ったお陰で現在の仕事についてもすぐに2LDKの家に住めたし、しばらくして4LDKの現在のマンションを買えたとも言える。
一室は防音室にして発声練習や、吹き替えなどの為の機材を入れたし、那岐たちが滞在する部屋は、自分が吹き替えを担当した映画や海外ドラマ、声を担当したゲームにCDや、その台本などを全て置き、何度か来た直之には、
「オタク垂涎の品ばっかだな。売れば? サインするだけで一桁増えるぞ?」
「はぁ? 何で売れるんですか? これだってちょい役、こっちはガヤです。それに誰が買うんですか? その前に嫌ですよ。二つあるなら兎も角」
とキッパリ言い切った。
幾ら増えようが大丈夫なように棚も揃えたし、色褪せ防止のカバーもかけている。
ついでに、映画を観たりゲームをする時は、この部屋か防音室である。
今回は、防音室だったが……。
リビングのロッキングチェアを持ち込んだのだが、かなりハードだった……。
「……可愛いなぁ……と思った」
肘当てに肘を置き、手のひらに顎を乗せる。
姿勢が悪いと身体がおかしい為、こう言う格好は避けているのだが、考えると癖が出る。
那岐や光流はまだ20代だが、雅臣は三十路半ば過ぎである。
正確に言うと、姉が22の時に長男、24の時に次男が生まれた。
ため息をつく。
甥たちよりも年下の子なのに……何で、感情が乱れるのか……。
多分直之たちに言えばからかわれると思われる。
でも、この気持ちは今まで持ったことがない。
それに、写真や手紙、電話などのやりとりはあっても、本人に会ったこともない。
ただ、ゲームのキャラの一人としてちょこまかして、可愛い声で喋っているだけなのに……。
「あぁ。モヤモヤする。それに、瞬ちゃんは高校生なのに……よしっ」
雅臣はタバコは吸わず、お酒も家では飲まない。
その為、ハーブティを用意して、翌日の収録の準備をしたのだった。
今までにない世界観……いや、自分がゲームの世界に身を置く、そんなことが起こるとは思わなかった。
このゲームは昔、姉の糺とその夫であり、戸籍上は兄になる日向とよく遊んだTRPGに良く似ているものである。
TRPGは、和製英語で書くとTabletalk role-playing game。
正式はTabletop role-playing game……(卓上ロールプレイングゲーム、もしくはペンと紙を用いたロールプレイングゲーム)である。
アメリカで1974年に生まれて大ヒットした『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、通称『D&D』や、日本では無料シナリオや設定が利用でき、それにネットで調べられる無料シナリオの、2012年に公開された『りゅうたま』がある。
『りゅうたま』は、インターネットで公開されているだけあって、世界観やキャラクターが分かりやすいが、世代が古い雅臣は『D&D』の世界観を、7歳上の姉と、6歳上の兄と共に遊んだ。
小さかったのもあり、ダンジョンマスター(ゲームの親)にはなれなかったが、かなり鍛えられた覚えがある。
なぜなら……、
「すぅ姉さんは、世界観に浸って、喋り続けて設定が細かくなって……ひな兄さんに止められるし、逆に兄さんがすると、設定は簡単だけど、大雑把な姉さんがズルすると指摘して喧嘩だからなぁ……」
自分がゲームに参加したいとねだる頃は、二人は高校生位である。
途中からいちゃつくのを、ため息をつきながら見ていたとも言う。
元々想像力と文才のあった糺は、中学校の時からすでに小説の投稿を始めていたらしい。
そして、実家で書いていると原稿用紙やノートを捨てられたので、隣の家の日向の部屋にそれらを隠し、投稿を続けていた。
そして、高校卒業前に、ある出版社の小説賞に投稿し大賞受賞。
それで受け取ったお金と身の回りのものを持って、兄と駆け落ちした。
ちなみに、駆け落ちしていなければ、没落寸前の家の為に、親より年上の爺さんと結婚させられるはずだったらしい。
それに、駆け落ちしていなければ、甥の風早と那岐はいなかった。
兄は兄で、高校3年になる前に姿を隠したのだが、もうその歳には兄の方の祖父の名義で株を買い、それを増やしてトレーダー並みの収入を得ていたらしく、その収入と共に逃走した。
しかし、兄は恐ろしい事に、半年に一回、実家にその収入の一部を振り込んでいたらしく、その半端ない……真面目に勤勉に会社に出勤していた養父の年収を遥かに超える額に、かなり養父は落ち込んでいたらしい。
だが、冷静沈着と言うよりも、姉や大切な人間以外はほぼゴミと口にしていた兄曰く、
「すぅの実家から臣を引き取ったって噂に聞いたけん。すぅが臣を心配しよったけんなぁ。それに、父さん母さんも、ある程度老後考えとった方がええと思って」
兄は一人息子だったので、それも心配だったのだろう。
まぁ、そのお金の一部を両親や兄と姉に貰ったお陰で現在の仕事についてもすぐに2LDKの家に住めたし、しばらくして4LDKの現在のマンションを買えたとも言える。
一室は防音室にして発声練習や、吹き替えなどの為の機材を入れたし、那岐たちが滞在する部屋は、自分が吹き替えを担当した映画や海外ドラマ、声を担当したゲームにCDや、その台本などを全て置き、何度か来た直之には、
「オタク垂涎の品ばっかだな。売れば? サインするだけで一桁増えるぞ?」
「はぁ? 何で売れるんですか? これだってちょい役、こっちはガヤです。それに誰が買うんですか? その前に嫌ですよ。二つあるなら兎も角」
とキッパリ言い切った。
幾ら増えようが大丈夫なように棚も揃えたし、色褪せ防止のカバーもかけている。
ついでに、映画を観たりゲームをする時は、この部屋か防音室である。
今回は、防音室だったが……。
リビングのロッキングチェアを持ち込んだのだが、かなりハードだった……。
「……可愛いなぁ……と思った」
肘当てに肘を置き、手のひらに顎を乗せる。
姿勢が悪いと身体がおかしい為、こう言う格好は避けているのだが、考えると癖が出る。
那岐や光流はまだ20代だが、雅臣は三十路半ば過ぎである。
正確に言うと、姉が22の時に長男、24の時に次男が生まれた。
ため息をつく。
甥たちよりも年下の子なのに……何で、感情が乱れるのか……。
多分直之たちに言えばからかわれると思われる。
でも、この気持ちは今まで持ったことがない。
それに、写真や手紙、電話などのやりとりはあっても、本人に会ったこともない。
ただ、ゲームのキャラの一人としてちょこまかして、可愛い声で喋っているだけなのに……。
「あぁ。モヤモヤする。それに、瞬ちゃんは高校生なのに……よしっ」
雅臣はタバコは吸わず、お酒も家では飲まない。
その為、ハーブティを用意して、翌日の収録の準備をしたのだった。
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