君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《手》……彪流の場合

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 それは、入学式の当日、クラスの振り分けが掲示されている壁に群がる同級生を後ろから見ていた。
 高校に入学した武田彪流たけだたけるは、同級生より頭一つ高い為、よく見える。

「本当に、日本人ってちっせー!」

 彪流は、父が日本人で母がアメリカ人である。
 二人は熱烈に恋に落ちて結婚したのだが、生まれた兄弟はハーフらしい顔だが、彪流だけ父に似たらしい。
 父が忙しく世界中転々とする為、高校は祖父母の家に住み、日本で卒業ということになった。
 自分としてはアメリカでいいと思っていたのだが、特に父が、

「お前は一番、顔は俺に似ているが、性格はアメリカの義兄さんに似ている! 日本で一応3年はいろ!」

と言い張った。

「何でだよ~! 日本って居心地悪い!」
「3年卒業したら、大学はアメリカでいい!」
「約束だぞ!」

と、一応入学したのは祖父と父の卒業した高校だったが、本当に国語や漢文、古文、英語に苦労した。

「こんなにめんどくせーの? これで英語喋れるのかよ?」
「うるっさいわ! バカ孫! 大人しくせんか!」
「……ごめんなさい。爺ちゃん」

と、何とか入学したものの、これから3年間は、地獄の日々だと思って遠い目をしていた。
 一応クラスは3組だったのだが、行く気も起きずボーッとしていたのだが、突然人の波が崩れかかる。

と、長身の彪流からすると、一番下の妹位の小さい少女が押し潰されていくのを、唖然と見つめ、はっと我に返り近づこうとすると、その横をすり抜けるようにして救い出す奴がいた。
 彪流が伸び盛りの180程だが、170㎝位の細身の少年である。

「おい、大丈夫か?」

 その声に、お前が大丈夫か? と逆に思ったのだが、体を包み、さ程力を入れていないように見えるのに、少女を引っ張り出した。
 そして怪我をしていないか確認し、自己紹介を始めた後、突然、

「じゃぁ、大塚。このまま人の間を抜けても大変だと思うし、時間かかってクラス見られないと思うから、俺が大塚を抱き上げるから、見つけてくれるか?」
「へ?」
「あ、スカートをみたりとかじゃないから! 普段の筋力トレーニングでだから、はいっ!」

丁度ウエストを抱え持ち上げると、片方の肩に乗せる。
 そして危険がないように支えながら、

「見えるか?」

と、よろめきもせず問いかける同級生になる少年と、初対面のはずの彼に自分の身を預ける少女。

 何故かワクワクしていた……。
 これは面白いことになると……。



 そして家に帰ると、一時帰省していた家族の中で一番小さい妹を呼ぶ。

「何? お兄ちゃん」
「ちょっと確認させて」

と、妹の腰に手をして持ち上げようとしたが、重さはどうにかなるがバランスがとれない。

「わぁぁ! お兄ちゃん! 何するのよ~!」
「何をしてるんだ! 危ない!」

 家族に止められ叱られたのだが、説明をする。

「だから、俺より低い奴が、佐保さほ位の女の子を肩に乗せてたからさ」
「……ん? 柔道とか武術を学んでいるなら、楽だろう」
「柔道?」
「あぁ、この街には有名な柔道選手がいる。安部媛あべひめ選手だ。今はヨーロッパに行ったが、兄の一平選手も強い選手だったぞ」
「でも、俺と同じ年だぞ? 安部媛選手は年上だし……」
「それは知らんわ。お前と同じ学校なら調べてみいや」

 祖父に言われ、調べを開始したが、

「……しらぬい? しらない?」
「違うわよぉ……不知火祐次しらぬいゆうじくんよ。不知火しらぬいって書いて読むの」
「不知火……」
「そうそう。どうしたの? 1組の不知火くん」
「ううん、何か強そうだなぁって。あの入学式の……」

クラスメイトの少女たちは、顔色を変える。

「やだぁ! 大塚観月おおつかみづきって言う子のこと?」
「違う違う。俺のじいちゃんが俺がヘラヘラしてるって言うんだよ~。そしたら、父さんがさ、そのしらない? って奴みたいになれって。そんなにヘラヘラしてるかな~?」
「不知火くんだって……」
「失礼でしょ?」

と笑いつつ、

「彪流くんは取っつきやすいけど、不知火くんは結構そっけないのよ?」
「そうそう、余り喋らないみたい。柔道部でも黙々としてるみたいね」
「あ、そう言えば、時々図書館に行っているみたい」
「えぇぇ~! もしかして、あの、吉岡揚羽よしおかあげは先輩?」
「そうそう! あの先輩綺麗なのよね……羨ましい! 時々勉強を教えて貰っているんですって」

キャァァ!

黄色い声が上がる。

「えっ? 女の子?」
「違うわよぉ。男性。何か噂だと、亡くなったおじいさんが昆虫学者とかで、お父さんが紋士郎もんしろうさんで、先輩は揚羽ってつけられたらしいわ」
「でも、本当におっとりしている品のいい、優しい先輩って言われてるの」
「そうそう。告白する先輩もいるけど、『ありがとう。でも、今は勉強に集中したいから』って断られるんだって」
「でも、不知火くんも中々かっこいいし、一緒にいた時には……」

 キャァキャァと盛り上がる女子たちに、にこにこしつつ、近づくチャンスはないかと思っていたのだが、一年後に同じクラスになり、教室に入ってきた観月をみつけた。

 身長は周囲の女子が155前後だが、どうみても妹の佐保よりも小さい。
 キョトキョトと不安げに入ってくる様は、最近飼い始めたキティと名付けた柴犬の子犬に似ていて、つい、

「あぁぁ! キティ!」

とギュウギュウと抱き締める。

「うぅぅぅ~?」
「oh my little girl!」
「アホか! 尾崎豊かよ!」

 背後から声が響き、背中に衝撃が走った。
 殴られたらしい。

「うわぁ! イッタァァ!」
「痛くないようにしてるぞ、何ならセクハラ魔として、先生につき出しても良いぞ?」
「何だよ~! 祐次~!」
「軽々しく人の名前を呼ぶな! 名字で呼べ!」
「読めないんだもん! 何て呼ぶの?」

 何か楽しそうだとワクワクしていた。
 何か面白いことが起こる。
 それに、この祐次や観月に近いともっと……。



 その時には恋愛や様々なことが起こるとは思わなかったが、彪流にも新しい世界が広がったのだった。
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