婚約者を陥れ処刑した王子が、自らの言葉によって永遠をループすることになる物語

刹那玻璃

文字の大きさ
104 / 129
第10章

アーティスは自分の無力さを嘆く。

しおりを挟む
 アーティスは、めまいがすると言っていたイザークと共に馬車に乗る。

 一緒に積んだサーシャの棺には布がかけられ、そして、武器も積んでいる。
 本当はアーティスの趣味の本の山を持って帰りたかったのだが、蔵書は大量すぎて難しく、そして多言語に長けた人間数人が仕分けし、本棚に並べなくてはならず、アルフレッドの屋敷に本を納め切れるかも分からない。
 そして、代々の当主の日記もあるらしい。
 日記を読めば、前処刑執行人の一族の歴史も分かるだろう。

 その為アーティスは、体調が良くなったら自分とそう変わらない知恵者の元同僚のミリアムや、この国の魔術師長まで勤めた天才ルシアンたちに手伝って貰おうと思っていた。
 しかし、二人は出歩けないし、無理はさせられないので、文字や言語を知っていそうな外交官だったカーティスや何人かと共にもう一度何台もの馬車に木箱を乗せ、なるべく年代ごとに積むと、運ぶ作業をしなければと思ったのである。
 しかし……、

「……何故、バルナバーシュ殿をサーシャさまは指名したのか……」

 頭を抱える。

 バルナバーシュは一度不幸な結婚をした妹アマーリエの再婚相手で、しかも最近待望の三男が生まれたばかりである。
 アルキールと言う、アーティスの亡き息子の名前をつけた赤ん坊は元気で丸々としていて、歳の離れた兄たち……アルフレッドやベルンハルドは可愛くて堪らないらしい。
 アルフレッドの娘のアルフィナも、イザークの息子のラファエルとアルキールを可愛がっていて、まだ短時間の勉強とマナーとハープのレッスン以外はよく会いに行っているらしい。
 それに、バルナバーシュは存在感はあるがラインハルト程がっしりとした人ではなく、体格は普通、そして顔立ちは温厚篤実さが現れ、現在のこの地の国王や、実家の愚兄と取り替えてやりたい位に、出来た施政者と言ってもおかしくない人である。

 いや、はっきり言おう。

「僕は、アマーリエやアルフィナたちを不幸にしたくないんだ~! 可愛い妹や家族を不幸にする兄に、もう戻りたくない!」
「わぁ、どうしたんですか? 父さん」
「あ、ごめんごめん。寝てて。痛くない?」
「大丈夫ですよ。これ位の怪我……」
「腕とかなら大丈夫。ポーションで治せる。でもね? 頭だったらダメ。聖女に癒して貰おう」

 アーティスは痛々しい血が滲むガーゼを見る。
 その様子を見つめ、イザークは口を開く。

「……父さんは、どうして俺をそんなに心配するんですか? 本当の息子じゃないのに……」
「息子だよ! ロッティリアも言ったじゃない。それに血の繋がりより心の繋がりの方が暖かい時もあるんだよ」
「血の繋がりより心の繋がり……」

 呟く。

「俺は……実の両親との縁は薄いです。特に飲んだくれで、母がいなくなってから荒れる父とは喧嘩ばかりで、死んだ時もそんなに……もうその頃にはキールや母さん、じいちゃんたちに会ってたから。家族の愛情ってこう言うものだと教わったのもそうで、理不尽に殴りかかる親父よりじいちゃんの『危ないと言っただろうが! お前は無駄に怪我をする気か!』と言う一喝が、怖いと言うより本当に俺を心配してくれてるんだと嬉しかったし、母さんや妹たちが作るご飯が美味しかった……」
「イザークにとって、ロッティリアたちが本当の家族だったんだよ」
「……じゃぁ、父さんも俺の家族ですね。あんなバカ親父より俺たちを考えてくれて、今だって怪我を心配してくれる。俺の父さんです」
「……ありがとう。それより、イザークの方が自慢の息子だよ。僕たちを守ろうとして扉を閉ざすなんて、ジェイクがいなかったら、あいつらにどんな目に遭わされたか……想像したくないよ……」

