Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第二章……帰還後、生きる意味を探す

番外編:瑠偉

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 瑠偉は久我直之くがなおゆき尾形未布留おがたみふるの間の長男である。
 一応、父の芸名が久我で、本当の姓は久我山くがやまなので、久我山瑠偉で生活している。

 ちなみに、未布留の方が歳が下だが芸歴が長く、直之は未布留に追いつこうと必死に働いたという黒歴史は直之と事務所関係しか知らない。

 瑠偉にすると、父は頑固でいつも忙しく、外で遊んでいると言うか、後輩たちに囲まれていた。
 父は瑠偉たちにとって口うるさい親父だが、後輩たちにとっては兄のようであり、尊敬される存在らしい。

 父は、見慣れているので普通……瑠偉は何故か母親似である……だが、父の後輩で瑠偉の尊敬する丹生雅臣にゅうまさおみは、同性から見てもかっこいい上に、鍛えられた身体に甘い声と、神が一人にそんなにたくさんの加護を与えていいのかと思ったこともある。
 まぁ、雅臣と瑠偉たちの家の中には本格的なジム施設はないが、マンションの一角にジム施設にスタッフ、防音室や浴室など整備されており、時々父と雅臣、後輩である同じマンションの高凪光流たかなぎみつると、雅臣の家に時々泊まりにくる雅臣の甥だと言う一条那岐いちじょうなぎがトレーニングし、あまり離れていない父たちの事務所が、平日昼間借り切ってレッスンをしていた。
 最近になって分かったのが、那岐の父親が元トレーダーで若くして莫大な財産を得、そのお金でこのマンションは建てられたらしいこと、その管理人兼このマンションの現在の所有者の雅臣がジムを希望し、そしてマンションの住人の負担にならないよう一回使うごとに有料ではあるものの手頃な値段で使えるようにしたらしい。
 まぁ、ジムの器械が全部家に置かれていたら邪魔だし、定期的に整備が必要だろう。
 スタッフや清掃などにもお金が必要だが、事務所が平日昼間はほぼ貸し切りなのと、マンションの住人は土日や、夕方以降の仕事帰りに時々使う程度なので懐が痛むことはない。
 事務所も、会社がジムや防音室も兼ねたレッスンルームを別に用意しなくて済むので安く済むと感謝している。
 このジムは普通の奥さん方が使うようなものではなく本格的なものが多いので、未布留は事務所で決まっているレッスン以外ではストレッチとウォーキングマシンやプールを使うことが多く、それならプール完備の近くのスポーツジムで汗を流すと言っていた。

 ところで瑠偉は目は悪くないが、普段から眼鏡をかけて前髪を下ろしていることが多い。
 母はサバサバしているが、元は子役女優だったこともあり、かなり可愛い寄りの美人である。
 妹たちは目つきが鋭い父に似た上に、ひょろっとした瑠偉とは違い、がっしりしている。
 上の沙良さらは剣道、下の妹のかなは空手を習っていて、かなりのツワモノだったりする。
 自分自身は勉強は好きなほうだが中途半端というか、両親のように仕事や何かに打ち込む気持ちにはなれず、運動神経も妹たちほど良くない……両親が内心、大学に進み、息子のその優秀な頭脳を何かに役立てるような仕事について欲しいと願っていることに気づいていない……何をしようか、うつうつと考えていたのだが……。

「おーい! 瑠偉!」
「あ、雅臣さん。お久しぶりです」
「えー? 普段通り呼んで欲しいなぁ」
「じゃあ、臣にい。えっと……」

 小柄な少女と、身長は瑠偉より低いが、同年代の少年がいる。

「あ、紹介するよ。こちらが結城瞬ゆうきまどかさん。今度16歳。高校一年生。瑠偉より二つ上かな? そして、こちらが安部昶あべいたるさん。19歳。イギリスで飛び級で某有名大学卒、今大学院で勉強中だよ」
「初めまして、僕は久我山瑠偉です。中学校二年生です。瑠偉と呼んでくださいね。そして、瞬さんとイタルさんで良いですか?」
「は、はい。瞬です。よろしくお願いします」
「昶です。瑠偉くんで良いかな?」
「はい」

 ……よし、無難に終えられた。

と思った途端、頭の上に手を乗せられる。

「また、無難に挨拶終えられて良かった。うん、これで良いやと思ってない? もう少し他の人に話そうとか……」
「……無理」

 俯く。

「人嫌い……あ、臣にいや那岐にいは好き! みっちゃんは……胡散臭い」

 雅臣は噴き出す。

「……まぁ良いよ。イタルはもう少ししたらイギリスに戻るんだ。それまでは家で過ごすから、遊びにおいで。瞬ちゃんはリハビリがあるから病院に戻るけど」
「うん……って、リハビリ? 病院?」
「えっと……両手を怪我していたので、まだろくにものが握れないんです。痛みが走るし。お箸もフォークやスプーンも。それに手すりも持てないので入院中ずっと、最近になるまで危ないからって今は歩く練習も」

