Geschichte・Spiel(ゲシヒテ・シュピール)~歴史ゲーム

刹那玻璃

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第一章……ゲームの章

4……vier(フィーア)

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「ねぇ? アストリット」

 耳元で美声が聞こえる。
 まどかはお人形のように運ばれながら遠い目をした。
 目の前には文字がゆっくりと流れる。

【名前:カシミール・エクムント・ディーツ(声優:高凪光流たかなぎみつる
 ディーツ伯爵エルンストの長男
 年齢:18歳。男性。髪はプラチナブロンド、瞳は妹より濃いが明るいブルー
 妹アストリットと同じ、母親エリーザベト似の美貌の持ち主で、『妖精王子』と呼ばれる。
 提督として領地のみならず城砦などを守る父の跡取りとして育った為、文武両道。
 妹を目に入れても痛くない程溺愛しているが、戦場では違う顔を見せるらしい。
 弟フレデリックには厳しい。
 職業:【Einエイン Edelmannイーデルマン】……ノーブル。

 初期レベル:20
 初期体力:360
 初期精神力:420
 初期敏捷性:340
 初期知力:480(最高数値)

 HP:720
 MP:840
 武器:Zweihänderツヴァイヘンデル
 特殊能力:体力強化魔法、回復魔法、妹を溺愛することと弟を徹底的に排除すること】

 画面が現れ、カシミールの情報を見た瞬だが、そのレベルと初期数値の高さに唖然とする。
 そして、高凪光流と言うのは可愛い顔の声優で、オタク友人には人気になっている。

 それよりも……、

「……特殊能力に、何で、妹を溺愛する……と弟を、排除……?」

呟く。

「ん? 何? アストリット」
「い、いいえ。お兄様。何でも……」

 見なかったことにするが、少し不満そうに、

「お兄様。どうして今回は私を連れて行くのですか? いつもなら一人で食べますと言ったら、許して下さいましたのに……」

と訴える。
 すると、蕩けるような笑みを浮かべ妹を見る。

「……聞きたい?」
「聞きたいです」
「うーん、そうだねぇ……内緒」
「酷い……お兄様」

 恨めしそうに上目遣いで睨むと、目を逸らし、

「……可愛すぎる……アストリット。可愛すぎる……お兄ちゃんは……」

と小声で呟く。

「お兄様?」
「あー、えっと、何でもないよ。着いたら解るからね?」
「本当ですか?」
「本当本当。あー、もう、食べちゃいたい程可愛いなぁ。アスティは」

 すりすりとアストリットの頰に、自分の頰を寄せる。

「お腹すきましたか? 下ろして下さったら、ディナーを早めるようにばあやにお願いして来ます」
「食べるならアスティを……」
「おいこら! 客をほったらかしにして、お前何をしている」

 聞いたことのある……いや、声は聞いたことがある。
 瞬の大ファンの声優、丹生雅臣にゅうまさおみ
 甘い声の声優さんで、ファンが多い。
 そして、その声で担当しているのは……。

『【名前:ディーデリヒ・アーダルベルト・ディレンブルク(声優:丹生雅臣)
 カシミールの親友であり、隣の領主ディレンブルク伯爵の嫡男。
 年齢:19歳
 性別:男性
 髪:緩やかなウェーブの金髪
 瞳:濃いめのブルー
 家族設定:父、義母、腹違いの姉妹5人
 職業:【Ein Edelmann】……ノーブル
 ディレンブルク家の嫡子。実母はすでになく、同母兄弟もいない。
 快活で幼い頃からカシミール同様、後継者として育つ。領地の領民には慕われている。端正な顔立ちと金色の髪から、『太陽の王子』と呼ばれている。

 初期レベル:23
 初期体力:552(最高数値)
 初期精神力:552(最高数値)
 初期敏捷性:460
 初期知力:414

 HP:1104
 MP:1104
 武器:Zweihänder
 特殊能力:炎魔法、光の矢など攻撃魔法特化。その代わり防御魔法、回復魔法はほぼ初級。動物の子供や鳥の雛などを拾っては育てている。可愛いもの好き】』

「はぁ? 可愛いもの好き……?」

 呆然と呟くアストリットに腕が伸びて、別の人間に抱きしめられていた。

「全く、変態野郎が」
「何してんの。私の妹を勝手に触らないでくれない? ディ」
「お前が自分の妹でも、手を出しかねないと良く分かっている。保護だ保護」
「ほ、保護……?」