 瞳が潤む。

「ごめんね、痛いよね。あぁ、僕に癒しの力があったら……すぐにその痛みを消してあげるのに……僕は攻撃しかできない。僕は何て無力なんだろう」
「あの……前から気になっていたのですが、父さん。聖女というのは、フェリシアさまやアルフィナさま、マゼンタにアマーリエさまとお伺いしましたが、フェリシアさまとアルフィナさま、マゼンタは癒しなどの能力がありますが、アマーリエさまにその能力があったと伺ったことがないのですが……」
「えっと……余りいい話じゃないんだけど……あの子の母上は私達と違うんだよね。父が戯れに手を出した侍女だった方から生まれた子供で、あの子が小さい頃に……僕は術を暴走させるからって別荘に行っていて知らなかったんだけど。あの子の母上は、父にあの子を身ごもったことを隠して退職して実家にいたんだって。でも流行病にかかって、あの子は苦しむ母上を治したいからって身体にうごめく何か……術を感情に任せて暴走させちゃったの」

 アーティスは痛ましそうに目を伏せる。

「それは癒しの術だったんだけど、物心ついてすぐのアマーリエにとってはとてつもない膨大な力で、自分の生命力も術力に変換して流し込んだものだから、幼いアマーリエが死にかかった。すると、アマーリエの母上が流れ込んだ術を送り返したんだよ。アマーリエの母上は若い頃神殿に仕える神官だったみたい。で、強大な力を感じた当時のサーパルティータの枢機卿が、アマーリエ親子を探し出して……アマーリエの顔は僕に似てるでしょ? 一応、父親似なの。で、王女だ。聖女だ。その母だ、と二人を王宮の小さい離宮に住まわせて、手当てをしたけれど、アマーリエだけ助かったんだ」
「そうだったんですか……聞いたことがなかったです。すみません、俺が聞いてしまって……」
「ううん。良いんだよ。逆に知っておいて欲しい。あの子は強い姿を……この国の先王妃、豪胆な烈女と言うイメージがあるけれど、本当は繊細で傷つきやすい子なんだよ。アマーリエは心を閉ざしてしまって、その時に今のイーリアスやジョンの兄弟とセラが側について面倒を見てくれたんだ。僕も、丁度一緒に別荘に行っていたジェイクと帰ってきて、一緒にいることが多かったんだ」

 息子を見上げる。

「でも、僕と同じ攻撃系の術しか使えなくなってた。母上のこともほとんど忘れてた。僕がこんな感じだったから、よく叱られてね? もっと兄上は威厳を持ってください。もう、ぼーっとしないでくださいってね。でも夜になると良く泣きながら母上を探してた。僕の母は、僕と兄以外の子供は皆死んでしまったから、アマーリエの養母になったけど、アマーリエは病気がちな母に余り近づかなかったね。母が亡くなったらと思っていたみたいだよ。それに父が、母が頭を撫でたから、アマーリエの力が無くなったと嘘を言ったらしくてね。母は娘が欲しかったのに、怯えるアマーリエを見て僕に、癒しの力は使えなくてもこの子は聖女だから、母国に置いておくより広い世界を見せてあげて、と母に言われたから連れて出たんだよ」
「……アマーリエさまは、今は幸せでしょうか? 俺たち……皆と、いて……」
「そりゃ、そうでしょ。あんなに楽しそうで、幸せそうなアマーリエを見るのは兄として嬉しいよ……だからこそ、バルナバーシュ殿やアルフレッドたちといたいと思ってるし、僕は……さっきのサーシャさまの言葉を……アマーリエの前で言いたくないんだ。……せっかく……ううん、ようやく幸せになったのに……」
「……父さん……?」

 イザークは義父を見る。
 何か嫌な予感がした。

「何か……」
「なあに? イザーク」
「え~と、可愛い孫がいるんですから、じいちゃんらしくして下さいね。家で隠居して下さい。暴走するなら隠居を俺はお勧めします」
「え~! 僕はこれでもまだまだ勉強したいし、隠居しないよ! それにそんなにじいちゃんじゃないもん!」

 言い返した義父にイザークは微笑んだのだった。
しおりを挟む
感想 32

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

処理中です...