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第3章〜転
天使とのお別れ
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今週は、天気が私の心のようにふらついているというか、急に雨が降ったりやんだり、そして冷え込んだりと私自身には辛い日々の始まりだった。
月曜日に寒気とともに目を覚ました私は、鼻詰まりと喉のイガイガと言うか、いつものように喉風邪の前触れを感じた。
「あぁぁ……ゲホッ、コホッ、コンコンコンコン……」
注意していたのに、風邪か……と言いかけた私は、すぐに咳き込み始める。
その咳は息ができなくなるまで続く。
慌てて枕元の水を飲もうとするが、その水が喉を通らず周囲にまき散らす程、咳は続く。
気管支炎……自分では大丈夫と思っても、必ず診断される病名。
父は長年のタバコのせいで肺の機能が落ちており、その上心臓に爆弾を抱えていて、ニトログリセリンと喘息の薬は常に携帯している。
妹も、腕に薬のシールを貼り、気管が広がるようにし、毎日喘息の吸入を続けている。
元々、家系的に気管支が弱いらしい。
小さい頃は私は身体がとても弱く、物心ついた頃は、兄弟が外で遊んでいるのを、布団の中で熱にうなされながら羨ましいと思っていた。
余りにも熱が下がらず、下がってもまたくしゃみ鼻水、咳がぶり返し、幼稚園にすら通えない日が続いたこともあり、母のママ友の勧めでスイミングスクールに通う事にした。
幼稚園から小学校4年生まで、個人メドレーを泳げるまでになったが、国語の成績が余りにも悪く……国語の塾に通う事になり、辞めた。
国語は漢字はかけるが、作者のどういう気持ちでこの作品を書いたかという情緒的なものが、私には欠けていて、はっきりいうと理解できなかった。
読書感想文に戦争のテーマの本を読んで、戦争をしてはいけない理由を倫理的にも経済にも例えて、経済は立ち行かなくなるし、宗教と言うのは武器を持つのが宗教ではなく、自分の心に向き合うのが第1で、こんな意味もない戦争を続ける国は馬鹿ですと書いて提出した小学生がここにいる。
余りにも可愛げがなかったので、情緒を学ばされたのだが、その情緒は遠く異次元に置き去りにしたのが刹那玻璃である。
しばらく咳き込み、そしてようやく止まると、時計を見て真っ青になった。
「や、やばい!今、7時!今日の病院の予約が9時!しかもバスが7時には4本あるのに、8時になると40分の一本しかない!7時のどれかに乗らないと、予約に間に合わない!」
飛び起きて昨日準備していた服を着て、冷蔵庫からコンニャクゼリーと薬用の水、そして炭酸水を出す。
コンニャクゼリーのレトルトを飲むと、薬を流し込む。
そして着替えして、家を出ると停留所に向かう。
この時焦っていたので、いつものようにハムスターたちの様子を確認するのを忘れたことを、心底後で後悔したのだった。
月曜日には4つ病院を回り、一つ目は頭痛外来、二つ目の病院は外科内科。
その頃には声がガラガラな上に待合室で咳き込み、気管支炎を診断された。
点滴か注射でまた翌日来るように言われ、次の病院の午前の診療に間に合わないと注射をお願いし、その後時間通りに来ないバスを諦め、電車に飛び乗った。
一つ一つの診察は短くても、薬の処方などで時間を取る。
3つ目の病院は午前の診療が13時、午後は在宅の患者さんを診察に回るので16時からになる。
16時まで待てない。
走ると発作が起きるので、早足で飛び込む。
何とか12時前後で受付をすませると、咳が出て、ずっとつけていたマスクも蒸れてしまったので、お願いしてマスクを貰った。
取り替え待っていると診察、前の病院で喉風邪と言われたことを伝え、
「刹那さんまた悪化させないようにね」
「はい」
その後薬を処方され、処方箋を薬局に持って行き、次の病院に到着したのは13時だった。
その時には、咳が再び始まり、疲労でいつもの頭痛とめまいも始まったので、途中のコンビニで購入したおにぎりを食べ、普段の薬と今日処方された風邪薬、そして、頭痛薬を飲んだ。