 えへへ……

小さい……成長期に入ってふしくれだってきた自分の手からすれば、まだ紅葉のような小さい手に走る、見るも無残な数カ所の傷。
 縫って、傷口は塞がれているものの、その傷は引きつっているようにしか見えない。
 痛いだろう……それに小柄だが腕が特に痩せているのは普通手を覆う筋肉を、治療優先の為失われてしまったのだろう……それも痛々しい。

「……前に、直之さんや未布留と俺、光流と那岐が参加したイベントで事件があったの覚えてる?」
「あ、うん。それは、父さんや母さんが言ってた。母さんがしばらく料理したくないって」
「まぁ、未布留は見た目が姉御肌、内面は繊細だからね」
「……臣にい。そういうことさらっと言うから人誑ひとたらしって言われるんだよ?」

 目を細め、半分父のような父の後輩を睨むと、雅臣はにっこり笑い返した。

「人誑しじゃなくて、処世術だよ。一応ね? でも瑠偉の前では普段通りだよ? また学校に行こうか?」
「やめて! 学校が騒ぎになるよ! 沙良や奏は父さん似だから、小学校で結構大騒ぎだけど、僕は……」
「あのね……まずはその眼鏡と前髪はないと思う」
「なんで? 顔が見えないのラッキーだよ? ここから離れた中高一貫校だから、僕のこと知らない人多いし、大騒ぎもないし、成績さえとっておけば大丈夫」
「どこの高校?」

 昶の言葉に、通学時間はかかるが名門校の名前を挙げる。

「あ、そこかぁ……留学可能でしょ?」
「うーん……まだ将来何がしたいか分からないです」
「英語は喋れる?」
「一応。臣にいが小さい時から教えてくれたので。それに、ヴィヴィさんとも時々」

 自分のレベルは分からないが、少しずつ上達している……と信じる。

「じゃぁ、僕と練習しない? 帰国まで少しだけど、学校の授業じゃきっと、英会話まで難しいでしょ?」
「良いんですか?」
「うん」
「でも、英会話……授業料……」
「授業料免除。代わりに色々教えて? 僕は世情に疎いんだ。僕もこっちの中学校まで一応卒業した形かな? 高校入らずにそのまま留学したから」
「公立ですか?」
「ううん。幼稚園から通っていたよ」

 その名前に、雅臣も瞬も目を見張る。
 超難関お受験幼稚園である。

「でも日本では飛び級で繰り上がりが難しいからね。色々勉強したいのに環境が整わない。学部が固定されたら、勉強はそれだけになる……無駄な授業が多い」

 穏和そうな昶がきっぱり言い切る。

「僕の家じゃ、父さんと母さんが自由にして良いって言ってくれたから、歴史や言語を勉強していたんだけど、火打ち石とか、ジャガイモとか勉強もいいなぁって」
「歴史からそっち?」
「僕の父さん野生児だからね。兄と姉も。野宿とか頻繁だよ。まぁ、行方不明にならないことだけ祈ってる」
「行方不明に?」

 昶の家族は何者だ?

チラッと雅臣を見ると、何故か達観したように、

「瑠偉。イタルはヴィヴィの息子。苗字が日本名なのは、お父さんの安部一平さんの苗字だからだよ」
「うえぇぇ? あの?」
「似てないでしょ?」
「違うよ? びっくりしたのは、一平伯父さんって見た目小柄だけど破壊する人だよね? イタルさんと反対……あっ! ごめんなさい」

慌てて口を覆う。

「闇雲に破壊はしないけど、手抜きもしない人だよ、父さんは。ロナウドとクリスは大振りで振り抜いた後に「あれ? 壊しちゃった」だけど」
「それも怖い」
「昔は運動苦手って避けてたけど、今思うと頑張っておけばなぁって。最近は少し運動してるけど、一日少し運動しただけで、翌日筋肉痛で動けなくなるんだよ。ロナウドに聞くとその筋肉痛の時にほぐしたり、ストレッチしたら良いらしいんだけど、時々熱を出しちゃって……父さんに慣れないことをするなって怒られちゃった。ロナウドには指導ってしごいていたんだけどね」
「……あのロナウドに体力勝負は駄目だよ、イタル。俺も無理だ」

 雅臣の青ざめた顔に昶は冗談めかし、

「でも、雅臣さんに攻撃すると、瞬ちゃんやファンが押し寄せそう」
「そ、それは……」

顔をしかめる雅臣にはっとした昶は謝る。

「ごめんなさい。雅臣さん、瞬ちゃん。失言……」
「えっ? 雅臣さん、ファン多いから大変とかじゃなくて? 何か変なこと言いました?」
「えっと……うん、いいんだ。じゃぁ、瑠偉くん、よろしくね」
「あ、瑠偉でいいですよ?」
「じゃぁ、僕もイタルで」
「えっと……イタルにいで良いかな?」

 その言葉に、照れくさそうに昶は、

「うん、良いよ」

と答えたのだった。
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