君のことを本当に……?

刹那玻璃

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《発言》

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 カメラが幾つもシャッターを切る。
 頭を下げ、席についた嵯峨さがにしきは慣れたように、

「失礼致します。この夜遅い時刻に、お集まり頂きありがとうございます。私は、今回ネット上で流された偽りの情報によって、辛い思いをしている少年の弁護を受けた大原嵯峨おおはらさがと申します。そして、この事件に関わる直前に相談を受けた件で、この事件の件にも縁が重なった事件の弁護を担当する北山錦きたやまにしきと申します」
「よろしくお願い致します」

 無表情の嵯峨に対して、微笑みを浮かべる美女である。

「まずは、私が相談を受けた件ですが、大塚柚月おおつかゆづきさんと言う女性から依頼を受けました。柚月さんの兄、大塚東矢おおつかとうやさんが、現在高校2年生になるお嬢さん……未成年ですのでお名前は控えさせて戴きますわね?……お嬢さんが中学校になった時に転勤すると言われ、柚月さんが姪であるそのお嬢さんの環境が変わるのはと、引き取り育てられました。しかし、中学校を卒業する頃には東矢さんからの養育費は滞るようになり、連絡も途絶え、柚月さんが働いて育ててきました。柚月さんは連絡のない兄に失望し、そして5年間育てている姪であるお嬢さんを養女として引き取る、親権を自分にと連絡を戴きました」
「先にですか?」
「はい。と言うか、私が受けたのですが?」

 微笑む。

「で、同じ事務所の同僚の彼が受けたのが……」
「はい。どなたか個人情報を漏洩して下さったのですが、私は、ありもしない偽りの情報で名誉を傷つけられた被害者である少年の弁護士であり、一緒に写真を撮られた女の子と赤ん坊、そして少年や女の子、赤ん坊の家族へのプライバシー侵害により、少年のお父さんは停職、女の子の叔母さんは退職されました。それぞれのお宅にも取材陣が殺到し、姿を隠さざるを得ない状況に追い詰められています」
「あの不知火寛爾しらぬいかんじさんのお子さんの件で、間違いありませんか?」
「個人名をお答えしかねます。被害を受けているのは16才の少年と少女、まだ1才にも満たない幼児です。そして、ご家族も傍におられ、状況を伺うと、私が弁護をする少年は同級生である少女と話しながら、隣の家のお子さんを抱いて歩いていました。彼の家と隣の家は交流があり、そして、二人目を妊娠された隣の家の奥さんが大変だろうと二軒の家族でベビー用品を買いに行き、そして食事をしようと出掛けたそうです。ベビー用品売り場についた頃、撮影されていたそうです。そうすると、撮った少年が『Twitterにあげた』と平然と口にし、その次の瞬間……」

 バッグからスマホを出す。

「本人のスマホです。LINEで酷い文言が書かれていました。消去されている方もいますが、情報を全て残しています。ここでは口にできないものもあります。本当に酷い文面です……」

 チラッと印刷されたものを見た錦が、

「嫌だわ……常識がない上に……LINEは近いグループで作られるのでしょう? そういった人にもこれ? 傷つくわ……」
「こちらの二つの件の裁判を行います。私の件では、撮影した少年の国籍が外国にあり、そちらの方でも裁判を起こす準備を致します。そして……」
「大塚柚月さんの件も、実は……」

嵯峨から渡された録音を流す。
 男の罵声と、泣きじゃくる少女の声が響く。

「大塚東矢さんと裁判をしっかりと起こさせて戴きます。大塚東矢さんのお嬢さんはまだ未成年。そして同僚の大原の案件の被害者も未成年です。申し訳ありませんが、未成年の被害者に付きまとうようでしたら、私たちは取材と言っても、貴殿方を共に訴えます。将来のある少年少女を傷つけ、これ以上苦しめるようでしたら、慰謝料を請求致しますので、よろしくお願い致します」
「そして、加害者である相手側にどのような弁護士を用意したとしても、私たちは必ず、相手側に謝罪を申し入れます。被害者の家族の未来を安易に握りつぶすようでしたら、どのような方法であろうとも……!」