昼間だけでも最低5錠の薬と、頭痛を軽くする漢方を一包。
調子を崩すとそれ以外に薬が増える。
勝手に減らすのは、自分の体調を悪化させる元。
薬を流し込み、14時の診察までウトウトする。
皆、変に思われるが、普段テディベアを抱いて移動する。
強迫性障害らしい。
一日中抱いて持ち歩く。
手を離すと落ち着かなくなるので、必ず抱っこである。
人が多いところも怖いし、酷い時にはパニックを起こす。
少し微熱があるのか、キリキリとこめかみに痛みが走る。
頭痛には前触れがある。
それは人それぞれだが、私は2つパターンがあり、突然、鼻と口の奥から、脳に突き刺さるような痛み。
この場合は即飲まないと転げ回るほど痛む。
もう1つは、突然びくっと痙攣のような感覚と、私の小さい頃からなのだが、首を変な方角に曲げた時にその部分から脳に激痛と言うか変な情報物質のようなものが広がっていく感じがあり、しばらくその時は動けない。
で、今回は首を曲げたパターンが起こりそうだったので、前もって服用しておいてよかった……である。
人が怖い私は、診察まで増える患者さんからどうやって逃げるか考える。
今日は、新しく自分で修正した型紙で作るテディベアを考えていた。
ようやく14時になり、診察が始まった。
心療内科は診察が短い。
自分の言いたいことはメモ帳にまとめ、一気に喋るのが良いらしい。
最近薬を飲んでも眠れないこと、ストレスが増していること説明すると、
「睡眠導入剤は本当にギリギリなんだよね……運動して疲れて寝るようにね」
「はぁ……ちょっと風邪ひいてしまったので……」
「無理は禁物だよ」
「はい……」
という会話で、前と同じ薬になる。
はぁぁ……と溜息をつき、薬をもらって帰る。
4つの病院で、中型のトートバッグ一杯の薬……。
仕分けが大変だ……。
と電車で帰る前に、病院の近くの総合商業施設に向かい、期日前投票をして帰る。
いつもなら帰ってからハムスターたちやユエさんと遊んだり、テディベアを作ったりするものの、薬の仕分けに追われる。
たった二週間分の仕分けで2時間かかる。
1日分、朝昼晩寝る前の4つ、それが14日分、56の小さいジッパーの透明の袋に入れて箱に納める。
残りの二週間分も分けられるだけ分けておくので、月に一回のこの日は、一番きつい日だったりする。
時々ハムスターたちには声を掛け、エサを与え、ユエさんの散歩に、エサ、お水を準備する。
自分のごはんを忘れ、仕分けを終えるとぐったりし、もぞもぞとパンを食べ、晩と寝る前の薬を飲んで寝た。
翌日と翌々日……今日も病院に行って注射をして帰った。
熱っぽいのと、咳き込んで気管支がヒリヒリする。
バスの時間を気にして、ハムスターやユエさんに挨拶もそこそこに出て行き戻ってくると、違和感があった。
ハムスターのゲージは3つ並べて置いていた。
一番右のジャンガリアンハムスターのアンジェのゲージがいつもと違っていた。
ジャンガリアンのアンジェは二階建のゲージだった。
一階は回転車にトイレ、エサ入れがあり、二階に小屋を配置していたものの一階に巣を作っていた。
代わりに二階の小屋にエサを溜め込むので、ちょこまか登ったり降りたりを繰り返していた。
ゲージを覗き込むと、二階に身体をくの字に曲げて横たわっていた。
「アンジェ?アンちゃん、どうしたの?」
声をかけるが動かない。
慌ててゲージを開け、アンジェを抱き上げる。
ひんやりとしていた。
「アンちゃん!」
小さい身体をゆすり、顔を覗き込んだ。
口が小さく開き、目がうっすら開いていた。
「アンちゃん!起きて!起きて!」
頭を撫で、身体をさすると、薄く開いた目が閉じたのが見えた。
「……っ……」
涙が出た。
もっと、気を回してあげればよかった。
ハムスターは小さい命。
特に、動物病院で診てもらうことも、断られることも多い。
でも、気にかけて調子が悪そうだと思ったら、ゲージを暖めるとかできたのではないか。
