Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第一章……ゲームの章

49……neun und vierzig(ノインウントフィルツィヒ)声優たちの宴……瞬の災難

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 まどかは促された部屋に入ると、バッグの中を探りスマホを取り出す。
 すると、ガタガタっと音がした。
 振り返ると、ロッカーの扉が開いていて、女性の足が見えた。

 えっ?
 中に入ってたの?

 キョトンとする瞬に、出てきた女性が睨み付ける。
 ゆっくりと瞬の後ろに回り、鍵をかけると近づいてきた。

「何よ、あんた。コスプレーヤー? 迷い込んだの? 出ていきなさいよ! ここは臣さまの休憩室よ」
「はい、那岐なぎさんに伺いました。あの、お掃除ですか?」

 問いかけるが、服装が何故か男性用のジャケットに、ネックレス、サイズが合わずダランと手首に垂れ下がっているものは……。

「あれ? その時計は雅臣まさおみさんの誕生日に、あの『アーサー王伝説』でランスロットを演じたガウェイン・ルーサー・ウェインさんが贈ってくれたって言う……」

 次第に顔をしかめる。

「雅臣さんの大事なもの盗むんですか? 辞めて下さい。雅臣さんが悲しみます。雅臣さん、舞台にいましたよ? いない隙に入るなんて酷いです」

「うるさいのよ! 私は臣さまの恋人なんだから、いいのよ!」

「恋人だったら、頼んで貰うべきです。元の所に戻して出て行って下さい」

「うるさい、うるさい! あんたこそ、関係者外でしょ。出ていきなさいよ!」

 叫ぶと、ポケットからナイフを取り出して振り回した。

 驚き逃げようとしたが、動きの見極めようのない、狂気じみた女の動きにスマホを取り落とし、その気が逸れた隙に右の掌と、左の肘から手首まで傷が走った。

「きゃっ!」

「あはははは! 臣さまは私のものなのよ! あんた程度が臣さまを、さん付けするんじゃないわよ!」

「雅臣さんは誰のものでもないです! それに絶対、大切なものを泥棒なんてする人を、雅臣さんは好きになりません!」

「うるさい! うるさい! うるさい! 子供の癖に! 死ね!」

 外から直之の声が聞こえる。

「瞬ちゃん! どうしたの? 鍵を開けて!」

 先程の悲鳴が聞こえたらしい。

 しかし、鍵を開けてと言うことは、彼女があの時鍵をかけたらしい。
 しかも、彼女は狂気を纏い、瞬を追いかける。

「いやぁぁ! 誰か! 助けて!」

 掌がぬるぬるする。
 痛い……でも、死にたくない。
 上からナイフを振り下ろそうとする女の手首を咄嗟に掴んで、必死に助けを乞う。

 悲鳴が聞こえるのに、扉が開かないことに痺れを切らした那岐の声が響く。

「瞬ちゃん! 扉のそばにいたら、横に寄っていて! いいね?」

と言うなり、

 ダァン!

と重い音が響く。

 えっ?

と言う顔をした女に、痛みより恐怖が勝り涙が出てきた瞬の耳に、

 バァン!
 バリバリバリ!

と今度は、扉が変形して吹っ飛んでくる。

 これは、瞬は見ていない。
 しかし見た女……なつきは目を見開く。

 扉の残骸を踏み越えて入ってきたのは、那岐と直之と数人の声優達と、いたる

「……直之さん。警察と救急車お願いします。イタル、止血できる?」

「うん、ある程度習ってる」

「じゃぁ、あの女、捕まえるか」

 那岐は、大柄な体にしては俊敏な動きでなつきを捕まえ、ベルトで足を動かないようにし、自分の一張羅のネクタイで手首を縛り、転がしておく。

 そして、昶は、部屋の隅にあった小さな救急箱を持ってきて、

「大丈夫? 瞬ちゃん。まずは止血しようか」
「す、すみません……こ、怖かった……」

ボロボロ本格的に泣き出した瞬を、女性の声優が優しく慰める。

「大丈夫よ? なつきは一条くんや直くんが見てるから。本当に、怖かったわね。ごめんなさいね?」

「いえ、確か、尾形未布留おがたみふるさんですよね。助けて下さって、ありがとう、ございます……イタルさん、ごめんなさい……手が、言うこと聞かなくて……」

 先程の恐怖を思い出したのか、震えて怯えている瞬に、昶は、

「大丈夫だよ。止血したから止まる。それに、恐怖感と出血が多くて、一時的に体温が下がってるんだ。泣いていいから、我慢はダメだよ。それにいい子すぎるよ。君は」

頭を撫でると、

「あーぁ、とても似合っていたドレスなのに……」
「本当ね」

二人は瞬を慰める。



 そして、救急隊員と警察官が姿を見せて、まずは傷の酷い瞬を救急車で病院に連れて行くことになる。

のだが……。

「君の名前は……」
「はい、結城瞬ゆうきまどかです」
「結城さんだね。漢字は……」
「結い上げるに城、まどかは瞬間の瞬です」

 その言葉に、警察官も集まってくる。
 しかし、昶が、

「瞬ちゃんの怪我の方が先じゃありませんか?」

と促し、付き添いとしてついていくと、周囲に言い置いた。

「大丈夫か?」
「大丈夫ですよ。それより、那岐さん、僕が行ってきますので、もし何かあったら……」
「俺の電話にかけてくれよ。じゃぁ、頼む」

 那岐は、電話番号を書いた紙を押し付ける。

「那岐さんは扉壊した時、怪我は?」
「あぁ、打ち身位だろ。ほら、この程度」

 舞台衣装が破れ、肩と二の腕が赤くなっている。

「大丈夫ですか? 一緒に行きましょう。診て貰った方がいいはずです」

 腫れ具合に、打撲と理解し、引っ張っていく。
 そして、那岐の連絡先を知ってる直之が見送る。

 そして、

「あいつの事務所、大御所や俺たちが圧力かけてやる」

と苛立たしげに吐き捨てたのだった。
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