 耳に聞こえる声がゾクゾクする。
 ちらっと横を向くと、精悍な体つきに整った顔立ちの、ゲームの表紙にあった青年のドアップがあり硬直する。

 近い……近い、近い……。

 兄のカシミールも美貌だが、現代で言えば北欧系の美貌。
 しかしこちらは、フランス人のような洗練された感じもある美形である。
 その上、声だ。

「大丈夫か?」

と囁かれ、一気に顔が赤くなるのを感じた。

 こくこくこく、言葉もなく頷く。
 その様子に、カシミールが納得いかない様子で、妹を抱きしめる親友というよりも悪友を睨む。

「……ディ。私の妹を可愛がる時間を奪うなんて……後で覚えておくんだよ?」
「変態から保護したんだ。お前がここを追い出されるよりもマシだろう?」
「良いんだよ。フレデリックもいるんだし。私はアストリットと……」
「来るんじゃない! それに、フレデリックと俺は仲が悪い。こことウチが対立構図もあり得る。それだけはやめろ! 俺の親父ははっきり言って、エルンスト様のように立派な君主じゃない。疲弊した領地をますます疲弊させようとしている。その上、俺と義母との仲も険悪だ。俺を殺して、豪遊して侍女や侍従に当たり散らす妹の一人に、フレデリックを婿にして良いように操るって考えているぞ!」
「そこまでハッキリしてるんなら、断罪すれば良いのに」

 カシミールは妹を取り返そうと手を伸ばすが、ひらっと逃れ、悔しげに呟く。

「……親父が、俺を警戒し始めた。俺は親父には叛意も敵対も考えていないが、義母からないことばかり聞かされていたのと、前の戦役の采配……ほとんどはお前が裏で操っただけだと言うのに……を聞いて危機感を覚えたらしい。自分の部屋にもいることが出来ない。食事もそうだ」

 ぐぅぅ……

と、大きな音にびっくりする。
 青年を見上げると、頬を赤くする。

「……済まない。ウチではろくに食べられない。食事は……台所は義母の権力が支配する。時々毒や怪しい小動物の死骸などが入っている。俺の可愛い家族に何かあってはと連れてきた」
「可愛い家族?」
「あぁ、人間と違って、俺の可愛い家族はお腹が空いたと言うと、すぐに訴えて来るから……カシミールに分けて貰えないかと呼びにきたんだ」
「えっと、犬とかですか?」

 首を傾げる。

「いや、犬に猫に鳥に、Drachenドラッヘンも」
「Drachen……ドラゴン!」

 ファンタジーだぁぁ! すごい!

と目を輝かせたアストリットを違った風に解釈したのか、慌ててディーデリヒが声をかける。

「大人じゃないんだ。まだ子供で、大きい方でもヨチヨチ歩きなんだ」

 ギュワー!

聞きなれない音というよりも、鳴き声が響く。

「うわっ! やばい! お腹空いた! の合図だ!」
「あの……何を食べるんですか? 私は、母の代わりに時々台所にも立ちますし、お作りします……」
「えっ! 良いのか?」
「こらこら、近い近い! 殺すよ? ディ」

 カシミールの声が低くなる。
 アストリットは大きく頷く。

「えっと……」

 名前を呼んで良いのか分からず、

「あの、私はアストリットと申します。どなたでいらっしゃいますか? こ、こんな姿で申し訳ございません」
「えっ、あ、申し訳ない。アストリット姫。俺……私は隣の領主の長男ディーデリヒ・アーダルベルト・ディレンブルク。年は19歳だ。ディと呼んでほしい」
「ディさまでよろしいでしょうか? では、私はアスティと呼んで下さいませ。あの。これから台所に参りますので……」

下ろして下さいとお願いしようと思ったが、即、ディーデリヒは歩き出す。

「こらこら。ディ。アスティを返せ!」
「お前も付いて来い。お前も共犯だ」
「ディは誘拐犯か!」

 横に並び睨むカシミールに、ディーデリヒはコソッと耳打ちする。

「あの当時のお前の悪行の数々、アスティにバラすぞ」

 運良くアストリットには聞こえなかったのだが、真っ青になったカシミールは、妹にこわばった笑みを向ける。

「うん、分かった。行こうね。アスティ」
「あの、歩けます……よ?」

 アストリットは訴えるが、ディーデリヒはケロッと答える。

「アスティ、歩いて案内してもらうよりもこのままで。すぐ着くだろう」

 城内には自分たち家族だけではなく、侍女や侍従、衛兵などもいるというのに、このままは恥ずかしすぎる。

「お兄様……」
「ディに連れて言って貰うと良いよ。体力馬鹿だから」
「変態野郎には言われたくないな」
「うるさい! 変態言うな」
「お兄様、へ、変態って……」

 アストリットの言葉に、カシミールは絶望的な顔になり、ディーデリヒを睨む。

「アスティ……お兄ちゃんは、変態じゃないよ! アスティが大好きなお兄ちゃんだから!」
「変態もつく」
「ディ! 覚えてろ! 後で!」
「喧嘩はダメですよ? お兄様。喧嘩はしないで下さいね」
「だそうだぞ。カーシュ」

 ディーデリヒは笑いながら、歩いていく。
 悔しげにカシミールが呟く。
 アストリットは、微笑ましげに頭を下げる横を通る侍女たちに何と言われるかと思いながら、これからのことを思ったのだった。

 そういえば、まだ午前中……。
 こんなに濃くていいのだろうか。
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