今朝、アンジェをお墓に納めた。
アンジェは天国にいるだろうか……。
主人のいないゲージを片付けようか、涙で滲む目でアンジェの眠る墓の方の窓を見た。
月曜日に寒気とともに目を覚ました私は、鼻詰まりと喉のイガイガと言うか、いつものように喉風邪の前触れを感じた。
「あぁぁ……ゲホッ、コホッ、コンコンコンコン……」
注意していたのに、風邪か……と言いかけた私は、すぐに咳き込み始める。
その咳は息ができなくなるまで続く。
慌てて枕元の水を飲もうとするが、その水が喉を通らず周囲にまき散らす程、咳は続く。
気管支炎……自分では大丈夫と思っても、必ず診断される病名。
父は長年のタバコのせいで肺の機能が落ちており、その上心臓に爆弾を抱えていて、ニトログリセリンと喘息の薬は常に携帯している。
妹も、腕に薬のシールを貼り、気管が広がるようにし、毎日喘息の吸入を続けている。
元々、家系的に気管支が弱いらしい。
小さい頃は私は身体がとても弱く、物心ついた頃は、兄弟が外で遊んでいるのを、布団の中で熱にうなされながら羨ましいと思っていた。
余りにも熱が下がらず、下がってもまたくしゃみ鼻水、咳がぶり返し、幼稚園にすら通えない日が続いたこともあり、母のママ友の勧めでスイミングスクールに通う事にした。
幼稚園から小学校4年生まで、個人メドレーを泳げるまでになったが、国語の成績が余りにも悪く……国語の塾に通う事になり、辞めた。
国語は漢字はかけるが、作者のどういう気持ちでこの作品を書いたかという情緒的なものが、私には欠けていて、はっきりいうと理解できなかった。
読書感想文に戦争のテーマの本を読んで、戦争をしてはいけない理由を倫理的にも経済にも例えて、経済は立ち行かなくなるし、宗教と言うのは武器を持つのが宗教ではなく、自分の心に向き合うのが第1で、こんな意味もない戦争を続ける国は馬鹿ですと書いて提出した小学生がここにいる。
余りにも可愛げがなかったので、情緒を学ばされたのだが、その情緒は遠く異次元に置き去りにしたのが刹那玻璃である。
しばらく咳き込み、そしてようやく止まると、時計を見て真っ青になった。
「や、やばい!今、7時!今日の病院の予約が9時!しかもバスが7時には4本あるのに、8時になると40分の一本しかない!7時のどれかに乗らないと、予約に間に合わない!」
飛び起きて昨日準備していた服を着て、冷蔵庫からコンニャクゼリーと薬用の水、そして炭酸水を出す。
コンニャクゼリーのレトルトを飲むと、薬を流し込む。
そして着替えして、家を出ると停留所に向かう。
この時焦っていたので、いつものようにハムスターたちの様子を確認するのを忘れたことを、心底後で後悔したのだった。
月曜日には4つ病院を回り、一つ目は頭痛外来、二つ目の病院は外科内科。
その頃には声がガラガラな上に待合室で咳き込み、気管支炎を診断された。
点滴か注射でまた翌日来るように言われ、次の病院の午前の診療に間に合わないと注射をお願いし、その後時間通りに来ないバスを諦め、電車に飛び乗った。
一つ一つの診察は短くても、薬の処方などで時間を取る。
3つ目の病院は午前の診療が13時、午後は在宅の患者さんを診察に回るので16時からになる。
16時まで待てない。
走ると発作が起きるので、早足で飛び込む。
何とか12時前後で受付をすませると、咳が出て、ずっとつけていたマスクも蒸れてしまったので、お願いしてマスクを貰った。
取り替え待っていると診察、前の病院で喉風邪と言われたことを伝え、
「刹那さんまた悪化させないようにね」
「はい」
その後薬を処方され、処方箋を薬局に持って行き、次の病院に到着したのは13時だった。
その時には、咳が再び始まり、疲労でいつもの頭痛とめまいも始まったので、途中のコンビニで購入したおにぎりを食べ、普段の薬と今日処方された風邪薬、そして、頭痛薬を飲んだ。
昼間だけでも最低5錠の薬と、頭痛を軽くする漢方を一包。
調子を崩すとそれ以外に薬が増える。
勝手に減らすのは、自分の体調を悪化させる元。