 錦はフフフッと微笑む。

「貴殿方は、10年前とお変わりになっておられないのですね? 残念ですわ。では、大原。私は仕事に戻ります」
「そうだな。ではでは来て戴きありがとうございます。Twitterに載せた方だけではなく、解る範囲、LINEなどでも情報を流した方、それをネットにあげた新聞社、雑誌社等にもご連絡を致しますので、よろしくお願い致します。お待ち下さい」

 立ち上がった嵯峨と錦は会場を立ち去った。

「情報を! 誰が流したのです?」
「お伺いできませんか?」
「大原さん!」

 振り返った嵯峨と錦が、嘲笑する。

「ご自分方の情報提供者に戴いては?」
「そうですよ」
「嘘か本当かも調べずにそのまま載せるのは、昔も今も変わりませんね」

 言い捨てると出ていった。



 スタッフに誘導され、裏口を通じて取っているスウィートルームに戻ると、チマッとお風呂に入って、髪を乾かしつつテレビを見ていた柚月が振り返る。

「あ、あのっ! もしかして……」
「あぁ、生放送だったんですよ。で、一応、国際弁護士は祐次ゆうじくんの従兄を通じてお願いしておりますので、ご安心下さい」
「こ、国際弁護士……」
「祐次くんや観月みづきちゃんの写真を撮った少年は、父親が日本人、母親が外国人のハーフで、日本から母親の母国に帰ったら、裁判になりません。ですので伝を頼り、国際弁護士をお願いしています。ですが先程、帰国していた父親が電話を掛けてきたので、釘を差しておきました。お子さんを国外に出さないで下さいと」

 唖然とする。

「あ、の……さ、さっきから、知らない番号から電話が……」

 バッグからスマホを出す。
 受け取った錦は、番号を記載するとかかってくる。
 嵯峨が操作し、録音を始めると電話をとる。

「もしもし?」
『大塚柚月やな?』
「えぇ、そうですが? 電話番号をご存じでしたら、お分かりではありませんか?」
『何やと!』

 錦は唇を持ち上げる。

「で、どちら様でしょう?」
宮坂幸三郎みやさかこうざぶろうや』
「あぁ、第一実業病院の会長ですか。お嬢さんの旦那さんである大塚東矢さんのことで、脅迫ですか?」
『お前は!』
「大塚柚月さんの弁護士の北山錦と申します。テレビをご覧になられたのですか? お嬢さんの旦那さんの所業が周囲に知られては困るとか? 裁判を下げさせようとか? お嬢さんの義理の妹である柚月さんや、娘さんの義理の娘になるお嬢さんを脅迫されるのですか?」
『ナッ!』
「ご安心下さい。柚月さんは安全な場所におりますし、このお電話も録音させて戴いております。柚月さんに謝罪なら兎も角、この電話とは……会長の娘婿は余程自分の仕出かしたことを、自分で解決できない人のようですね。失礼致します」

 電話を切ろうとしたが、数秒待つと、怒鳴り声が響いた。

『日本中の病院で診察でけんようにしてくれる!』
「聞こえてますよ? 録音済みです」

 錦は告げて切った。

「まぁ、これを流すか……」
「そうね。あ、私がやっておくわ。嵯峨。柚月さんに言っておきなさい。ここにいても意味はないことを。安全な場所に隠れた方がいいって」
「私がか!」
「私は隠れるところがないでしょ? それにサキや賀茂の伯父さんには、これ以上無理でしょうに」
「あのっ! 観月の所に行けませんか? それと、観月の休校、休学を……」

 柚月に二人は振り返り、

「祐次くんと一緒に休学を連絡しています。それに……」
「一緒では、観月ちゃんの居場所がばれて、向こうに連れ去られる可能性があります」
「でも!……観月を……」
「貴方が危険になりますよ」
「ですので、安全なところに……」

チラッと錦が嵯峨を見る。
 嫌々ながら、頷く。

「解った」

 ため息をついた嵯峨は、

「明日と思いましたが、今日中に行こうと思います。柚月さん、その場所は私が20年近づいていないところです……だから逆に安心です。行きましょう」
「い、今からですか?」
「えぇ。取材陣が解散しているこの隙に出ていきます。よろしいですか?」

柚月は頷くのだった。
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