薬を流し込み、14時の診察までウトウトする。
皆、変に思われるが、普段テディベアを抱いて移動する。
強迫性障害らしい。
一日中抱いて持ち歩く。
手を離すと落ち着かなくなるので、必ず抱っこである。
人が多いところも怖いし、酷い時にはパニックを起こす。
少し微熱があるのか、キリキリとこめかみに痛みが走る。
頭痛には前触れがある。
それは人それぞれだが、私は2つパターンがあり、突然、鼻と口の奥から、脳に突き刺さるような痛み。
この場合は即飲まないと転げ回るほど痛む。
もう1つは、突然びくっと痙攣のような感覚と、私の小さい頃からなのだが、首を変な方角に曲げた時にその部分から脳に激痛と言うか変な情報物質のようなものが広がっていく感じがあり、しばらくその時は動けない。
で、今回は首を曲げたパターンが起こりそうだったので、前もって服用しておいてよかった……である。
人が怖い私は、診察まで増える患者さんからどうやって逃げるか考える。
今日は、新しく自分で修正した型紙で作るテディベアを考えていた。
ようやく14時になり、診察が始まった。
心療内科は診察が短い。
自分の言いたいことはメモ帳にまとめ、一気に喋るのが良いらしい。
最近薬を飲んでも眠れないこと、ストレスが増していること説明すると、
「睡眠導入剤は本当にギリギリなんだよね……運動して疲れて寝るようにね」
「はぁ……ちょっと風邪ひいてしまったので……」
「無理は禁物だよ」
「はい……」
という会話で、前と同じ薬になる。
はぁぁ……と溜息をつき、薬をもらって帰る。
4つの病院で、中型のトートバッグ一杯の薬……。
仕分けが大変だ……。
と電車で帰る前に、病院の近くの総合商業施設に向かい、期日前投票をして帰る。
いつもなら帰ってからハムスターたちやユエさんと遊んだり、テディベアを作ったりするものの、薬の仕分けに追われる。
たった二週間分の仕分けで2時間かかる。
1日分、朝昼晩寝る前の4つ、それが14日分、56の小さいジッパーの透明の袋に入れて箱に納める。
残りの二週間分も分けられるだけ分けておくので、月に一回のこの日は、一番きつい日だったりする。
時々ハムスターたちには声を掛け、エサを与え、ユエさんの散歩に、エサ、お水を準備する。
自分のごはんを忘れ、仕分けを終えるとぐったりし、もぞもぞとパンを食べ、晩と寝る前の薬を飲んで寝た。
翌日と翌々日……今日も病院に行って注射をして帰った。
熱っぽいのと、咳き込んで気管支がヒリヒリする。
バスの時間を気にして、ハムスターやユエさんに挨拶もそこそこに出て行き戻ってくると、違和感があった。
ハムスターのゲージは3つ並べて置いていた。
一番右のジャンガリアンハムスターのアンジェのゲージがいつもと違っていた。
ジャンガリアンのアンジェは二階建のゲージだった。
一階は回転車にトイレ、エサ入れがあり、二階に小屋を配置していたものの一階に巣を作っていた。
代わりに二階の小屋にエサを溜め込むので、ちょこまか登ったり降りたりを繰り返していた。
ゲージを覗き込むと、二階に身体をくの字に曲げて横たわっていた。
「アンジェ?アンちゃん、どうしたの?」
声をかけるが動かない。
慌ててゲージを開け、アンジェを抱き上げる。
ひんやりとしていた。
「アンちゃん!」
小さい身体をゆすり、顔を覗き込んだ。
口が小さく開き、目がうっすら開いていた。
「アンちゃん!起きて!起きて!」
頭を撫で、身体をさすると、薄く開いた目が閉じたのが見えた。
「……っ……」
涙が出た。
もっと、気を回してあげればよかった。
ハムスターは小さい命。
特に、動物病院で診てもらうことも、断られることも多い。
でも、気にかけて調子が悪そうだと思ったら、ゲージを暖めるとかできたのではないか。
今朝、アンジェをお墓に納めた。
アンジェは天国にいるだろうか……。
主人のいないゲージを片付けようか、涙で滲む目でアンジェの眠る墓の方の窓を見た。
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